↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/231

第7章【異世界人で最強の魔法使いなのにモブキャラすぎて申し訳ありません】1

第1話【レベルアップ】




炎が渦巻き、何も無い岩だらけの荒野を、もう1分以上も燃やし続けている。


火柱は大人の男2人分に届くほど高く、同じぐらいの直径で範囲が広がる。


カーズが挙げた右手を斜めに振り下ろすと、炎はスーッと小さくなり、「ボッ」と音を立てて消えた。


黒く焦げた地面を見て、カーズは腰に提げた石刀に手を掛け満足そうな笑顔──ドヤ顔──で振り返る。


「次は俺ね」


カーズの隣に一歩前へ出たマーサー。カーズと同じように腰に石刀を携えている。


マーサーが狙うのは、普通の馬が一頭まるごと隠れられそうな大きな岩。


空へ向けて掲げた右手を袈裟懸けに振り下ろすと、岩に向かって風の刃が放たれる。


風の刃は、砂塵を巻き上げて走り、強烈な破砕音を立てて岩を抉った。


その切り込みは、農作業と狩で鍛えた男たちの逞しい腕が、スッポリと入ってしまうほど。


「まだまだー!!」


その威力に満足したようにニヤリと笑うと、両手を交互に振りながら、同じ威力の風の刃を次々と放つ。


およそ20発ほど連射し、岩はズタズタに切り裂かれ、所々が欠け落ちて一回り小さくなった。


これだけ威力のある魔法を連射しても、マーサーは平然と「こんなもんかな」と得意げに──ドヤ顔で──鼻を擦る。


「見ててね、ミッツ兄」


続いて前に出たのはミルク。


ミルクは兄2人のように帯刀していないが、紐で括った大振りのナイフを腰からぶら下げていた。


これまで攻撃魔法を持たなかった彼女が何をするのか…。マーサーがズタズタにした岩に向かって人差し指を向ける姿を、見ていてと言われたミッツは固唾を飲んで見守る。


ミルクの指先に光が集まっていき、小さいながらも大きな光量を持った指先サイズの光球が出来上がる。


「レーザービーム!!」


レンから教えてもらった掛け声で、指先に収束した光の魔力を放つ。


光球は光線となって岩に向かって真っ直ぐ飛び、岩に光の直径分の穴を穿った。


普段のミルクなら、声を上げて喜ぶのだが、今日のミルクは静かに振り返って微笑む──ドヤ顔をする──だけだった。




「なんだよ!!なんだよお前らばっかりそんなに強くなりやがって!!狡いぞ!!」


魔物の森から帰った翌日、ミッツ家の裏の荒地に、農園のメンバーが勢ぞろいし、ミッツが僻んでいた。


昨日、狩から帰ってきたメンバーは、ミッツ家に寄り巨馬と荷車を返した際、森での出来事をミッツに話した。


ミッツもセシリアも、大変だったとか、よく無事だったとか心配していたが


「じゃあ、さぞかし全員強くなったんだろうな」


労い代わりにミッツが掛けたこの一言で、翌日…つまり今日、改めて集まり、それぞれが手に入れた魔力を披露することなったのだが…


あまりのレベルアップにミッツが僻み始めた。




「私もちょっとだけ、やってみていい?」


僻むミッツを横目に…というよりは、自分もミッツを驚かせたい気満々のサラが、どこから持って来たのか、木の苗を持ってスタンバイしていた。


腰にはミルクと同じように石のナイフがぶら下がっている。


「いいよ!!やってみて!!」


とミルクが言うが


「サラもかよ!?」


とミッツが悲鳴をあげる。


「えへ、じゃあいくよ」


そのミッツにとてもいい笑顔で応えるサラ。最早ミッツのそのリアクションも、最高の賛辞としてしか感じていない。


上機嫌丸出しの笑顔で荒地にしゃがみ込み、披露したい魔法の準備のため、硬い地面を掘りだした。素手で。


当然、岩だらけの荒地は、農耕にやっと最近慣れてきた程度の女子の手では、思うように掘れない。


いや、普通は女子の素手ではまず掘れない。


「どけ」


「アークお兄ちゃん」


見兼ねたアークが手を向けると、サラの掘ろうとしていた地面に、苗木の根がちょうど入るぐらいの穴が空く。


「わっ、すごい!!ありがとう、アークお兄ちゃん」


「フンッ」


サラは穴に苗木を半ばまで差し込むと、真剣な眼差しで呼吸を整え、苗木を掴んだまま魔力を注ぐ。


「んむむぅ……!」


ミシミシッと音を立てながら、苗木は徐々に大きくなっていく。枝が伸び、葉が茂り、サラの膝ぐらいの丈だった苗木はみるみる大きくなる。


やがて、ミッツの背よりも高い木になり、吹き抜けるそよ風に葉をさらさらと揺らした。


上にばかり気が取られてしまうが、足元を見ると硬い岩の地面も根に抉られて、バキバキに罅割れて盛り上がっている。


「おおおお!!」


今まで、見た目に目立つような派手な魔法を見せたことのないサラの、初めて見せる大きな魔法に、これには全員が驚いた。


ふうっと息を吐き、やり切った表情──ドヤ顔──のサラ。立ち上がろうとしてちょっとフラつき、慌ててミルクが駆け寄る。


「あは、頑張り過ぎちゃった」


乾燥した土地でも、魔力を流すことで強引に植物を育てられることは、ジョージが旅の見聞をまとめたノートに記されていた。


だが、小さな花を種から咲かせるのならともかく、これだけの樹木を苗木から一息にここまで大きくするのは容易なことではない。


端で見ていた母親のユキに、満足げにピースサインを見せた。




「アーク、お前の魔法も見せてやれよ」


みんなから少し離れたところで、大きな岩にもたれて腕を組んでい立っているアークに、マーサーがニヤニヤと笑いながら促す。


今回の狩のメンバーで1番成長したのはアークだ。何せあの巨虎をたった1人で倒したのだから。


かつては、兄弟全員で攻撃しても全くダメージらしいダメージを与えられなかったあの化け物を、満身創痍の状態で倒したのだから、その成長ぶりは全員が期待していることであった。


「俺はいいよ」


アークは、いつも以上に冷めた口調で辞退する。


「なんでだよ、みんな見たがってるぜ」


お調子者のマーサーは、こういった催し物的なことが大好きだ。そのメインイベントとでも言うべきアークが魔法を披露してくれないと、締まらないと思っている。


逆にアークは、こういった見世物のように披露するというやり方が苦手だった。


「よせよマーサー、無理にやらせるものじゃない」


空気を読んだカーズが、マーサーを諭して止める。


「これだけ魔力を上げた兄貴やマーサーが言うんだから、アークの成長は相当なものなのだろうな」


もうすでに目を回すぐらいショックを受けているミッツは、サラが植えた木に水をやりながら、どこか心ここに在らずのような、ぼんやりした口調で言う。


どうやら現実逃避し始めたようだ。


「だろう、ミッツ兄。見たいだろ?」


ミッツのその言葉に、味方を得たと、マーサーが息巻くが、ミッツは首を横に振る。


「いや、逆だ。これ以上凄いのを見せられたら…」


「アーク、見せてよ」


だが、ミッツの言葉に被せてアークの魔法を見たがる声が掛かった。


ミッツの婚約者、セシリアだ。


セシリアも魔力向上に高い意欲を見せ、アークに負けず劣らずの成長をこれまで見せてきた。


どこかライバル視しているところもあったのだろう。ある意味、アークの成長を1番見たがっているのはセシリアかもしれない。


鼻息も荒く、アークに魔法の披露をせがむが、そっぽを向いて無視するアーク。


そんな各々の様子に、どうまとめようかとカーズが困っていると、レンがポンと肩を叩いた。


「まかせて」とでも言いたげな笑顔をカーズに向けると、その笑顔のまま視線をアークに移す。


「ねぇアーク、僕と勝負しない?」


「なんだと?」


不機嫌になっていたアークの表情が、更に険しくなる。


だが兄妹たちは、この顔はやる気の顔だと知っていた。




「じゃあ、ルールは相手の石刀を折ったら勝ちね」


カーズ達が魔法を披露していたあたりから、100mほど離れたところで、通常の剣の間合いよりも少し遠い位置で対峙するアークとレン。


巨虎を倒す実力者である2人の勝負は、近くだと巻き込む恐れがあるので、それをわかっている本人達が、自然と離れた場所へ移動した。


アークもレンも、いつもなら必要な時にその辺の石を拾って石刀にしているが、今日はずっと同じ石刀を持っていた。


2人の勝負は、石刀を折られたら負けという、一見するとシンプルだが、意外と難易度の高いルールで行われる。


それ以外は特に細かいルールは無しということで、はじめの掛け声だけマーサーにお願いした。


マーサーは、他のメンバーと一緒に離れたところから、風魔法で2人に声が届かせる。


「はじめ!!」


マーサーの掛け声とともに同時に地を蹴る2人。


相手を倒すのではなく、互いの石刀を折り合うルールなので、全力で石刀と石刀を中央でぶつける。


巨大な獣同士がツノをぶつけ合うような重い音が響かせ、レンの石刀に正面から打ち合って、アークの石刀は折れることはなかった。


「おおー!!」


かつて、アークの立てた石柱が、レンの石柱に向かって倒れかかっただけで折れたことを知る面々は、驚きの声をあげる。


2人は、互いに大きく間合いを外れることなく、数合を打ち合っていく。


相手を倒すための打ち合いではなく、互いの石刀を折るための打ち合いなので、2人とも避けるような動作が少ない。


と、思い始めたところへ、レンがアークの足元を狙うように石刀を打つ。


ここまで互いの石刀を狙って打ち合っていたため、直接攻撃にアークは驚き思わず飛び退くが、レンの石刀はアークの足があったところより手前の地面に刺さっていた。


「ふっ!」


レンは、地面に刺した石刀に魔力を込め、跳躍すると同時に石刀を伸ばして飛び、一気に距離を開けた。


着地し、石刀を縮めると、石刀を持った右腕を身体に巻き付けるぐらい大きく後ろへ回す。




『一法流剣術【天道月】』




巨大魔蝙蝠を倒した、長刀の打ち下ろしを放つレン。


魔力を帯びたレンの石刀は、達人のそれを凌駕する速度で振るわれる。


長大な石刀は、魔力によりその重量を無視した円運動で、その先端は音速に達し、衝撃波を持ってアークに襲いかかる。


その威力は巨虎の首を刎ねる程度のものではない。刃のない只の石柱だとしても、巨虎の胴を薙ぐほどの勢いを持っている。


本気で受けなければ、アークは死ぬ。


しかし、アークはレンのその一撃に対し、横から石刀を当てた。


しかも、レンの石刀に当たる瞬間、アークの石刀は10倍程の直径に膨れ上がっている。


石刀というより石の棍棒だ。


横に払ったアークの棍棒の一撃は、レンの石刀を弾き、大きく外に逸らすことに成功するが、どちらの石刀も折れることはない。


アークから逸れて、大地を叩いた石刀は、轟音と地響きを立てて大地に亀裂を入れた。


「ざけんな!!」


レンは、アークが止め損ねたらちゃんと外すつもりでいたが、アークにしてみたらいきなり殺されかけたも同然。


アークは仕返しとばかりに、地に着いたレンの石刀に這わせるように、負けじとレンまで届く横薙ぎの一閃を放つ。


「へへっ」


やる気になったアークにレンは笑みをこぼすと、アークの攻撃を屈んで避けながら石刀を元の長さに戻し、アークに向かってダッシュする。


レンに応えるように、アークも走り出し、2人は石刀と石刀を打ち合わせ、鍔迫り合いのような状態になる。


「石刀を折る以外、ルールは決めてなかったよね」


いたずらっぽく笑うと、レンはアークの立つ地面を身長分ほど急激に迫り上げる。


たまらずバランスを崩すアークの持つ石刀が、ちょうどレンの頭上に突き出していた。


「えいっ!!」


その石刀に向かって全力で石刀を当てに行くレンだが、寸でのところで石刀を引くアーク。


「調子にのるな!!」


言うとアークは、迫り上がった地面に手を当てる。


次の瞬間、柱のようにせり出した地面が爆散し、レンはたまらず腕でガードする。


「痛ってー、こんにゃろ!」


血が出るほどのダメージを受けたが、レンは嬉しそうな笑顔のまま反撃に移る。


爆散した地面から着地したばかりのアークの目の前で、高さと幅が10mほどの薄い石壁を作るレン。


それをアークに向かって倒した。


ズ…ン…


真っ直ぐに倒れた石壁は、地響きと砂埃を上げ、真っ二つに割れた状態で倒れ、割れた石壁の間にアークが石刀を天へと向けて掲げ、立っていた。


その石刀を、アークはストンと下ろして、切っ先を地面へとつける。


どんな攻撃が来るかレンが身構えると、突如アークが石刀で突いた地点から、地面がバキバキと音を立てて罅割れ、その亀裂がレンの足元まで迫る。


「わっ」


慌てて飛び退くレン。


亀裂はレンのずっと後ろまで伸び、その幅はレンの立っていた所で、レンの身長よりも開いていた。


亀裂を避けたレンの足元が、今度は急激に迫り上がる。


だが、レンはこの攻撃を読んでいたのか、その迫り上がる地面の勢いに合わせてジャンプ。少し離れた所へ石刀を伸ばして体を引き寄せ、上手く着地する。


その着地点へダッシュするアーク。


手にした石刀は棍棒の太さで、間合いの数歩手前でアークは横薙ぎに振る。


棍棒からは細長い礫が幾つも発射され、散弾銃のようにレンを襲うが、レンは石壁を出して防御する。


その石壁は無駄に高く、案の定アークの方へ向かって倒れてくるが、重力に任せてゆっくりと自然落下する壁を、アークが問題なく避ける。


そこからは、2人とも石柱や石壁を立てては相手に向かって倒したり、地面を抉って落とし穴にしたり、10m以上の石刀をぶんぶん振り回したりと、最初の石刀を折られたら負けというルールを完全に無視して、荒地を更なる荒野へと変えていった。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。