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銀の魔女の憂鬱〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜  作者: 白雲八鈴


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50 我らの聖女様のご帰還だ

衛生小隊の新人 side


 ハルド隊長は素晴らしい人だと聞いていたけど、俺が衛生小隊に配属されてから、働いているところ見たことがない。全くない。大体、中庭でタバコを吸っているか、孫の自慢話を隊員にしているか、スライムに注射を打っているかどれかだ。なぜ、スライムに注射を打っているかは誰も教えてはくれなかったので未だに謎だ。


 皆に指示を出しているのは副隊長のサーシャ様だ。長い青い髪を一つに結ってキリリと凛々しい感じで皆に命令を出している姿に憧れを感じる。というか好きだ。大好きだ。

 恋人がいる風ではないので、俺にもチャンスはあると思うのだが、隊員は皆一様に諦めろと言ってくる。誰か想い人でもいるのかと聞いてみても、皆が苦笑いを浮かべていた。何故だ。俺では駄目なのだろうか。


 今回、魔物が王都に向かってきているということで、魔物討伐に慣れた騎士たちと共に衛生小隊も王都の外に配置された。

 俺のデビュー戦だ。しかし、衛生小隊は後方で仕事をするため危険なことは何もない。楽な仕事だ。ただいつものように怪我人を治療すればいいだけだろ?


 ハルド隊長もだるそうにタバコを吸いながら簡易的に作られた救護所の外にいる。その隣でサーシャ副隊長が『仕事をしてください』と促しているが全く動く気配がない。しかし、今日もかわいいなぁ俺の心の恋人。


 もう、日が暮れるという時間になって突如として、声が響き渡った。女?誰だ?こんな時に?第2小隊?そんな部隊名存在したか?

 その声が聞こえた瞬間から、あのハルド隊長の顔つきが変わった。いつもヤル気のないだらけた顔から、なんというか騎士たちと同じ雰囲気が感じられた。


『衛生小隊。特にハルドとサーシャは衛生小隊を引き連れて戦場を駆けなさい。以上!』


 そんな言葉で締めくくられて声は聞こえなくなった。ハルド隊長とサーシャ副隊長を呼び捨てにするなんて、不届きなヤツだ。


「クククッ。なんだ、元気そうじゃないか。このジジィに戦場を駆けろとまだ言うのか」


「ハルド隊長!ハルド隊長!行きましょう。あの方の元に行きましょう!」


 ジジィ?いや、まだジジィという年齢じゃないだろう?俺の心の恋人サーシャ様が恋する乙女のような顔になっている!どういう事だ?あの声はどう聞いても女性の声だった。


「ヤル気の在るものは付いて来い。途中脱落は認めないから覚悟しろ」


 ハルド隊長がそう言い、白衣をなびかせながら救護所に背を向けて歩いて行く。え?救護所に隊長と副隊長が居なくてどうするんだ?


「隊長。途中脱落なんてしませんよ。そんな事すれば、何こいつ使えないって目であの方に見られてしまうではないですか」


 先輩の一人が隊長の後に付いて行っている。


「いやいや、今まで諦めずに鍛えていた事が役に立ちますな」


 そう言って別の先輩がそれに加わった。俺は以前から思っていた。なぜ先輩は騎士団の方に入らなかったのかと。暇さえあれば鍛えていた筋肉ムキムキの先輩。衛生小隊に筋肉は必要ですかと聞いてみたことがあるが、即答で“必要”と答えられてしまった。


「良かったですね。その筋肉が役に立つ日が来て、私もウキウキですぅ」


 そう言いながら、(ナタ)を振り回している女性の先輩も加わった。その(ナタ)必要ですか?





とある騎士 side


 今回の命令が言い渡されてから、副隊長の様子がおかしい。何かに怯えているようにビクビクとしている。『俺はもうここで終わりだ』なんて言っている。今まで幾戦も魔物と戦ってきた副隊長がどうしたことだろうか。その姿に隊長は何も言わない。


「白竜騎士隊は前線への命令が下されました」


 今回の指揮を取っている聖女様からの命令書が読み上げられた。その言葉に副隊長は『ヒッ』と悲鳴を上げている。


「謹んでお受けする」


 そう言って隊長は命令書を受け取った。しかし、副隊長は何を怯えているのだろうか。この白竜騎士隊の戦歴は今まで負けなし全勝なのだ。俺たちが居れば魔物の集団など怖がることは、なにもないというのに


「なんだ?未だにグレーリー小隊長のトラウマが克服できないのか?それともあの戦場が思い出されるのか?」


「······」


 隊長が副隊長に問いかけるも、副隊長は答えない。いや、歯の根が合わないかのようにガタガタと震えている。あの、勇猛果敢な副隊長が?


「はぁ、皆聞け!今回の戦いは今までとはわけが違う」


 突然隊長が俺たちに向けて声を掛けた。


「はっきり言って終わりなき戦いだと思っておけ、今までのように1時間で終わるということはない。第1波、第2波と魔物がやってくる。そして、最後にはSクラス級が居ると心に刻んでおけ」


 Sクラス級がなんだ。白竜騎士隊ならどんな魔物でも倒すことができる!


「そう言いますが隊長」


 長年騎士をしている先輩が隊長に声を掛けた。


「俺も副隊長と同じ心境ですよ。できれば尻尾巻いて逃げたいですね。まぁ、騎士になったからには戦場で死ぬことはわかっていましたから文句はないですよ。しかし、ですね。我らだけが前線に出るというのは承伏しかねます」


「命令だ」


「俺たちに死ねと?」


「·····そうだ」


 隊長は苦虫を噛み潰したような顔をして答えた。死ぬ?俺たちが?この白竜騎士隊が?


「そうですか。副隊長。死ねという命令らしいですよ。俺も生まれたばかりの息子を残して逝くのは心残りですが、意を決してください」


「あの方ならその様なことは言わなかったのに、生き足掻けと何度も言われていたのに」


「副隊長」


「はぁ。わかっている。隊長、俺たちの死地に向かいましょうか」


 そう言って、全てを諦めたかのような顔をした副隊長がそこにいた。




 俺たち白竜騎士隊は150人で編成されている。150人だ。

 王都の南側には広い平野が広がっている。俺はわかっていなかった。今までは多くても十数体の魔物が相手だった。

 しかし、見渡す限りの平野の稜線には、一面に砂埃が立っている。その手前には必死で逃げて来る人々がいる。


 この広い平野にたった150人であの砂埃を立てている魔物と対峙するのか?先輩が言っていたことはこれか!俺たちだけで前線に立つのかと、俺たちに死ねと言っているのかと。

 俺の様に分かっていなかった仲間達に動揺が見られる。本当に俺たちだけなのかと。


 その時、突如として稜線にカミナリが落ちた。単発ではなく稜線一面にカミナリが落ちたのだ。前方にいた副隊長が後方に振り向く。何かを言っているようだが、兜を被っているため、何を言っているか聞き取れない。


 その隣に立っていた隊長は兜を外し、後方に向けて頭を下げている。なんだ?

 先輩騎士はそんな隊長の肩を叩いている。


「俺は部下を死なせなくて済む」


「隊長。良かったですね。俺も生き残れる希望が見えてきました」


 副隊長はというと、兜を外して地面に跪いて(こうべ)を垂れていた。見渡すと、長年騎士をしていた先輩方が同じ様に頭を下げていた。いったい何が起こったのだ?


 すると突如として声が降ってきた。どこから声を発しているのか。


『第2小隊と第4小隊は下がりなさい。代わりに第6小隊と第9から第11小隊まで前線で敵を向かい討ちなさい。雑魚共は任せます。······』


 第2?第4?なんだそれは?


「それじゃ、隊長と副隊長は下がってください。あと新人も引き連れて戻ってください」


 先輩がいきなりその様な事を言い出した。


「良いのか?」


「命令ですからね」


 そう言っている先輩の顔は、命令書に反対していた時の顔とは違い笑顔だった。


「それに慣れた者達と戦う方が連携が取れていいので。まぁ幾人かは地方に行ってしまっているので、穴埋めは必要ですが」


「それじゃ、俺が入ろう第16小隊長は王都には居ないので呼ばれないだろうから」

「俺も第6小隊に入ろう。よろしく頼むよ小隊長殿」


 なんだ?先程は死地に向かう騎士の様相だったのに、ここがまるで飲み屋のような和やかな雰囲気になっている。なにが起こったのだ?

 何も変わってはいないのに。この広い南の平原で魔物を向かい討つことに変わりはない。先程の命令で下がれと言われたわけではないのに、この雰囲気はなんだ?


 後方から騎獣に乗って駆けてくる者達がいる。先程の命令で前線に出るように言われた者達だろう。


「よう、第6!嬉しいな。楽しいな」


 そんな事を先輩に声を掛けてきたのは赤竜騎士隊の隊長だ。短髪の赤い髪が目立つ人物なのだが、今は兜を被っているので赤い目だけしかわからない。


「ハルド隊長も文句を言いながらこっちに向かってますよ」


 その後ろから青竜騎士隊の副隊長がその様な事を言ってきた。怪我をして救護所に行ってもタバコを吸っているところしか見たことのないハルド隊長が動いた?


「我らの聖女様のご帰還だ」


 ん?聖女様は王宮にいらっしゃるのでは?




誤字脱字報告ありがとうございます。

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