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第6章【辺境の農村なのに魔法使いばかりのチート集落で申し訳ありません】6

第6話【恐怖の再来】




足の傷の痛みに耐えたのかはわからないが、巨大魔蝙蝠の方もレンへと向いて、再び攻撃体制に入る。


怪音波を出されると、集中力を奪われて魔法を使えなくなるので、先制攻撃を仕掛けるべくレンは動く。


通常の居合の構えから、柄の先をグッと下の方へ向ける。




── 一法流居合抜刀術【逆絹月(さかさきぬづき)】──





斜め下方向に引き抜かれた石刀は、跳ね上がるような掬い上げの軌道を描き、巨大魔蝙蝠を真下から斬り上げる。


相手は飛ぶ魔物だ。目測の距離では避けられる可能性が高い。


レンは巨大魔蝙蝠との距離の倍の長さで石刀を振ったが、巨大魔蝙蝠はなんと羽搏き一つでこれを避けた。


だが、完全には避け切れなかったようで、右の羽根にザックリと裂け目が入っていた。


たまらず地面へと降り立つ巨大魔蝙蝠。


10m下の地面に逃げた巨大魔蝙蝠に追撃をかけようと火系の魔法で攻撃を放つが、無傷の左羽根の一振りで掻き消されてしまう。


直後、巨大魔蝙蝠は耳鳴りのような音で甲高く鳴いた。


怪音波攻撃かとレンは身構えたが、巨大魔蝙蝠は一声鳴いただけで、右羽根の裂け目を舐めていた。


痛みで怪音波が出せないのか?


そう思ったその時、巨大魔蝙蝠が出現してから、姿を消していた小さい魔蝙蝠──巨大魔蝙蝠と比較して小さいだけで、普通の蝙蝠と比べれば十分大きいが──が特攻してきた。


あの一鳴きは手下の魔蝙蝠への指示だったようだ。


レンは珍しくイライラしていた。


早くアークを助けに行かないとならないのに。


魔蝙蝠をほぼ全滅させ、あとはミーユをカーズに預けて飛んで行くだけだった所へ、いきなりラスボス気取りで現れたこの巨大魔蝙蝠。


思い通りに行かないことが、人間誰しも最もストレスになるというが、全部片付いたと思った所へ追い討ちをかけられるのが一番堪えるのだ。


「邪魔」


ちょっとキレ気味のレンは、炎を纏わせた石刀で、あっという間に小魔蝙蝠を全滅させた。


苛立ったレンの剣術は、道場主で師範である祖父を彷彿とさせるほどに鋭い。


再び巨大魔蝙蝠へ向かおうと石壁の外を見ると、眼前に巨大魔蝙蝠が羽搏いていた。


治癒系の魔法を使えるのか、破れた羽根も最初に傷付けた足も治っていて、巨大魔蝙蝠は宙高く舞い上がって行く。


そして再び、怪音波でレンを苦しめる。


レンは魔法を使う集中力も出せず、たまらず後ずさる。その拍子に足元に何か硬いものを踏んで、反射的に飛び退いた。


案の定、そこに居たのは大百足。


飛び退いたレンを追撃するように、踏まれた大百足が襲い掛かる。


「わっ!!」


レンはとっさにムカデの触覚を握り、ぶん投げた。


それがたまたま巨大魔蝙蝠に向かって飛んでいき、巨大魔蝙蝠はとっさに避け、同時に怪音波が止む。


これだと思ったレンは、他にも大百足がいるはずだと辺りを見渡す。


すると、ちょうど石壁を登って来たばかりの大百足が1匹、こちらを捕捉し向かって来ようとしていた。


レンは、その大百足に向かって石刀を突きの要領で伸ばす。


「わっ!!」


同時に再開される怪音波攻撃に顔を顰めるも、なんとか石刀を大百足の口に突っ込み、正面から串刺しにした。


どうやら外殻は硬いが口の中は攻撃が通用するようだ。ファンタジー世界における表面の硬い魔物の弱点は同じみたいだ。


怪音波に耐えながら、刺した大百足を巨大魔蝙蝠に向けて思いっきり振る。


難なく避ける巨大魔蝙蝠。だが一瞬怪音波は止んだ。


巨大魔蝙蝠が体勢を整えると、また怪音波が始まる。


どうやら怪音波攻撃ができる体勢が決まっているようだ。


レンは串刺しにした大百足を何度も振るが、間合いが掴まれているので当たらない。


レンは、大百足を振りながら、祖父京四郎の稽古を思い出していた。




ー

ーーー

ーーーーー




バシッ!!


「あうっ」


剣術の師範でもある祖父、京四郎の竹刀に打たれ、蓮次郎は堪らず声を上げる。


「情けない声を出すでない!!」


「はひぃ…」


「声が小さいっ!!」


「はいぃぃい!!」


小学5年の夏休み。せっかく蓮次郎たちの世代から早朝のラジオ体操がほぼなくなったというのに、それより早く起きて祖父の早朝稽古を受けていた。


「今、ワシの胴への攻撃に気付けたか?」


「…はい、気付いてました」


「うむ、だが避けられなかったな」


「…はい」


避けられなかったことを怒られると思って、背中を丸めか細い声で答える蓮次郎。


だが、祖父から叱責の言葉はなかった。


「面に集中した攻撃を繰り返し、防御を単調にさせたところへ違う角度からの攻撃を入れることで、相手に防ぎにくくさせる戦法じゃ。あらゆる格闘において基本となる戦い方の一つで、一法流では “水鏡月戦法” と名が付いておる。水鏡月戦法にはいくつか型がある。この夏休みの間に基本となる水鏡月戦法の型を全て教える。よいな」




ーーーーー

ーーー

ー




レンは、幾度目かの攻撃で、それまで180度程の振り幅で振っていた大百足を、大きく背後まで振り戻す。


大ぶりの一撃を入れるモーションだが、戦いに慣れた人間ならともかく、魔物の蝙蝠は気付かない。


振り戻したところで大百足を抜き、深く一歩踏み込み、倍の剣速と3倍の長さの石刀で、縦に振り下ろした。


扇状に横から来る攻撃に慣れていた巨大魔蝙蝠は、避け切ることができず、左肩口から身体を真っ二つに斬り裂いた。


「ギィーッ!!」


驚いたことに、左羽根と下半身を失い地面に落下しても、巨大魔蝙蝠はまだ残った右羽根をばたつかせ、もがいている。


レンは石刀を伸ばして地面に突き立て、それを伝って地上に降りた。


巨大魔蝙蝠の額を石刀で突いて、とどめを刺すと、巨大魔蝙蝠の大きな魔力がレンに流れ込んだ。


石刀を引き抜いて、レンは一息つく。


同時に、聞き覚えのある咆哮が聞こえた。






「ウウウゥ!!」


「ぐっ…くっ…!!」


魔狼の噛み付き攻撃を、アークは石刀を横にして魔狼の口に突っ込んで何とか耐えているが、少しずつ押されている。


魔狼は片目に大きな切り傷を負い、ダラダラと血を流し、他にも身体中に傷があるが、全く体力が落ちる様子はない。


それどころか、仲間を全滅された怒りからか、その迫力には鬼気迫るものがあった。


「くっ…そう!!」


このままではラチがあかないと考えたアークは、石刀の真ん中から魔狼の口の中へ向かって石の針を伸ばし、そのまま後頭部まで貫いた。


魔狼の力が抜け、腹を蹴る勢いでそのまま大地を転がり、片膝をついた姿勢で体を起こす。


腹を蹴られた魔狼は、横っ腹から崩れるように倒れこむが、頭を貫かれているというのに、それでも魔狼は立ち上がって、フラつきながらもアークを睨む。


「はぁ、はぁ、これでも、死なねーの、かよ…」


脳を貫かれた魔狼は、立ち上がりはしたが、平衡感覚を失っているのか、真っ直ぐ歩けないでいる。


アークは魔狼の横っ腹を蹴飛ばし、再び魔狼を地面へと転がすと、剥き出しになった喉に石刀を突き立て、頚動脈を斬った。


普通の狼と比べ、体高が倍の魔狼の首を斬り落とすのは、かなりの技術が必要だ。


疲労とダメージでフラフラの今、そこまでの集中力を引き出す余裕もないし、殺すだけならわざわざ首を落とす必要もない。


魔力が流れ込むのを感じ、魔狼が事切れたことを確認したアークは、倒れるように座り込んだ。


なんとか片付いた、そう息を吐いたその時…



ゴアァアアァァァ…



どこかで聞いたことのある、地鳴りのような咆哮が聞こえた気がした。


何か巨大なものが近付いて来るような、微かな地響きも感じる。


「チッ…」


舌打ちを一つして、アークは石刀を杖代わりにして体重を預け、立ち上がった。


夜の闇の中、平原の先に巨大な獣の影が揺らめく。




アークは思い出す。


突進してきた勢いのみで、当時自分が全力で出した石壁を簡単に破壊されたことを。


今なら自分も同等のものを作り出す自信がある、当時のレンが作った石壁ですら、雷魔法の一撃で破壊されたことを。


死を覚悟し、せめて一矢報いようと、飛び掛かってくる巨大な魔物に対して、最後の魔力を振り絞り石槍を突き立てた。


アークが見たのは、それが最後の記憶だった。


レンが倒したというが、どう倒したのか自分は見ていない。


だが、今の自分が当時のレンと同等ならば、負けることはない。


たとえ魔力が尽きかけ、満身創痍だとしても。


あの時のレンだって、雷撃の直撃をくらい、空高く舞い上げられ、地面へと叩き付けられた状態で勝ったのだ。


条件は同じ。


コイツに勝つことが


レンに勝つことだ。


これでようやくスタートラインだ。


絶対に倒す。


そう心に気合の刃を立て、アークは石刀を腰に携え、暗闇から姿を現した巨虎に対峙する。






「まさか…」


巨大魔蝙蝠から石刀を引き抜いたレンは、アークがいる方から巨大な獣の咆哮を聞いた気がして、そちらの気配を探った。


暗闇の向こうの様子は視覚ではわからないが、何か大きな力を持った存在が居る様な、そんな気配を感じる。


魔狼や大百足がレンを取り囲んでいるが、正直相手をしている余裕は身体的にも精神的にもない。


石刀を釣竿のように振り石壁の上に引っ掛けると、そのまま石刀を縮めて壁の上に跳び、ミーユを守っていた石のドームを開く。


光魔法で小さな光を出してミーユの顔色を確認すると、血色も悪くはないようなので一安心し、そのまま抱き上げた。


性懲りも無く登って来る大百足を蹴散らして、石の屋根に隙間を開けてミーユを片手に抱えたままシェルターの中へ一旦避難する。




「レン!!大丈夫か!?」


「レン!!ミーユ!!」


レンの姿を見つけたカーズとミルクが駆け寄って来た。


4つあるテントの2つが倒れ、あちこちで物が散乱しているが、石壁の中は粗方片付いているようだ。


隅の方でコジロウが、自分より大きな魔蝙蝠をガジガジと食っていた。


どうやらコジロウも活躍したようだった。


魔蝙蝠も十分な強さを持った魔物だったように思う。


コジロウも人間の魔法使いと同じように、魔物を倒して強くなるのだろうか?


こうして懐いたまま、あの巨虎のように強くなってくれるのなら頼もしい限りだが。


「ミーユ、大丈夫なの!?」


ミルクが、眠っているミーユを心配して、悲痛とも感じる声を上げる。


ぐったりしてピクリとも動かないミーユが死んでいるとでも思ったのか、今にも泣き出しそうな顔をしているミルク。


「大丈夫だよ、魔力切れで眠ってるだけ」


そんなミルクを見かねてレンが優しく言うと、ミルクの表情がホッと綻び、力が入って張っていた肩がスッと降りた。


「よかったー」


「で、レン。外の様子はどうなってる?」


同じく、レンとミーユの無事が確認できてホッと胸をなでおろした様子のカーズが、レンからミーユを預かり、状況を確認する。


「蝙蝠は全部倒したけど、狼と百足はまだいる。それよりアークが…」


レンは、アークがいる方から聞こえた魔物の咆哮の話をする。


レンから語られた話に、カーズは信じられないと言った顔を横に振る。


なんでこの顔で『オーマイガーッ』て言わないのか不思議なぐらい、『オーマイガーッ』が似合うと、レンは場違いな連想をする。


「狼3頭でも正直心配だったけど、もしあの時と同じ魔物(ヤツ)だったら、本当に危険だから、僕は直ぐにアークを助けに向かうよ」


「待てレン、だったら俺も…」


今までに見たこともない鬼気迫る表情のカーズ。


ミーユの無事を確認し、せっかく安堵したミルクも、再び目を潤ませ顔色を青くしている。


しかしレンは、そんなカーズを制した。


「カーズはここに居て。これだけの魔物が現れたんだ。まだ何かが起こらないとも限らない」


カーズは一瞬悩んだ。


弟の危機に自分が行かないでどうすると。


しかし、レンの言うことももっともである。


魔蝙蝠との戦いで、マーサーも魔力切れを起こしてテントで休んでいる。


ここの防衛も確かに大事だ。


そして何より、この数ヶ月間生活を共にして、ここ一番の危機にレンがいかに頼れる人物かを肌で感じていた。


普段は気弱で大人しく、到底このような魔物の蔓延る夜の森で生き延びられるようには見えないが、この男に任せておけば間違いないと、思考よりも感情が訴えるほどに。


「…わかった。気をつけるんだぞ!!」


「うん、ありがとう。ミーユをよろしく」


「ああ、レンもアークをよろしくな!!」


2人の男は固い握手を交わし、レンは壁の窪みを登って行った。


石壁の向こうに、強大な魔獣の咆哮が聞こえた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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