第6章【辺境の農村なのに魔法使いばかりのチート集落で申し訳ありません】5
第5話【魔蝙蝠】
石壁は、四方の壁の中で1枚だけ他の3枚より分厚くなっている壁がある。レンはその厚くなっている壁に向かって走りながら、壁の中の様子を見ていた。
既に魔蝙蝠は何匹か囲いの中に入っていて、マーサー達が対応に追われている。
「たつまきー!!」
その中で、小さなミーユが大きな竜巻を起こし、魔蝙蝠を3匹まとめて吹き飛ばした。
「あれだ!!ミーユ!!」
「あ、レンにいちゃん!!」
ミーユの表情がパッと明るくなる。どうやら最強魔法幼女でも、次々と凶悪な魔物が襲い来るこの状況は、不安だったようで、大好きで頼れるレンにいちゃんの登場で、その不安が一気に吹き飛んだようにレンのいる方へと駆けて来る。
レンも、ミーユの無事を確認できたことに安堵するとともに、たった今ミーユが魔蝙蝠を退治した様子を見て、あることを閃いていた。
「ミーユ、ちょっと手伝って欲しいんだけどいいかな?」
「わかった!!」
そのままミーユは、石壁に空けた昇降用の窪みのある所へ進路変更する。
壁を降り始めていたカーズは、レンがミーユへ指示する声が聞こえて、降りる手を止めた。
「レン!!ミーユは危険じゃ…」
カーズの言おうとした事は、当然の感覚だ。危険な魔物の森へミーユを連れてきているのは、ミーユが高い魔法力を有しているのもあるが、自分たちが守り切れることが大前提にある。
いくら攻撃力の高い魔法を扱えたとしても、身体能力や基本的な戦闘力はただの幼女だ。
壁の上から魔狼を狙い撃ちするのとはわけが違う。
ミーユが戦える状況は、向こうからの攻撃がこちらに到達しない、もしくは周りのメンバーで守り切れることが必須条件だった。
空を飛ぶ魔物が、しかも大群で迫っているところに、ミーユを連れて行けるはずがない。
「僕1人より、ミーユがいた方が早い!!」
だがレンは、いつになく厳しい口調で、珍しくカーズの言葉に被せて来る。
「どういう…」
言いかけてカーズは、レンが魔蝙蝠をやり過ごすのではなく、倒そうとしているのだと覚った。
同時に、火属性の魔法使いであるカーズは、ミーユを呼んだレンが何をしようとしているのかすぐに理解出来た。
カーズも、風属性のマーサーのサポートで、火魔法をより強力な火力にする連携技を持っている。
レンとミーユのレベルなら、自分たちの比ではない、より強力な魔法攻撃が出来るだろうことは容易に想像つく。
そしてもう1つ、アークのこともある。
空からの魔蝙蝠と、地上には大百足がいて、更に魔狼も10数頭残っている。
これらの魔物を放置したまま、はたしてアークを無事に助けに行けるかというと、いかにレンでも難しいのかもしれない。
いつものレンなら、みんなを石壁の中に避難させ、1人でアークを助けに飛んでいったことだろう。
だが、レンとて半数の魔狼をアークとたった2人で相手取っていたのだ。
その上で、たった1人で魔蝙蝠と大百足を相手にするのは厳しいのかもしれない。
削げる戦力は削いでおくに越したことはないのだろう。レンの様子からカーズはここまで考えた。
その上で、レンがミーユの協力を必要としていることと、攻撃力は高くても防御に関してはただの幼女のミーユを危険なところへ出すことを天秤にかけて考える。
危険だと感じるが、今はそれに頼るしかないのか…。
「わかった!!だがミーユは絶対守れよ!!」
サポートで自分が残ることも考えたが、壁の中で奮闘するマーサーと、大きな獲物を解体する用のビッグナイフを振り回して、必死に魔蝙蝠の攻撃から身を守るミルクとサラの姿を見て、こっちも戦力が必要と判断して、外のことはレンに任せた。
「もちろん!!」
そのやり取りの間にも、数匹の魔蝙蝠が壁の中へ入っていく。
魔蝙蝠の身体は、6歳にしては小柄なミーユより少し小さい程度だが、羽を伸ばした幅は2mを超える。
それが何百匹という群れで飛んでくるのだ。
いつの間にかミーユの出した光球も消え、夜は再び濃い闇に染まっていた。だが、そんな中でも、一面を覆い尽くす無数の影がはっきりとわかる。
レンは、厚くなった壁にたどり着くと、しゃがんで手を着き魔力を込める。
レンの意思に従って、他の壁より厚くなった部分が高波の様にせり上がり、ミーユが登って来る部分だけ隙間を空け、石壁の上に屋根として覆い尽くしていく。
その間にも更に何匹かの魔蝙蝠の侵入を許してしまった。
飛行速度が速い個体なのか、先行隊なのかはわからないが、本隊より先に20匹程が壁に到達していたようだ。
カーズとマーサーがいるのだ。大丈夫だろうと2人を信じ、レンは屋根と壁を魔力で結合した。
そして、屋根を閉じたのと同時に、何百匹という魔蝙蝠が石壁を取り囲み、けたたましい羽搏きの音を立てて飛び回る。
あと一歩遅れていたらと思うとゾッとする。
レンは薙刀のように長くした石刀に炎を纏わせ、迫る魔蝙蝠を追い払った。
「うわー!!」
石屋根の隙間から顔を出したミーユが、魔蝙蝠の大群にパニックになって大声を上げる。
「ミーユ!!頭を下げて!!」
レンの声に素直に頭を引っ込めるミーユ。
ミーユの逃げた隙間に数匹の魔蝙蝠が群がるが、魔蝙蝠は体の大きさはミーユより少しだけ小さいが、羽を広げた状態ではその隙間には入れない。
ミーユが頭を閉じたと同時に、レンは隙間の方へと大きく踏み込み、炎を纏わせた長い石刀を更に長く伸ばし大きく振った。
数匹が巻き込まれ、炎を上げて落下していき、他の魔蝙蝠も炎に驚き一斉に遠ざかった隙に、ミーユを引き上げる。
『ミーユごめんね、危ないところへ呼んじゃって』
『うん、大丈夫』
慌てているのか、ミーユを安心させるためか、ニホンゴで話すレン。
レンは、ミーユを引き上げると屋根の隙間を隠し、石のアーチを6本重ねて2人が余裕で入れる大きさの鳥カゴのようなものを作る。
そこに炎を纏わせると、炎が苦手な魔蝙蝠は寄って来ることはなかった。
魔法の炎は、燃える素材でなくても纏わせることができる。これはカーズに教えてもらった。
少し暑いのを覚悟していたが、熱は上に行くので、中は意外と暑くない。時間が経てば蒸し焼きになるだろうけど。
『ミーユ、蝙蝠を全部吹っ飛ばすぐらいのデッカい竜巻起こして』
『わかった!!』
ミーユはレンの指示を受けると、すぐにモーションに入った。軽く腰をかがめて、両拳をぐっと握って構える。
幼女が気合いを入れようとするそのポーズは、こんな状況でありながらもどこか可愛げあり、ついほっこりしてしまいそうになるが、ミーユの顔は真剣だ。
「スーパーたつまきー!!」
魔法発動の言葉と同時に、屈めた身体と腕を伸ばして天を仰ぐ。
ミーユの魔法発動に合わせ、レンは炎と石のアーチを消し、瞬時に魔力を高める。
ミーユの大竜巻は、10m四方の石のシェルターよりも遥かに大きな渦を巻き、無数の魔蝙蝠を巻き込み天へと吹き上げた。
「MAXファイアー!!」
その大竜巻に合わせ、レンも最大火力で火炎放射を放つ。
炎を巻き上げた竜巻は、夜の森に突如巨大な火柱を生み出し、飲み込んだ数百の魔蝙蝠を丸焼きにした。
「ギャオッ!!」
腹を貫かれた魔狼が地面に倒れる。
即死こそしないものの、致命傷にはなった様で、血を吐きながら苦しそうにもがくのを横目に、アークが残る1頭と対峙したその時、石壁の方で暴風が吹き荒れるような轟音が唸った。
「なんだ、あれは?」
轟音に振り向くと、突如夜の闇を巨大な炎の竜巻が貫いて、夜の森を不気味に照らした。
ザッ!!
アークが振り返った隙を突いて、魔狼が襲い掛かった。アークは咄嗟にカウンターの様に石刀を突き出すが、魔狼の体を掠めるに止まり、突進の勢いの乗った前足の突きをまともに食らって吹っ飛ぶ。
上手く受け身を取り、立ち上がり様に石刀を横薙ぎに振ったことで、魔狼の追撃は何とか避けたが、時間差で前足に突かれた左肩がズキズキと痛んだ。
「チッ、レンのせいだ」
どうせアレはレンの仕業だろう。あれだけ巨大な炎の竜巻がカーズに起こせるはずがない。
向こうで何が起きているのかは知らないが、このダメージはレンのせいだということにして、後で謝らせようと決めたアークだった。
およそ7〜8秒、炎の竜巻がうねり続ける。
「んんー!!」
ミーユが必死の形相で唸り声を上げる。どうやら限界のようだ。
竜巻に巻き込まれた魔蝙蝠はほぼ一瞬で燃え上がり、逃れた魔蝙蝠もこれ以上巻き込める様子もない。
『ミーユ、最後にバーンてして!!』
『わかった!!』
レンの指示に従い、ミーユは両手をバッと開く動作とともに「バーン!!」と叫び、竜巻を四散させ、タイミングを合わせたレンも、最後に火力を限界以上に増幅させた。
本当はもっと細かくコントロールして魔蝙蝠を1匹残らず焼き尽くしたかったが、必死の形相で竜巻を回し続けるミーユの様子から、そろそろ限界だと感じたレンは、爆発させることで少しでも魔蝙蝠を巻き込もうと思い付いたのだ。
思った通り、炎の竜巻を回避していた魔蝙蝠たちが何割か巻き込まれて、燃えながら飛んでいくのが見えた。
何百匹といた魔蝙蝠は、2、30匹程度へと数を減らした様に見える。
生き残った魔蝙蝠たちは、こちらを警戒するように距離を置いて羽搏いていた。
爆風に吹き飛ばされた魔蝙蝠は、殆どが壁の外へ落ちたが、何匹かは石の屋根の上にも落ちてきた。驚くことに、その殆どが死に切れず痙攣している。
『あれだけの炎に焼かれて、まだ死なないのか』
痙攣する魔蝙蝠の1匹を手に持ち、石刀で首を切る。魔蝙蝠は絶命し、魔力がレンに宿った。
『レンにいちゃん、ねむい』
レンの服の裾を掴んで、目を擦るミーユ。
必死の形相で竜巻を起こしていたミーユは、案の定魔力切れを起こしたようだ。
魔狼との戦いで、魔力量に任せた弾幕掃射をしていた様子をレンは見ていないが、ミーユの戦い方は予想できる。
既にかなり消費したあとだったろうに、あれだけの大技をやってのけたのだ。もう休んでいてもいいだろう。
『ありがとうミーユ、助かったよ。もう寝てていいよ』
抱き上げてやると、レンにしがみつくようにしてすぐに寝息を立て始めたため、一旦下に降りようと、ミーユが登って来た屋根の隙間があった方へ歩き出そうとした、その時。
カサッという音が聞こえた。
音の方を見ると、下にいたはずの大百足がいた。大百足は石壁を登って来られるようだ。
「そっか、まだ百足がいたか」
レンは、石屋根の一部を槍のように突き上げて、大百足を吹っ飛ばした。
「え?」
その様子に、思わず声を上げるレン。
他にも登って来た大百足がいたので、同じ要領でまた吹っ飛ばす。
「貫けないなんて、随分硬い体なのかな?」
レンは、貫き殺すつもりで石槍を出したのだが、大百足の殻は無傷かどうかはわからないけど石槍は刺さらないようだ。
魔物は元々普通の動物だ。虫系の魔物とてそれは同じで、大百足も元は普通の百足が魔力を帯びて魔物の百足になった。
魔力を帯びて魔物となった動物は、本能に従いその体を強化する。
体躯が大きくなるのは、野生の生き物としては強さの象徴なので、ほぼ全ての魔物が元の動物と比べて倍以上の大きさになる。
小さな生き物ほどその比率は高くなる傾向があるようで、鼠や蛙、虫系の魔物は殆どが元の生物の10倍前後の体長になる。
変化するのは大きさだけではない。
牙や爪を発達させ、より攻撃性を増す魔物や、目や耳などの情報収集器官が発達する魔物、そして体毛や外骨格などの防衛機能が発達する魔物と、様々だ。
百足も魔物になることで、身体を大きくし脚を倍増させ、殻を強化したのだ。レンが思ったように、大百足の殻は石よりも硬く強力だった。
そして、誰も食らわずに済んだのでレンは知らないが、その毒は触れただけで致死するほどに凶悪な進化を遂げている。
とにかく邪魔にさえならなければいいと切り替えたレンは、屋根に居る大百足をすべて吹っ飛ばしまくる。
「早くアークを助けに行かないと」
レンは焦っていた。
アークが限界なのはわかっていた。だが向こうに置いてきたのは、こっちで何が起きているかわからなかったから。
何が起きているのかわからない方と、脅威がわかっているがその危険度が明らかな方と、苦渋の決断ではあったが、レンは後者を取った。
最後のムカデを吹き飛ばし、ミーユを下に運ぶために、再び屋根に隙間を開けようとしたとき、突如頭が割れるような怪音が響いた。
「うわっ!?」
慌てて振り返ると、さっきまでの魔蝙蝠の10倍ぐらいありそうな、超巨大な魔蝙蝠がバッサバッサと翼をはためかせ、レンに向けて殺気と怪音を放っている。
巨大魔蝙蝠は、レンが振り返ったところで怪音波を止め、爪の鋭い足を向けて襲いかかった。
レンは咄嗟に石刀を作り出し、これを回避。距離を取る。
上手く足に石刀が当たったようで、巨大魔蝙蝠の方も上空へ逃げ、飛んだまま器用に足の怪我を舐めている。
「まったく、早く行かなきゃいけないってのに…!!」
レンは、静かに、けど語尾を強くし呟いた。
怪音波の止んでいる間に、ミーユを地面に置いて、石のドームで囲う。
空気穴を開けようと思ったが、あの怪音波攻撃があるので大きめに作り、中の空気が保つ内に巨大魔蝙蝠を仕留めると決め、居合の構えを取った。
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