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閑話6【少女探偵団③】

閑話4【少女探偵団②】の続きです。蓮次郎が行方不明になっておよそ2週間後の現代日本。蓮次郎の同級生、淀川 南子視点です。

初めて訪れた家で、初めて出会った人の前で、私は声を上げて泣いてしまった。


どれだけ泣いたかわからない。


おばさんも泣きながら宥めてくれて、小豆(チト)も黙って背中をさすり続けてくれて、なんとか落ち着いてきたから、帰ることにした。


まだ明るかった外の景色は、夕暮れの茜に染まっていて、その少し肌寒い空気が、泣き腫らした私の心を埋めてくれる気がした。




「探偵が調査中に号泣してちゃダメだろ」


藤田君家から出て、おばさんに見送ってもらって歩き始めてすぐ、山田君が笑いながら言う。


「ちょっと!!南子(ナコ)ちゃん本当にツラかったんだから!!」


優しい小豆が、珍しく強い口調で庇ってくれる。


「いいよ、小豆。私が悪かったから」


「でも…」


「山田君、長い時間つき合わせちゃってゴメンなさい」


少し深く頭を下げて謝ったから、山田君がどんな顔してるかわからなかったけど、山田君が鼻で笑うのがわかった。


「別に、女が泣き出したらしばらく泣き止まねーのは、姉ちゃんでよく知ってっから」


山田君のデリカシーのない言葉に小豆は怒るけど、私はちょっと救われた気がした。


小豆みたいに同情して寄り添ってくれるのも嬉しいけど、こんなとき、(マドカ)なら今の山田君みたいに笑い飛ばしてくれた。


円は、もうちょっと気遣った言葉をかけてくれたけど、それを初対面の山田君に求めるのは失礼だ。うん。


「めんどくせぇけど付き合ってやったんだから、ラーメンぐらい奢れよ」


「ぐっ…」


まあいい、まあ、許そうじゃないか。確かに今日の私はめんどくさかった。


でも、ちょっと傷ついたよ、今のは。もちろんラーメンは奢らない、絶対。


「ちょっと!!言い過ぎだよ!!今の撤回して!!」


私が軽く傷付いて落ち込みかけると、大きな声を出すのも珍しい小豆が、キレて叫ぶ。


「はぁ?俺はお前らが蓮次郎の事件解決しようとしてる探偵だっつーから連れてったんだぞ?それがいきなり号泣し出してよ、黙って付き合ってやったんだから感謝ぐらいしろよ」


「最低!!南子ちゃんの気持ちも知らないで!!」


「知るわけねぇだろ、初対面の女の気持ちなんか」


あ、やばい、小豆がちょっと涙声になってる。


いろいろ感情の整理が追いつかないけど、小豆が私のために必死に言い返してくれて涙目になってるのは流石に耐えられない。


「もう、もういいから小豆。山田君も、ゴメンね、つき合わせちゃって。私達自分達で帰れるから、ありがとう。またね」


お陰で一瞬冷静になれた私は、2人の間に入って仲裁して、泣きそうな小豆の背中を押して全然別方向へ帰って行った。




泣き止みかけの私と、泣き出しそうな小豆の2人で、土地勘のない町をなんとなくの方向感覚だけで歩いていると、気が付いたら藤田君が行方不明になった公園のある通りに出ていた。


もうすぐ夕暮れから夜に変わろうとする時間帯。片割れ時って言うのを最近覚えたけど、黄昏時とどう違うのかわからない。そんな夕暮れの町は、これから家に帰る働く人の車が列を成し、部活帰りの中高生が自転車で走り抜けていく。


ほとんど会話らしい会話もしないまま、私達は藤田君が行方不明になった公園に辿り着き、どちらからともなく公園内へと足を踏み入れて、ひとつだけあるベンチに並んで座った。


「ごめんね、小豆。変なことにつき合わせちゃって」


「ううん!!そんなことないよ!!」


小豆は優しい。だから絶対にそう言ってくれる。それが嬉しくもあり、申し訳なくもある。


「お兄ちゃんがさ、行方不明になった日、私、風邪ひいて寝てたんだよね。お兄ちゃん、朝から部活があったから、大人しく寝てろって言って、頭撫でてくれて、帰りにバニラアイス買ってきてやるからって……」


あ、やべ。また泣きそうだ。


ダメだなぁ、一回涙腺崩壊すると。


もう今日は泣かない。優しい小豆に心配かけないために。


「それが、お兄ちゃんと交わした最後の言葉。ウチ、あの頃お父さんいなかったじゃん?だから、お母さんも長い時間仕事してて、熱でボーッとする頭で、全然お兄ちゃん帰ってこないからすごく不安になって…お母さん帰ってきて、お兄ちゃんを探しに行って、見つからなくて、2人で泣いて……あれから7年。どこで何してるんだろ」


お母さんも頑張ってるんだから、私も泣いちゃいけないって思って、ずっと我慢してた。


探偵ごっこみたいに行方不明事件を追い掛けても、お兄ちゃんに繋がる情報なんか有りはしないのに、いろんな未解決の行方不明事件を追い掛けては、糸口のなさに落ち込み、その度に小豆に慰めてもらってた。




それから2人でどれだけ話しただろう。


ずっと会話が途切れなかったわけじゃない。2人とも黙ってる時間の方が長かったぐらいかも。


辺りはすっかり真っ暗になってた。


「やっぱりここにいた」


「円?」


唐突に、車道を流れる車のライトをバックに仁王立ちのシルエットで現れたのは、受験勉強で忙しいはずの円。


「アンタのおばさんから、アンタがまだ帰ってないし電話も出ないから、どこにいるか知らないかって連絡が来て、まさかと思って来てみたら」


公園の入り口からずんずんと歩きながら、怒ったような、でもまだそんなに本格的に怒ってる感じじゃないような口調で言う円。


円に言われて、藤田君の家に行くときに、失礼だからってスマホをマナーモードにして、鞄に入れっぱなしだったのを思い出した。


「うぁっ…」


取り出すと、お母さんからの着信が25件。頭は一瞬で現実に戻った。


「ほら、帰るぞ」


ぶっきらぼうな口調で、ちょっと怒った顔の円だけど、お母さんに怒られる前に、このお母さんモドキみたいな円に怒られたのは、心の準備的にはある意味良かったかも。


背の高い円が差し伸べてくれる手が、嬉しかった。




「で、どこまで進んでるの」


「え!?いや、私と山田君はそういう仲じゃ…」


「今の話の流れからどうやってそうなるんだ」


「南子ちゃん、私もそう思うよ…」


公園からの帰り道、駅までの道を3人で歩いて帰る中で、今日あった出来事を私と小豆で円に説明して、円に言われた一言を盛大に勘違いして、小豆にも突っ込まれてしまった。


「今回の…藤田だっけ?家まで行ってただ泣いて帰ってきたわけじゃないんでしょ?」


「………えっと」


小豆を見る


「あ、うんと…写真、写真は見せてもらったよ」


さっきも説明した事だけど、小豆がフォローするように言ってくれた。


「でもそれって、南子が校長室で見せられたのと同じ物だったんでしょ?」


そうなのだ。結局2週間以上過ぎて何も進展してないんだ。


藤田君の事件は本当に目撃者が居なくて、紫の蝶も本当にいたのかどうかはわからない。


クローバーに付着してた紫の粉が、蝶の鱗粉だってわかれば、可能性は出てくるけど。


「でも、今までもいくつか紫の蝶が絡む行方不明事件あったけど、どう絡んでるかは結局ナゾなんだよなぁ」


「…円、今なんて!?」


「ん?だから、紫の蝶がどう絡んでるのかは…」


「その前!!他にも紫の蝶が目撃されてる事件があるの!?」


「・・・え?」


こっちが聞いてるのに、なんで円が疑問符浮かべてる?


「ネットで調べたら、3つぐらいあったけど…」


「ええー!!?」


私と小豆の声がハモった。




結論から言うと、私と小豆が知らないのも無理はなかった。


1つは、ドイツで起きた事件で、あとの2つは中国で起きた事件だったから。


もちろん、ネット記事はそれぞれドイツ語と中国語で書かれてるから、私達に読めるはずもなく…


「ああそうか、そうだよね。ほら、アメリカの事件の時さ、めっちゃ英文翻訳したじゃん。あれで私英語だけはめちゃくちゃ成績良くなってさ、翻訳とかにちょっとハマったんだよね。でさ、勉強で疲れるとネットの英語記事読んでリフレッシュするようになったんだ」


意味がわからなかった。なんで勉強で疲れてるのに英語読んでリフレッシュできるの?


これだから天才は。


「でさ、こっから面白いんだけど、英語がわかると、他のヨーロッパの言葉がちょっとだけ理解できたりするんだよね、フランス語とか、ドイツ語とかさ。それでドンドンハマっちゃって、それでたまたまドイツで12歳の女の子が行方不明になった記事見つけてさ、勉強の合間に翻訳してみてたんだよ」


「へ、へー」


小豆も、あんまり美味しくないご当地料理の食レポをするタレントさんみたいな顔をして、円の話に相槌を入れる。


お人好しで気遣いの塊みたいな小豆がこんな顔するなんて、明日は雪が降るかもしれない。


「あ、じゃあこのままウチ来る?翻訳したノート見せてあげるよ」


「え!!いいの!?」


「あ、でも…」


紫の蝶に関係する話に興奮する私とは対照的に、小豆が申し訳なさそうな顔で呟くから、私と円は同時に小豆の方へ顔を向ける。


「あ、ううん、なんでも……そうだね、南子ちゃんが見たいなら、私…」


「いいよ小豆、そんな気を遣わなくても。何か言いかけたでしょ?何だったの?」


円が尋ねると


「あ、えっと……あ、あんまり遅くなると、お母さんが心配するから…」


「あ!!そうだった、忘れた!!」


お母さんからの25件の着信をすっかり忘れてた!!


スマホで時計を見ようと手に持った瞬間、自宅の家電からかかってきた。


「あ、もしも…」


『南子!?アンタ何処で何してるの!!』


「ごめんなさい…」


『まったく、何時だと思ってるの!?電話も出ないで、何のための携帯電話よ!!』


電話口で腰を低くして、お母さんにひたすら謝る私を同情の眼差しで見つめる小豆と円が


「またにしようか」


って話しをまとめてた。






「シュト…シュトゥ…シュトゥッツ…」


「シュトゥットガルト。カタカナも読めないのかオヌシは」


次の日、私達は放課後に円の家に集まった。今日はもちろんお母さんの許可を取ってある。あんまり遅くなるなとは言われたけど。


久し振りに入った円の部屋は、勉強の出来る円らしくキチンと整理整頓されていて、ベッド周りの小さなヌイグルミや小物でさえ整列している。昔から変わらない部屋の様子に、円らしさを感じて安心した。




私や小豆じゃさっぱりわからない、ドイツ語のネット記事を見せられた後、円が翻訳したっていうノートを見せてもらったけど、ドイツの地名が読みにくくてなかなか進まない。


その、シュト…なんとかっていう町で当時12歳の女の子が行方不明になった事件。


学校帰りの時間帯だから目撃者も多く、何もない普通の歩道で少女は忽然と姿を消したらしい。


そして


「多くの人が、非常識な大きさの紫の蝶が飛んでいるのを目撃……」


「南子ちゃん…」


お兄ちゃんの事件以外で、初めて目にした目撃情報。私とずっと一緒に少女探偵団やって来てた小豆も、感情を漏らすように私の名前を呼ぶ。


()()()()あった」


私は、ずっと確信してた。根拠はないけど、他にも紫の蝶が絡む行方不明事件はあるはずだって。


そしてやっと見つけた。


いや、“見つけてもらった” だな。


「ありがとう円。やっと一歩前進だよ」


「意外と落ち着いてるじゃん」


円は、自分が成した功績を誇ろうともせず、冷静に突っ込んでくれる。


「ん?ああ、言われてみればそうだね。私も、もっとテンション爆上がりするかと思っていたけど、うん、何か知んないけど落ち着いてるね」


円に言われて気付いた。まるで、取れなかった歯の隙間に挟まったササミのスジが取れたぐらいの、ホッとした感情っていうか、そんな感じが正直な今の気持ちだ。


これで一歩進める。


「そういえば円、この事件の関係者の人と連絡とか取ってる?」


「取ってないよ。息抜きに翻訳しただけだからさ」


「むー、そっかぁ」


相手が外人だとどうしていいかわからない。


「そもそも、それってドイツ(向こう)のTV局が出してるネット記事だから、その女の子の家族の連絡先なんて載ってないし、TV局に問い合わせても、個人情報なんて教えてくれないと思うよ」


「んむぅ…」


「それよか、こっちの方が南子的には興味深いんじゃないかな」


そう言って、円は私の手からノートを抜き取り、ページをめくって返される。


「くろ、りゅう……え?」


「はぁ……黒龍江(ヘイロンチャン)。日本語読みならで黒龍江(こくりゅうこう)でいいよ」


円、お願いだからため息吐かないで。文系150人中3桁(それ以上は詳しく言えない)の順位を常にキープする私に学を求めないでおくれ(泣)


フリガナも振ってない中国の地名や人名につっかえながら読んだ私は、内容はボンヤリとしか入って来なかったけど、中国の監獄で囚人が集団で行方不明になり、その際大きな紫の蝶々が多くの囚人たちに目撃されたという事件だった。


そして、私は最後の一文に目を止めた。


「この件に於いて、日本人旅行者が1名巻き込まれているため、日本の警察も協力し捜査中!?」


「そう。つまり、日本の警察にも情報があるはずなんだ」


「まどかぁ〜!!」


「うわっ!?ちょ!!」


そりゃもう、円に抱き着かずにはいられないでしょ!!


円のふくよかなお胸に顔を埋め、私は2日連続で号泣した。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

2022.3.6.誤字の修正をしました。

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