↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/231

第7章【異世界人で最強の魔法使いなのにモブキャラすぎて申し訳ありません】7

第7話【旅立ち】




「ふぅ、できた」


静寂と夜陰に包まれた元マーサーの家──現在はレン、ミーユ、ミルク、サラ、ユキの男1人に女(幼女含む)4人で暮らす、多彩なジャンルを網羅したハーレムハウスとなっている──のリビングで、魔法で灯した小さな灯りを頼りに、レンは1人で何やら書き物をしていた。


「随分遅くなっちゃった。そろそろ寝ようか……」


そう呟いて、椅子から腰を浮かしながら寝室への扉へ視線を向けて……動きを止める。


硬直した体が赤みを帯びたかと思うと、自らの身体を抱きしめて、息を乱し始める。


「あうぅ……さ、さ(・)っ(・)き(・)の感触が…」


顔は耳まで赤くなり、震える…と言うよりは、何か嫌な感触に耐えるように、モゾモゾと身体をくねらせる。


「落ち着け、落ち着けぇ…。そ、そうだ、違うこと…違うことを考えよう。えっと、えっと、あ、こ、この前みんなで集まって、今回の旅での大事な話をしたんだ。それを確認しよう」


レンは再び椅子に腰を下ろすと、真っ新な紙を取り出してペンをとり、3日前の夜のことを思い出した。



ー

ーーー

ーーーーー



農繁期の助っ人として、山向こうの村からアッサム達を案内してきたジンは、その日のうちに伝令役の若者を連れて帰って行った。


農園の一同は、アッサム達も交えて今後のことを話し合う為、夕食の時間にカーズ家に集まっていた。


「ヤナクまでは俺達もよく行くから問題ないが、その先のニーシュやコセ・シティは初めてだ。なのでジョゼフに案内を頼もうと思っていたんだが…」


今回の調査団のリーダー的存在になるミッツが、腕を組んで唸る。


当初、ジョゼフがアッサム達を農園まで案内する予定だったのだが、多忙な為にこの辺境まで来る余裕がなく、謝罪の手紙と謝(・)礼(・)の一部を、アッサムが預かって来ていた。


旅慣れていない訳ではないミッツだが、知った町までの知った道を行き来する経験しかない。


自らが先導で未知の土地へ行くのは初めての経験で、どうしたものかと困っていた。


「それなら、私が一緒に行こうか?」


唸るミッツに助け舟を出したのは、結婚してからの数年をヤナクの町で過ごしたユキ。


商人の夫が近隣の町村へ仕事で行く事もあるため、時折ニーシュやコセ・シティへも同行していたので、そこまで詳しくはないが、主なところを案内する程度なら問題ないという。


「じゃあ、すまないがユキさん、お願いするよ」


ミッツが恐縮そうにそう言って、一行にはユキも加わる事になった。


「てことは?……」


と、マーサーがユキの隣に座るサラに視線を向けると、つられるように全員の視線がサラへと向く。


だがサラは


「私は行かないよ?せっかく魔法が使えるようになってきたんだから、もっとここで農業しながら植物を操る練習したいもん」


ということで、サラは農園残留が決定。




他にも、アッサム達が知る限りのニーシュや北の森周辺町村の情報を教えてもらったが、以前ジョゼフが話していた以上の事は得られなかった。


「てことは、魔法使い狩りはそれ以降起きてないってことか?」


「僕らが知る限りだけどね。少なくともヤナクではあれ以来出てないよ。ただ、北の森に近い町や村では、魔物はちょいちょい現れてるっぽいけど」


と、カーズにアッサムが答える。


代々鍛冶屋を営むアッサムの所には、近隣の村からも客が来るという。その客達から他所の話を聞くのだが、やはり北の森に近い村や町では、魔物の目撃情報が何件か出ているようだった。


ヤナクは、コセ・シティ周辺町村の中では、北の森から離れた所に位置するため、魔物の脅威からは免れている。


ただ、唯一魔法使い狩りがあった町のため、町民の警戒心は消えることはない。




「ならばやはり、ニーシュへ寄って情報収集する必要はありそうだな。ヤナクから、真っ直ぐニーシュを目指して、その後の行動はニーシュの情報次第といったところか」


それぞれの情報をまとめ、ミッツが北の森調査の予定をまとめる。もちろん予定であるので、状況次第で変更もあるが。


「長旅になるから、馬車の状態も念入りに確認しておかなきゃいけない。出発は3〜4日後といったところか。それでいいか?レン」


「え?あ、う、うん。いい……と思う」


いいかと問われても、これといって特に準備するもののないレンは、なぜか困惑したように返事をする。


同行するセシリア、ユキにも確認を取り、北の森調査チームの話がまとまったところで、続いてカーズが農園残留組の予定を確認する。


まずはアッサム達にこの農園の様子を伝えるために、父ジョージが書き起こした大きな地図を広げて説明すると、その規模の大きさにアッサム達が目を丸くした。


そもそも、東の端のカーズ家から西の端のミッツ家まで、馬車で30分近くかかるのだ。幅はレンが全力で走っても30秒ほどで走り切れるので、およそ200m程度といったところだが、東西の長さだけで見れば、小さな町であるヤナクよりも規模が大きい。


そんな広大な農園だけに、セシリア、レン、ミーユという世渡り人の魔法使いを新たな人手として迎え入れている現状でも、実は農園の三分の一も使用していないが、それだけでも普通は村1つ分に匹敵する農地になる。


魔法使い達によるチート農業の様子を聞かされたアッサム達だが、これから未体験のことが始まることに興奮を覚え、辺境の農園の夜は賑やかに更けていった。



ーーーーー

ーーー

ー



「アッサムたち、今日もウキウキしながら畑仕事してたもんなぁ」


そんな、町からの助っ人達の様子を思い出し、レンの足は自然と寝室へと向かい歩き出した。


さ(・)っ(・)き(・)の(・)こ(・)と(・)を思い出すと、まだ少し心臓がバクバクするが、さすがにみんなもう寝ている頃だろうと、足音を忍ばせて寝室へと歩く。


寝室の扉へと手を掛け、深呼吸を1つ。


そっと扉を開いたそこには、幼女、巨乳美少女、モデル級美少女、そして美魔女が並んで寝ている。


寝室に足を踏み入れ、そっと扉を閉めるレン。


「んん〜、レンくぅ〜ん」


びくぅっ!!!!


と、レンは飛び上がった勢いで、閉めた扉を体当たりで開けて部屋の外へと転がり出てしまった。


「少しくらいいいにゃにゃ…むにゃむにゃ」


部屋の1番奥で、美魔女が寝返りを打ち、抱きついた掛け布団に頬擦りをする。


ユキの寝言だったようで、レンは深い深い溜息を吐いて、這って寝室に入ると、膝立ちで扉を閉め、1番手前の自分の布団へと潜り込む。


そして、い(・)つ(・)も(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)同室で眠る女性陣に背を向けて、数時間前の出来事を思い出していた。



ー

ーーー

ーーーーー



「ねぇねぇれんにい、町はいーっぱい人がいるの?」


「そうだねぇ、いっぱい、いると思うよ」


「とーきょーよりも?」


「うーん、東京よりは…少ないんじゃないかな」


関東の片田舎で育った幼女ミーユにとっては、“ひとがいっぱい=東京” らしい。


いつものように、風呂上がりのミーユと寝床で戯れているのだが、明日が初めて農園を離れて大きな町へ行くので、ミーユは遠足前の子供のノリで、まったく眠くなる気配がなかった。


ただ、レンにとってはそれはとてもありがたいことで、1人でいれば不安で押し潰されそうになっていたであろうところを、幼女ミーユの天真爛漫さに救われていた。


「ミーユは明日が楽しみなんだね」


不意に、後ろから声がして…レンは振り返らなかった。


今振り返ると、声の主であるミルクの立派な2つの宝玉が、薄手のシャツを押し上げて、細(・)部(・)までくっきりと形が浮き出しているのが見えてしまうのだ。


朝晩は気温が下がるようになって来た季節だが、湯上がりで火照った身体には、薄手のシャツ一枚でまだまだ問題ない。


レンを男として意識していないここの女性陣は、レンの目のやり場をことごとく奪う格好で暮らしている、裏山けしからん環境であった。


「ああ、しばらくレンと会えなくなっちゃうのかぁ」


「うぃっ!?」


唐突に、甘い吐息と共に大きく柔らかい2つの宝玉の感触が背中にのしかかり、強めにホールドされる。


風呂上がりの温もりと石鹸の香りも相まって、余計にレンのまだ目覚めぬ男の本能が激しく刺激される。


「ミ、ミ、ミ、ミル、ミル……!?」


「あ、いいなぁ。私も!」


ミルクに後ろから抱きつかれて困惑していると、ミルクと一緒に風呂から上がってきたサラも、横からレンに抱き付く。


「……っ!!!!」


美少女2人に抱きつかれて硬直するレンを、歳上であるミルクとサラは面白がり、更に羽交い締めにされて弄ばれ、レンの顔色は危険な赤みを帯びていく。


「ミーユも!!」


その様子を面白がるミーユも、レンの正面からしがみついた。


「あら、楽しそうね」


ミルクとサラから少し遅れて風呂から上がったユキが、その様子を見て参戦。


正面を確保して離さないミーユの後ろから抱き着き、レンに頬を寄せる。


「!?」


レンから見て、母親でもおかしくない歳上のユキだが、頬を寄せ合うほど女性と触れ合った事のないレンは、もうどこにどんな感触が当たっているのかわからないほど混乱し、意識を保つのが精一杯だった。


もちろん、風呂上がりの女性陣は寝巻きの下に胸の下着をつけていない。


ちなみに、ミルクの婚約者であるアッサムは、他の助っ人2人に気を遣い、ミルクとの同居ではなく、元アークの家を借りて助っ人3人で生活しているためこの場にはいない。いたらちょっと気まずいことになったかもしれない。



ーーーーー

ーーー

ー



そんなことがあり、レンは気分を落ち着かせるために1人リビングで書き物をしていたのだ。


寝室に戻ったレンは、数時間前の事を思い出しつつも、疲れもあったためかそのまま眠りに付いた。


得体の知れない柔らかい何かに押し潰される夢を見ながら。






そして翌朝。


旅支度を整えたレンとミーユとユキは、見送りに行くと言って着いて来たミルクとサラと共に、徒歩でカーズ家へと赴く。


レンの腰には、以前提げていた石刀とは少し趣の違う物が提がっていた。


柄の部分は、細い紐状に加工した魔物の革を菱模様に巻き付けてあり、刀身は黒塗りの木製の鞘に覆われていた。そして、掌サイズの薄く丸い石の板が、柄と刀身の間にはめ込まれている。


どこからどう見ても、それは“日本刀” だった。


もちろん、刃の部分も拘って作り込まれている。


魔物の森に入る度に、できる限り鉄の色に近い石を探しては集め、魔力によって圧縮、錬成し、石で作ったとは思えないほど、黒と銀の二色で美しい乱れ刃模様に仕上げられていた。




晩夏の日差しも薄雲に覆われ、今日は比較的過ごしやすい日和だ。


予定の時間よりも早く着いたため、ユキ達女性陣はカーズ家の中へと入り、レンとミーユは庭先で遊んでいた。


やがて遠くの方にミッツの巨馬の姿が見えてきて、ミーユが建物の中へカーズ達を呼びに駆けていく。


「あれ?馬車がちょっと違う」


近づいてくる馬車を見て、レンが呟く。


「ああ、幌をつけたんだろ。町へ行くときはああするんだ」


いつのまにか後ろに立っていたカーズが教えてくれた。


特にこれからの季節は少しずつ気温も下がり始める。場合によっては帰って来る頃には冬場になっている事も考え、寒風にも対応できるように幌を付ける。


この世界の冬も寒いんだと、レンは思った。


「準備はいいか?」


馬車から降りてきたミッツがレンに言う。


ミッツが迎えに来たことで、いよいよ農園を旅立つのかと緊張してきた。


小学生の頃、修学旅行に行くバスを前にした時のことを思い出す。


クラスメイトは皆ワクワクして盛り上がっていたが、レンは行った事もない遠い観光地へ行くのが、それこそ異世界へ旅立つぐらいの緊張と不安にかられたのだった。


1人迷子になったらどうしようか。


怖い高校生とかに絡まれたらどうしようか。


誘拐されたら帰ってこれなくなるかもしれない。


などなど、基本的にネガティブ思考のレンにとって、未体験とは恐怖の塊でしかない。


そんなレンが、この異世界で普通に日常を過ごしていられるのは、気の良いここの住民たちと、守るべき対象であるミーユの存在があっての事に他ならない。


だが、ようやく慣れてきた異世界の田舎暮らしから、再び未体験ゾーンへと足を踏み出す事になるとは、この話が出るまで思いもよらなかった。


もちろん、ミーユと共に元の世界へ帰るという目標があるため、いずれはこの世界の様々なところへ赴くことになるかもしれないとは思っていたが。


ネガティブなのに目標を持つが故の矛盾した思考である。




馬車の幌は動物の毛皮を繋ぎ合わせて作ってあるようだった。今はまだ暑いので、天井だけ残して捲り上げてあるが。


いつもの馬車と違うのは幌だけではない。ミッツの巨馬は御さなくても1人で走って行ける賢い馬なので、いつもの荷馬車には御者席は設けていないが、今回の馬車には御者席があった。


「農園の外に出ると、御者がいない馬車ってのは驚かれるからな」


と、ミッツ。そんな理由からの配慮として、御者席があるらしい。過去にそれが原因で揉めたことがあるそうな。


どこの世界にも、余計な事に文句を言うアンチがいるんだなーと、レンは思った。


「ミッツ、あの賭けのことは覚えてるだろうな」


カーズが荷台に荷物を乗せながら、ミッツに悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。


「ああ、レンが初めて狩りに行った時のだろ」


同じように荷物を運ぶミッツが答える。


2人の荷運びを手伝いながら、自分の名前が出たことでそのやり取りを不思議そうに見ているレンは、当時この世界の言葉がわからなかったので、彼らが交わした賭けの約束を知らない。


彼らの賭けとは、ヤナクで手に入る珍しい“ショコラ”という食べ物を買ってくる事。


世渡り人が伝えたものらしく、現在はその子孫が技術を受け継いで作っているという。


この世界はまだまだ物々交換が主流だが、町には貨幣も流通しており、望めば農作物などを貨幣と交換できる。その自分の取り分で、負けた者が勝った者のショコラを買うのが、農園の兄弟妹の“賭け”だった。


「なんでも負けるってのは嫌なもんだ。お、この木箱冷たいな。これが例の “冷蔵庫” か」


木箱を持ち上げたミッツが驚く。反対を持つレンが「うん」と返した。


いつも、この時期に夏野菜などをヤナクの町まで売りに行くのだが、今回はレン考案の “冷蔵庫” を搭載し、傷みやすい野菜や肉の輸送実験も兼ねている。


少々積荷が重くなるが、最近魔物の森の奥地まで行っていた影響か、魔物であるミッツの巨馬がパワーアップしているため、大丈夫とのことだ。


荷物を積み終わり、レンとミーユ、ユキが荷台に乗り込み、ミッツとセシリアが御者席に座る。


今回、コジロウは留守番だ。流石に見た目完全に虎に成長してしまったコジロウを町に連れて行くわけにはいかない。


馬車に乗り込んだ3人は、細かく砕いた藁を麻布で包んだクッションに腰掛ける。


農園と違って外の道は荒いからと、ユキが不慣れな2人のために作ってくれていた。


「じゃ、行ってくる」


「おう、魔法使い狩りにも気を付けろよ」


「ああ、余裕があったらそっちも調べてみる」


「頼んたぞ」


カーズとの挨拶をすませると、ミッツが巨馬に合図をして、馬車が走り出す。


「いってきまーす!!」


手を振るカーズとアリルに、元気よくミーユが手を振り返す。


その隣でレンも手を振りながら、緊張感と戦っていた。


滅多に行かないカーズ家の東側を見るだけで、既に非日常が始まろうとしているのが感じられる。


カーズたちに振っている手と反対の馬車の縁を掴んだ手は、じんわりと汗をかいていた。


まずは、一山越えて隣の村へと向かう。


異世界で散々魔物と戦ってきたレンとミーユの、また違った冒険の始まりだった。


ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。