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閑話9【少女探偵団④】

現代日本の話。閑話6【少女探偵団③】の続きになります。

暦の上では春の後半なんだろうけど、今年も初夏って言っていい日差しと気温に晒された、港の観光地が集まる一画。


GW(ゴールデンウィーク)が明けて少し経ったある日曜日、私達はその観光地の一角の少し手前、普通に生活していたらまず訪れない場所に向かっていた。


「ていうか、なんで山田君まで一緒なの?」


私、小豆(チト)(マドカ)が3人並んで歩く後ろから着いてくる山田君の方を振り返り、私はちょっと嫌そうに言ってやった。実際嫌だし。


「あ?お前が関係者なら俺だって関係者だろ。つーか三籤(ミツヒゴ)やそっちのちっこいのの方が関係ねぇだろ」


「そういう言い方って…」


「まぁまぁ」


私と山田君の言い合いが始まりそうになると、円が止めに入る。


“あの日”以来、円を訪ねて特進の教室に行くと、必ず絡んで来るようになった山田君。


藤田君の幼馴染っていうから、山田君も事件のことは気になって当然なんだろうけど、気が付くと関係ない話ばっかりしてるから、なんかめんどくさい。


電車でここまで来る間も、ずっと1人で喋ってるし。男のお喋りは嫌われるっていうのがわかんないのかな。


見た目はワイルド系で黙ってればそれなりにカッコイイのに、中身はチャラいっていうか馴れ馴れしいっていうか、とにかく面倒くさい。


そんな事を思いながら、目の前にやってきた大きな建物を見上げる。


首都東京に次ぐ日本第二の人口を誇る都市、横浜を有する神奈川県。その治安を守る総本部、神奈川県警察本部。


ここに私達が来ることになった経緯を思い出しながら、私はその扉をくぐった。




円の家で見せてもらった、中国の囚人集団失踪事件のネット記事の翻訳。


その事件に、1人の日本人観光客が巻き込まれたことで、日本の警察も捜査に参加してたっていう情報を元に、まずは県警の相談窓口みたいな所から電話で問い合わせ、いくつか回される内に1人の人物に巡り会った。


その人の名前は、(モウ) 莉子(リコ)さん。名前を聞いた時は中国人かと思ったけど、旦那さんが中国の人で、本人は長野県出身の純日本人らしい。


メールと電話でしか話した事がないからどんな人かはわからないけど、キリッとした感じの出来る女子系なイメージのハスキーな声で、とてもハキハキ喋る印象を受けた。


その人こそ、日本警察から中国へと出向き、囚人集団失踪事件の捜査に関わった人物だった。


円が翻訳したネット記事には“捜査中”って書いてあったけど、記事自体が10年ぐらい前のだったから、既に毛さんは日本に帰って来ていた。


それどころか、その捜査のあと警察を引退して、現在は独自に探偵業のような事をやってるらしい。


で、その毛さんを紹介してくれたのが、神奈川県警察本部に務める毛さんの元同僚の、日暮(ヒグレ)さんという婦警さんで、今日は日暮さんの計らいで、県警本部で毛さんと会うことになったのだ。


けど…


小学生の頃、お兄ちゃんが行方不明になった時に家にも何度も警察の人が来て、その時はお兄ちゃんが居なくなってしまった不安と恐怖とで、警察の人でさえ怖く感じて、隅っこで怯えながら見てたのを思い出す。


あれ以来、警察の人を見ると怖いと思うようになった私は、神奈川県警察本部へ行くって話になった時、真っ先に円と小豆に「一緒に来て!」って半泣きで縋っちゃったよ。


特進の教室前でその話をしてたら、なぜか山田君まで一緒に来ることになっちゃったけど。




「淀川さんかしら?」


総合受付みたいなところで待っていると、30代半ばぐらいのショートヘアの女性が私達を見つけて近寄って来た。


「あ、はい」


「はじめまして、日暮 十三子(トミコ)です。今日は遠い所をわざわざ来てくださって、ありがとうございます」


警察官らしい無加工の黒髪で、優しそうな笑顔の向こうに強さを感じる女性、日暮さん。


私達の親…とまではいかないけど、大人で警察官である日暮さんが、私達みたいな子供にすごく丁寧に挨拶をしてくれて、逆に緊張してしまう。


「あ、えっと、こちらこそ……えっと……」


「本日は、大変お忙しい中貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。こちらが、行方不明となった藤田蓮次郎の友人の淀川(ヨドガワ) 南子(ナコ)、私は同じく藤田の友人で、山田 (アユム)と申します」


んなっ!?


私が緊張でしどろもどろしていると、突然山田君が一歩前へ出てめちゃくちゃしっかりした挨拶をやってのけやがった!!


ちょっと!!普段のイメージと全然違うんだけど!!山田のクセに、なんか出来る感出しやがって!!腐っても特進てか!?


「あら、どうもご丁寧にありがとう。他の方達も、藤田さんのご友人でよろしかったですか?」


山田君の挨拶に、柔らかな物腰で答えた日暮さんに聞かれて、円と小豆も自己紹介をする。


私達は、日暮さんに先導されて、大きな県警本部の建物からすると小さな、でも普通の家庭のリビングより大きい会議室みたいな所へ案内された。


「莉子、お待たせ。いらっしゃったわよ」


会議室みたいな机と椅子の並んだ部屋には、1人の女性が窓の外を眺めるように立っていた。


振り返ったその人は、日暮さんと同世代の30代半ばぐらいで、肩より少し長い黒髪を、飾り気のないバレッタで簡単に纏めただけの、切れ長の目が印象的な、強張った表情かおをした女性だった。


日暮さんと同じく化粧気はあまりないけど、とても綺麗な人。


彼女は、ツカツカと私達の方へと歩いて来ると、私の目をじっと見る。


円程じゃないけど、私の視線より少し高い位置にある切れ長の目に見下ろされ、ちょっと引きたい気持ちになっていると、その女性の固く強張った表情がフッと和らいだ。


「淀川、南子さん?」


「は、はい」


名前を呼ばれ、答えると


「!?」


フワリと風が纏いつくように、突然抱きしめられた。


「お兄ちゃん、絶対に見つけてあげる」


私の背中に回された手は、強くその意志を伝えていた。




突然の出来事にビックリしたけど、改めてその女性…毛さんから自己紹介を受けた。その際、毛さんも昔妹さんが行方不明になったのだと聞かされて、いきなりのハグの意味を知った。


毛さんは、妹さんの行方不明事件の経験から警察官になり、失踪事件を多く担当する傍ら、妹さんに関する手掛かりを集めていたそうな。


多くの未解決となった行方不明事件の情報を集め、管轄などお構いなしにあらゆる方面へと足を運んだと言う。


ただでさえ多忙な警察官の仕事の傍ら、情報収集に妥協しないその姿勢に、探偵ごっこの私なんかとは比べ物にならないぐらい、全然本気度が違うことに恥ずかしくなってしまった。


日暮さんが出してくれた冷たい緑茶をいただきながら、私達4人と毛さん、日暮さんは会議用みたいな大きなテーブルに対面で座り、話をしている。


「毛は旦那の名前で、私の旧姓は坂本っていうの。妹の名前は坂本雪絵。当時まだ14歳の中学生だったから、悲惨な犯罪に巻き込まれたんじゃないかって、気が気じゃなかったね」


当時の心情を語る毛さんは、サバサバした感じだけど、そこに伴う感情は嫌と言うほどわかる。私なんかよりももっと長い年月、毛さんは妹さんの事を考え、行動し、心を削って来たのだ。


面に表す表情は落ち着いたものだけど、その奥底に滾る想いは当時から変わらないのだろう。


「私も、お母さんが再婚してて苗字が変わってますけど、お兄ちゃんが行方不明になった時は指方(サシカタ)でした。お兄ちゃんは指方 丈司(ジョウジ)って言います」


毛さんが妹さんのことを話してくれたので、私もお兄ちゃんのことを話した。電話では、昔お兄ちゃんが行方不明になったのと、紫の蝶々の話しかしてない。


あらゆる未解決な行方不明事件の情報を集めたと言う毛さんなら、もしかしたらお兄ちゃんの事件も知っているかと思い、お兄ちゃんが行方不明になった当時の、お母さんが再婚する前の苗字を伝えた。


「ああ、指方丈司君。うん、知ってるよ。そっか、君のお兄さんは指方君か。7年前に行方不明になった、当時高校三年生だった子だね」


直接担当はしていないけど、未解決の行方不明事件は全て把握しているという毛さんは、やはりお兄ちゃんの事件を知っていたけど、それだけじゃなかった。


「目撃証言が気になったから捜査記録は全部目を通したけど、決定的な物は出てこなかった件ね」


気になった目撃証言とは、もちろん大きな紫の蝶々。


それが気になったってことは、つまり毛さんの妹さん、雪絵さんの失踪時にも紫の蝶々が目撃されていたってことだけど、なんとその目撃者が毛さん自身だった。


「いっときは警察官なんて仕事もしてたけど、当時は高校も行かず遊んでた不良娘だったからね、私。夕方から遊びに行こうとすると、部活が終わって帰って来る妹とよくすれ違って、その日も家の近くの坂道で妹とすれ違ったんだよ。妹はいつも私に、「お姉ちゃん、また遊びに行くの?」って聞くんだ」


失踪当日の話をする毛さんの目は、どこか遠いところを見ている感じで、きっとそこには、いなくなった妹さんの顔を見ているのだろう。


切れ長の綺麗な目をした毛さんの妹さんなら、きっと美人だったんだろうなぁ。


「私はいつもの調子で「文句あんの?」って答えて、そのまま坂道を下って行って大通りへの角を曲がろうとしたら、大きな紫の蝶々がヒラヒラと飛んで来て、妹の方へ飛んで行ったの。その時はデッカいなぁぐらいにしか思わなくてね、そのまままたすぐに歩き出したんだけど……」


一旦言葉を切って、お茶を一口飲む毛さん。


「夕飯ぐらいの時間になって、母から携帯に何度も着信があって、なんだろうって思ってかけたら、妹が家に帰ってないって。母は泣きながら話した。不良娘とは真逆の、真面目で成績優秀な妹だったからね、母もパニック状態だったから、何とか落ち着かせたんだけど、母を落ち着かせながら、何故だかその時、あの紫色の大きな蝶々が私の脳裏を過ったんだ」


もちろん、身内であり最後の目撃者となった毛さんも警察の事情聴取は受けた。その時に紫の蝶々の話しもしたけど、たぶん調査の参考にはなっていなかっただろうって、毛さんは語った。


毛さん自身も、最初こそ蝶々の事は気になっていたけど、いくら常識はずれな大きさの蝶々でも、人1人失踪している事件にどう関係しているのかと冷静に考えて、次第に意識から消えて行ったらしい。


けれど、その後警察官となって様々な事件に関与していく中で、メディアでは報道されない膨大な情報を知り、他にも大きな紫の蝶々が絡む事件を見つけた時に、何か関係があるのではないかと再び考えるようになったとか。


そんな中で見つけたのが、私のお兄ちゃんの事件と、


「中国黒竜江省砂俄監獄の囚人集団失踪事件の目撃証言を聞いて、紫の蝶々が失踪に関係してるって、確信したよ」


それまでは、幻覚の可能性もあると考えていた毛さんは、実際に現地で聞いた目撃者の証言に鳥肌の立つ思いをしたらしい。


紫の蝶々は多くの囚人が目撃していたけど、行方不明となった5人の囚人のすぐ後ろを歩いていた、満という背の高いオカマの囚人は、大きな紫の蝶々が看守の背中に張り付いたと思ったら、看守の背中が裂けるように開いたと証言したそうだ。


そして、そこへ自分の前を歩いていた5人が吸い込まれて行ったので、恐ろしくなって立ち止まっていたら、その裂け目は消えてしまった…と。


「明らかに、紫の蝶々が失踪に関わってると思わない?」


毛さんの言葉に私も鳥肌が立つ。


「それが事実だとしたら、そりゃもう警察の仕事じゃなくないッスか?」


毛さんの言葉に冷静に答える男が1人……というか、この部屋には男は1人しかいない。


山田君だ。


「ご明察。私もそう思って、その捜査が終わってからすぐに警察を辞めたわ」


毛さんも、山田君が言うように警察の捜査では答えに辿り着かないと思ったらしい。


というか……


何が何だかわからなくなってきたぞ。


背の高いオカマの囚人っていうのが出てきたあたりで、デラックスなあの御方が脳内にポップしちゃって話が全然入ってこない。


「えっと……ごめんなさい、警察を辞めちゃったって、なんで……」


「完全に話がオカルトなのよ。看守の背中に開いた切れ目に、囚人がどんどん吸い込まれて行ったって、どんなトリック使ったらそんなことが可能か。引田天功でもリアルには不可能よ」


失礼を承知で聞くと、毛さんが改めて説明してくれた。


「じゃあ、南子のお兄ちゃんも、毛さんの妹さんも、同じように紫の蝶々が切り裂いた裂け目から、どこか異次元にでも行ってしまった…ていうことですか?」


特進の頭脳を持つ円を持ってしても、ありきたりな質問しか出てこないほどおかしな事件だっていうのは、私も理解できた。


毛さんは話を続ける。


「ま、そう考えるのが()()かな。だから、私はこれは警察に居てもこれ以上の情報は得られないって思ったし、それ以上に中国政府の介入によって、開示されない情報で捜査が行き詰まること行き詰まること。むしろそっちに怒りが湧いて、今の旦那に相談したの」


毛さんの今の旦那さんは、その時中国警察側の通訳として同行していて、まぁそれが結局お二人の馴れ初めってことになるんだけど。


「それがきっかけで警察辞めて、こうして旦那と一緒に探偵やってるんだけどさ、そこからも決してスムーズじゃなかったよ。まず何より生活していかなきゃいけないから、普通の探偵業もこなしながらでしょ?日本の探偵なんて8割が浮気調査と素行調査で、残りは失せ物捜索。ま、十三子っていう警察のツテもあるから、それなりに…」


「莉子、あまりその辺は今回の話に関係ないでしょ?」


「おぉ、そうだね、そうだね。ごめんごめん」


日暮さんから話が脱線していることに釘を刺される毛さん。ていうか、名前で呼び合う2人を見てると、本当に仲がいいんだなあって思った。


「本題に入ろう。君達は、さっきの砂俄監獄の囚人の話をどう思う?」


毛さんに話を振られて、互いの顔を見合う私と小豆と円。2秒後には、私と小豆はじっと円を見つめる。こういう難しそうなことは円に振るのが、私たちである。


そんな円は、うーんと1つ唸った後に、山田君の方を向いた。


待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑う山田君。なんかムカつく。


「次元移転装置とか、そういう類のモノッスかね」


「男の子だねぇ。ウチの旦那も最初に似たようなこと言ってたよ。そしてそれは、当たらずとも遠からず…ていうかほぼ正解」


「え?」


毛さんの言葉に私達は言葉を失って、それを言った毛さんに視線が釘付けになるだけだった。


山田君も、まさか自分が適当に言ったことがほぼ正解だったなんて思…


「まぁ、それ以外考えられないッスよね」


いや、何故にドヤ顔をしてる!?


そんなファンタジックな物が本気でこの世にあるって確信してた!?


「驚かないねぇ。キミ、ウチの助手にならない?」


そんな山田君の様子に、毛さんは面白そうに笑うけど、なんか2人の空気感がぜんぜんわからないんですけど。


そんな毛さんは、仕切り直すように佇まいを直すと、切れ長の綺麗な目を私に向け、表情を消した。


「君のお兄さんと私の妹、それから君達の同級生を連れ去った、あの紫の蝶々の正体は、おそらく地下科学者が生み出した時空転移生体装置だと、我々も確信している」


そして、大真面目にそう言った。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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