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第2章【魔物なのに普通の犬の様に手懐けてしまって申し訳ありません】5

第5話【魔犬を飼おう】




15本目の柱を立てたところで陽が天頂に届き、昼休憩をすることとなった。


「あとどれくらい?」


ユキがミッツに尋ねると、ミッツは先程捉えた魔兎の腿肉を齧りながら考える。


「サモン達の村の近くまで、半分くらいは来たかな。前回昼休憩したのもこの辺りだったな、セシリア」


「うん、あっちの松林でミッツが小便してた」


「セシリア、そういう情報は提供しなくていいぞ」


「綺麗な花が咲いてて、ミッツの小便がかかった茂みにミーユが座ったらどうする?」


「いや…うん、まぁ、そうだけど…うん」


不要な情報提供に思われる話も、セシリアにはいたって重要なことらしく、真剣な顔つきで話す。


「じゃあ、あそこにはいかないようにする!!」


ミーユも、まるで危険地帯扱いするようにその場所を睨みつけて言うので、なんだか自分が物凄く悪い事をしたような気になってしまったミッツ。


ちなみに、この世界は農村ですら各家庭にトイレがあるが、こうした野外活動や野宿を伴う長距離移動のときなどは、女性でも普通にその辺りの茂みで用をたす。


もちろん、人目につかない所まで行ってするが。


セシリアもユキも、思春期にこの世界に来ているので、最初の頃は死ぬほど恥ずかしい抵抗感があったが、しばらくして慣れたとのことだった。


「おしっこしてくる!!」


ミーユはまだまだその辺で平気でするが。




その日は、泊まりの用意をしてこなかったので、昼休憩から少しだけ進み引き返した。


半日の行き来だったが何度か魔物と遭遇し、群も最初の魔犬の群を含めて3つ出くわした。いずれも浅層域に棲息する弱い魔物だったので、彼らの敵ではなかったが。


モリスンも、最初の2頭の魔犬を含め、師匠の手を借りながら6匹の魔物を倒し、その全てから魔力を得たので、明日の朝を既に待ち遠しく感じていた。




「で、どうするんだコイツら」


魔犬を捉えた檻まで戻って来た一行。腕を組むミッツの横に、レンとユキが並んで立っている。


檻の中からは、キャンキャンと何かを懇願するような魔犬達の鳴き声が止むことなく響き続けている。


「やっぱり、飼うのは無理かな?」


神妙な顔でミッツを見上げて、レンが弱々しい声で言う。


「無理というか、魔物を飼いならしたなんて話、聞いたことないぞ」


「何を言ってるミッツ?お前だって魔物の馬を飼ってるじゃないか」


ミッツの後ろからセシリアがツッコミを入れる。


確かに、ミッツの巨馬は魔物だが


「あれは、元々飼っていた馬が、魔物の森に迷い込んで魔物化したんだ。元々俺に懐いていた」


そう、あれは元からミッツの飼い馬なのだ。


最近、もう1頭魔物の森から連れ帰った魔物の馬がいたが、誰もツッコまないので全員忘れているようだ。


「ミーユも虎の魔物飼ってるじゃないか」


セシリアは、今度はコジロウの事を持ち出して来た。確かに馬に比べたら遥かに獰猛で、人に懐くとは思えない猛獣を、6歳の幼女が手懐けていた。


「あれは、子供の頃から懐いて…」


「ああ!!もう、面倒くさい奴だなミッツは!!」


「えええ…」


ああ言えばこういうミッツにセシリアが切れた。セシリアがミッツに切れ口調で怒鳴りつけるのは日常だが。


セシリア的には、前例がないわけではないという話をしたかったのだろう。


対してミッツは、セシリアの言う前例は、全て特殊な例だと主張したいのだが、どうもその辺りの価値観が噛み合っていない婚約者同士である。


「でも、確かにさっき、レン君の言うこと聞いてたコいたわよね」


何故かレンの顔を覗き込んで話すユキ。


モリスンと戦った2匹目のことだろう。確かにユキの言うように、「待て」と「よし、行け」を理解してレンに従っていたように見えた。


そもそも、犬という動物は本能的にリーダーを求めるように出来ているらしい。それもあって、人間に懐きやすく、この世界でも猟犬や番犬として飼われている犬も多い。


魔物化した犬が同じかどうかはわからないが、圧倒的な強者であるレンならば容易に従わせられる可能性は高い。


「じゃあ、とりあえず鈴付けて塔のあたりで飼ってみるか」


しばらく腕組みをして考え込んでいたミッツだが、まずはレンが飼いならせそうかどうかを見てから決めることにした。


ちなみに鈴とは、ミッツの巨馬や魔虎のコジロウが、魔物の森の外でも活動できるように付けている魔石の鈴のことである。


本来魔物は、魔力が満ちた空間でないと生存できないと云われている。そこで、魔力を帯びた石…魔石を加工して身に付けさせているのだ。


魔法使いが常に近くにいることでも同様の効果を得られるが、常に身に付ける物の方が安心できる。


もちろん、鈴に拘る必要はなく、魔力を帯びた石ならなんでもいいのだが、動物に付けるイメージとして彼らは鈴を好んでいた。


レンが土魔法を駆使して魔犬を檻ごと回収し、一行は塔まで戻った。


陽も完全に落ちていたのでこの日は塔に登らず、それぞれが疲れを癒し思い思いの時間を過ごす中、レンは夜中まで魔犬を手懐けるため頑張っていた。




明けて、北の森捜索3日目。


朝起きると、全員が驚く光景がそこにあった。


「待て、まだ待てだぞ」


そう言いながら、首輪と石鈴を付けた1匹の魔犬の前に、焼いた魔狐の肉を置くレン。


魔犬は待ての姿勢──前足は立てて後ろ足を曲げて座った姿勢──で、目の前に置かれた肉をじっと見つめ、またレンを見る。


「待て」


魔犬の目の前に手のひらを向け、厳しい口調で言うレン。


その魔犬の横には、同じように首輪と石鈴を付けた4匹の魔犬が、同じように肉を前にして「待て」をしている。


そして、その5匹の後ろに、同じく首輪と石鈴を付けた魔犬が5匹ずつもう2列、同じ姿勢で待たされていた。


前列の5匹は、肉を前にソワソワして石鈴をカランカラン鳴らしているが、後列の10匹は背筋をピンと伸ばし、さながら完璧に訓練された軍用犬のようである。


当然だが、ミッツとモリスンのこの世界で生まれ育った組にとっては、人間の集団でも見たことがない異常な統率状態に見える。


それも、小型の馬並みに大きな魔犬が、見た目華奢と言っていいレンに従っているのだ。


「レン……いったい、魔犬に何をしたんだ?」


目を丸くしたミッツが、恐る恐る尋ねると、レンはなんということもないというような顔で答える。


「昔ね、おじいちゃんが猟犬を飼ってて、その躾け方を真似してみたらうまくできたんだ」


「そ、そうか…」


ミッツとのやりとりの間も、レンは魔犬の前に1つずつ肉を置いていく。


そして15匹全てに肉を配ると「待てよ、まだ待てだぞ」と言いながら、魔犬達の前に戻る。


「よしっ!!」


レンが大きな声で号令すると、魔犬たちは一斉に肉を食べ始めた。


「思ったより簡単に躾けられたよ。どうミッツ、これなら飼えるかな?」


「あ、ああ、うん」


あまりの見た目の衝撃に、ついあやふやな返事になってしまうミッツ。


「そうね、これだけキチンと言うことを聞く子たちなら、町でも飼えそうね」


「いや、ユキさん町はたぶん無理…」


ミッツ、大元の価値観の違う世渡り人達を引き連れて来てしまった今回の北の森調査に、そこはかとなく先行きに不安を感じ始めた。




今日は、平原を馬車で行き、続きから境目の探索を継続し、そのまま馬車で泊まる予定であった。


そして明日も丸1日探索して、その翌日に馬車で拠点の塔まで戻ることとなる。


合計2日半の作業で、大まかな範囲が見えてくる見込みではあるが、果たして結果はどう出るかはまだわからない。




「ちゃんと着いて来るなぁ」


並足で走る馬車に追従するように、魔犬たちが石鈴をカランカラン鳴らしながら、四足走行で後ろを着いて来る。


彼らは基本的には二足歩行で生活しているが、骨格は四足動物に近いため、走ったりなどの場合は四足の方が楽なようだ。


類人猿みたいなものである。




昨日のポイント付近に着き、今回はセシリアとユキの珍しい組み合わせが馬車移動組となり、ミッツ、レン、モリスン、ミーユが森へ入った。


ミッツは森の探索に欠かせないリーダーだし、モリスンは修行がある。レンもミッツから森の探索を学びつつ、モリスンに稽古をつけなければならないので、今日と明日は必然的にこの組み合わせになるだろう。


ミーユはどちらにいても構わないので、好きにさせている。


魔犬達も、最初はレンが森へ連れて行こうとしたが、これだけの群を連れていると、他の魔物が寄ってこなくなり、モリスンの訓練にならないとのことで、魔犬達はレンがセシリアに従うように言い聞かせ、馬車に着いていかせた。


レンの言うことは驚くほどよく聞く魔犬達。その様子は、普通の犬と比べて人間の言葉をかなり理解出来ているのではないかと思うほどだ。


「逆らったらやっちまっていいよな」


「うーん、まぁ、2人が怪我するぐらいならしょうがないね」


だが、いくらレンの言う事を聞くといっても魔物は魔物。結局保証はできないのでそういうことにはなる。


セシリアの視線に怯えた顔を見せる魔犬達は、やはり人間の言葉が通じているのかもしれない。




森探索チームは、まずは昨日の最後に立てた石柱を目指す。すぐに見つかったが、そこには魔狸の群もいた。


その数5匹。あの夜村を襲ったのと同じ数だ。


「モリスン、今日は魔法を試してみようか」


「は、はい!!」


昨日倒した魔物の分も魔力が身に付いているはずなので、実戦に使用できるレベルだとレンは判断したのだろう。


師匠からの、初の実戦での魔法の使用指示がでて、早速モリスンの気持ちは一気に高揚する。


ミッツ、ミーユがうまく魔狸の群をバラけさせ、1匹をレンがモリスンの方へと誘導。


軌道の読みにくいジグザグ走りをする魔狸に、レンが横から一撃を入れて動きを制すると、待ち構えていたモリスンが一歩踏み込み、至近距離から全力の火炎を放つ。


「ぎゃうん!!」


昨日は中指サイズだった炎が、掌よりもひと回りほど大きく放射され、魔狸の顔に火傷を負わせることが出来た。


レンによってダメージを受けて、動きを制されていた魔狸だが、モリスンの炎を浴びた途端に必死に逃げる。


モリスンの放つ火炎は、まだその射程距離が短いため、結局は槍による戦闘がメインとなった。


昨日学んだ基礎が、しっかり活かされた戦いだったと師匠より賞賛され、素直に喜ぶモリスン。


その後も、度々魔物と遭遇し、モリスンがとどめを刺した魔物は10匹以上にのぼり、着々と魔力を蓄えていけた。




翌日も順調に探索は進み、モリスンは単体で魔物を倒せるようになってきた。


レンも注視しなくても魔力の境目を見つけられるようになり、この北の森探索での修行の成果がそれぞれに見られるようになった頃、北の森捜索4日目の日が暮れていった。


「今日は随分成果が出たんじゃないか、モリスン」


ミッツが魔鹿の肩肉に食らいつきながら、今日のモリスンの出来栄えを褒める。


「は、はい。明日またどのぐらい炎が大きくなってるか、楽しみッス!!」


「うんうん、今日もいっぱい頑張った。明日も頑張ろう」


食べやすい大きさに切った魔鹿の肉を、土魔法で作ったフォークで刺して食べるレン。


「レン、明日は塔に帰るだけだぞ」


北の森捜索は、レンの提案で魔力境界線に沿って目印を建て、それを塔から観察することで魔力発生源を探すという計画だ。


現在、2日半かけて塔から西側に目印を建てて来た。明日は帰路だけでほとんど1日かかる予定なので、東側の捜索は明後日以降の予定だ。


明日は、魔法使いたちは馬車の上で1日を過ごすことになる。


もっとも、魔物が出れば戦うが。


「そ、そういえば…」


不意に、モリスンがソワソワしはじめる。何か言いたげなのだが、言いにくそうに口を開いては「うーん」と唸る。


「どうした、モリスン。何か大事な話か?」


「あ、えっと…大事っていうか…その…」


みんながモリスンに注目する。下を向いたモリスンは何故か誰とも目を合わせられない。


「む、村は…大丈夫ッスかね?」


苦笑しながら、ミッツ、レンの順で視線を動かし、何故か最後は巨馬を見るモリスン。


村とは、魔物に襲われたサモン達の村のことを指すのは、言わずもがな誰もが理解できたことだった。


「ああ、そうか。そうだな、帰りに様子を見に寄るか」


リーダーのミッツが言うので、明日の予定はそのように決定した。


確かに、この4日間で魔物が全く出なかったという保証はない。


ミッツが村へ行くと決定した途端に、モリスンの顔がパッと明るくなった。


「ありがとうございます!!」


そして、めちゃくちゃ喜んだ。


そんなに村が心配だったのかと皆は思ったが、モリスンにはどうしても村に寄りたい別の理由があった。


槍で魔物を倒せるようになり、魔法で大きな火も起こせるようになったのを、1番に見せたい相手がいるという。




ちなみにこの世界の村には名前が付いていないことが普通だ。町には名称が付いているが、村は固有の呼称を持たない。


住民達は、基本的に村や町の間を移動することも少ないため、自分の住んでいる村を中心に近隣の町村だけ把握できていればよい。


なので、自分の村を中心に、西の村、東の村、2つ向こうの村といった具合に呼ぶ。


また、国という概念もないため、管理する必要がないことも、各村ごとの識別の必要性の無さに繋がっているのかもしれない。


ちなみに、この地域で初めて固有の名称が付いたのがコセ・シティとされ、その周辺の村が町へ発展すると、町の名前を付けるようになったというのが、まだここ数十年での新しい慣わしである。




その晩モリスンは、寝るまでずっとテンションが高く、夕食の片付けも張り切って手伝い、そのテンションの高さをやる気が漲っていると思い込んだレンに、ボロボロにやられるまで稽古をつけられた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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