19 愛しのあの方に
何者と言われても貴方の義理の妹でしたと言うしかない。貴族籍がない私は妹などとは言えないが、過去形では言えるだろう。
だが、義兄クロスはそんな事を聞きたいのではないのだろうな。
「確かに私は2年前に竜の谷に行くことを命ぜられました。しかし、私にはここの魔素など何も影響しませんよ。なぜなら、私はインフィーヌですから」
インフィーヌ。魔力過多症を患った者達の別名だ。魔力喰いを使っても長くて10歳までしか生きられない者に何代か前の王妃の子の名をその者たちに与えられた。
全ての者が王妃の子だと。長くても10年しか生きられない子供達に、全身から血を流し最後には内側にある己の魔力によって爆ぜるように形を無くしてしまう子供達に与えられた名なのだ。
私の言葉に私を膝の上に乗せている者がピクリと反応した。インフィーヌの名を彼は知っていたようだ。一般の人には絶対に耳に入らない名を。
「化け物」
その声を出した者に視線を向ける。確かに10年しか生きられないのに私は20年生きている。膨大な魔力を内側に秘めながら生きている。確かに化け物かもしれない。
けれど、なぜそれを彼が知らないのだろう。王都に行ってから発覚したが、養父であるオヴァール辺境伯爵と父であるロスナー子爵には伝えてある。私が魔力過多症だと。
「では、その髪と目はなんだ!リーゼアリアティーヌはその様な色ではない!」
え?すごく面倒な事を言い出した。髪と目の色ぐらいいいじゃない。
私がすごく嫌そうな顔をしたのを見たカティーが慌てて
「お嬢様はそれで宜しいのです。お嬢様のお姿は人々の目に止まりやすいので、そのままで宜しいのです」
流石、長年私と共に過ごしてきたカティーには私が何に対して嫌だと思っているか理解できたのだろう。
「クロス様。長年お嬢様のお世話をしてきた私がリーゼアリアティーヌ様と認めるのです。目の前の方は誰がなんと言おうとリーゼアリアティーヌ様です」
カティーは私がどんな姿でもわかってしまう。変装して出掛けていても見つけてしまう慧眼の持ち主なのだ。
「普通なら怪我をしていたとしても後ろの人?を助けようとは思わないでしょう」
なぜ、人の部分を疑問形で言った。
「それも妖精の織物なんて物を普段着に着るなんて世界中探してもお嬢様ぐらいです」
いや、貰ったら着なければもったいないじゃないか。別に1着だけじゃなく数十着もあるんだから、いつも着ていても問題ないよね。
「カティー。それは別にいいから、魔のモノってやつの質問に答えてくれないかな?」
私が何者かなんてどうでもいい。私を私だとわかってもらえているなら、それでいいと紫煙を吐き出す。
「何が引っかかりましたか?」
しかし、カティーは答えず私に質問してきた。引っかかった?ここをどこだと思っているのか。
「ねぇ。ここはどこ?多くの竜達が住まうところだよね。もし魔竜王と同じような存在が現れればドラゴン達が騒ぎ出すはず。だけど、この1ヶ月間は普段の日常と変わらず皆が過ごしている。ということはドラゴン達が脅威に感じることは何も起こってはいない」
「流石、お嬢様です」
それは褒めている?
「始めにこの件は大旦那様は反対されております。ロスナー家の総意も同じく」
「おい!」
義兄クロスがカティーの言葉を遮る。邪魔だな。
「クロス御兄様。少し黙ってもらえません?」
そう言って私は義兄クロスに向かって威圧する。
「ぐっ」
そう言って膝を付いた義兄クロスを横目にカティーに話の続きをするように視線で促す。
「この件はアルスガルデ様の一存で決められました。事の始まりは2ヶ月前に聖女と名乗る者達がオヴァール辺境領に来たことから始まりました」
ん?聖女?
「その聖女と名乗る女はアルスガルデ様のご長男のヴィスバルデ様を誑かし、オヴァール家が代々守り抜いていた祠を荒らしやがったのでございます。その祠は5代前のご当主が封じた地竜の祠だったのです」
カティーの言葉がおかしくなっている。怒りに美人な顔が歪んでしまっている。
祠ね。それで突然地竜が出てきたと。
「その者達は封印の要である玉を盗み、オヴァール領を去っていきました。その時ヴィスバルデ様がおっしゃるには聖女と名乗る女は『これで愛しのあの方に一歩近づける』と言っていたとか。どんだけ男を侍らせば気が済むのかと内心私は思いました」
おお、なんか着実に攻略していっているのか。で、本命は別にいると。恐ろしい。
「因みに今は何人に増えたか聞いても?」
「聖女という女に誑かされた男の数ですか?」
「侍っている方で」
「13人です」
2年で7人から13人に!すごいと本当に思ってしまう。私には到底無理だ。
誤字報告ありがとうございます。




