22 乙女心は無い
意味がわからない言葉を言われた。天の使徒?私が?私はそんな者ではけしてない。
天を意味する神なんてモノは我々に威を示すこともなければ、助けることもしない。
「天は我々に何も施さない。何も。だから、そんなヤツの使徒だなんてイヤ。まだ、魔女の方がマシ」
私が厭味ったらしく反論すると、彼は『それもそうか』と言葉を漏らし私を抱き上げた。それも左手一本で子供の様に抱えられた。
確かに私の背は160セルないから、2メル近い彼からすれば子供みたいなのかもしれないけれど、これは恥ずかしい。
「下ろしてほしい。自分で歩ける」
そう、要望を提示してみたけど、返ってきた言葉が
「逃げないように掴まえておかないとな」
だった。なぜに犯罪者扱いになっているのだろう。そして、そのまま私の家に連れて帰らされてしまった。
ふかふかおふとん·····やっぱり、ふかふかおふとんでねむるのが······いちばん·····??
ふかふか!!
そんなはずはないと目をパチリと開ける。目の前には皮膚の鱗紋様が蠢いている赤髪の人物が寝ていた。普通に穏やかな顔をして寝ていた。あ、うん。寝起きにこれは心臓に悪い。
昨日は最近ベッド化している長椅子で寝ていたはず。何故に私はここで寝ている?取り敢えず起きようと、体を起こしベッドから降りようとすれば、ガシリと腰を掴まれてしまった。起きているのかと確認するが、目は閉じている······起きているかは判断できない。
亜空間収納から煙管を取り出し、火をつけ肺いっぱいに吸い込む。
昨日は長椅子で寝ていたことに間違いはないと紫煙を吐く。
昨日は戻ってきてから、畑に土を盛り、耕すまではできたが、種をまくまでには至らなかった。
色々あって精神的に疲れたので、早々休むことにしたのだけど、ベッド化した長椅子に腰掛けた時点で、寝ることが憂鬱になってしまったのだ。
ぶっちゃけ私の寝相はすこぶる悪い。一般的なベッドですら床に落ちる。だから、私の拘りで購入したベッドはキングサイズなのだ。それでも頭が半分落ちていることがある。
この5日間、背中が痛いと言っていた理由がこれだ。長椅子から床に落ちて思いっきり背中を打ち、衝撃と痛みで目が覚めて、イソイソと長椅子に戻るという事を繰り返していたのだ。
一瞬、私のベッドを返せと言いに行こうかと迷ったが、閉じられた扉を見て明日にしようと諦めた。そこで、私は考えた。
治癒の陣を常時発動しておけばいいのではないのかと。そうすれば、背中が痛くないのではと、私を中心に治癒の陣が発動し続けるようにした。
そして、長椅子で眠ったはずだった。なのに何故私はここで寝ていたのだろう。もしかして、私の寝相がそこまで酷かったのだろうか。
ふーっと煙を吐く。私の寝相って相当ヤバくない?もしかして、扉をぶち破ってしまったのかと扉の方に視線を向ければ、扉は無事だった。
私には理解不能なことが起こったことがわかったので、考えることをやめた。
斜め下に視線を向ける。この状況を第三者から見れば朝チュン的な状況だなと紫煙を吐く。普通ならドキドキのシチュエーションなんだろうけど、私の心は凪いだ海のように何も感じない。
乙女ゲームか········プレイしたことは幾度かある。どちらかというとコンプリートをめざしてしまい、攻略対象に『何故そこで死亡フラグのセリフを吐くの!』と画面越しに文句を言っていたほどだ。友人曰くそこは萌えポイントだったらしい。
これは私に乙女心は無いということなのだろうか。どちらかというと、強敵を前にしたときの方がドキドキする。
いや、多分私に乙女心がないというか、どこかで他人と距離をおくべきだと思っているからだ。だから、なるべく他人に感情を揺らさないようにしようと決めている。だから、個人を表す名を呼ぶことは避けている。何かしらの情が移れば後で辛くなるのはわかりきっていることだから。
この事が終われば、彼の前から消えよう。今ならまだ········。
はぁ、そろそろ日課の畑の世話をするためにベッドから下りたいのだけど、捕獲されてしまったので、動けそうにない。
視線だけで伺い見るも、先程となにもかわらない。今も私を中心に治癒の陣が発動中なので、眠っているのだろうか。でも、もう起きてもいいのではないのだろうか。
私は眠っているであろう赤い髪の人物の頭を右手でさわさわと撫で声をかける。
「そろそろ、起きてもいいのでは?そして、私を解放してほしい」
ぐっ。なぜ、圧迫感が増した。本当に寝ているのか?
「今日は色々やることがあるので、さっさと離せ」
すると、瞼が動き黒く濁った目が私を見た。絶対に起きていたよな。
「何があるんだ?」
今日の予定か。遠出する準備をしなければならない。
私は右手の指を折りながら答える。
「まずは、種まきをして、遠出するための衣服を作って、町にはなるべく寄りたくないから、作りおきのご飯を作って、ああ、そう言えば」
私は見上げるように私を見ている彼に尋ねる。
「私は別に構わないのだけど、その紋様は隠すの?そのままにしておくの?私の希望としては、このまま国に帰れ」
私は数え折っていた指で自分の頬を指す。
フルプレートアーマーにフルフェイスを被っていたぐらいだ。人の目には己がどの様な目で見られるのかはわかっていたのだろう。
そして、私に付いてこないで欲しいとも付け加えた。
誤字報告ありがとうございます。




