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第3章【調査に来ただけなのに魔法使いを鍛えてしまって申し訳ありません】2

第2話【七面鳥とミリィサ】




普通の七面鳥は120cm程度だが、魔物のそれはモリスンが見上げるほど大きい。ミッツよりも高い目線なので、おそらく普通の七面鳥の倍以上の体長がある。


間近で聞くと耳を塞ぎたくなる声量で威嚇する、魔七面鳥のその向こうには、目の前の個体の半分程度の体躯をした魔七面鳥が、6〜7羽ほど遠巻きにこちらを見ている。


おそらく、群れのメスたちだろう。


もしかしたらその向こうに巣があるのかもしれない。


「僕がやるから、君たちはコイツが逃げないように周りを囲んでて」


魔犬にそう指示を出し、覚悟を決めるモリスン。槍を構えて魔七面鳥を睨み付ける。


モリスンが、牽制の意味も含めた突きを繰り出すと、魔七面鳥は大きく羽ばたいて後ろへ飛び退くが、そこへ魔犬が回り込んでいて大きく吠える。


魔犬の威嚇に気圧されて、魔七面鳥は横っ飛びにモリスンの前へと追いやられた。


何度か同じ様な攻防を繰り返し、次第にモリスンの牽制が攻撃的なキレに変わり、連撃が目立つ様になると、魔七面鳥の翼を掠めたり、だんだんモリスンの攻撃が当たり始めた。


「ッアアアアーー!!」


初めて、モリスンの攻撃が魔七面鳥の腹を掠め、魔七面鳥が大きく叫ぶ。


その瞬間、魔七面鳥が大きく羽ばたいてモリスンとの距離を縮めて来た。


嘴で執拗に突きまくる魔七面鳥の突然の反撃に、モリスンは面食らって防御一辺倒になるが、ビビったのはほんの数秒で、直ぐにまた攻撃に転じた。


防御の手に炎を灯し、魔七面鳥の目の辺りに思い切り打ち当てた。


目を焼かれた魔七面鳥は大きく仰け反り、熱さのあまり暴れまわる。


モリスンの付けた炎は、そのまま魔七面鳥の顔半分に燃え広がり、暴れてもなかなか消えないため、さらに暴れ回る。


魔七面鳥を倒す良いチャンスなのだが、翼を広げて大きく振り回す魔七面鳥になかなか近付けず、留めを刺せないモリスン。


レンは助言したいのを我慢して、心の中で「がんばれ!!がんばれモリスン!!」と応援する。


その為に、重要なことを見逃しているのに、この時のレンはまったく気付けていなかった。




レンの心の声が届いたのか、焦らずに暴れる魔七面鳥をしっかり観察し、隙を見つけたモリスン。


意を決して留めを刺そうと足を踏み出した…その時


「行くなって!!」


「オラァ!!」


突然、セシリアの制止する声が響いたかと思うと、そのセシリアの制止を振り切るように、長い木の枝を振りかぶったミリィサが、魔七面鳥に飛び掛かり、脳天を思い切り引っ叩いた。


魔七面鳥は、脳を揺らされたのか、翼の動きが急激に緩慢になり、足をフラつかせ今にも倒れそうになる。


更にミリィサはフラつく魔七面鳥の首に飛びつき、身体を捻るようにして首の骨をへし折り、留めを刺してしまった。


「…へ?」


モリスンが間の抜けた声を出し、絶命した魔七面鳥から出た紫の霧が、ミリィサの体へと吸い込まれていった。





森の中から、真上に立ち昇る火柱を見て、ミッツは馬車を引き返した。


何かあった場合の合図として、レンとあらかじめ示し合わせていたのだ。


火柱の立った付近まで戻ると、伝令役のミーユが森から飛び出てきた。


おそらく、昨日見せた空気を爆発させて跳ぶ方法で跳ねてきたのだろう。


「ミッツ、でーっかいトリさん捕まえたよ!!」


「そうかそうか、レンたちはこの向こうにいるんだな」


「うん」


「じゃあ、ミーユはここでユキさんと留守番しててくれ」


「わかった!!」


鳥の魔物を捕獲したことが問題ではないのは、ミッツにはもちろんわかっている。おそらくその過程で何か事故が起きたのだろう。


レンとセシリアがいて起きた事故が如何なるものか…ミッツが森を駆けていると、ミーユの後を追いかけてきたセシリアと遭遇した。


セシリアの後をついて森を駆けながら、状況の説明を受ける。


「ミリィサが境界線の向こうに入っちゃったんだ」


「なんだと!?で、今どうしてる?」


「まだ大丈夫。でも、魔物倒したんだよ」


「は?どういうことだ!?」


「だから、ミリィサが魔物倒したんだよ!!それで、魔物の魔力がミリィサに入ったんだ!!」


「んなっ!?」




ミッツが辿り着くと、 レンの土魔法で作っただろう二本の石の柱に渡した横棒に、首を切り落とされた魔七面鳥が吊るされていた。


その横で得意顔になっているミリィサと、青い顔で震えているモリスンがいた。


レンは、魔犬達をまとめてミッツの到着を待っていた。


「ミッツ、ごめんなさい…」


「レン、まず状況を説明してくれ。謝るのはそのあとだ」


「うん……、犬達があの鳥の魔物を見つけたから、モリスンと犬達に任せたんだ。僕は、危なくなったら手を出そうと思って近くで見てたんだけど、大丈夫っぽいからずっと見てただけだったんだ。

それで、モリスンが火魔法で鳥の顔を燃やしたら、鳥が暴れまわって、チャンスなのにモリスンピンチで、モリスンがんばれって心の中で応援してたら、モリスンが攻撃のタイミングを見つけて飛び掛かろうとして……僕、モリスンが頑張ってるの見てたら全然気付けなくて……気が付いたらミリィサが飛び出して来て、木の棒で鳥の頭叩いて、そのまま首を掴んで〆ちゃったんだ…。だから、魔力がミリィサに…入っちゃって……ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」


丁寧に一から説明するレンの話を、急かすこと無くじっくり聞くミッツ。


数瞬目を閉じて思考すると、ミッツは目を開く。


「だいたいのことはわかった。セシリアもレンも、突然ミリィサが動いたことで何とも出来なかったんだな」


「…うん、ごめんなさい」


項垂れるレンと、珍しく表情を曇らせるセシリア。


魔物との戦闘を見る限り、レンの反応速度はズバ抜けている。それでもミリィサを止められなかったのだ。責めても仕方あるまい。


「でもミッツ…」


何か言いかけたセシリアを、ミッツは手で制する。


「いや、いい。やはり森に入れるべきじゃなかった。俺の判断ミスだ」


厳しい表情のミッツに、まだ何か言いたげだが、口を噤むセシリア。


静まり返る一同の様子に、ミリィサは不思議そうに小首を傾げる。


「何をみんなそんなに神妙になってんの?私はこの通り大丈…」


「いかげんにしろ!!」


ミッツの怒声が響いた。


ミリィサの身体が硬直する。


「魔力に満ちた所に普通の人間が入ったらどうなるか教えただろう!!そんなにゴブリンになりたいのか!?ゴブリンになったお前を見てサモンはどう思う!?母親は!?あれだけしつこく森に行きたいと言うから、魔力境界線までなら許すと、こっちが譲歩したのに、自分から強請っておきながらそんなに簡単に約束を破るのか!!」


サモンに負けないぐらい威圧的な風貌のミッツに怒鳴られて、だんだん身を縮こまらせていくミリィサ。


ミッツの本気の怒りを肌で感じ、漸く自分が悪いことをしたのだと理解したのか、次第に目尻に涙を浮かべ、掠れた声で「ごめんなさい」と呟いた。


俯き涙を零す、まだ成人に満たない少女が謝る様子に、保護欲の高いミッツは心に痛みを覚える。


しかし、ここで折れてはいけないと、気を強く持たせようとするミッツの前で、ミリィサは更に涙を溢れさせる。


「本当に…ごめん…なさい……。私が…全部私が悪いから、だから、ゴブリンになっちゃうんだね」


「あ、いや、別に全部ミリィサが悪いわけじゃ…」


本泣きに入ったミリィサに、早くも心が折れて戸惑い始めるミッツ。


「ううん、私が全部…悪いから。だから……ゴブリンになっちゃえばいいんだ」


「そ、そこまでは言ってない!!俺がもっと厳しくしておけばよかった……ミリィサ、そんなに泣くなよ。ごめん、俺が言い過ぎた」


ミリィサの目からは次から次へと涙が溢れて、啜り泣く音も聞こえてくる。


益々ミッツは慌て始め、叱っていたはずなのになぜか謝り始める始末。


「ミッツ、あとは私に任せろ」


これ以上泣いているミリィサを優しすぎるミッツに任せておけないと、セシリアが割って入った。


今日1日でミリィサと随分打ち解けたセシリアが言うので、ミッツはセシリアにミリィサを任せた。




セシリアとミリィサが連れ立って馬車の方へ歩いて行く。


未だ泣いている様子のミリィサを慰めるように、長身のセシリアがその肩を抱く様子は、お似合いのカップルのように見えてしまい、ふとミッツはミリィサにセシリアを取られてしまうのではないかと、おかしな考えを過ぎらせる。


「ミッツ、どうするの?」


セシリア達の背中を見つめていたミッツに、レンが問い掛ける。


「ああ、そうだな。当初の目的に戻すか。ミリィサの事は、もうこうなってしまった以上成るようにしかならん。覚悟だけ決めて、後は運に任せて一旦忘れよう」


そう言ってミッツは、レンに魔犬達に指示を出すように言うと、レンはそれをそのままモリスンに告げる。


魔犬への指示はモリスンが出すことで、魔犬達に直接の主人は誰なのかをしっかり教え込むのだ。


石鈴を鳴らしながら先行する魔犬達に着いて、ミッツ達は森の探索を再開して進む。


魔七面鳥は、あの巨体なので血抜きだけでも時間がかかる。他の魔物に食われないように、レンの石壁で囲って、あの場に置いてまた明日取りに来ることにした。


ちなみに、他にもいた雌らしき魔七面鳥達は、雄がやられてしまったのでいつの間にか逃げてしまっていたが、やはり巣があったので卵だけ回収した。


その後ミッツ達は、魔物を倒しながら難なく先を進んで行き、夕方になりユキ達と合流した。




「一晩過ぎて、明日の朝になれば分かると思う。もし、ミリィサが魔物になってしまったら、拘束して全員で1度村まで引き返し、サモンに洗いざらい全て話す」


全員で夕食の支度をしながら、ミッツが今後の行動を説明する。


「それから、もしミリィサが魔物にならなくても、ミリィサは明日俺が村まで送り返す」


「え!?そんな、やだ!!」


予想外のミッツの宣言に、下を向いて塞ぎ込んでいたミリィサがバッと顔を上げる。


「我儘言うな。魔の森は危険だ。約束を守れない者は連れて行けない」


厳しい表情と口調のミッツ。もうミリィサがどれだけ泣こうが折れる気はないぞ、とでも言わんばかりの気迫に溢れている。


「もう、これからは言うこと聞くから!!」


それでも食い下がるミリィサ。


「ダメだ」


「お願い!!」


「ダメだ」


「なんで!?」


全く折れないミッツと、諦めようとしないミリィサ。


ミッツは、何か決意したように息を1つ吐く。


「約束を守れなかったのはお前だけじゃない。俺も、サモンとの約束を守れなかった。お前をちゃんと面倒見れなかったからな」


ミッツのその説明に、ミリィサは続く言葉を失った。




その夜は、これまでの楽しげな雰囲気とは異なり、皆口数も少なく、レンとモリスンが魔犬の世話をしていても、ミリィサは寄って来なかった。


静かなままでそれぞれ眠りにつき、そして夜がふける。


2人用のテントの中で、ミッツとセシリアは静かに眠気が満ちるのを待っていた。


「ミッツ」


「なんだ」


唐突に、セシリアが囁くような声でミッツを呼ぶ。


「ミリィサは大丈夫だ」


「…俺もそう信じたいよ」


まだ今日1日とはいえ、あれだけ仲良くなったのだ。魔物になんかなってほしくないという気持ちはミッツにもよくわかる。たが、セシリアの思いは少し違った。


「そうじゃない、大丈夫だ」


まるで確信を持っているような言い方をする。


「…なんで言い切れる」


「わからない、でも大丈夫」


「そうか…」


短い会話を交わしたあと、2人はそのまま言葉を発することなく、しばらくするとセシリアの呼吸のリズムが寝息に変わった。


ミッツは、なぜセシリアがそこまで確信を持って言い切るのかがわからなかった。


確かに、セシリアはよく根拠のない自信に満ちている時がある。何かしら直感でそう思い込んでいるのかもしれないが、そういうときは大抵失敗しない。


だが、今回は違う。セシリアがどれだけ自信に満ちていても、セシリアでどうこうできる問題ではないのだ。


セシリアもまた、大丈夫だと信じたいだけなのだろうと思うようにして、ミッツも意識を閉じた。




翌朝、いつもより早くミッツが目覚めると、すでにセシリアの姿がない。


家では狭いベッドに2人で寝ている関係で、常に寝不足のミッツの方が起きるのが遅いが、そうでなければミッツの方が大抵早い。


トイレにでも起きたのかと思い、様子を見ようとミッツが外へ顔を出すと、横から微風が吹いてくる。


風が吹いてくる方に気配を感じ視線を向けると、セシリアとミリィサが並んで立ち、妙にニヤニヤしていた。


「ミリィサもう1回」


「うん」


セシリアにもう1回と促されたミリィサが、ミッツの方へ手を向けると、微風が吹いてミッツの髭をサワサワと揺らす。


しばらく思考が停止するミッツ。


魔法?


そう思い、風魔法を使えるミーユの姿を探すが見当たらない。


何か仕掛けでもあるのか?それとも偶々タイミングが良かっただけか…


「今、ミリィサが魔法を使った気がしたんだが…」


答えの代わりに、三度微風を起こすミリィサ。


「なんだとーー!!!!!!」


「だから言っただろ、大丈夫って!!」


驚きの声をあげるミッツと、ドヤ顔のセシリア。


ミリィサ、魔法が使えてしまったのである。




セシリアの見解としては、以下の通りである。


以前、ミッツの巨馬が魔物化したときは、その日のうちに魔物になっていたと聞いていた。


ならば、ミリィサも魔力境界線を越えた時点で直ぐに魔物になったはずなのだ。


しかし、ミリィサは直ぐに魔物になることもなく、更に魔七面鳥の魔力がミリィサの中に入っていくのをセシリアはしっかりと見ていた。


あれ?これって、魔法使いが魔力を得る時のパターンでは?


そう思ったセシリアは、ミリィサと2人で馬車に向かっていた時にそう説明した。


するとミリィサもパッと表情を明るくし、どうせならミッツを驚かせてやれと、昨日の夜も落ち込んだ振りをしていたのだという。


魔物化しなくても帰れと言われた時には本気で焦ったが、魔法が使えるようになれば大丈夫と、セシリアがフォローしていた。


「私もミーユみたいに魔法で飛べるようになる!!」


既に目標が決まっているミリィサを一同が囃し立て、ミッツは開いた口が塞がらないでいた。


もちろん、ミリィサを村へ連れ帰ることなど忘れていた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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