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第7章【異世界人で最強の魔法使いなのにモブキャラすぎて申し訳ありません】6

第6話【季節は夏の盛りを過ぎて】




季節は夏の盛りを過ぎて、蟋蟀(コオロギ)や蜻蛉(トンボ)などの秋を知らせる虫達が草叢に顔を出す。


夏野菜も収穫時期を過ぎて育ち過ぎてしまったものを、採れるだけ採って残ったものは砕いて土に混ぜてしまう。


今年はサラの活躍もあり、例年以上に実った稲穂が、早々と徐々に頭(こうべ)を垂れ始めていた。


未だ青々と茂る田園風景だが、休耕地の草叢に揺れる秋草と相まって、もうすぐ夏が過ぎてゆくのを感じさせた。




ガンッと音を立て、石刀と石刀がぶつかる。


レンが石刀を構えたところへカーズが打ち込んでいるように見えるが、実際にはカーズの動きを読んでいるレンが、カーズの太刀筋を待ち受ける位置に石刀を置いているだけだ。


21歳のアークと違って、30歳で初めて剣を握ったカーズは上達に少し時間がかかっている。


まだ型もきちんと出来ていない段階ではあるが、乱取りも大事な稽古だ。


夏野菜の収穫のピークを過ぎ、秋植えの野菜の準備や稲刈りまでの間に、男性陣はレンから剣術指導を受けていた。


レン自身、12歳で稽古を辞めてしまったため、指導できるほどの業を成していないからと辞退しようとしたのだが、ジャレ合いのようにアークに教えていた事実があったため、なし崩し的に指導することとなった。


「ヤァッ!!」


男どもに混ざって激しい気合いを上げるのは、男勝りの世渡り人セシリア。


アーク作の長刀を振り回しミッツに斬りかかるが、ミッツは難なく石刀で受ける。


いかに魔力による体力向上があったとて、基本的な体躯が違いすぎる。


だか、当然ミッツからセシリアへ攻撃はしないので、ひたすらセシリアが攻め続けている形だが。


別の少し離れた場所では、マーサーが風魔法で薪用の木材を変幻自在に飛ばしている。


そしてそれを、アークが魔法も使わずに石刀一本で捌いていた。


殆どの木材が、アークに斬られて薪用のサイズになって、アークの周りに散らばっていく。


剣を始めて数ヶ月とは思えない上達ぶりである。




そんな農園の魔法使い達の様子を、目を丸くして見ている1人の若者がいた。


年の頃はレンとあまり変わらない10代後半で、細身だが引き締まった浅黒く日に焼けた身体から、農村で育ったことがよくわかる。


若者は、カーズ達が「山向こうの村」と呼ぶ、カーズ家の東の山を越えたところにある村の若い衆で、昨夜村から伝令役でやってきた。


あれから1ヶ月と少し経ち、以前ジョゼフが言っていた農作業の人手が、ようやく山向こうの村に到着したのだ。


その日は陽も暮れかけた時間だったので、助っ人の一行は村で一泊することになったのだが、山の向こうにある魔法使いだらけの集落を見たことがないこの若者が、好奇心に後押しされてその旨を伝える伝令役を買って出たのだとか。


そんなわけで、今日の農園は客人が来るということで、早朝の作業以外は農作業を休んで、カーズ家の庭先で思い思いに過ごしている。


若者が言うには、今回はジョゼフは同行していないので、村の者が案内して助っ人を連れてくるらしい。


若者は、助っ人たちの到着を待って、案内役の者と一緒に帰るとのことなので、朝から魔法使いたちの様子を見ていたのだが…


想像を遥かに上回る魔法使いたちの日常に、ただただ驚くばかりであった。




カーズ家の庭先の草叢がガサッと揺れて、チリンとカランの間ぐらいの独特の鈴の音が響いた。


「ひぃっ!!」


小ぶりの虎がガルダを1羽咥えてのそっと現れ、若者は思わず悲鳴をあげてひっくり返る。


「コジロウえらいえらい、トリさんちゃんとつかまえたねー」


その虎に寄り添うように、まだ5〜6歳ぐらいの幼女がにこやかに草叢から出てくる。


「え?ちょ、君、それ、虎、危な…」


なんとか絞り出した声は、言葉になりはしたが途切れ途切れで文章にならず、それでも虎と幼女という危険な組み合わせをなんとか幼女に伝えようと頑張る。


「あ、むらのおにいちゃんだ。コジロウはトラじゃないよ、にゃんこだよ」


「え?にゃんこ?でも、虎…」


「トラににてるから、トラネコっていうんだよ」


コジロウをネコと信じて疑わないミーユにレンがそう教えた。だが、ニュアンス的には“オオカミ犬”に近い感覚でミーユは捉えているに違いない。


「あっミーユ。コジロウ、ガルダ捕まえたの?」


今度は後ろから優しそうな女性の声が聞こえた。


若者が振り返ると、そこには女神がいた。


「あ、サラねえ!!ミーユね、じょうずに “ちいさくバーン” てできたよ!!」


幼女が女神に何か言っているが、言葉は理解できるのに話の内容がよくわからない若者。


よく見ると、虎が咥えているガルダは、片脚が腿の付け根から抉られたように失われている。


ガルダを捉えるだけならまだまだ過剰攻撃だが、ミーユがやったにしては随分小さなダメージだ。だが若者には虎に食いちぎられたとしか思えないだろう。


「そっかぁ、えらいねミーユ!!じゃあ、あとでカーズ兄たちに血抜きしといてもらおうか」


「うん!!」


頭を撫でられご満悦な幼女が、虎からガルダを受け取りサラに預ける。


虎が幼女に懐いている…


若者が目の前の現実に唖然としていると、幼女はまた虎と共に茂みに潜って行ってしまった。




あのガルダはさっきの幼女が仕留めたのか?


今のやり取りを聞いてると、そう聞こえるけど……


いや、そんなわけはない。バーンという擬音は、ガルダを驚かせて追い込み、あの虎が仕留めたに違いない。


若者は、今目の前で行われたやり取りを必死に脳内で処理する。結論が出たところでまだそこに居る人物に気づき視線を向けた。


女神と目が合って、ドキッとして目を逸らしてしまう。


「ねぇ」


「はっ!!はいっ!!」


女神に話しかけられ、思わずひっくり返った声が出てしまった。


恥ずかしさと美少女に話しかけられた興奮とで、顔がみるみる紅潮していくのがはっきり感じられる。


「君さ、ガルダの血抜きとかできる?」


「い、一応、ひと通りは…」


ガルダはこの地域ではメジャーな野鳥である。その下処理や解体技術は、村の若者ならば日常の作業の一つとして誰でも身に付けている。


「お兄ちゃんたち、あの様子だとまだまだ終わらなさそうだから、君お願いできる?」


「あ…はい」




サラからガルダを受け取った若者は、道具を借りるためにカーズ邸の中に声を掛ける。


少しずつ腹が目立ち始めたアリルが呼び声に応えて顔を出した。


妊娠を知らなければ少し太ったように見えるぐらいのアリル。昨夜カーズから妊婦であることを聞いていた若者は、アリルが動くたびに何かと気を揉んでしまう。


若者はアリルを知っていた。アリルは若者の住む村の、もう一つ東の村の出身で、若者の親戚筋に当たる。


若者がまだ幼い少年だった頃に何度か顔を合わせたことはあったが、そこまでよく知る仲というわけでもない。


アリルから道具を借りて、家の軒先でガルダの腸抜きをしていると、ふと影が差した。


見上げると、2つの大きな玉が浮かんでいるのが見えた。


いや、違う。それはたわわに実ったミルクのミルクタンクだ。


「君が獲ってきたの?」


「いえ、女の子…あ、虎が」


「ああ、ミーユか。ちょっと見せて」


「え、あ、はい」


ミーユってさっきの女の子だよな?この人もこのガルダをあの女の子が獲ったって思うのか?


いや、いくらなんでも…


若者は、頭で常識外のことを必死に処理しようとするが、とりあえず見せてと言われたので横にずれる。


ミルクはその隣にストンと座る。殆ど肩が触れそうな近さに思わずもう一歩横へ逃げようとして…やめた。


盛りは過ぎてもまだまだ暑い夏である。もちろん、皆薄着で過ごしている。


ミルクとてそれは同じで、しゃがんだことによって立派なミルクタンクが膝に押し上げられ、襟元から飛び出さんばかりの勢いでパンパンになっていたのだ。


若者の視線は、ミルクの襟元に思わず釘付けになる。


「あららー、脚が吹っ飛んじゃってるわ。まぁ、まだこれが精一杯かなぁ」


「…どういうこと?」


視線はミルクのミルクタンクに釘付けだが、できればこの時間を可能な限り長く持続したい彼は、ミルクの独り言のようなつぶやきを拾って質問する。


「あの子ね、今魔法の練習してるの」


「えっ!?あんな小さい子が!?」


あの子とは、ミーユと呼ばれたさっきの虎と一緒にいた女の子に違いない。魔法使いばかりの集落と聞いていたが、まさかあんな小さな子まで魔法が使えるとは思わなかった。


「うん、すごいでしょー」


「凄っ。あんな小さいのにもう魔法が使えるんだ。しかも、ガルダの脚を吹き飛ばせるほどなんて…」


「ああ、違う違う。あの子はいま威力を抑える練習してるの」


「え?」


抑える?おっぱ…ミルクの言っている意味がよくわからない。


「あの子が本気出したら、ガルダなんか跡形もなく吹き飛んじゃうわよ。頑張って魔力をコントロールして、やっとガルダの脚を吹き飛ばす程度に抑えられるようになったってこと」


「………はぁあああ!?」


若者の絶叫は、農園中に響き渡ったのではないかというほど大きく木霊した。




「なんだ、今の素っ頓狂な声は?」


その男の声は、皆がいる方とはまた別の方から聞こえた。


「ジンさん!」


若者が男の名を呼び立ち上がる。


そこには四十がらみの男と、その後ろにいずれも20代前半ぐらいの3人の若者がいた。四十がらみの男がジンで、後ろの3人も村の若者の知った顔だった。


「カーズさん呼んできます」


「ジンさんお久しぶりー。いいよ、私呼んでくる。君はガルダの処理してて」


「あ、はい」


カーズを呼びに行こうとした若者を止めて、立ち上がり駆けて行こうとするミルクだが


「ん?」


何かに気付いて振り返る。


「よっ、久しぶり」


そうミルクに笑顔で手を上げたのは、ジンと呼ばれた男の後ろに控える若者の1人。


「アッサム!!」


ヤナクの町からやって来た若者の名はアッサム。ミルクの婚約者だった。




「なんだよ!!まさかお前が来てくれるとは思わなかったぞ!!」


「いやー、水臭いよカーズ義兄さん。そういうことなら名指して呼んでくれればよかったのに」


アッサムを囲んで、農園の兄弟妹たちが突然の再会に大いに盛り上がっている隅で、やはりポカーンと見ている伝令役の村の若者。


アッサムと共に来た2人も、アッサムの幼馴染達で、カーズ達も昔一緒に遊んだ記憶がある。


アッサムの生家はヤナクの町で鍛冶屋を営んでおり、カーズ達の父ジョージも懇意にしていた。


アッサムの父は、ジョージが農園を開墾し過ぎて人手が足りなくなった時、農作業の手伝いをしてくれたこともある。ヤナクの町でもこの農園とは縁深い家族なのだ。


ジョージが亡くなってからも、カーズ達はアッサムの父に農具を見てもらっていた。


町へは普段男衆だけで行くのだが、たまたまミルクを連れていった時、後継として修行していたアッサムの仕事を興味深げに見ていたミルクにアッサムが一目惚れして、レンが来る少し前にわざわざ農園まで来てプロポーズしたのだ。


「どっかで見たことあるやつだと思っていたら、そうかお前、あの鍛冶屋の倅か」


ジンがアッサムの肩を叩きながら笑って話す。


ジンは村長の息子で、村の自警団のまとめ役をしている。


自警団と言っても、荒事に向いていそうな腕っ節に自信のある青年の集まりだが、彼らが次世代の村の担い手として育って行くので、そのまとめ役とはすなわち時期村長としての下積みである。


当然、カーズとも既知の仲であるし、町へ行くことも多いのでアッサムの父親もよく知っている。


アッサムと一緒に来た他の若者達も皆、ヤナクの町で職人をしている家の者達で、家業を話せばカーズもジンも良く知る家の若者達だった。




そして、その輪に入れずに伝令役の村の若者がポカンとしている。


同じように、離れた場所でその輪を見ている、同じぐらいの歳の若者がいることに気づいた。


さっき、剣術の練習で指導らしき事をしていた人物だ。


噂には聞いた事あるが、純粋な世渡り人だという。


若者は、世渡り人自体よくわかっていないが、特別で不思議な存在だと認識している。


世渡り人を見ていたら目があった。思わず会釈すると、向こうもぎこちない感じで会釈してきた。


互いに苦笑いを浮かべ、何故か数度会釈を繰り返した後、どちらからともなく視線を逸らす。


あれ?さっき剣の指導してた人と違うのかな?


自分とよく似た雰囲気のその若者からは、先程の覇気に満ちた雰囲気は微塵も感じられず、村の若者は困惑という逃げ道に落ちていった。


ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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