34 名前を呼んでくれたら
「んぅ······」
啄むような口づけを避けるように、手で阻もうとするが、両手を絡められ、ベッドに縫い付けられてしまう。
「なっん····ん!」
何をするんだと言いたかったのに、深く口づけをされ、ぬるりと舌を絡められる。なんとも言えないゾクゾクしか感覚に体を支配され、その感覚から逃れるように抵抗してみる。
「んぅ·····ぁ····ぅ····っ」
しかし、解こうとした手は両手を頭の上でまとめられ、舌で押し返そうとすれば舌を吸われ、そして、腰の辺りを撫ぜられ、今まで感じたことのないゾワゾワとしたモノが体を駆け巡る。
悪化した!私に抵抗する術は無いのだろうか。
このまま流されるのは良くないと涙目で考えていると、唇をペロリと舐められ解放された。いや、未だに両腕は頭の上で留められている。
文句を言いたいが息も絶え絶えの私は呼吸を整えるのに必死だ。
「やっぱり綺麗な銀色なんだな」
そう言われ、頭を撫でられる。銀色!まさか色変えの魔術が解けてしまっている?
「私の上から退いてくれない?」
あのようなゾワゾワした感覚が続けばおかしくなりそうだ。
彼は私の手を解放し、そのまま横に寝転がり、私を抱きしめる。·····ちがーう!解放しろと言えばよかったのか!
「なぜ、こんな事をする必要がある。私を起すだけで良かったのでは?」
「んー。俺が目の前にいるのに俺じゃないモノを見ているようだったから」
急激に戦地から引き戻されれば思考もおかしくなるわ!それがなぜキスすることに繋がるのかさっぱり分からない。
「起きたいから解放して欲しい」
よし、これで良いはず!しかし、圧迫感が増した。言葉としては間違っていなかったはず!
「アリア。俺が側にいるから、一人で夢の中で泣くな」
ん?泣いていた?
「名前····アリアが俺の名前を呼ばないのは何かあるんだろ?」
おふっ、バレてた。最初の一度しか呼んでいないのは流石に分かるか。はぁ。何かあると言われても個人的なものでしかない。
「このままだとアリアはふらりと居なくなりそうな気がする。それは嫌なんだ」
そ、そこまでバレてる!どこか私おかしかった?いや、変な行動は取っていないはず。·····はず····自信はないけど。
「だから、取り敢えず名前を呼んで貰うことから始めようと思った」
何が取り敢えずなの?意味がわからない。
「はぁ。意味がわからないから放してくれない?そろそろ一服したいのだけど?」
昨日はかなりの魔物を討伐しかたら魔力があふれるということはないけど、薬草を吸っていないと不安だ。
「名前を呼んでくれたら離してあげる」
「は?」
思わず顔を上げる。相変わらず濁った目が私を見ていた。
「名前」
本当に名前を呼ばれるまで、私を解放しないつもりだろうか。呼べばいいのだろ呼べば!
「グランシヴァリスで「シヴァだ」」
上から被せられた!間違っていないのに!
「シヴァ。これでいいのでしょう!放して」
やっと、解放された。体を起こし、亜空間収納から、煙管と取り出す。火をつけ、辺りに薬草の独特の匂いが漂う。煙を肺に満たし、魔力の混じった煙を吐き出す。
さて、王都までの行動はどうすべきか。騎獣が手に入れば一番いいのだけど······なぜ、先程から髪を撫でられているのか?
「なに?」
髪を撫でている人物を見る。長い赤い髪の隙間から見える皮膚には変わらず蠢く鱗紋様が見える。本当によく普通にしていられるものだ。
「キラキラしていると思って、白銀の聖女と言われることはあるなと」
その言葉を聞いて撫でている払いのけ、瞬時に髪も目も黒に変化させる。
「その呼び名は好きじゃない」
嫌気がさす。モヤモヤとしているとふと体が浮いた。気がつくと彼の膝の上に乗せられていた。なんか距離が近くない?本当にどうしたの言うのか。
「違うんだ。アリアが綺麗だということだ」
キレイ?私が?何を言っているのか。この人を逸脱した私が?
ん?何やら廊下が騒がしい?朝から何か問題が?いや、これは······
部屋の前で足音が止まり、扉をノックされた。私は彼から降り、扉に向かう。
「何か?」
扉を閉じたまま尋ねる。こっちは寝起きだ。全く何も用意をしていない状態で人に会うわけにはいかない。
「リーゼお嬢様。アレンでございます」
扉の前にたどり着く前にアレンの魔力がこっちに向かっていることは分かっていたので驚きはしない。きっと私が、あの宿に泊まって居なかったので愚兄に言われ朝から探しに行かされたのだろう。可哀想に。
「アレンだと言うぐらいわかっているから、何の用事かと聞いている」




