18 誰の命令?
大旦那様。オヴァール辺境伯爵であり、私の養父になったお祖父様のこと。
「先に後ろの3人を治してから話を聞くよ」
そう言って私は辺り一帯に結界を張る。魔素を薄くするために浄化を行っておくのも忘れない。
足元で嗚咽を漏らしているカティーの横を通り、呆然と私を見ている義兄クロスの脇を通り、倒れている3人の側に寄る。
どうやら、魔素を多く取り込み過ぎて動けなくなってしまったようだ。手をかざし体内の魔素を浄化する。30分もすれば目を覚ますだろう。
「本当は長期間、竜の山に留まるつもりではなかったのです。先日の嵐で森の中で足止めをされてしまいまして、魔素に慣れている我々でもここの魔素はきつかったようです」
私が持っている魔力喰いの薬草を中央で燃えている火に焚べる。地面に座り目の前で話しを始めたカティーやその後ろで立ったまま私の事を不審な目で見ている義兄クロスの中にある魔素を取り除く為だ。
「しかし、お嬢様。そちらの方はどなたですか?」
カティーは視線を少し上げ、私の後ろの人物に視線を向ける。あ、うん。なぜ私もこの状況になっているのかはわからない。
カティーの目には魔王然とした男の胡座の上に黒髪に白いワンピースを来た女が座っているという姿が映っているのだろう。
「うーん。先日拾った患者かな?」
私の言葉にカティーのこめかみがピクリと動いた。
「お嬢様。以前から申し上げておりましたが、怪しいものは拾ってはいけないと」
「フェンリルの子供は泣く泣く森に帰したじゃない」
「当たり前です。親が出てきたら災害級の被害がでますよね」
「フェニックスの卵も泣く泣く元の所に戻したし」
「溶岩で茹でようとしている寸前に止めた私を褒めてもらいたいぐらいです」
クククッと頭上から笑い声が聞こえた。仰ぎ見ると彼が目を細めて笑っていた。
「フェニックスを孵すつもりだったのか?」
「え?溶岩で茹でれば食べられるかと」
「食べる・・・フェニックスの卵を食べる。クククッ・・・食べるって・・・」
そんなに笑わなくてもいいと思うけど?前かがみになってまで笑わなくてもいいのでは?髪が頬に掛かってこそばゆい。
「はぁ。で、オヴァール辺境伯爵様が如何されたので?」
私は笑っている彼を放置して、カティーに私を訪ねた要件を話すように促す。
「お嬢様。現在のご当主はアルスガルデ様です」
ああ、長男のアルスガルデ様に譲られたのか。
「そう、それで?」
「一月ほど前、魔の森に突如として地竜が現れたのです。普通の地竜なら我々でも対処できます。ですが、その地竜は魔を纏っていたのです」
魔を纏った者。その言葉で連想されるのは150年前に現れたと言われる魔竜王ガルバニー。全属性の魔術を操り、身に纏う鱗はどんな攻撃も通ることはなく、魔素を振りまき、生きる厄災と言うべき存在。
戦姫アルメリアとその仲間達の手で倒されるまでの10年間世界を蹂躙し続けたという魔竜王。
「我々はその地竜をくい止めるため、戦いを挑みましたが、大敗。大旦那様は二度と起き上がれぬ体になってしまわれました」
ふーん。それで、私の存在を思い出して、助けを頼みに来たと。今まで、忘れていただろう私という問題児を引っ張り出そうとしているのか。
「それ、誰の命令?」
その言葉にカティーはハッと顔を上げる。そう、カティーはロスナー家の者だ。なぜ、ロスナー家の者が本家といえどもオヴァール家の前当主の事で頭を下げるのだろう。頭を下げるべきは先程から不審な目で私を見てる義兄クロスだ。
亜空間収納からキセルを取り出し、火をつける。前当主の治療が終わればそのまま地竜狩りに連れ出す魂胆なのだろう。
私はロスナー子爵である父のためなら、この力を大いに振るうことに対して何も思うことはない。
けれど、王家との婚約のために縁続きになったオヴァール家は本家といえども家族とはどうしても思えない。
白銀の聖女として良いように使った王家と同じ様に思えて仕方がない。
「ねぇ。カティー。この話はどこまでが本当?」
「え?」
カティーは驚いたように目を見開いて私をみる。
「そうね。お祖父様が動けなのは本当なのでしょう。地竜がいるのも本当なのでしょう。けれど、それが魔のモノというのは本当なのかと言うのがとても私は疑問に思ってしまう」
「お嬢様・・・」
カティーが何かを話そうとしたところで、義兄クロスが剣を抜いて遮った。その目は相変わらず私を不審な者を見るように睨みつけている。
「お前は誰だ?リーゼアリアティーヌは竜の谷を死地にと2年前に命ぜられた。この竜の森でさえ魔素が濃くこの有様だ。ブルードラゴンに言われて来たというお前は何者だ!」
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