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第6章【魔人とか魔王とか勇者とかコテコテの厨二病っぽくて申し訳ありません】1

第1話【これからのこと】




すっかり実った稲穂が徐々に首を垂れ始める、秋の始まりを迎えた辺境の農園。


あれから、すぐにでも魔物狩りに行こうとするアークをカーズとマーサーで必死に止め、なんとか農園へと連れ帰って来たのは、あれからもう1日経った翌日の昼前であった。


当然、アリルとサラにも散々心配されたとど(・)叱られ、一応の反省の色は見せたアーク。


特に、妊婦であるアリルに要らぬ心配をさせるなと、サラとミルクに嫌というほど叩き込まれ、流石のアークも自分がした事の重大さを実感できたようだった。


今後、1人で森へ行くことを禁じられ、常にカーズかマーサーのどちらかを伴うことと、コジロウを必ず連れて行くことを約束した。


そしてもう一つ


「じゃあ、候補地はこの2ヶ所でいいか」


手書きの簡単な地図を広げて指差すカーズと、それを見て頷くマーサーとアーク、そしてミルクとサラ。


第2宿泊所の更に奥地に、第3宿泊所を造ることになり、第二宿泊所よりも奥の事に詳しいアークの解説の元で、カーズが候補地を絞り込む。


今回アークが魔人と見えたのは、高速移動の手段を持たないカーズ達では、第2宿泊所からでも徒歩で半日以上かかる場所だった。


カーズ、マーサーもそろそろ第2宿泊所近辺の魔物にも安定して勝てるようになって来たため、そろそろ次の段階、あの巨虎レベルに挑む段階に踏み込む。


「いよいよ、俺たちもそこまで来たか」


武者震いのように体を震わせ、カーズが呟く。


「ミッツ兄が帰って来るまでに、巨虎レベルを倒せるようになっておきたきな」


お調子者の笑顔のマーサーだが、その目にはある意味マーサーらしからぬ真剣味が宿っていた。


レンが現れて以来、アーク程ではないが、カーズとマーサーも、より強くなることを求めるようになった。


カーズが示した候補地は、アークによれば、1つはより山深い山岳地で、もう1つは川と湿地がある開けた高原のような場所。


それぞれに特徴があり、生息する魔物の種類も異なるため、いっそ2ヶ所ともに宿泊所を造ってしまおうということで決着した。


「じゃあ、山の方を第3で、高原の方を第4にしようか」


アークもマーサーも、どっちが第何とか気にしていなかったが、真面目なカーズはきちんと番号を付けて把握したいらしい。


そして、もうひとつ


「荷車を引ける魔物が必要だ」


ミッツが森で捕まえて来た巨馬は、大型で肉食の魔物が蔓延る第1宿泊所よりも奥へは連れて行けられないため、今でも第2宿泊所へは徒歩で向かっている。


というよりは、少し前まではカーズとマーサー、そしてミッツにとって第2宿泊所への道中が主な狩場だったので、これまでは徒歩移動の方が都合が良かったのだ。


しかし、さらにその奥へ行くとなれば、その行き来にかかる時間が惜しくなる。


第2宿泊所近辺の魔物にも負けない強い魔物が必要だが、今のところそんな強力な魔物を力ずくで従えられるのは、アークしかいない。


ちなみに、コジロウでも第2宿泊所近辺の魔物を倒せるが、どちらかというと狩りのパートナーとしての猟犬的な役割に落ち着いてしまっているので、コジロウに荷車を引かせるのは却下となった。


稲刈りの前までに第2宿泊所に何泊かして、適した魔物を探すことになり、それまでアークは森へ入る事を禁止され、しっかりと農園の手伝いをさせられることになった。


まあいい、標的は遥か高みにいるんだ。時間をかけてでも必ず追いついてやる。


黙ったまま何処ともなく窓の外を見つめるアークのそんな心の内を、カーズ達が知る由もなかった。






同じ頃のニーシュ、地区長会議の間。


ミッツの話がひと通りまとまり、話し手を振られたレンが、最大限の緊張と共に俯いたまま座っているのを、ミッツは静かに見下ろしていた。


「レン、お前が魔人から聞いた話を、ここで話せるか?」


ミッツは、なかなか話し始めないレンに再度話を振る。


レンの心境も言いたいこともよく分かっているミッツ。ここで説明をさせても難しいだろうとは思ったが、実際に魔人と戦い、魔人から直接話を聞いたレンが伝えた方がリアルに伝わるだろうと考え、ダメ元でレンに説明を振ってみた。


「う……うん」


人前で話すのが苦手なレンが、意を結したように返事をして立ち上がり、地区長達の方へと視線を向けた。


「……あ…あの、…たぶん、これから僕が話すことは……こ、この世界の常識を、もしかしたら、えっと、あの、す、すごく変えちゃう、かもしれないんだけど……えっと……でも、あんまりびっくりしないで、聞いて、ほ、ほしい、です……」


オドオドしながらも、時折り痞えつつ、ミッツに助けを求めるような視線を向けつつ、それでも懸命にこの場で自分に課せられた役割を果たそうと頑張るレン。


まずはそう前置きをすると、昨日の北の森での出来事を…ニーシュの魔法使い達の修行中に、突如現れた白装束の男とのやり取りを思い出すように、レンは語り出した。



ー

ーーー

ーーーーー



「あの状態からノーモーションで『抜刀術』かよ…やるねぇ」


完全な不意打ちで放った、魔法を駆使したレンの神速の抜刀術を、紙一重でアッサリと避けてみせた白装束の男。


取った…そう思った斬撃を躱され、内心穏やかではないレン。


白装束の男が『抜刀術』とニホンゴを使ったことにも気づかないほど。


「お前魔物だろ?敵対する魔物相手に話しをする気はない」


だが、冷静を装い、強気の言葉を使い、元の長さに戻した石刀で男を指して言い放った。


「ほう、この俺をただの魔物扱いか。舐めてんなぁ」


対して男は、先程のレンの抜刀術のその技術の高さに驚嘆しながらも、それでも焦りを見せることのない不敵な笑みと発言で返す。



刹那



衝撃と落ち葉を巻き上げ、男が白い残像となって消える。


その瞬間、レンは背後に向けて石刀を振り、一瞬前まで誰もいなかったそこに、ガッ、という鈍い音が響く。


巨大な魔物も一太刀で両断するレンの斬撃を、決して太いとは言えない腕の防御のみによって、白装束の男は防いだ。


「へぇ、よく反応したな。一応これでも魔界最強の竜人族って魔人なんだけどよ、俺。どこで覚えた、その『剣術』は」


防がれたと同時に跳躍するように距離を取るレン。


背後に剣を振ったのは、ほぼ勘だった。


それでも、運良く当たればダメージぐらいは与えられると思った……のだが、石刀を受け止めた男の腕は、切断は愚か、純白の衣装に血も滲む様子すらない。


竜人族という魔人…今、確かにそう名乗った。


腕で防御したということは、受け止める自信があったからに他ならない。


“竜”ということは、レンの斬撃ですら傷付けられない程の硬い鱗でも生えているのだろうか。




見守るリンネやモリスン達には、最早どちらが上かなど全くわからない。目で追うことさえできないのだから。


だが、両者の表情の違いから、どちらかというとレンが押されていて、白装束の人型の魔物には余裕があるように見える。


レンは、焦る脳を懸命に落ち着かせるため、努めて深い呼吸を数度して、石刀を鞘に収めて再び抜刀術の構えを取る。


魔人相手にどこまで戦えるか…と、そこでふと思い出す。


そういえば、以前誰かが魔人の話をしていたと。


「もしかして、魔法使い狩りってお前の仕業?」


いつだったか、カーズがそう話していたのを思い出して尋ねるレン。


「魔法使い狩り?もしかして、町の魔法使いにケンカ吹っ掛けたやつか?てかお前、人の質問に答えろよ」


「やっぱり、お前がやったのか…!!」


悪びれた様子の欠片もない魔人に、怒気を増すレン。石刀に掛けた手にも力が入る。


「おいおい、勘違いするなよ、俺はただ人間の魔法使いの実力が知りたくて、ちょっとケンカふっ掛けただけだぜ?」


問い掛けを無視するレンにそこはかとなく苛立つ魔人だが、殺気立つレンに対し、言っても無駄と感じたのか素直に答えた。



ーーーーー

ーーー

ー



「ち、ちょっと待ってくれないか…!!」


中地区長のマナッカが、身を乗り出して話を止めた。


マナッカだけでなく、聞いている他の地区長達も、どこか青褪めた貌でレンの話を聞いていた。


「今の話は、まさか “ヤナクの魔法使い狩り” の話か!?」


「…うん」


血相を変えてレンを注視する地区長達に、レンは簡潔に返事をする。


「ならば……本当に魔人が……」


「話の続きがある、とりあえず聞いてもらっていいか?」


ざわつく地区長達にミッツが一言水を差し、地区長達は言葉を止めた。


「あ、ああ…すまない」


静かになった地区長達に対し、レンは再び語り出す。






「ケージさんは、師匠の話をどう思いますか?」


「…レン師匠の話って?」


ケージ、モリスン、ミリィサ、ミーユ、トビー、リンネの森を進む一行は、あれから魔狐の親子を仕留めただけで、かれこれ1時間以上魔物に遭遇することなく森を歩いていた。


「魔人の話です。本当に、師匠ほどの英雄が全く歯が立たないほどの怪物だったんでしょうか?僕は、師匠のいつもの謙遜で、実際にはそれなりに戦えていたんじゃないかと思うんです」


「俺だってそう思いてぇよ。けど、アレの底知れなさは想像もつかねぇ。レン師匠が言うぐらいのモンスターでも、俺はおかしくないと思ってる」


魔蜂をプチプチと潰した後、一行を先導するのはケージから魔犬に跨ったミーユに交代しており、ケージとモリスンは殿を努め、間にミリィサ、トビー、リンネが縦列に並んで歩いていた。


ケージが先頭を行くよりも、ミーユの方が的確に魔物を発見できる事や、そもそもケージも北の森に関してはそこまで深く入ったことがないため詳しくないこと、なにより、ミーユが皆んなに見せたいものがあるからと、ミーユが先頭を行くことになった。


「僕は、信じられません。そもそも師匠の強さでさえ、最近ようやく現実味を感じられるようになってきたのに、それ以上の怪物がいるなんて、想像もつかないですよ」


モリスンの話を聞いて、ケージはああそうかと納得した。


文明の発達した日本で前世を過ごしたケージにとって、想像を絶する化け物というのは、マンガやゲームという文化を通して、深く馴染みのあるものだった。


その為、モリスンの言う現実味のない強さというのも、想像することならできてしまう。


目の前で見ていて太刀筋の見えない剣豪。


その剣豪をワンパンチで倒す武闘家。


その武闘家を指一本で吹き飛ばす悪の幹部。


悪の幹部を街ごと消し飛ばす魔王。


魔王を激闘の末倒した勇者が、魔王とタッグを組んで勝てない更なる猛者。


その猛者を雑魚扱いする悪の帝王。


少年漫画における戦闘力のインフレを、当たり前に感じるほどには嗜んで来たケージにとって、世界最強の英雄がボロ負けしたことは、現実として受け入れ難い感情はあっても、理解できない事象ではなかった。


「モリスン、ひとつ覚えておけ」


「…はい?」


「現実は、常に想像を超えていく」


いつ何処で聞いたかわからない、誰かの言った名言を引用して、ケージはモリスンに伝えると、モリスンはハッとしたような顔で目を剥いてケージの横顔を見る。


「確かに、初めて見た師匠の魔法は、想像を遥かに超えていました…」


「そういうことだ。だから、レン師匠が負けたっつーその魔人よりも、もっととんでもねぇ化け物が現れても、俺は驚…かねぇことはないかもしれねぇけど、理解できねぇってことはねぇな」


「魔人……より、とんでもない……?」


やっと魔人を理解しかけたモリスンには、魔人以上の化け物の話はまだ難しかったようだ。


例えば、魔王とかな…。


モリスンの様子を見て、ケージはそんな言葉を飲み込んだ。




「見えたよー」


それからまたしばらく森を進むと、ミーユが前方を指差して一同に声を掛ける。


ミーユの指差す方向を見ると、そこだけ森が開けたような一角が見えた。


「ここって、もしかして…」


全員がその開けた場所に何があるのかと眺めている中で、ケージだけがその場所が何なのか気付いたようだ。


森の中だというのに、その一角だけ樹木がなくなっていて、開けた風景が見えているのだが、更に近付くと、樹木がなくなっているのではなく、大量に切り倒されているのがわかる。


そしてそれがかなりの広範囲に渡って広がっていることが見てわかる所まで近付くと、全員がここで何が起こったのかを察して目を見開いた。


「レンにいと、まじんがたたかってたところだよ」


村ひとつ飲み込んでしまいそうなほど広大な範囲に渡って、大木が切り倒されている光景に、一同は言葉を失い立ち尽くす。


およそ人の業とは思えないその所業の痕跡に、まだようやくそれなりの魔法を身に付けたばかりの若き魔法使い達は、自分達の師の実力を知った。


そして、その異次元的な強さの師匠ですら敵わなかったという、魔人の脅威を……。


一同が言葉を失っている中、ミーユは魔犬からピョコンと飛び降り、トコトコと倒木の広がる開けた場所へと小走りで駆け、自分の腰ほどの高さのある倒れた幹にピョンッと飛び乗る。


「きのうね、レンにいが言ってたの」


広大な倒木の野を背に、一同へ振り返りながら言うミーユ。


「ここにね、まほーつかいの『がっこう』をつくるんだって!!」


英雄と魔人が死闘を繰り広げた荒野を背に、ミーユは満面の笑顔でそう告げた。


「魔法使いの、ガッコウ?」


そう聞き返したのはミリィサ。


モリスンもトビーもリンネも、その言葉に首を傾げているが


「ああ、そうか。レン師匠も嬢ちゃんもこっちでの言い方知らねぇんだな。ほら、コセ・シティにあったろ、子供達集めて読み書き教える、なんつったか」


ミーユが日本語で『学校』と言ったため、この世界で生まれ育ったメンバーには伝わらなかったが、前世記憶を持つ元日本人の転生者であるケージは、その意味を理解した。


そして、聖女が街の識字率向上を目的に始めた私塾のようなものがコセ・シティにあり、現在では義務ではないが多くの子供達が通い、読み書きや計算を学び、運動などを行う学校的施設として定着している。


「“学校”のことですか?」


一時期コセ・シティに住んでいたことのあるトビーが答えた。


「ああ、そうだ、それだ」


「それ聞いたことある。なんかニーシュにも作るかもって、ホグルさんが話してた」


ニーシュの町の面々はわかったようだが、田舎の村から出てきたモリスンとミリィサは、まだいまいち理解していない様子だった。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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