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第4章【モブキャラ気質なのに少年漫画の主人公みたいで申し訳ありません】5

第5話【少年漫画風】




「聖女様!!嗚呼、聖女様ー!!」


ヴァルチャルは、溢れる涙も滴る鼻水も厭うことなく、ミーユの両手を握ったままわんわんと泣き崩れていた。


対してミーユは、ミッツの様子を見に行きたいのに、手を離してくれないおばちゃんに困り果てている。


「何やってんだ」


穴の下では、ミッツが新手の“落し穴蟻(トラップアント)”が現れるたびに撃退しながら待っていた。


「ちょっと、ごめんね」


「え?痛いっ!!」


もう待てないと思ったミーユは、ヴァルチャルにそう断ってから、出来る限り加減した極弱の放電を手から放った。


「ごめんなさい、ちょっとセージョパワーがあふれちゃった」


そう言ってペロッと舌を出し、ミッツが落ちた穴にトコトコと駆けていく。


ヴァルチャルは呆然と掌を見つめていた。




「ミッツー、だーいじょーぶー?」


ミーユがひょこっと顔を出して、ミッツは漸くホッとした。


「ああ、何とか怪我はない。だが出られなくて困ってる。すまないが、レンを呼んで来てくれないか」


「かみなりバーンするの?」


緊急連絡用の合図に雷を打つと聞かされていたミーユは、素直にそう聞いた。


「いや、みんなを呼ぶわけじゃない。レンに来てもらって、ここから出られたらそれでいいから、雷はいらない。レンを呼んで来てくれ」


「わかった、じゃあ行ってくる!!」


元気よく答えると、そのままジャンプし、風を巻き上げて飛んで行ってしまったミーユ。


あっという間に森の木々間に見えなくなった。






朝日もすっかり高くなった頃に第一宿泊所へと担ぎ込まれたアークは、ミルクの治癒魔法で怪我を癒し、昼をすぎる頃には目を覚ました。


「待てアーク!!どこへ行く気だ」


意識を取り戻すやいなや、すぐにでも魔物を狩りに行こうとするアークを、カーズとマーサーが止める。


「少し落ち着け!!そんなに焦らなくても時間はあるだろ!!」


「そうだ。それに、いったい何があった?まずそれを話せよ」


2人の兄に嗜められて冷静になったのか、アークは静かに息をひとつ吐くと、石刀を抜いて見せた。


その石刀は、半ばで綺麗に真っ二つに折れていた。


「どうしたんだ、それ。直さないのか?」


不思議そうにマーサーが問う。アークは土魔法で石刀を作れる。折れた石刀をそのままにしておく意味がわからなかった。


「兄貴達に見せようと思って、そのままにした」


アークの言っている意味がわからないマーサーだが、何かを理解したのか、カーズは顔を青褪めさせた。


()()、折られた?」


カーズの問い掛けに、視線で反応するアーク。


「誰に?どういうことだ、カーズ兄?」


魔物の森には魔物しかいない。カーズの「誰に」との表現に、まだ理解が追いつかないマーサーが、カーズに問い掛ける。


「え!?ちょっと待ってよ、この森の奥に何がいるの!?」


カーズの問い掛けを理解したミルクも、カーズ同様顔を青褪めさせる。


「既にレンに匹敵する…もしかしたらそれ以上の魔力を持つアークが作る石刀は、巨大な魔物が踏んでも折れることはない。レンから直接指導を受けたアークが、石刀が折れるような扱い方をすることもない。つまりそれは、石刀を折られるような敵に遭遇した、てことだろ」


2人に答えるように、またアークに確認するように、状況からアークが遭遇した“敵”について、自らの考察を述べるカーズ。


「言われてみりゃ、魔物とやり合ってアークの石刀が折れた所は見たことがないな」


カーズの説明に、やっと理解が追いついたマーサーも息を飲んだ。


3人の視線が集まる中、アークは何かを思い出すように眉間に皺を寄せ、やがて小さく口を動かした。


「魔人に会った」


アークの石刀が折られた。つまりそれは、相応の脅威と遭遇した事を意味する。






モリスンの燃える槍に胸を貫かれ、魔猿のボスが倒れた。


「オッケー、じゃあこの猿は…」


さっきはモリスンだったから、今度はリンネの番なのだが…


「私はいいです。オジさんどうぞ」


「オジ…」


オジさんと言われて不機嫌そうに前に出るケージ。


いや、まぁ、オジさんだけどさぁ……


誰にも聞こえない声でブツブツと呟きながら、瀕死の魔猿に歩み寄るオジさんケージ。


「いいの?リンネ。順番じゃ君だけど…」


レン達のチームは、真面目なレンらしくローテーションで魔力を得ていた。


だが、何故かリンネは拒否する。


モリスンはもちろん、ケージも昨日何匹分かの魔力を得ているので、この中で1番魔力が少ないのはリンネだ。なので、本当は優先的に魔力をゲットさせてやりたいのだが…


「あ、いいんです。私、レン様が倒した魔物がいいので」


もう、完全に目がハートマークだが、それに気付いているのは、前世と合わせてすでに70年以上生きている、人生経験豊富なオジさんケージだけ。


「倒した人の実力なんて関係ないから、誰が倒した魔物でもいっしょだよ?」


と言う当事者のレンは、自分がそんな目で見られるとは想像すらしていない。


「いえ、師匠、そうじゃないんス…」


対して、肩をがっくり落とし項垂れているもう1人のネガティブは、レンが好かれているのではなくて自分が嫌われていると思ってしまっていた。


なんとも勝手に報われなくなっている男である。


そんな三者三様の有り様を見て、いつの間に俺は青春ラブコメファンタジーに巻き込まれたのかと、トータル年齢70数歳のケージは苦笑していた。




「何か来る……」


モリスンの補助でケージが魔猿の魔力をゲットし、先へ進もうとしたその時、不意にレンが顔を上げて遠くを見るような鋭い目をする。


「あー、それいい!!それ!!ラブコメなんかよりやっぱそっちだよ!!」


魔力を得たケージが、何やら勝手に1人興奮している。


日本の少年漫画で育ったオジさんは、「何か来る…!!」と、気配を感じてバッと振り返る様がたまらなく好きなようだ。


レンの言う通り、何かが物凄い勢いで空から降って来て、爆風を上げて着地した。


「おわっ!!」


「キャー!!」


「ひっ……!!」


レン以外、それぞれ三者三様に驚いて、降って来たものを恐る恐る見ると


「レンにい、ミッツが呼んでる」


少年マンガ風に登場したのは、幼女ミーユだった。


「カッケー!!!!」


オッさんのボルテージは最高潮になった。




「じゃあミーユ、みんなを宜しくね」


「うん、いってらっしゃーい」


「はっ!!い、いってらっしゃ…い、ま、せ…」


魔犬と協力すれば、魔物の群でも相手取ることが出来るようになったモリスンだが、流石にまだ非戦闘員を守りながらの戦いは心許ないので、しばしの護衛にミーユにいてもらうことにして、レンは石刀で飛んで行った。


レンを行ってらっしゃいと元気よく送り出すミーユを見て、なんかそれいい!!と思ったリンネ。


真似して「行ってらっしゃーい」と言おうとしたが、言いながらさすがにいきなりそんなフランクに言えないと気付き、丁寧に言い直した結果、尻すぼみの変な言い方になってしまい、勝手に顔を赤らめる。


1人でモジモジするリンネ。それを見ていたモリスンと目が合う。


「み、見ないで!!」


その様子に、モリスンはピンと来るものがあった。


あ、これユキさんと同じだ。


そう思ったモリスンは、リンネが師匠に「カッコいい」を感じているのを悟ったが、それを「恋してる」と呼ぶのはまだ知らなかった。


やっぱり、女子に「カッコいい」と感じてもらうには、師匠レベルにならなきゃダメなのかなぁと、1人木々の隙間に垣間見える空を見上げるモリスンだった。




勢いよく伸びる石刀の先端が地面に刺さる。刺さった瞬間から勢いよく縮まる石刀。


その石刀の柄を握ったレンが、縮む石刀に引かれて飛んで行く。


アークが考案した土属性魔法の高速移動法を駆使して、森の中を駆けるレン。


ミッツの気配を探りながら、ミーユが飛んできた方へと突き進む。



──ゾクッ──



「!!」


急に鳥肌が立つ感覚に襲われ、思わず高速移動を止めて着地し、落ち葉を巻き上げ地面を滑りながら停止するレン。


後方へ振り向くとその奥…北の森の最奥の方を凝視する。


「まただ…この気配……」


さっきは一瞬感じただけだったが、今度はずっと見られているように感じる。


凍り付くような圧迫感に、否応無しに駆り立てられる緊張感。何か見たこともない恐ろしい魔物でもいるのだろうか。


「魔人…」


不意に、今回の北の森調査に発つ前にカーズが話していたことを思い出した。


まだ、レンがこの世界に来て1ヶ月ぐらいの頃に、ユキとサラを送って初めて農園へやって来たジョゼフが言っていたそうだが、町で起きている魔法使い狩りの犯人が魔人ではないかと噂があったという。


実際に魔人に遭遇した者の話は無いが、辺境の魔物の森の最奥に棲む、桁違いの魔力と人間を超える知能を持った魔物だとカーズは言っていた。


今のレンの実力ならば、あの巨虎でさえ群れを相手にしても勝てる。


そのレンが、まだ姿さえ見えない相手に、これほどの警戒心を駆り立てられるとなると、そう考えてもおかしくはない。


「急いだ方がいいみたい…」


ケージが見ていたら超興奮ものの、王道少年漫画っぽいセリフを呟き、レンは先へ進んだ。






ドンッ!!


立ち木の根本を蹴って、白い影が森の中を飛ぶ。


蹴られた立ち木は、蹴られた箇所が大きく抉れ、根を浮き上がらせて傾いた。


なんとかバランスを取って立っているが、同じ衝撃をもう一度受けたら完全に倒れるだろう。


白い影は、森の中を高速で駆ける。


風を起こして身体を飛ばすでもなく、伸縮する石柱の勢いを使うでもなく、己の脚力のみで駆けていく。


その速度は、ミーユよりもレンよりもずっと速い。







「ウォン!!ウォンウォン!!」


「な、何!?急にどうしたの!?」


「ヒィイイイイ!!」


魔犬達が急に吠え出し、慌てふためくミリィサとヴァルチャル。


ドッ!!


怯える2人から2mほど離れた所に、何処からともなく飛翔して来た石の槍のような物が突き刺さる。


「ヒィヤァアアアアアア!!!!」


2人揃って大きな悲鳴を上げるが、直ぐに現れた人物を見て、ミリィサは一変に安堵する。


「ししょー!!」


「ひぃっ!?あ、貴方は!!」


一瞬遅れて、飛んで来たのが誰かわかったヴァルチャルも、ホッと肩の力を抜いた。


「ごめん、遅くなって。ミッツは?」


「レン!!来てくれたか、助かった!!」


ミリィサ達が答えるより早く、直ぐ近くに空いた大きな穴ぼこから、聞き慣れたミッツの声が聞こえて、レンは穴の方へと近付く。


「どうしたのミッツ?」


穴の下を覗くと、動物の糞みたいな黒い丸っこいのに囲まれたミッツがいた。


「見ての通り、魔物の巣穴に落ちちまった。とにかく出してくれ」


「わかった」


レンが地面に手を当てると、ミッツの立っている直径1mぐらいの範囲の地面が、ゆっくりと迫り上がりながら、レンのいる方へ近付いてくる。


「助かったよ、レン」


届く高さまで来ると、ひとっ飛びで地面に飛び乗ったミッツは、レンの肩を叩いて礼を言った。


「うん。あのさミッツ、ちょっと話があるんだけど」


レンの今まであまり見たことのない緊張感──オドオドした通常モードの対人関係の緊張感でもなく、魔物を狩る時の集中している緊張感でもない──を漂わせるレンの様子に、ミッツの気も自然に張り詰める。


「どうした?」


「気のせいならいいんだけど、嫌な気配が近付いてる。もしかしたら、全員撤退させたほうがいいかも」


「わかった。じゃあ、判断が出来たらミーユに伝言させてくれ」


「わかった……いや、今すぐ撤退して」


森の北の方をジッと睨むように見るレンの頬に、一筋の汗が流れた。


最近、レンが魔力を感じ取れる能力を身に付けたのはミッツも知っている。


その精度が高いことも。


「そんなにか」


だが…いや、だからそう尋ねた。


今のレンならば、かなり強力な魔物でも倒せるはずだ。


「たぶん、あの虎の何十倍も強い」


“あの虎”とは、もちろん初めてレンとミーユが魔物狩りに参加した時の、あの巨虎のことだろう。


今なら、ミッツもそれなりにダメージを与えることは出来るが、倒すとなるとまだ難しいと考えるぐらいの魔物。


レンにとっては既に強敵ではないが、雑魚と呼べるほど弱くもない。


そんな巨虎の、何十倍もの魔物とは…


「わかった。ミリィサ、ヴァルチャル、直ぐに引き換えす。他の魔犬は何処にいる?」


「さっきの豚の所にいるよ」


今のレンとミッツの会話と緊張感から、何かしらが起きていることを察したミリィサは、直ぐに行動できる体勢を取り答えた。


「わかった。じゃあまずそこまで行こう」


「うん」


「何があったのですか?」


唯一、状況を把握できていないヴァルチャル。


正確には、全員が何が起きているのか理解は出来てないが、今はそんな事を説明する余裕はない。


「少し、不測の事態が起きたようだ。貴方達の安全のために撤退する」


「そうなのですか。それならば仕方ありませんね」


ヴァルチャルが思ったより素直に言う事を聞いて、正直またクドクドと話が続くのではないかと思っていたミッツは、拍子抜けするが相応に安堵した。


「ミッツ、魔犬達は乗って走れるはずだから、乗っていくといいよ」


「そうなのか!?」


「うん、ミッツが乗っても大丈夫だと思う」


小型の馬ほどの大きさがあり、魔力で見た目以上の力が出せるとなれば、確かに人間が乗って走ることも可能だろう。


だが、ミッツは自分の体をよく知っている。魔犬とは言え、普通の馬よりは小さい犬が自分を乗せて走れるなど俄かには信じられないが、レンが言うなら試すだけ乗ってみようと思った。


「そ、そうか。じゃあ、残りの魔犬と合流したら乗って行こう」


「うん。あと、セシリアにも伝えて」


「ああ、わかった。気を付けろよ。なんか、俺でも肌寒い感じがしてきた」


そう言って、鳥肌の立つ腕をさするミッツ。


「大丈夫。じゃ」


「ああ」


そうしてレンは、来た時と同じ様に石刀で飛んで行った。


「レンなら、大丈夫だ」


誰にともなく言い聞かせる様に、ミッツは独り言を呟いた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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