15 赤の他人
視線を上げると視界に赤い色が横切る。斜め上に振り返ると黒く濁った目と視線が合った。
どうやら私は地面と接触する前に彼に抱えられたみたいだ。何故に?
「あのドラゴンを殺ればいいのか?」
長老をヤる?殺る······いや、それは駄目だろう。何故そうなった。
私が答えないでいると、彼は左手を赤黒いドラゴンに向ける。その左手には大剣が······ん?ちょっと待って、それすっごく見覚えがある剣というか、私の大太刀に見える。
しかし、私の大太刀はこの右手に······ない。どういう事?
私の大太刀らしきモノを凝視していると、大太刀が鳴き出した。いや、『ギギギギ』と耳障りな音を鳴らしながら、黒い血管のような紋様が刃を浸蝕していっている。
私が拘り抜いて作って貰った刀が!!!!
「私の刀に何をしてくれる!」
私は体の向きを変え、彼の胸ぐらを掴む。
「その刀はレアアイテムを沢山注ぎ込んで幻の酒と言われる『神水酒』を対価にドワーフの王に作って貰ったこの世でたった一刀しかない刀なのに!どんな魔物も一刀両断できるものなんてそれしか出来上がらなかったのに!なんで、呪いを浸蝕させている!」
それを作って貰うのにすごく大変だったのに、呪いに浸蝕されるなんて。そもそも呪いって、モノを浸蝕する作用があるもの?
あー。あれは流石にもう使えない。禍々しいオーラまで放っている。
視界が揺れている。目の前の男を睨む視界がゆらゆらとにじみ、頬に流れ落ちていく。
私の肉切り包丁が呪われた魔刀になってしまった。
「あ、いや。そんなつもりは・・・すまない」
琥珀色をした瞳がオロオロとしているが謝っても、もう元には戻らない。
後ろから風が吹き荒み、砂埃が舞い上がり、呆れたようなため息が聞こえた。
『なんだ?今日はこれで終いか?』
長老が風を巻き起こしながら降りてきたようだ。私は振り返り赤黒いドラゴンを見上げる。
「ぐっ」
感謝とお詫びを言おうにも言葉が詰まってしまった。
『クククッ。今回は邪魔が入ってしまったが、次は存分に遊ぼうではないか。また、どうしようもなくなったら、遊んでやるから泣くでない。もう今日は、住処に帰って休むといい』
そう言って長老は背を向けてノシノシと去って行った。
「遊び?」
彼のつぶやきが耳をかすめるが、私の頭の中はどうすれば同じか、それ以上の肉切り包丁を手に入れられるか、考えを巡らせていた。
「もう、その刀はいらないからあげる」
私はというと不貞腐れていた。どう見ても私が扱える代物ではなくなっていた。
「それは俺の出来ることはなんでもするから、先にその目を治してくれないか?」
目?ああ、右目のこと?別に潰れたわけではなく、血管が破けて眼球が赤く染まっているだけで、出血はもう止まっているから問題はない。
「ふん。いい加減離してくれない?」
あの後、家に連れ戻され、捕獲されたまま彼の膝の上に座らされていた。
「目を治して、朝、何があったかのか教えてくれたら放してあげる」
何があったか?あったのではなく無かったのだ。
「私のキセルが見当たらなかった。ただそれだけ」
ため息が漏れる。いくつか煙管を持っていたけど、常に持ち歩いていたため、壊す回数が半端なかった。魔物討伐の時なんか何本壊したことだろうか。
とうとう、最後の一本になってしまったので、使わないときは亜空間収納に仕舞うことにしていたのに、はぁ·······最後は壊すのではなく、失くしてしまうなんて。
今日中に町まで降りて調達しなければならない。
ふと目の前に見慣れた物が·······私の煙管!手を伸ばして取ろうとすれば、スッと上に移動してしまった。
私は顔を上げ黒く濁った目を睨みつける。
「先に目を治す」
目の治療しないと渡さないと?右手を右目にかざし、治癒の魔術を掛ける。出血は止まっているから治癒する意味はないのに。
「これでいい?」
右手を目から外し、そのまま煙管に伸ばす。右手に渡された煙管に安堵し、息を吐く。乾燥させた薬草を火皿に詰め、火をつけ肺いっぱいに吸い込み、紫煙を吐き出す。
「それで何があった?」
何が?何もないけど?私が何も答えず、部屋に漂う煙を眺めていると、彼は私の頬に手を添え、彼と目を合わせるように顔を動かされた。
「言い換えよう。なぜ、いきなり出ていって、あのレッドドラゴンに剣を向けることになった?」
琥珀色の瞳が私を見つめる。なぜ、それを私が答えなければならないのだろう。彼にとって私など赤の他人に過ぎない。
私の人生に関わりがない。いや、出来れば関わりたくない。そんな人物になぜ私の闇を話さなければならないのだろう。
だから私は彼の濁った目を見返し答える。
「剣士さん。なぜ、赤の他人の貴方にそこまで話さなければならないのか、私にはわからない」
誤字報告ありがとうございます。




