第3章【調査に来ただけなのに魔法使いを鍛えてしまって申し訳ありません】3
第3話【ニーシュの転生者】
ミリィサが風魔法を使えてしまい、一時パニックに陥りかけていたミッツだが、思い出したように一度ミリィサを村へ連れ帰ると言いだした。
だが
「せっかく魔法が使えるようになったんだから、もっとちゃんと使えるようになってパパを驚かせたい!!」
というミリィサの強い希望で、そのまま探索を続行することとなった。
森へ入るのはレン、モリスン、セシリア、そしてミリィサの4人と、11番〜15番の石鈴を付けた魔犬達。
馬車組はミッツ、ユキ、ミーユと残りの10頭の魔犬達で、まずは血抜きの為に吊るしたままの魔七面鳥や、倒した他の魔物の遺体を回収しに、昨日来た道を逆走していく。
ミーユは冷凍係として馬車組に同行しているが、魔力境界線を探索しながらの行程は、遭遇する魔物も低レベルで、ミーユは飽きてきたようで快く馬車組を承諾した。
ちなみに、ミーユが前に乗りたいと言い出したので、今日の御者席はミーユとユキという、これもまた珍しい組み合わせだ。
ミッツ達は、魔物の遺体を回収した後、引き返して魔力境界線探索組のレン達を追う形となる。
レン達森の探索チームは、15番の石鈴を付けた魔犬に先頭を歩かせ、その後ろをモリスンとミリィサが2頭ずつ魔犬を従えてついていく。
最後尾をセシリアが守っているが、既にモリスンは自力で魔物を倒せるようになっているし、ミリィサも魔七面鳥に飛びつくぐらいの気合いがある。
怪我をしても光魔法で治せることもあり、レンは2人の事は視界の端で注意する程度で、魔力境界線の石柱の設置にほぼ集中していた。
「師匠、魔狸の群れです。6、7…8匹います」
犬達が吠えていたので、何か出たのだろうと思っていたら、モリスンが報告しに来た。
「ちょっと多いね。2人でいける?」
「…な、なんとか、やってみます」
モリスン、ちょっと返事に戸惑う。本当は師匠に協力して欲しかったのだろうけど、そう言われると「やる」としか答えられない。
もちろん、いざとなれば師匠も放っておくわけはないし、セシリアもいる。完全にミリィサと2人で倒さなければならないわけではないので、そういう意味では危険は少ない。
「オラァ!!」
「ミリィサ!?」
モリスンがレンに報告しているうちに、勝手に魔狸に向かって行くミリィサ。
「待っててって言ったのに…“待て”もできないなんて、犬以下かよアイツ」
ぶちぶち言いながらモリスンは魔狸の方へ戻って行き、ミリィサのフォローに入る。
魔犬達も牽制だけでなく、2人の様子を見て攻撃に回ったり、2人のフォローをしたりと、2人と5頭が上手く連携して、魔狸8匹を全滅させる。
何かあったら手助けするつもりでいたセシリアも、結局見ているだけで終わってしまった。
魔物を倒したら、魔力回収となるわけだが…
「ちょっとモリスン、なんでアンタ半分持ってくの?」
「え?なんでって…半分ずつじゃ…」
魔狸8匹分の魔力を2人で4匹ずつ…と思って、魔力を回収していたモリスンに、ミリィサが物申す。
「アンタはもう沢山魔物倒したんでしょ?私は今日が初めてなんだよ?譲ってくれるのが普通じゃない?」
「え、ええ……?」
ミリィサの、理不尽とも筋が通っているとも判断が難しい訴えに、困り果てたモリスンは、助けを求めるようにレンの方を見る。
レンも、魔物との戦闘以外の事となるとただのネガティブなので、「そんな事僕に聞かないで….」と視線で訴え返す。
セシリアの方を見ても、一瞬睨み返されただけで、何も聞けなかったモリスン。
「じ、じゃあ次からそうするよ」
気弱な男は、押しの強い女には勝てないのだ。
魔力境界線は少しずつ森の端へと近付いて来ているようで、森の中から平原の様子が伺える所まで来ていた。
ここまで最初の魔狸以外に5匹の魔物と遭遇したが、その魔力を全部ミリィサがかっさらって行った。
モリスンは、ミリィサにバレない程度の小さな虫の魔物でもいやしないかと、茂みの中を凝視して探していた。
「ししょー、お腹すいたぁ。そろそろお弁当にしよー」
お腹をさすりながら訴えるミリィサ。言われてみると、そろそろ太陽が真上に来るころだ。
師匠に対するミリィサの言葉遣いにイラッとするモリスンだが、その提案には賛成した。
「じゃあ一旦森を出て、お昼休憩にいい場所を探そうか」
レンはそう言って、南に向かって足を進めた。
この辺りまで来ると、魔力境界線はずいぶん森の端に近付いていて、森を出るとすぐ近くに川が流れていた。
「師匠、あの辺いいんじゃないっすか」
森と川の間にあるちょうどいい倒木をモリスンが見つけ、4人は川を眺めるように倒木に腰掛け、魔犬達はその周りに座った。
「あ、レンにいたちだ」
ユキと並んで御者席に座るミーユは、前方で倒木に腰掛けているレン達を発見。
「本当ね。お昼休憩かしら。あら?向こうからも何かくるわ」
ユキが指差す、森とは反対の遥か向こうから、砂埃を巻き上げて何かが近付いてくるのが見えた。
「ん?誰かが馬で駆けているみたいだな」
荷台から前方を覗いたミッツが、それが馬に乗った人間だと気付く。
「あの向こう、ニーシュじゃないかしら。ほらミッツ君、あの人の向こうに建物があるの見えない?」
「砂埃でよくわからないけど…確かに何かあるな」
「川が森沿いまで来てるからそうね、ニーシュまでもうすぐよ」
「あ、村のおねぇちゃんが手ふってるよ。おーい!!」
ミリィサがこちらに気付いたようで、立ち上がって手を振っているのが見えた。セシリアとレン、モリスンも座ったままだがこちらに手を振っている。
馬を駆る男は、前方にいる集団を目を凝らして見ていた。
「なんか、おかしくねぇか?」
明らかに魔物だ。4〜5匹の大きな犬のような魔物に囲まれている4人の人物が居るのが、この距離まで近付けばよくわかる。
仲間内で1番視力が良いクロウが、森から魔物に追われて出て来た奴がいると言うので、慌てて助けに来たのだが…
「普通にくつろいでないか?」
さらに接近してよく見ると、若い男女4人が5頭の魔物…魔犬に囲まれているのが分かるが、魔犬は飼い犬のように若者達に従っているように見える。
「馬車?」
若者の1人、女が立ち上がって手を振る様子が見えた。こちらに気付いたようではなく、反対の方へ手を振っている。
若い女が手を振る方へ目をやると、一頭引きの馬車が走って来るのだが
「あんな大きな荷車を一頭引きだと?ていうか、あの馬デカく……ちょっ!!魔物に追われてんじゃねーか!!」
男は今度こそ危ないと思い、馬を加速させた。
「あの人、なんか言ってない?」
ユキが、向こうから馬で駆けてくる人物の様子を見てそう言うと、ミーユは魔法を使って風向きを操る。
「まものがあぶないって言ってるね」
ミーユの風魔法により、聞き取りやすくなった男の声は、後ろから魔物が迫ってるから早く逃げろと叫んでいた。
「男の人の声ね。ニーシュの人かしら」
「ジョゼフが、聖廟付近に防衛の砦を築いているって言ってたからな。そこの護衛かもな」
ユキとミッツが、男の素性を予想する。
「魔物が追ってるって言うが、どこにも魔物なんて見えないが…」
馬車の後ろを見たミッツが言う。馬車の後ろには、キチンと整列した魔犬が付いて来ているだけだ。
「誰だろう」
森の端で休息を取るレン達も、川の向こうから馬で接近する男に気付いた。
「あとで来る!!」
物凄い勢いで馬を駆りながら、男は川の向こうからそう叫ぶと、レン達の前を駆け抜けて行き、少し向こうで馬に乗ったまま強引な感じで川を渡る。
「……今、あとで来るって言いましたよね、師匠」
「うん。でもこの川、幅はあるけど結構浅いんだね」
馬が川を渡る様子を見て、呑気にそう答えるレン。
「あっちから来たんなら、ニーシュの人じゃない?ほら、あそこに何か建物見えるし。あれ聖廟じゃないかな」
この近辺の地理を知るミリィサがそう言うので、そうなんだろうと納得するレンとモリスン。
川を越え、再び砂埃を上げ走り去っていく馬は、馬車へと近付いて行った。
「ミッツに用があるのかな?」
東の方から来た男が、西から来る馬車にどうしてミッツが乗っていると知り得るのか、よく考えていないレンだった。
馬に乗った男は、真っ直ぐ馬車に向かって来るのではなく、少し外れた所を走って行く。
そして、間も無くすれ違うというところで、徐ろに矢をつがえた。
「なに!?」
応戦しようとするミッツだが、鏃の向いた先が自分より少し後ろにあることに気付いて、思わずその方向を見る。
「そういうことか!!」
男が狙っているのが何かわかった時点で、ミッツは全て合点がいった。
馬車の後ろには10頭の魔犬が付いて来ている。男は、馬車が魔犬に追われているのだと思ったのだ。
「矢ぐらいならこれで…」
ミッツは、応戦しようと右手に溜めていた魔力で、水弾を飛ばす準備をする。と、男は何かに気付いたような顔をして、弓矢を下げ、走り去って行った。
「驚かせてごめんなさい、私たち西の辺境の方から…」
レン達とミッツ達が合流した所へ、馬に乗った男は引き返してやって来た。
男は、ケージと名乗った。
ニーシュの聖廟を守る砦の番兵を務める者で、魔物に追われるように森から出て来た者達の姿が見えて、駆けつけて来たのだと言う。
「そうか。辺境の魔法使いってのは、魔物も飼い慣らしちまうんだな」
「西の辺境から来た」と言うだけで、この辺りの町村では魔法使いだと通じる。
まさか飼い慣らされた魔物だとは思わなかったケージは、非常に驚いたと言うが、普通は魔物を飼うなんていう発想自体おかしいのだ。ケージの反応が普通である。
ミッツが、馬車を引く巨馬も魔物だと言うと、二度びっくりしていた。
「それにしても、まさか森の方から来るとは。魔法使い達は西の村から来ると聞いていたから」
通常は、モリスンの村から西へ向かい、ヤナクの町を経由して西からニーシュへ入るのが、辺境からは一般的なルートだ。
「すまなかった。途中の村で都合が変わって、北の森を経由して来たんだ」
ケージにミッツが答えた。
「ところで、あんたとそっちの兄妹は、世渡り人か?」
ユキ、それからレンとミーユを指してケージが言う。
「ええ、そうよ。あの2人は兄妹ではないけど」
「そうか」
「それと、この子も世渡り人よ」
ユキが隣にいたセシリアの肩に手を置き、言った。
「そうか。確かに言われてみりゃ『西洋人』顔してんな」
「え?今なんて…」
不意に、ケージから出たニホンゴのような言葉に、ユキは思わず聞き返した。
「あれ?あんたたちニホンジンじゃないの?」
ニホンゴが通じなかったことを不思議に思ったケージ。
「え、私…と、あの子たちはニホンジンだけど…」
世界を旅したジョージがこの辺りにも来ていたはずなので、ニホンジンという存在が多少知られていてもおかしくないが…
ケージの顔はどう見てもこの世界の人に近い。ニホンジンを知っているということは、ケージもミッツ達と同じ世渡り人のハーフなのだろうか?
言われてみれば顔立ちがそれっぽい気もするけど…と、ユキが思っていると
「やっぱりなぁ。俺も前世はニホンジンなんだ。所謂『転生者』ってやつ」
ユキ、ケージの言葉に目を丸くしていた。
「あ、ぼ、僕、わかります」
元の世界でファンタジー物にあまり明るくなかったユキには、『転生者』という言葉は元々耳馴染みのないもので、目を丸くしたのはよく分からないからだった。
対して、帰宅部のエースとして時間を持て余していたレンは、ある程度のサブカルチャーを触り程度にいろいろ知っており、『異世界転生』などの言葉もよく知っていた。
「ぼ、僕たちは、地球で生きていたままこっちに来たけど、て、転生って言うのは、一回死んで、生まれ変わったって、ことです、よね?」
レンの解説に頷くケージ。
「そう、『異世界転生物』でよくある事故死よ。30過ぎてロクに仕事も金もねぇから『車』も持ってなくてずっと『原チャリ』でよ、大雨の日にすっ転んでそのまま『トラック』とドカンよ」
「うわぁ」
「あらぁ」
レンとユキの声が重なる。
『原チャリ』や『トラック』など、この世界にはない物をニホンゴで表現するため、この世界に生まれ育ったミッツやモリスンはもちろん、ドイツ生まれのセシリアもイマイチわからない。
「まさか自分の身に起きるなんてな、考えもしなかったぜ」
そう言ってカラカラと笑うケージ。1回死んだという話なのに悲壮感がないのは、実際に目の前に本人が生きて存在しているせいだろうか。
これまで、世渡り人と言えばレン達のような転移者──元の世界からそのまま異世界へ転移した者──にしか会った事のない、農園の世渡り人達とその子孫だったが、転生者──一度死んで生まれ変わった者──がいることは初めて知った。
しかもケージは前世の記憶をそのまま持っているそうで、感覚的には前世から体と住む世界だけが変わって、そのまま続きの人生を生きているようなものだという。
「じゃあ、ケージっていうのは、元の…前世の名前?」
ユキはケージが最初に名乗ってからずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。
この世界の人たちと似たような風貌なのに、ケージというニホンジンぽい名前が気になっていたのだが、前世の名前をそのまま名乗っているなら、おかしなことではないと思った。
「いや、これはこっちの親父が付けた名前らしい」
名前をきっかけに、ケージは身の上話を始めた。
母親に女手ひとつで育てられたケージは父を知らなかった。
母は父の事を当然知っていたはずだが、世渡り人だということはわかっていたが、名前も教えてもらっていないらしい。
父親は「いつか迎えに来る」と言って何処かへ行ってしまったのだとか。
まさか……
レン、ユキ、ミッツは同じことを思った。
年齢的にもケージは40手前。ちょうどカーズより10歳近く歳上だ。
この世界に来て直ぐにジョージが子供を作っていたら……
思っても誰も口には出さなかった。
タイトルに誤りがあり修正しました(2022.8.13)
ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。




