第7章【異世界人で最強の魔法使いなのにモブキャラすぎて申し訳ありません】5
第5話【ジョゼフ困る】
「ねぇねぇレンにい、みんななんのおはなししてるの?」
大人達の難しい話について行けず、1人黙々と食事をしていたミーユが、気になったのかレンに尋ねる。
この世界の言葉が自然に話せるようになってきたミーユは、ミルクがカーズ達を「カーズ兄」と呼ぶように、レンに話しかけるときに、時々「レンにい」と呼ぶようになっていた。
「うーんとね、ここからずっと遠いところの町に魔物が出たんだって。で、なんで魔物が出たのかをカーズに調べて欲しいって、ジョゼフが言ってるんだけど、僕らは農作業とかミルクの結婚式があるから無理って話」
少し考えて、ミーユにもわかるように話すレン。
「ふーん。じゃあ、ミーユがまものぜーんぶバーンてしてあげるよ!!」
「ははっ、そうだね、ミーユならバーンてできちゃうね」
自分もズバッとやれてしまうレンが、ミーユの頭を撫でながら笑うが、その様子をジョゼフが見ていることには気付いていない。
「ほう、お嬢さんも魔法を使うのですか?」
「うん、ミーユいっーっぱいまほうつかえるよ!!」
ユキとサラ、それにミルクは幼女の可愛らしい──話す内容は物騒だが──様子に目を細めるが、カーズとマーサーの男性陣はその戦闘力を思い出して苦笑する。
「ほほう、それは素晴らしい。ミーユちゃんは魔物もやっつけたことあるのかい?」
「うん!!このまえもコウモリとかぁ、オオカミとかぁ、たーっくさんやっつけたよ!!」
「ほう、すごいね」
「へへっ。それとね、それとね」
「まぁ、確かにミーユの魔力は凄いけど、まだまだ戦闘となると厳しい。あまり期待しないで聞いてやってくれ」
ミーユのお喋りが過ぎる前に、カーズがフォローする。
ミーユは魔力は高いがまだ6歳の幼女だ。高い攻撃力はあっても防御力に劣る点において、戦闘に不向きと言えるのだ。
「わかってますよ、カーズさん。それに今回の依頼は魔物退治ではなく調査です。まだお嬢ちゃんにはちょっと難しいかな?」
「まもの、バーンしないの?」
「今回は、ミーユの出番はなさそうだな」
カーズが笑って言うが、ミーユはしゅんとしてしまった。
「うーん、しかし皆さんの都合も考えたいのですが…ニーシュの町やコセ・シティの方々にとっても、正体不明の脅威が身近にあると、安心して生活できないのも事実なんですよねぇ」
よほどカーズ達に期待してきたのだろう。なかなか諦め切れない様子のジョゼフ。
ここ数年は森から魔物が出てくることは極稀になっているが、カーズ達も、常に魔物の襲撃には備えて生活している。今でこそ森から出てくる程度の魔物など相手にならなくなったが、昔は大変な思いをしたこともあった。
ジョゼフの言い分も、北の森近くに住む人達の気持ちもわからないわけではない。
「あ、そうだ」
何か閃いたようにマーサーが身を乗り出す。
「ジョゼフさん、アンタどっかから人手を確保できないの?ウチの農作業手伝ってくれるさ。そしたら直ぐにでも行けると思うけど」
「ええ!?人手ですか!?それは…うーん」
唸るジョゼフと
「なるほど、その手もありだな。できたら農作業の経験のある者を寄越してもらえるなら、何人かを調査に当てても問題ない。どうだ?ジョゼフ」
マーサーの意見に同意するカーズ。
全員の視線がジョゼフに集中する。事情をよくわかっていないミーユでさえ、レンの向こうにいるジョゼフをじっと見ていた。
「うーん、それが一番早いか…。わかった、わかりました。人手を手配しましょう」
「さすがジョゼフだ、そうこなくちゃ」
なぜか得意げなマーサー。
「こちらとしても出来るだけ早い方がいいので、1番近いヤナクの町で探してみます。夏野菜の収穫の終わり頃にはなんとか間に合わせます」
全員の視線を浴びて、YESと言わざるを得なかったジョゼフだが、確かに全ての事情を考慮すれば最善策と言える。
「OK。じゃあ、それまでにこっちで誰が行けるか決めておくよ」
「はーい!!ミーユいきたーい!!」
「まってミーユ。遊びに行くんじゃないんだから」
「いいじゃねぇか、ミーユとレンで行ってこれば」
「え、マーサー、それは俺も不安だ。せめて誰かもう1人…」
俄かに騒がしくなる一同。娯楽の無い田舎に於いては仕方のないことなのか。
レンは、この何もない田舎が嫌いではなかった。娯楽はないが、魔法という未知のツールを手に入れ、ニホンでスマホゲームをしているよりよっぽど充実していた。
家族のように接してくれるカーズ達とばかり過ごしていたので、最近あまり見受けられないがレンは元々コミュニケーションが苦手だった。
街へ行くとなれば、多くの人と出会うことになる。
不安はとてもあった。
だが何故か “嫌” とは感じなかった。
緊張とは違う、ドキドキする気持ちを感じていた。
「そうと決まれば、早速ヤナクまで戻って農作業の手伝いを出来る人を探してまいりますね」
そう言って立ち上がるジョゼフ。
「素晴らしいお食事、ありがとうございました。滅多に食べられない物まで…」
「ジョゼフ、まだ座っててくれ」
ジョゼフの言葉の途中でカーズが割って入る。
「まだ何か?」
言われるままにそっと座り直す。
「全員、もう食事は済んだな」
「ああ」
「はーい」
「うん」
カーズが確認すると、各々返事をしたり首肯をしたりする。全員食事は済んだようだ。
ユキが布巾で口元を拭き、マーサーがコップで水を飲む。
「では…」
カーズが食事の始まりの時と同じように合掌すると、全員が慣れた様子でまた合掌する。
その様子を見て、食事の始まりと同様に締めにもきちんと感謝の挨拶をするのかと、ジョゼフは合点がいった。
ジョゼフが皆に合わせて合掌するのを確認すると、カーズの合図に合わせてジョゼフを除く全員の声がハモる。
「ごちそうさまでした」
結局、もう日が暮れているというのにジョゼフは町の方へと帰っていった。忙しない男である。
もっとも、ニーシュに魔物が出たことを各町村へ伝えに行く途中でここまで足を伸ばしたのなら、ゆっくりしている余裕もないのだろうが。
ヤナクの町まで行って人手を手配するということは、うまくいけば半月後、遅くとも1ヶ月ぐらいで戻って来れるだろうか。
ミッツ達が戻って来たら、誰が行くかを決めようということになった。
ミーユがしきりに行きたがった。
3日後、ミッツ、アーク、セシリアが帰って来て、カーズ家を訪ねた。
ミッツの巨馬にコジロウがさっそくじゃれつく。本当に仲良しみたいだ。
ミーユもそこに混ざって遊んでいた。
セシリアはアークに作ってもらった自身の身長よりも長い長刃の槍を得意げに振り回し、レンに勝負を挑んだが、あっさり制圧されて拗ねていた。
目ぼしい魔物がいなく、思ったほどの成果は得られなかったが、セシリアはかなり雷撃の威力とコントロールの質を上げており、防御困難な雷属性だけあって、攻撃力においては抜きん出て来た感がある。
魔力向上に伴う身体能力のアップもやはりセシリアが顕著で、成人男性でも持つのが大変そうな石槍をブンブン振り回していた。もっとも、使いこなせていたかというと、それはまだまだ先のことという具合だが。
1つ特性を挙げるとすれば、たまたま石槍に使った岩石が鉱物を含むもので、雷属性との相性が良好だという点がある。
ちなみに、世渡り人であるセシリアは、もう一つ樹属性の魔法も使えるが「地味だから嫌だ」の一言で使ったことがない。
「別にいいぞ。稲刈りには水属性の魔法も必要ないから、俺とミーユが居なくても問題ないしな」
ニーシュの町の魔物出没事件と、北の森の調査の件をミッツに話すと、快く引き受けてくれた。
兄弟妹の中で最も森での活動に長けているのがミッツだったため、1番最初に満場一致で決まっていて、あとは本人の了承を得るだけだった。
そして、この世界に来てから何かと新発見を続けるレンも、世渡り人ならではの視点から何か発見できるかもと、メンバー入りが確定。
となると、自動的に同行メンバーが決まる。
「ミーユ、まものいーっぱいバーンするー!!」
「ミッツが行くのに私が行かないわけがない。夫婦なのだから!!」
「いや、セシリア、まだ夫婦じゃない、婚約者…」
北の森の調査メンバーは、ミッツを代表にして、レン、セシリア、そしてミーユと決まった。
もちろん、ミーユが同行することには反対意見の方が多かった。
しかし、レンが
「コセ・シティには、魔法の研究者がいるってジョゼフさんが言ってから、もしかしたら元の世界に帰れる方法が見つかるかもしれない。だから、ミーユと一緒に見に行きたい」
と、連れて行きたい理由を話すと、皆納得してくれた。
レンをライバル視しているアークは、レンが行くなら自分も行くと言い出しそうだったが、興味を示さなかった。
「無駄足だ。そんな所まで行って狩りをして来るぐらいなら、魔物の森をもっと奥まで進んであの巨虎の数倍強い魔物でも探した方がずっといい」
魔力向上にストイックなアークは、ブレない。
「あっちでお前なんかじゃ絶対に勝てない魔物倒して、お前より強くなって来るからな!!」
そんなアークに宣言のように言い放つセシリアだが
「俺で勝てない魔物なら、お前なんか一撃で殺される。ミッツ兄が泣くからやめておけ」
「なんだと!!」
アークの完全上から発言に、年相応に憤慨する。だが、どれたけセシリアが感情を爆発させようとも、アークはいつものクールさを損なうことはない。
「レン、コイツが暴走しないようにちゃんと見とけよ」
「わかったよ」
アークにとっても、レンやミルクよりも歳下のセシリアは、可愛い妹のような感覚だ。アークのぶっきらぼうな言い方も、そんな妹分を心配する感情が見えて微笑ましくなった。
「それなら、アレはちょうど良かったな」
ある程度話がまとまったところで、ミッツがまた別の話題を切り出した。
「アレ?」
反応するカーズに、ミッツは自分の巨馬を指差して話を続けた。
「コイツ並みにデカい馬の魔物を見つけて連れて来たんだ。ここも人が増えたし、居たら何かと役に立つかと思ってな」
今はミッツの家に置いて来てあるが、ミッツ達は魔物の馬をもう一頭森で捕まえてきたそうだ。
森で草を食んでいる巨馬を見つけた時、ミッツはコイツを連れて帰ろうと思った。
だが、それをアークとセシリアに言う前に2人が飛びかって行ったので、思わず水をぶっかけて止めたので2人から散々文句を言われた。
まぁ、魔物の馬をもう一頭手に入れる代償だと思えば、2人から文句を言われるぐらいなんともない、と思ったミッツだった。
ミッツが森からもう一頭魔物の馬を連れて帰って来たと聞いて、カーズはふと疑問を感じた。
「今、その馬はお前の家にいるんだろ?みんなこっちに来ちまって、大丈夫なのか?」
「さすが兄貴だな。実は魔石の実験も兼ねてる」
「魔石?」
「ああ、魔物の森の石だ。面倒だから狩りの途中からいつの間にかそう呼んでた。
アークに魔石で鈴を作ってもらって、馬の首にかけてるんだ。俺たちも魔石の剣を持ったりして、森の外でも強い魔法が使えたろ?あれと同じことが起きるんじゃないかってな」
強い魔物ほど、魔力に満ちた環境でなければ生きていけないが、街の研究者の間では、魔力源となる何かがあれば魔力のない環境下でも魔物は生息が可能だと言う。
実際に、ミッツと共に生活しているミッツの巨馬は、ミッツという魔力源に依存して、魔物の森から離れた農園でも普通に生きている。
今回ミッツが行なっている実験というのが、前回レン達が持ち帰った魔石の剣で、レン達が魔力環境下でないにも関わらず、大威力の魔法を使って見せたことにヒントを得て、魔物も魔石を身につけさせれば、魔力環境下でなくても生息ができるのではないか、という実験だ。
よく見ると、いつも連れているミッツの巨馬の首にも、石でできた鈴らしきものが付けられていた。
それを仔虎のコジロウが興味津々に見ている。
「コレか。コジロウが反応してるってことは、やっぱ魔力を感じるんだろうな」
「コジロウこれほしいって。ミッツおじちゃん、もう一個ある?」
見た目で判断する幼女ミーユは、この世界の言葉に慣れた今でも、ミッツをおじちゃんと呼ぶ。ミッツも気にしていないようなので問題はない。
「んん?これかぁ。これはアークに作ってもらったんだが、レンでも作れるんじゃないか」
「ほんとー!!レンにい、これコジロウが欲しいって、つくって!!」
颯爽とレンのいる方へ駆けて行くミーユ。
巨馬がつけている石の鈴が欲しいとミーユが強請ると、側にいたアークが作ってやると言い出したが
「レンにいのがいい」
とミーユが言うと、アークは拗ねたようにその場を離れた。
「今日帰って、変わりなく元気な姿をしていれば大丈夫だということだ。まぁ、ダメなら肉にするだけだ。もったいないけどな」
「ふむ…案外それかもしれないな」
ミッツの説明を聞いて、何やらカーズは考えるように腕を組む。
「何がだ?」
「さっき話した町に出た魔物だよ。魔物の森の石…魔石を身に付けているのかもしれんな」
「そうだとしたら誰がそんなの魔物に付けるんだ?魔物が自分でそんなの身に付けられるとも思えないし」
「…魔法使い狩りと繋がってるとしたら?」
「なるほど。じゃあ、その線で調べてみればいいってことか」
「あくまでも可能性の1つだ。他にも何かあるかもしれないから、広い視野でいろいろ見てきてくれ」
「わかった」
レンが石刀の一部を使って作ったコジロウ用の石鈴をチリンチリンと鳴らし、コジロウとミーユが楽しげに駆けていた。
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