16 貴女の側にいられるのなら
「赤の他人・・・」
「そう、赤の他人」
そう私が答えると何故か彼は私を抱き寄せ、私の肩に額を置いてため息を吐いた。
「俺は貴女の側にいたい」
え?嫌だけど。
「俺の姿を見て貴女は普通の人として扱ってくれた。俺は貴女の側では人でいられる」
あ、うん。見た目はあれだけど、人だとは思う。あの苦しんでいる姿を見て、化け物だとは思わない。
ただ、あの聖女さんも受け入れてくれるんじゃないかな?私じゃなくてもいいはず。
「だから、貴女は何を愁いているのか知りたい。貴女に助けられた命を貴女の為に使いたい」
重い。重すぎる。そこまでしてもらわなくていい。もう本当に出ていってもらっていいのでは?
「剣士さん。自分の命は自分の為に使えばいい。私は他人の命を預けられる程の者ではない」
「他人でなければいいのか?」
その言葉に背中がゾクリと粟立った。すごく身の危険を感じる。私は離れようと身を捩るが動けない。
「えーと。そろそろ離して欲しい」
「他人でなければいい?」
同じ言葉を返された。顔を上げた彼の目がヤバい。獲物を見る様な目で見ないでほしい。
「ふぅ」
紫煙を吹き付ける。
「ねぇ。剣士さん。私はそんな事をしてもらう為に助けたわけじゃない。私のことは私自身で対処しなければ、どうしようもないことだから、剣士さんの手を借りることではない。でも・・・そう。私の剣の弁償はしてほしい」
これだけは譲れない。忙しい合間を縫って金と時間と労力を駆使して作ってもらった大太刀の弁償はして欲しい。
「まだ時間はあるか」
ん?なんの時間?
「貴女の側にいられるのならどの様な理由でもいい」
そう言った彼は私の額に口づけをしてきた。
「うぇ?」
思わず、変な声が漏れてしまった。彼氏居無い歴、前世+20歳の私に何をするんだ!
私の周りに居た男性はガタイのいいおっさん集団か貴族のキラキラ騎士たちか馬鹿王子しかいなかった。
馬鹿王子は私には近づかなかった。
おっさん共は餓鬼だった私をかわいがってくれたが、奇妙な子供扱いだった。いや、とても·····これはここで語ることではないな。
キラキラ騎士たちはこれまた奇妙な行動を取る私を遠巻きに見ていた。
だから、異性という感覚は無かったのだ。
ぐっ。魔王然とした姿で、そんな目で私を見ないで欲しい。取って食われそうだ。私は食事を作るから離せと言って慌てて台所に向かっていった。くー!耳まで熱い。過度なスキンシップは控えて欲しいものだ。
剣士と呼ばれている男 Side
耳まで真っ赤になった彼女が食事を作ると言って去っていく背中を見ながら、先程の事が脳裏に過ぎる。
人からの話では聞いていた。白銀の聖女の戦いはとても美しいと。目視出来る程高まった白い魔力を身に纏い、どんな魔物にも怯まず先陣を切っていく姿は戦姫アルメリアを彷彿させると。
戦姫アルメリア。150年前に突如として現れた魔竜王に戦いを挑み、世界に平和をもたらしたことは世界中の誰もが知ることだろう。
その戦姫の様に身の丈程の剣を掲げ、空を駆ける姿に心がざわりと湧きだった。ああ、あの美しい彼女の側に居たい。
“アレがホシイ”
体の奥にある黒い塊がどろりと動いたのを感じた。
気がつけば彼女を片手に抱き、剣をレッドドラゴンに向かって掲げていた。俺の剣ではなく、彼女が持っていた見慣れない形の剣を握っていた。
目の前で彼女が涙を流しているのを目にして、正気に戻ったが、やらかしてしまった後だった。
剣を持った時、いつもの様に今まで己の魔力だと思っていたモノを纏わしてしまったようだ。
意識が飛んでいたとはいえ、俺がやってしまったことに変わりはない。
彼女の家に戻る頃には泣き止んでくれたが、とても機嫌が悪かった。なぜ、あのような行動を取ったのか知りたかったのだが、教えては貰えなかった。
赤の他人と彼女から言われ、内心傷ついている己がいることに驚いた。いや、他人であることに間違いはない。
けれど、彼女は俺の姿を見ても普通に接してくれていたので、受け入れられていると思っていた。
鎧を身に着けていなくても、己自身が普通の人だということを思わせてくれた。体を蝕む苦しみが無い世界を一時でも俺に与えてくれた。
ああ、やっぱり手放したくないなぁ。どうしたら、手に入れられるのだろうか。あの美しく優しい彼女を。
そう、あのキラキラしたアレがホシイ。
補足
キラキラ騎士達の間で、白銀の聖女と呼ばれる彼女は神聖視されておりましたので、抜け駆けして近づこうものなら制裁対象とみられていました。
主に10話に出てきた女性騎士に。
『聖女様に不埒な思いを持つ輩は剣のサビにしてやる!』
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誤字報告ありがとうございます。




