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第2章【魔物なのに普通の犬の様に手懐けてしまって申し訳ありません】3

第3話【魔力の境界線】




ミッツを先頭に、森の中を行く一行。ミッツのすぐ後ろには高い攻撃力を誇る雷属性のセシリア、そして最近魔力の細かいコントロールが出来るようになってきたミーユが続く。


長い槍をしがみ付くように抱えて歩くのは、魔物狩りデビューしたばかりのモリスン。デビューといっても、レンが無力化した魔物に留めを刺しただけだが。


この槍は、モリスン用にレンとミッツで作った物だ。レンは石刀を渡そうとしたが、ミッツからそもそも魔物じゃなくても剣で狩りなんて普通はしないと指摘された。


ちなみに、総石造りの槍も重くて使えないから却下となった。セシリアが普通に振り回しているから行けると思ったが、セシリアも魔力の影響で強化されていたのを忘れていた。


そのモリスンと最後尾のレンとの間には、対魔物においてまったく戦闘力を持たないユキがいた。


ユキは元々留守番する気満々だったが、今日はモリスンの修行がメインだからあまり奥へは行かないので、どうせならユキも同行しようとなった。


最初はどうしようか悩んでいたユキだが、それを言い出したのがレンだとミッツが言うと、途端に目の色を変えて行くと言い出し「じゃあ、レン君が守ってね」と、レンの腕に絡みつく。


元々友達が少なく、1人で行動することが多かったレンは、ユキを一人ぼっちで残して行くのが可哀想だと思っただけだったのだが。


代わりに…というか、こちらも元々森へは連れて入らない予定だった巨馬が、馬車といっしょに塔の真ん中のエレベーターホールで留守番をしている。


昨日の魔狐のこともあり、3本の柱の間を魔物が入れないように塞いである。ここもいい感じの扉とかつけられたらいいなーと、塞ぎながらレンは思った。




そんなわけで、全員で森の中へと入って行くことになったのだが、最初に話していたように、今日はモリスンの修行とレベルアップが目的なので、森の浅いゾーンで手頃な魔物を探す。


「レン、わかるか?」


森へ入って間もなく、ミッツが足を止めて左の方を指差す。この方角は、昨日来た西の方角になる。


ミッツに言われて、レンは森の中を凝視するが、特に何かあるようには見えない。


なんとなく、レンの後ろからモリスンも真似してジッと見るが、モリスンにもわからない。


「魔物?」


レンがそう問い返すと、ミッツは首を横に振る。


「森そのものの様子をよく見てみろ」


そう言われて改めてよく見る。すると、ある違和感に気付いた。


森の植物は同じ種類の植物が、ある一定の範囲に塊って生えることが多い。


1つの植物から種子が落ちれば、その周りに同じ植物が育つから、当たり前といえば当たり前だ。


レンは、赤い小さな実をつける植物を見つけた。


レンから見て左…森の手前側は実の粒が小さいが、右の方…つまり森の奥の方の実は粒が大きく見える。


それだけではない。その赤い実をつける植物の葉も、その周囲にある樹木の葉も、みんな森の奥側の方が少しだけ大きいのだ。


「…こっち側の方が、植物が大きい?」


「そうだ、よく気付いたな。ま、言われなきゃわからん差だが、これが魔力濃度の違いだ」


「そうなんだ!!」


なんとなくそうかもしれないと思ったが、やはりそうだったのかとレンは驚く。


ちなみに、農園の方の魔物の森は、そのエリアが若干森の外まで広がっているので分かりにくい。


レンとアークが作った道の入口辺りでは、ちょうど小川が境目になっていて、川の対岸同士の雑草をよく観察するとわかる。


幼い頃、父ジョージに連れられて森へ行っていたミッツら兄弟妹。誰が最初に見つけたのかは忘れたが、「小川のあっちとこっちで草の長さが違うね」と言っていたのをミッツは思い出していた。


「つまり、ここからが魔物が棲むエリアということになる」


その言葉を聞いて、レンは「へぇー」と応えただけだが、モリスンは表情が硬く引き締まる。


ここから先は魔物が出る。昨日の魔狐、そして先日村を襲った魔狸…。


モリスンにとって、魔物とは生活を脅かす災害のようなものだ。昨日、魔狐にとどめは刺したが、やっつけたのは師匠。


あんな真似が自分にも出来るようになるとは今は思えないが、なんとか師匠について行って戦い方を覚え、村を守れるようになりたい。


そして、立派な魔法使いになって……


緊張感を決意で上塗りし、モリスンは拳を握りしめる。




「でも、どうして急にこの森が魔物の森になっちゃったのかしらね」


ユキが、レンたちのやり取りを聞いていてふと呟いた。その呟きに、ミッツが答える。


「誰かが確認したわけじゃないんだが、一説には魔物の森には魔力の発生源があるとされているんだ。それは、もしかしたらとんでもなく強力な魔物かもしれないし、魔力を放出する霊山かもしれない。その正体は諸説いろいろ言われているが、魔力の発生源があるというのが1番有力な説だ」


「そっか、だから森の奥にいくほど、その発生源に近づくから魔物も強くなるんだ」


ミッツの説明を聞いて、納得したような顔のレン。


「そういう事だ」


「じゃあ、その発生源を調べれば、なんでこの森が魔物の森になったのかがわかるの?」


と、ユキ。


「理屈ではそうなる。だがどうやって探すかだな。1つ方法はあるが…」


「どんなの?」


「簡単さ、発生源に近いほど魔物が強力になるんだから、より強い魔物を探して行けば、いずれは発生源に辿り着く」


なんとなく座り込むユキと、立ったまま腕組みをして答えるミッツとで話が進んで行く。


ミッツの説明には一応の説得力はあった。理屈は通っているが…


「それだと、随分時間がかからない?」


ユキの指摘はもっともだ。


魔物を倒しながら進んで行けば、さっきの魔物より強かったの弱かったのとなるではあろうが、果たして魔物達がそう都合よくちゃんと実力順に生息しているかというと、そうではない。


魔物の森でもそうだが、奥に進んだらさっきより弱い魔物が出たなんてこともよくある。


さらに言えば、魔物の森は奥に行くほど強い魔物が棲息していると分かっているが、この北の森ではまだそれがわからないのだ。


どちらにせよ、今回はそう長くない期限がある。コレからここに住む為の調査ならば、どれだけ時間を掛けてもいいだろうが、さすがに今のミッツの案は却下だろう。




「あ、そうだ!!」


ミッツとユキの会話を聞いていたレンが、何かを思いついたように徐に地面の一部を迫り上げて、50cm四方程の小さな台のようにした。


台の上の雑草を引っこ抜き、魔法で出来るだけ台の上を平らにすると、ちょっとした机の様になる。


ここまでの様子では、レンが何に気付いたのかまったくわからないが、コミュ症特有の無言作業をとりあえず皆で見守る。


手頃な石を拾い、昨日塔を作るときにコンパス代わりに使った、両端に突起のある棒の掌サイズのものを作るレン。


「例えば、これが魔力の発生源だとして」


そう言いながら、レンが小さな石を台に乗せると、全員の視線がその小石に集中する。


「魔力はたぶん均等に広がると思うから」


石の上に棒の端を当てて抑え、反対の端をぐるっと回してガリガリと円を描く。


「魔力の境目が、こうやってぐるっと輪になってるんじゃないかと思う」


「そうか!!」


ミッツが突然大きな声を出すので、全員がビックリするが、当の本人はまったく気付かないで喋り出す。


「ここみたいな魔力の境目を辿って、その中心を探せばいいのか!!」


今度こそ名案とばかりにガッツポーズまでしてみせるミッツだが、再び冷静にユキが突っ込む。


「でも、北の森って言っても広いでしょ?境目を辿れたとしても、その中心を探すのって難しいんじゃないかしら?」


せっかく名案だと思ったのに、再び表情が翳るミッツ。


確かにユキの言う通りである。ミッツは腕組みをしてまた唸りだす。


「目印を立てて、塔の上から見たらわからないかな?」


「それだ!!」


レンがそう提案すると、再びミッツの表情が明るくなる。忙しい男だ。


そうと決まれば、まずは早速この位置に、レンの土魔法で目印の石柱を立てた。


「塔からはっきりわからないといけないからな、木の高さの1.5倍もあれば十分だろう」


レンが建てた石柱を見上げて、満足そうなミッツ。


「じゃあまずは、ここから昨日来た方へ向かって行こうか。境目ならモリスンに丁度いい魔物も出るだろうしな」


一行は、魔力の境目に沿って西へと移動する。基本的にはミッツがその境目を確認しながら進むが、レンも練習としてその作業を補佐しつつ、モリスンの修行に程よい魔物を探す。


前の石柱が見えないぐらいの辺りまで来たら次の石柱を建てる。その作業を2回繰り返したところで、前方の茂みに魔物らしき影が見えた。


「お、人型の魔犬だ。以外と人型の方がやりやすかったりするから、モリスンの相手に丁度良いんじゃないか?」


先頭を行くミッツがそう言うと、モリスンの顔に緊張が走る。


「援護するから、モリスンは正面から行って」


そう言ってモリスンの左に並ぶレンは、狩りモードの顔になっていた。


師匠の気合いを感じ、緊張気味に槍を構え、モリスンは草叢に身を潜ませて、慎重に魔犬に近付く。


隣で師匠が、同じく身をかがめてついて来てくれるので心強いが、不安と緊張で心臓の鼓動は倍速になる。


魔犬はモリスンに気付いたのか、鼻と耳を動かし、あたりをキョロキョロと見渡し始めた。


「自分のタイミングでいいから、行って」


レンがヒソヒソ声でモリスンに話す。


モリスンは無言で首肯する。


しかし、魔犬に聞こえないように言ったつもりのレンのヒソヒソ声が聞こえたのか、キョロキョロしていた魔犬がこっちを凝視した。


元々聴覚の優れた動物は、魔物になると更に研ぎ澄まされ、ヒソヒソ声でさえもこの距離で聞こえたようだ。


驚いたモリスンだが、意を決して駆け出す。


レンは魔犬のその反応が解っていたようで、落ち着いて少し迂回するように横合いから回り込んだ。


二足歩行の魔物は手が自由になる分、武器や道具を持つことが多い。だが知能が然程高くないので、持っても木の棒程度だが。


この魔犬も、木の棒を持っていたが、その先端付近に枝が折れた痕のような突起が出ており、あれで生身を攻撃されたら痛いだろう。


しかし、興奮しているモリスンは、相手の得物も碌に見ずに、槍を脇でしっかり抑えた突きの構えで突っ込んで行く。


「おおおおおおおお!!」


ザッ!!


モリスンの勢いだけの刺突を、軽いステップで躱した魔犬は、モリスンの懐まで一瞬で踏み込み、木の棒を振り上げる。


二本足で立った魔犬は、肩の高さはモリスンと同じだが、首が長い分顔の位置は頭1つ分大きい。その高さから殺気の篭った目で見下ろされ、萎縮するモリスン。


咄嗟に槍を横にして受け止めようとするモリスンだが、振り下ろされる殴打に適した太い木の棒と、怯えて構えるモリスンの、立ち回りのしやすい細さに加工された槍の柄が激突したらどうなるかは、火を見るよりも明らかである。


木の棒を振り下ろす魔犬。


モリスンの槍に当たる直前、横から飛び込んだ黒い閃光に弾かれ、魔犬の木の棒が真上に吹き飛ぶ。


魔犬は辛うじて棒から手を離さなかったが、衝撃は効いたようで、棒を右手から左手に持ち替えて、痛そうに右手を舐めている。


「モリスン、落ち着いて行こう」


魔犬の木の棒を弾き飛ばしたのは、師匠の石刀の一閃だが、刃ではなく峰で打ち飛ばした。


刃では切れてしまい、相手の戦力を削ぐことになるので、それではモリスンの修行にならないと瞬時に考えての行動だった。


「は、はい!!」


危機を救ってくれた師匠の格好良さと、魔物を前にしているのに至って冷静な様子──普段よりも魔物を前にしている時の方がレンは冷静だが──に、テンションが上がるモリスン。落ち着けと言われたばかりだろうに…。


「たぶん、相手は今みたいな攻撃しかできないから、振りかぶったら胴のどこでもいいから刺して」


「はい!!」


レンの指示を聞いて、改めて槍を構え直すモリスン。


しかし、魔犬はモリスンではなくレンの方を見ている。野生の本能が、レンの方が強敵だと判断して警戒しているのだろう。


それに気付いたレンは、数歩後退り、この場の主役はモリスンなんだ、自分はサポート役なんだと、殺気を鎮める努力をする。


そのレンの思惑を汲み取ったのかわからないが、モリスンは一歩前へ出て、攻撃の構えを取る。


レン、モリスン、それぞれの動きにより、再び標的をモリスンへと移して唸る魔犬。


「ゔぁうっ!!」


一声大きく吠えると、左手に持った棒を振り上げてモリスンに襲いかかる。


モリスンは、魔犬の振り下ろしを避けるように半歩左に身体を動かしながら踏み込み、見事魔犬の脇腹に刺突を繰り出しヒットさせる。


「やった!!」


「まだ!!」


歓喜するモリスンと、緊張感のある声で注意を促すレン。レンの声が届いた直後、モリスンに緊張感が戻り槍を引き戻し、魔犬とモリスンの間合いが開く。


魔犬は痛みで理性を失ったのか──元々“理性”がどれほどあるかわからないが──闇雲に棒を振り回し始めた。


「手を狙って!!」


レンの指示に従い、タイミングを計って魔犬の棒を持つ手を狙って刺突を出すが、なかなか当たらない。


「レン、新手だ!!」


モリスンが攻めあぐねいていると、ミッツが別の魔物の接近を知らせる。


「うわん!!うわん!!」


「ゔゔゔぁん!!」


モリスンが戦っている魔犬が現れたのと同じ方向から、犬が吠えるような鳴き声が幾つも聞こえた。


仲間らしき二足歩行の魔犬が、何頭もの群れを成して押し寄せてきた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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