第7章【異世界人で最強の魔法使いなのにモブキャラすぎて申し訳ありません】2
第2話【普通の場所で強力な魔法が使える訳】
「なぁ、兄貴」
「うん?」
次元の違うレンとアークの激しいバトルを見ていたミッツが、幾分冷静さを取り戻し、カーズに話しかける。
「アイツらの動き、おかしくないか?」
ミッツが言う通り、激しい魔法攻撃の応酬に目を奪われるが、滅多矢鱈に飛び交う岩石を平然と避けているレンとアークの動きは異常であった。
10数mの石刀を、木っ端と同じように振り回すのは、土魔法の補助で説明がつく。
だが、倒れて来る巨木の幹のような石柱を避けるのに、横っ飛びに跳躍して、身長の3倍の距離を跳んだり、目線の高さの足場に一息で飛び乗ったりと、明らかに異常な身体能力が見られる。
ミッツの問いかけに、カーズはどこか誇らしげな笑みを見せた。
「ああ、どうやら魔力が高くなると、身体能力も高くなるようだ」
「やっぱりそうか」
「俺たちも、それは感じている。今朝だって、いつも持っている肥料の袋がやけに軽く感じた。少し前にアークも、体の動きがやけに調子いいようなこと言っていたしな」
魔物が元の動物と比べて高い身体能力を持つことは、それこそが魔物の脅威であると言えるのでよく知られたことだ。
だが人間…少なくとも魔法使いは、以前ジョゼフ──コセ・シティの商人で自称 “強力な魔法使い”──が来た時にも言っていたが、魔力を魔法へと向けることで、体が魔物化しないのだという。
なので、カーズたちも魔力が身体能力に影響するとは、これまであまり考えていなかった。
今回の狩に行く以前から、レンとミーユの身体能力はカーズたちから見ても非常に高いと感じていたが、2人ともニホンジンの世渡り人であることから然程疑問に思わなかった。
カーズらの父で同じくニホンジンの世渡り人のジョージも、村の者たちと比べて矢鱈と体力があったので、それはニホンジンの特徴なんだと考えていた。
だが、ここ最近魔力が高くなってきていたアークも、同じ世渡り人だがニホンジンではないセシリアも、「なんだか調子がすこぶる良い」と感じる程度の変化があり、魔力と身体能力の関係はそれなりにあるのかもしれないと思い始めてはいたのだ。
「確かに、最近セシリアが平然と力仕事をこなしていたな。無理するなと言っても平気だと返されるし、実際見ていても平気そうだったが…そういうことか」
常識はずれな身体能力で飛び回るレンとアークを眺めながら──あるいは観察しながら──ミッツは呟くように言った。
「だがなミッツ、もう1つおかしいと思うことがないか?」
「もう1つ?」
2人のバトルをじっと見るミッツに、カーズが問答のように言うと、ミッツは更に目を細めて2人の動きを観察する。
「アークが、レンと互角に渡り合ってるってことは、レンはそんなに強くなってないってことか?」
「そんなことはない。レンも強くなってるし、アークに合わせて手加減しているはずだ」
カーズの言うように、アークは普段の無愛想な表情と比べると、目付きが真剣だし頻繁に舌打ちしている。
対してレンは、ミーユと遊んでいる時の様な楽しげな笑みを浮かべている。
わからなくなったミッツは、視線をレンとアークからカーズに移した。
「じゃあ、なんだ?」
「気付かないか?」
ミッツはいよいよ腕組みをして真剣に考え始める。
「ミッツ兄」
2人の会話を聞いていたミルクが、ミッツに何かを差し出した。
「このナイフが、どうかしたのか?」
ミルクが差し出したのは、紐を通した木の鞘に入った石のナイフ。
「そういやぁ、兄貴たちもレンみたいな石刀持って、見慣れない物をみんな身につけているなとは思ったけど、これが何か関係あるのか?」
「ミッツ、ここは魔物の森じゃないのに、なんでアイツらあんなに激しく魔法が使えると思う?」
「そういうもんじゃないのか?ここであれ程の魔法が使えるんだから、森に行けばもっと…まさかこのナイフ…兄貴達の石刀も!?」
「そう、魔物の森の石でレンが作ってくれたものだ。実は今回の狩で、またいくつか新しいことがわかったんだ。コレが終わったら話すよ。さ、そろそろ止めるか」
殆ど岩石の投げ合いのようになっておよそ10分、レンとアークの勝負は収束する気配もない。
最初は唖然と見ていた面々も、既に雑談に興じている。
セシリアは離れたところで、手頃な岩に向けて雷撃をガンガンぶつけていた。
「ミーユ、アイツらが裏庭をめちゃくちゃにしちゃったから、水魔法のデッカいので全部ながしちゃって」
「はーい」
元気よく応えたミーユが、トテテテッとレン達の方へ数歩駆けていき、バンザイするように両手を上げ、「えいっ」と掛け声とともに手を振り下ろす。
ドンっ!!
その愛らしい仕草と掛け声とは裏腹に、手を振り下ろした瞬間、農家の5〜6軒まとめて流してしまいそうな程の高波が現れ、ボコボコになった荒野へ一気に流れ込む。
ミーユの魔法により指向性を持った高波は、横へ漏れることなく出現したままの幅で荒野を流れていき、レンとアークが乱出させた石柱や石壁を難なく流し、そこにいた2人も巻き込んで300mほど向こうまで流れていった。
さて、巨虎を倒したアークに、巨大魔蝙蝠を倒したレン。2人はそれぞれその大敵からしっかりと魔力を得ていたし、加えて地上で戦った魔狼などからも散々魔力を回収した。
レンとアーク、2人のその急成長には十二分に頷けるものがある。
だが、壁の上から魔狼を狙い撃ちしていただけのカーズやマーサーらは、あの戦いの中で魔力を得られるチャンスはなかった。
“倒した魔物の魔力がオレに宿る”というジョージの遺した言葉は、間違いであることが以前レンの実験により判明している。
実際には、倒しただけでは魔力を得られることはなく、魔物が絶命する瞬間に触れている、もしくはすぐ近くにいる者に魔力が流れ込む。
10mの高さの壁の上からでは、地上の魔物の魔力を得ることはできないのだ。
では、カーズ達はどうやってこれ程の魔力を得たのか。
魔狼や魔蝙蝠を倒した翌朝、外に出ると、なんと瀕死だった魔蝙蝠のうち半数が復活し、100を超える魔蝙蝠が元気よく飛び回っていた。
どうやら、魔蝙蝠は元々超絶な回復力を持っていたらしい。
また、生き残った魔狼や大百足もそのまま石のシェルターの周りに居座っていた。
一晩寝て回復したレン達は、魔蝙蝠も魔狼も大百足もあっさりと捕獲して、動けなくなる程度のダメージを与えた。
心地よい朝日の差す中、カーズ達はせっせと瀕死にした魔物に1匹ずつとどめを刺し、魔力を回収していったのだ。
その作業に丸一日を費やしたため、結局森で2泊した今回の狩猟チームだったが、それによってカーズやマーサーはもちろん、ミルクやサラ、ミーユまでふんだんに魔力を得ることが出来た。
その際、魔物の解体用のナイフが、前夜の魔蝙蝠との戦闘で刃こぼれしていたのもあって、レンが石のナイフを作ってやると、ミルクとサラが甚く気に入って持って帰ると言い出した。
また、カーズとマーサーもアークの剣術を見て、自分たちも剣を覚えたいと申し出たので、全員分の石刀を作って稽古をした。
そしてカーズもマーサーも、その石刀を気に入りそのまま持って帰ろうとした。
それを見たレンとアークも、せっかくなら魔物の森の石を使って造った石刀を持って行こうとなり、全員が “魔物の森の石でできた刃物” を持って帰って来るということになったのだ。
すると、とんでもないことが起きた。
魔物の森の石で造った道具を身に付けていると、なんと森の外に出ても森にいる時と変わらぬ威力の魔法が使えたのだ。
これまでは、魔物の森を出るとある一定以上魔力を必要とする魔法の行使が困難であった。
これは、レンという当時規格外だった魔法使いの登場で明らかになったことだ。
成長が早かったアークやセシリアも、最近は森の外で魔法が使いにくいと感じることがあった。
だが昨日の帰り道、森を出た荒野で何気なく石刀を振っていたアークが、妙に石刀が軽く振れるのに気付く。
最初は、魔物の森の石で作ったからかと思ったのだが、試しに思いっきり魔力を込めて振ってみたところ、瞬時に数10mもの長さに石刀を伸ばすことが出来た。
森の外では、同じ長さに伸ばすのに3〜5秒ほどかかるというのに。
「つまり、魔物の森の魔力を含んだ岩石を身に付けていれば、魔物の森にいる時と同じように魔法が使えるって訳だ」
カーズの説明を真剣に聞き入るミッツとセシリア。
この発見には一同大いに喜び、そして今日、遠慮なくそれを発揮していたと言うことだ。
試しにセシリアがミルクの石ナイフを手に持ち、雷撃を発すると、森にいる時と変わらない威力の雷撃が撃てた。
「コレ欲しい!!ミルク、これちょうだい!!」
「ダメよ、これは私の。また今度森へ行って、石を拾ってこよう」
興奮するセシリアと、それを冷静に宥めるミルク。
ちょっとムッとしたセシリアだが、その表情のまま視線をミッツに向ける。
「ミッツ!!森に行こう!!」
「ああ、じゃあこの後石だけ拾いに行ってこようか。森の石なら何でも…」
「ダメだろ!!バカかミッツ!!森に行くなら魔物狩りするだろ!!」
「はぁ!?お前、石だけ拾いに行くって…」
「私そんなこと言ってない!!強くなるために魔物狩りするのに、森の入り口でどうするんだ!?もっと奥に行かなきゃ強い魔物いないだろ!!」
「何なんだよ、ったく。ああじゃあ、これから夏野菜の収穫があるし、田んぼの面倒も見なきゃいけないから、稲刈りの少し前の時期に…」
セシリアはもちろん、ミッツも日帰りできる範囲の魔物では、実感できる魔力の向上が望めなくなってきていた。
魔力向上のための魔物狩りならば、野営地まで行く必要がある。となると、少なくとも1泊、できれば2泊以上はしたいところである。
となると、基本的には農民である彼らとしては、農繁期は避けたいのだが…
「嫌だ!!今から行こう!!」
こうなってはもう我慢できないセシリア。
魔物の森の石のこともあるが、やはりセシリアとしては、ライバル視していたアークの急成長もあり、自分だけ取り残されているような感じがとにかく嫌なのだろう。
そんな思いをストレートにミッツにぶつける。
「いや、今からって、お前…」
ここのところレン達の影響か、言葉が上達してきて、益々ミッツでは言い返せなくなってきていた。
だが、セシリアがそんな一面をぶつけるのはミッツにだけで、他の者に対してはちゃんと遠慮もできる。
現に、先程ミルクから石のナイフはあげられないと断られた時も、膨れた顔さえしたが、それ以上文句を言うことはなかった。
これも “好きな人の前では素直になる” の1つなのだと、いつかユキが解説していたのを、なぜか側で見ているだけのレンは思った。
「いいじゃないか、ミッツ。行ってこいよ。俺たちも魔力が上がって体力もついた。お前とセシリアの分ぐらいならなんとでもなるよ。それに、俺たちばっかり強くなったんじゃ不公平だしな」
「よし、行こう!!ミッツ!!」
どこか勝ち組めいた余裕を感じるカーズの言葉も、セシリアにとってはただ自分のやりたいことへの障害を取り除かれた合図でしかない。
目標ができたらまっしぐらな彼女は、当然遠慮なくその言葉に甘え、キラッキラの目をミッツに向けた。
「待て待て待て。行くのはいいがそのクラスの魔物がいるのは野営地の向こうだ。レンが着いて来てくれないと」
完全に傍観者になっていたレンは、名前を出されたところで一瞬戸惑う。この魔法使い集団の中で最強の魔法使いなのだが、まだまだそういった精神面はあまり成長していない。
「ぼ…僕は、別に、いいけど…」
戦闘モードではない気弱な感じで、戸惑った様子のまま、チラっとカーズを見るレン。農繁期の人手不足を気にしているのか。
「別に…」
カーズがレンの視線に気付き、自分の了解を得ようとしているのかと判断して口を開きかける。
「俺が行こう」
同時にアークが言った。
まだ農繁期を経験していないレンが人手不足を気にしているというのに、そんなことは全く気にしない、農園で生まれ育ったアーク。
むしろ、少しでもレンに近付き追い越すチャンスを狙っている彼にとっては、魔物狩りできる機会の方が優先される。
そう言った意味では、アークもセシリアによく似ていると言える。
「許さないからなアーク、お前ばっかり強くなるのは。獲物は全部私のものだ。わかったな」
「ああ、構わん。だが、お前じゃ到底仕留めきれないような大物は俺が殺る」
「そんな魔物はいない!!全部私がやっつける!!」
「フンッ」
似た者同士が火花を散らし、この2人を連れて森で何泊かしなくてはならないミッツは深く深くため息をついた。
というわけで、今から出ると野営地に着く前に日が暮れてしまうので、明日の朝出発となった。
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