55 崇拝に近い
「リーゼ様!リーゼ様!リーゼ様!」
壊れたレコード並に名前を連呼しないでほしいよサーシャ。
「サーシャ。久しぶりね。それからお疲れ様。夜明けまで休憩していていいよ」
私の言葉でハッとなったサーシャは私から離れ、頭を下げた。
「我々の力不足で、リーゼ様に苦痛を強いましたことをお詫び申しあげます。そして、この度はご尽力賜りましたことを心より感謝申しあげます」
苦痛?さて何のことか。私は何も苦しんではいないけど?私は首を傾げてしまう。
「よくわからないけど、皆下がって休んでいて」
「はい」
そう答えたサーシャの目には涙が溜まっていた。
「リーゼ。戻って来た早々、わしを扱き使うとはどういうことだ?」
タバコを吹かしながら、こちらに向かってくる赤く染め上げられた白衣を着たハルドがいた。
「ハルドのおかげで死人は、いないでしょ?」
「ふん!当たり前だ」
そう言って足元に転がっている衛生隊の人物を拾い上げ、王都の方に向かっていく。そのすれ違い様にハルドは私の隣の人物を見上げた。
「御仁。ひよっこに御仁の殺気は些かきつかったようだ。これで使い物にならなくなったら困るのでな。次は手加減してやってくれ」
ああ、先程彼が何故か少年に殺気を向けていたな。あの少年はサーシャに気があっただけだと思ったのにな。意味がわからない。
まぁいい。私は足を進めていく。もう、ほとんどの騎士たちは引き上げたようだ。十数人が殿のために残っているのだろう。
私は広く浅く魔力を地面に這わす。今日は雲ひとつ無い満月だ。明るい月夜の夜戦は好条件なのだが、オヴァールの特性を持つ者からすれば月が明るいと闇は薄くなってしまうので戦い方が限られてしまう。
そして、この一帯にいる魔物の影の全てを天に向って突き上げる。
「影槍討撃」
黒い墓標の様に地面から影の槍が突き出し、ここにいる全ての魔物の行動を不能にする。
剣を向けていた魔物が一瞬にして変わり果てた姿となり、残っていた騎士たちが一斉に私の方を振り返った。
「リーゼさまー!」
返り血や肉片がついた甲冑が物凄い勢いで走ってくる。声でレイラだとわかるが、もしかして、このまま抱きついて来ないだろうな。思わず足を一歩引く。
しかし、レイラの勢いは止まる様子が無い。他の騎士たちの肩が揺れているので笑っているのだろう。毎回思うがレイラを止めてよ。
突然、ふわりと抱き上げられ、大きく斜め後ろにレイラから距離が離れた。するとレイラが抜いたままだった、血だらけの剣をこちらに向け言い放つ。
「貴様!私が側に居ない間にリーゼ様に近づくなど、許しがたい事だ!今すぐ斬り捨ててやる!」
いや、レイラ。何もしていない人に剣を向けてはいけませんよ。
「レイラ。お疲れ様、夜明けまで休んでいてね。エリュト小隊長!レイラの回収よろしく!死にたくなかったら早く撤収してね」
剣を向けているレイラにそう言って、多分この中に残っているだろうと思われる第9小隊長のエリュトに声を掛けた。レイラの暴走を止めるのは彼に任せるのが一番だ。
すると皆が一斉に右手を左胸に当て敬礼をし、王都の方に向かって駆けていった。その内の一人がレイラを回収してくれていたので、エリュト小隊長だったのだろう。
「この!邪魔をするな!私はリーゼ様のお側に!」
背後からレイラの叫び声が聞こえてくる。
私は私を抱えている彼に下ろすように促すが、そのまま白い壁がある方向に歩き出す。いや、下ろしてよ。
「これじゃ戦えないから、下ろして」
「アリアは皆から好かれているんだな」
みんな?レイラとサーシャからは鬱陶しいぐらいに好かれているとは思うけど、他の人たちからは好かれてなんかいない。
「彼女達には色々世話になったし、妹のように可愛がられているとは思う」
「妹?どちらかと言うと崇拝に近いと思うが?」
「崇拝?なにそれ?妹がいろんな事をしでかしているのが心配で、ああやって構っているのだと思う」
なぜだか『はぁ』と、ため息を吐かれた。なに?そのため息。
前方にあった白い壁が近づいてきた。私が投げた氷狼竜の鱗が空気に含まれている水分を凍らせできた氷の壁だ。
進むのはその先だ。遠くの方には月明かりに照らされたオークやゴブリンの群れが見える。それも光り輝く武器や防具を身に纏っているようにみえる。
おそらくここにたどり着くまでに蹂躙した村や街から奪ってきた物だろう。胸クソ悪い。
魔力混じりの煙を吐き出す。殲滅だ。ここから先は一体たりとも通しはしない。
私は私を抱いてる彼に最終確認をする。
「それで、本当に私に付き合う気?言っておくけど、明け方まで私はここを離れるつもりはない」
「アリアの側にいると決めたと言ったはずだ」
いや、ここは普通、引くべきところじゃないのかな?
誤字脱字報告ありがとうございます。




