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第2章【魔物なのに普通の犬の様に手懐けてしまって申し訳ありません】7

※軽微な矛盾点を修正しました(R.6.4.18.)

第7話【モリスンと魔犬】




ゴトンと、魔狐の粗挽き肉と根菜のブツ切り炒めの入った深皿が目の前に置かれ、魔犬は思わず体を前のめりにし口をつけようとする。


「ま…待てっ!!」


「うぉうん」


しかし、主人が代理に任命した人間が、主人がするのと同じように手のひらを見せ「待て」と言うので、魔犬は深皿の料理を食べずに元の座った姿勢に戻った。


「おおっ!!師匠、できました!!僕も「待て」できました!!」


魔犬に向けて「待て」が出来、ガッツポーズで喜ぶモリスン。


レンとミーユが魔犬の餌やりをしようとしていたところへ、ユキが「モリスン君にもやらせてあげてみたら?」と言ってきたので、モリスンにやらせてみた結果である。


あれからずっと、モリスンは塞ぎ込んでいた。


ユキにとって見慣れた表情…サラの前に撃沈していった男の子たちと、同じ表情を浮かべていたモリスン。


魔法は上手くいって、愛しの美少女も驚いていたのに、モリスンの落胆している原因がわからなくて、実はユキの方が悩んでいた。


後でなんとフォローしてやろうかと、お節介オバサン思考化していたところへ、レンとミーユが魔犬たちの餌を用意し始めたので、これだと思って声をかけたのだったが、うまくモリスンが元気になったようで、ユキは1人ほくそ笑む。




「何してるの?」


そんなユキの背後から、1人の少女が声をかけて来た。


「あら」


驚くユキと


「あ、ど、どうも」


普段通りオドオドと対応するレンと


「〜〜〜〜〜!!!?」


声にならない驚きを上げるモリスン。


「あ、村のおねえちゃんだー」


手を振るミーユに、笑顔で手を振り返す少女…サモンの娘。


先程、広場で興味津々に魔犬を見ていた美少女が、魔犬に餌をやる様子を見て、好奇心に引きずられるようにやってきたのだ。


「えっと、名前なんていうんだっけ?」


「ミリィサだよ」


ユキが尋ねると、花のような笑顔で答えるミリィサ。


「あら、素敵な名前ね。モリスン君、ミリィサちゃんが何してるの〜だって。教えてあげて」


お節介オバサン、華麗にモリスンへとバトンを繋ぐ。


「え、あ、えと、え、餌を、待てってやって、それから、えと…」


そして、見事な挙動不審でそのバトンを落としかけるモリスン。


呆れてしまうユキだが、なんとかモリスンが落としたバトンを拾い上げようと試みる。


「ちょっとやってみせてよ」


「え、あ、は、はい。んま、待て!!」


モリスンが魔犬に待てをすると、魔犬は不思議そうな顔で、大人しく待ての姿勢になる。


「モリスン、餌置いてあげて」


焦りすぎて餌を置かずに待てをしていたモリスンに、レンが冷静にツッコむ。


見知らぬ美少女にはオドオドしてしまうが、モリスンにはだいぶ師匠らしく振る舞えるようになってきたレンである。


「あ!!す、すいません師匠!!」


「いや、僕に謝られても…」


気を取り直して、魔犬の前に餌を置いて、待てをさせる。


見るからに凶暴そうな大きな魔犬が、見るからにひ弱そうなモリスンの言うことを聞いて大人しく待つ姿を、ミリィサは不思議そうに見つめた。


「なんで待たせるの?」


どうやらミリィサはそこに疑問を持ったようだ。確かに、餌を与えようとしているのになぜ待たせるのか、謎である。


ユキにしてみれば、大きな魔犬がモリスンの言うことを聞いて従ってるだけで「すごーい!!」と完結する話だと思っていたが、この美少女は掘り下げてくるのでちょっと困ってしまった。


「ん?それはねー…」


14歳でこの世界へ来てしまったユキには、その躾方法は知っていても理由まではわからない。


本当はモリスンに説明させたいけど、たぶんわからないだろうし、これ以上カッコ悪い所を晒させたくはない。


バトンは一旦預かることにした。


「レン君、どうして「待て」をするの?」


「うーん、動物って、ご褒美があると言うこと聞きやすいから、その練習じゃないかな。待てが出来たら、ご飯食べていいよって教えると、他のことでも食べ物がご褒美に貰えるって思ったら頑張れるからさ」


師匠モードのレンから、まともな回答が流暢に出てホッとするユキ。


レンは幼い頃、祖父が愛犬にお手やおかわりをさせる度にドッグフードを数粒与えていたのを見て育った。


その時、レンも同じ質問を祖父にした覚えがあり、同じように教わったことだった。


「ふーん」


ミリィサの返事は単調だが、魔犬を見つめる目はとても興味深く観察しているように見える。


魔物自体、普通は珍しい。むしろ一生目にすることのない者の方が遥かに多い。


ミリィサが興味津々になるのも無理はないが、放し飼い同然のこれだけの数を前に、堂々と落ち着いているのはなかなか大物の器かもしれない。


こりゃ、モリスン君にはハードル高いぞと、ユキはよりしっかりした作戦を練る必要があると思った。


「言うこと聞くようにして、どうするの?」


ミリィサの質問は止まらない。若い好奇心の波は次から次へと気になることが見つかるのだ。


「え?どうするのかしら…」


元の世界で愛玩犬のある文化に慣れていたユキは、犬を飼うことそのものが目的だと思っていた。


だが確かに、この世界の動物は必ず何か目的を持って飼われているし、元いた世界の飼い犬の習慣も、元々は狩猟のパートナーなどから始まったとされている。


この世界の犬…まして魔犬ならば猟犬や番犬が定番だろうか。


「レン君、この子達どうするの?」


とりあえずレンに話を振ってみた。


「え、えーっと…か、考えてなかった…」


どうやらレンもユキと同じ考えだったようで、捕まえたから飼ってみようぐらいのノリだった。


それでも最初レンには、モリスンの修行相手にするという目的があったが、懐いてしまったので、愛着が湧いて傷付けるのも忍びなくなってしまっていた。


「ならば、この村の番犬として何頭か譲ってもらえないか」


レンが困っていると、唐突にユキの後ろから声がした。


ユキとミリィサが同時に振り返ると、そこには2人の髭面の大男の姿があった。


「パパ」


ミリィサの父サモンが、娘がなにやら興味深げに見ているのが気になって、ミッツを伴い見に来たようだ。


「今、ミッツとその魔犬について話していたんだが……もうすぐ夕食だ、詳しい話はそこでしよう。ミリィサ、配膳を手伝ってやってくれ」


「はーい。じゃ、またあとでねー」


バイバーイと手を振って軽快に走り去っていくミリィサを、ぼんやりと見つめるモリスン。


モリスンが動かなくなってしまったので、レンは残りの餌を1人で配り、「よしっ」と、魔犬達に指示を出していた。




「え!?ぼ、僕が!?」


「ああ、是非お願いしたい」


夕食の席は、ミッツ達一行とモリスン、そしてサモン一家と村の主立った者数名での簡単な宴席となった。


食材は、魔物の肉をはじめ、北の森で採れた山菜などがミッツ達から提供されたので、非常に贅沢な食卓となっている。


もっとも、北の森が魔物の森化する以前は、普通に森の中に入ってその恩恵を得て生活していた。


村人達にとっては、久方振りの森の幸となる。


前回、魔狸汁を振舞ってくれた恰幅のいい婦人は、どうやらサモンの妻だったようで、サモン、ミリィサ、そしてミリィサの弟らしき少年と並んでいる。


少年はミーユより2つか3つ大きいぐらいだろう。


先程、魔犬に餌をやっていた時にサモンが言い出した、魔犬を数頭番犬として譲って欲しいという話が、サモンが約束した通り夕飯の席で話題に出された。


更にサモンは、その番犬隊のまとめ役として、モリスンにこの村に移り住んで欲しいと言うのだった。


案の定、モリスンはひっくり返った声で驚き慌てふためく。


「この短期間であれだけの魔力を身につけ、魔犬の指導まで出来るようになった。ミッツからも森での様子を聞いたが、レン師匠の指導で既に1人でも魔物を倒せるほどになったそうじゃないか。

デニーと一緒に来た時の君はまったくそうは見えなかったが、いや、ほんとに、見縊っていたようだ。申し訳ない」


言いながら頭を下げるサモンに、どうしていいかわからないモリスン。


思わず、ミッツやレン達の方へ助けを求めるように顔を向ける。


「もう18だろ?自立を考えるのにも、ちょうどいい頃じゃないか」


サモンの話に賛成してしまったミッツ。


なんで!?というような半泣きの顔になるモリスンだが、よく考えたら、ミッツはさっきまでこのことをサモンと話していた共犯者である。


「じゃあ、モリスンに犬達をもっと慣れさせないといけないね」


ああ、師匠が師匠の顔になってる…


師匠モードのレンは、とにかくモリスンを鍛えることしか考えていない。


モリスンが望むような助け船を出してくれることはまずないのは、この数日の付き合いで十二分に理解している。


というわけで、モリスン、村の番犬部隊を率いる隊長に就任することとなった。




その晩は、何故だか大人達が散々モリスンを持ち上げた。


いずれはこんな村の番犬守りなんかでは収まらず、コセ・シティの防衛隊を率いるようになるだとか


北の森に棲み着いた全ての魔物を纏め上げ、魔物の大ボスになってしまうとか


レンに勝るとも劣らぬ英雄となり、魔物の森の最奥への冒険を果たして帰ってくるだとか


いったい何が起きているのか、モリスンはもう、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


主犯はもちろんこの人


「でもぉ〜、そぉ〜んなにカッコよくてぇ〜、素敵な英雄になっちゃったらぁ〜、年頃の女の子はみぃ〜んなほっとかないからぁ〜、お嫁さんに立候補しとくならぁ〜、今のうちだよぉ〜?ミ・リ・イ・サ・ちゃ〜ん、んふ、んふふふ〜」


珍しく酔うほど酒を飲んでいるユキ。久々に最高の肴にありつけたからだろうか。


「いや、オバさん、私まだ15だし、結婚とかそこまで意識してないから…」


「な〜に言ってるのぉ!!イイ男なんてね、すぅ〜〜ぐ誰かのものになっちゃうんだから!!出会った時には嫁が居ました〜なんて、ホントつらいからね!!」


「な、なんか、いろいろ経験なさってるんですね」


不倫厳禁、一夫一妻制が当然の聖魔教文化のこの土地では、ユキの過去の話は引いて当然、軽蔑されて当たり前の内容なので、酔った勢いでもこれ以上は話さないが、今は幸せな結婚をしていても、あの時ああしておけば…なんてことは考えてしまうものなのだろう。


「まぁ、焦る必要はないが、男はきちんと見極めねばな。パパは、やはり直向きに真面目に努力して、きちんと結果の出せる男がいいと思うぞ」


そしてここにも、モリスン推しのオッさんが1人。


意図して連携しているわけではないが、ユキとサモンの息の合った見事な掛け合いで、モリスンは挙動不審が止まらない。


そして、2人が自分を過大評価する度に、モリスンは当然ミリィサの反応を気にするのだが


「えーやだぁ、真面目すぎる男はつまんないじゃん。やっぱ、優しくてカッコよくて、頭が良くて物知りな人がいいな」


ユキやサモンがモリスンを持ち上げようとする度に、見事にそれを覆してくるミリィサ。


モリスンはもう虫の息である。




晩餐がお開きになり、ミリィサが婦人達に混ざって片付けを手伝った。


「スージーさん…ごべんなさいね…」


「いいから、ゆっくり休んでおいで」


スージー…サモンの妻に断りながらも、すっかり気分良く出来上がったユキ。


いつもならここで手伝いに名乗り出るのだが、久し振りの甘酸っぱい酒の肴のせいか、いい感じに出来上がってしまい、その代わりというか、セシリアが晩餐の片付けを手伝った。


ユキは、レンに抱きつくようにもたれかかり、宿泊用にあてがわれた空き家に戻って行った。


初秋の夜は、更けていく。






「こ、こんなに一瞬で建物が出来るのか……」


開けて翌朝、村の北の外れに髭面の大男が2人、並んで立っていた。


1人は自慢げにニヤニヤし、1人は目を丸くして今起きた現象を凝視していた。


何も無い更地に、レンが高さ3m、横幅10mほどの石壁を4枚、同時に出現させた。


つまり、石壁に囲われただけの簡素な10m四方の小屋を、瞬時に建てて見せた。


「あ、あの、まだ壁だけなんで、中は、何もないですけどね……」


作った本人が、その能力にまったくそぐわない、根っからの低姿勢で解説する。




サモンの村で一晩を過ごしたミッツ達は、朝食の時間を過ぎてもまだ村にいた。


昨夜の晩餐の席で、モリスンが魔犬を数頭連れて、この村の番犬隊の隊長になることが決まった。


もちろん、魔物の森と化した北の森からの対魔物の番犬である。


モリスンの待遇としては、番所兼ではあるが住居をあてがわれることと、食事などの生活の面倒を見てもらえることが決まった。


もちろん、魔物が攻めて来た際は最前線で対処することが条件だ。


そんなわけで、まずは番所となる場所の下見をしに、サモンと共に来たわけだが…


「この辺りに、このぐらいの建物があればいいか」


サモンがとりあえずの案で話していたことを、レンが早とちりしてしまい勝手に土魔法で番所を建ててしまったのだ。


地面から壁が4枚ズバッと迫り上がって、これから計画を立てようと思っていた番所小屋が、瞬く間に出来てしまい、サモンが度肝を抜かれたのだった。


そんなサモンを気にすることなく、続いてレンは同じ小屋をもう一棟建てると、そこから数メートルほど森の方に、物見櫓となる塔を建てる。


「森から魔物が出てくるのがわかればいいから、20〜30mぐらいでいいかな」


直径2m程の石柱を建て、その最上部に空洞を作って物見台とした。


こうやって、着々と出来ていく“自分用の砦” に、もう引き返せなくなってしまったと、モリスンは表情を強張らせた。




「レン、1つ聞きたいのだが」


「え、あ、はい」


唐突にサモンに声をかけられ、思わずビクッとなるレン。


「あそこに見えるアレも、君がやったのか?」


サモンが指差す方には、先日建てた100m越えのタワーがかすかにみえる。


「あ、はい…」


勝手にあんなものを作って、怒られるのかと思い肩を竦めて俯くレン。


「正に、伝え聞くコセ・シティの英雄…いや、それ以上かもしれん」


いや、だから英雄とか本当にやめて下さい…


と言うのを言葉に出せず、軽はずみに土魔法を披露したことを後悔しながら、困った顔をするだけのレンだった。


この日、村を立つまでずっとオドオドし続ける師弟であった。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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