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第6章【辺境の農村なのに魔法使いばかりのチート集落で申し訳ありません】4

第4話【狼だけじゃなかった】




鏃に炎を灯した矢が、しなる弓から放たれる。


弓矢の速度など、魔狼にとって避けることなど造作もないが、その避けた弓矢が不意に軌道を変えて真横から襲ってくると、魔狼といえど避けきれず脇腹や尻に直撃する。


「こりゃ楽ちんだ」


石壁の上にしゃがんだ姿勢で、ヘラヘラ笑いながら、両手の指先を不規則に動かしているマーサー。


その両隣には、スレンダー美少女と巨乳美少女を侍らせているが、どちらも血の繋がった妹なので別段嬉しくもない。


スレンダー美少女の方は、昔は腹違いの妹だと知らなかったので、鼻の下を伸ばして追いかけていたこともあったが、血が繋がっていると分かってからは、可愛いとは思っても下心は湧かなくなった。


「これなら私たちも戦えるね!!」


スレンダー美少女、サラが嬉しそうに矢を振り回す。




ミルクとサラに持って来てもらった弓矢でマーサーがやったのは、所謂追跡ミサイルだった。


風属性の魔法使いマーサーならではの技で、放った弓矢の軌道を風魔法でコントロールすることで、より確実に相手にヒットさせるという寸法だ。


練習では、目視できる距離で止まっているものなら百発百中で当てられた。


機動力に優れた魔狼でも、7割程度の確率で命中させているので、非常識な精度だと言える。


それを見たミルクとサラが、自分たちの矢も誘導して欲しいと言いだし、2人のサポートをしているうちに自分で矢を放つ余裕がなくなり、結果としてサポートに専念していた。


そこへカーズが、魔法で鏃に炎を灯し火矢にしてやり、致命傷でなくても炎でダメージを与えられるようになり、より大きな戦果を出し始めた。


そんなわけで、カーズも鏃に火を灯す係として後方に控え、直接攻撃するのは2人の美少女という構図が出来上がっていた。




「かぜかぜカッター!!」


そしてここにもう1人、圧倒的な攻撃力で魔狼を仕留め続ける少女…というか幼女がいる。


ミーユの放った風の刃は、目視不可能の凶悪な攻撃として、魔狼を虐殺していく。


既に石壁に迫っていた魔狼は大部分が地に倒れ、残っているのは数えられる程度になっている。


ミーユはカーズに禁じられた雷魔法と、攻撃力の無い光魔法以外の風、水、凍を、思い付くままに放ちまくっている。


正直、物量に任せた弾幕掃射が基本なので魔力コストは非常に悪いが、高い潜在魔力がその戦い方を可能にしていた。


「あのやり方でまったく出力が変わらないってのは、マジでチートだな」


ミーユの戦いの様子を見て、マーサーが零す。


それを聞いていたカーズがフッと笑う。


「アークもあれだけ強くなったんだ。俺たちだってやり方次第で追いつけないわけじゃない。アークとレンが帰って来たら、下へ降りて魔力を回収しよう」


土属性持ちの2人が遠くへ行ってしまったので、この石壁の中から出る手段が無い。


壁の外は、万が一猿系の魔物が来た場合も考えて、登れるように作っていない。


唯一の出入り口は、一辺3mの石柱によって塞がれているので、土属性の魔法使いで無ければ開閉できない。


なので、今のこの状況では、仮に外へ降りられたとしても、何かあった場合に石壁の中に避難できないのだ。


アークやレンがいなくても出入り出来るようにしておこうと、カーズは心のメモに記しておいた。




「カーズ兄、なんか言ったか?」


不意に、マーサーが振り返り、カーズに尋ねる。


「いや…あれ、声出てたか?」


ミルクもサラも、数が減ってきた魔狼を追うように少し離れた所で矢を射っている。


どちらにせよマーサーの魔法で誘導するのであまり変わりはないが、獲物はちゃんと狙いたいのだろう。


なので、マーサーに聞こえるとしたら確かにカーズの声しかない。


心のメモに記しただけで、声には出してなかったと思ったのだが、どうやら無意識に声に出していたらしい。


「アークやレンがいないと、外に出れないだろ。だから俺たちだけでも出入り出来るようにしておこうって思ってな」


「ふーん」


聞いてきた割には興味のなさそうなマーサー。


カーズも、そんなマーサーの様子を特に気にすることもなく、火を灯した矢をミルクとサラに渡す。


「…まただ」


お調子者のマーサーらしくない、緊張した声音で言って立ち上がる。


「どうした?」


「変な声っつーか、音がする」


風属性のマーサーは、以前カーズ家を訪れた同じ風属性の魔法使い、ジョゼフが使っていたという声を風に乗せて遠くまで届かせる魔法を応用して、普通は聞こえようもない遠くの音や小さな声を、風に乗せて聞き取るという魔法を編み出していた。


魔物の森の奥深くまで入る様になり、そういった索敵方法も重要だと、みんなに重宝がられて調子に乗った結果、かなりの精度に昇華した。


今も、ミルクとサラのサポートで比較的楽に戦闘に参加しているので、片手間に周辺状況を確認していたのだが…。


立ち上がったマーサーは、後方に目を向けた。


「しまった、よく見えねぇ」


ずっと炎の明かりを見ていたせいで、淡い月明かり程度の光量では、夜闇の中の様子がよく見えない。


「ミーユ」


カーズは、魔狼を翻弄して遊んでいる様に戦うミーユを呼ぶ。


「なーに、カーズにぃ」


ミルクたちの呼び方を真似て返事をするミーユ。


「光の玉を、あっちの遠くの方に出せるかな?」


「うん、できるよ!」


言うなり、魔法を発動させようとするミーユを一旦止めて、マーサーにミーユを囲いの反対側へと連れて行かせる。


ミーユのことなので、光量を抑えた光球を出すことはないだろう。


こんなところでそれをやられたら、しばらく下の様子が見えなくなる。


「この方向に光の玉を飛ばしてみて」


マーサーは、風魔法で音を集めて方角を測り、ミーユに指し示した。


ミーユは煌煌と輝く光の玉を出し、マーサーの誘導に従ってそれを飛ばす。


目をやられない様に手で塞いでいたマーサーは、そっと目を開き、飛んで行く光球を目で追う。


「距離があるな。ミーユ、その位置で上の方に上げて」


言われるままに光球をコントロールし上昇させるミーユ。


するとその光に照らされ、無数の羽ばたく影が、虚空に現れた。


「蝙蝠か!?」


その正体に気付いたマーサーは、慌ててカーズの元へ戻る。


ミーユの光球に照らされた蝙蝠の数は、はっきりとは分からないが決して少ない数ではなかった。


もしこれが、魔狼の群れと同じかそれ以上の数がいたら、ヤバイかもしれない。


「カーズ兄!!蝙蝠の群れが飛んでくるぞ!!」


「やっぱりそうか。あの数はまずいな」


カーズの所からも蝙蝠は見えた様で、既にミルクとサラを下に逃がしていた。


「マーサー、レンを呼び戻してくれ。ここに蓋をして避難するぞ」


「わかった。レン!!アーク!!戻れ!!」


マーサーは石壁の淵に立って、レンとアークが戦っている方へ向かって大声を上げて、それを風に乗せて届かせる。




「何か聞こえた?」


魔狼の首を石刀で切り落としたレンが、後ろにいるアークに聞く。


アークはそれどころではなく、2頭の連携攻撃を石刀で捌いていた。


「来るな!!」


レンが助太刀に入ろうとするが、アークに止められる。


アークは、姿勢を限界以上に低くして、一方の魔狼の懐に転がり込む様に入った。


転がり込んだ勢いのまま、魔狼の腹を横薙ぎに斬る。魔狼はたまらず転がり、続く動作で襲いかかるもう一頭を袈裟斬りに斬り捨てる。


2頭ともまだ息があり、アークはとどめを刺して魔力を回収する。


「マーサー兄だな」


マーサーが、風に乗せて声を遠くに届かせる魔法を練習していたのを知っているアークは、今しがた聞こえたのがそのマーサーの声だとわかっていたようだ。


「なんか光ってる」


ミーユの光球の光が、ここまで届いていた。


「お前、行ってこいよ。こっちは1人で足りる」


見れば、こちらに向かって威嚇をしている魔狼は残り3頭しかいない。


その3頭とも、どこかしら傷付いていた。


普通の動物なら、この状況までやられればとっくに逃げている。


魔物化したとは言え、生存本能に大きな変わりはないはずだ。こうなってまで襲ってくるのは異常であるが、レンは元々よくわかっておらず、アークにとっても己が強くなれること以外考えていないので、2人ともこの異常性に気付いていなかった。


「大丈夫?」


「ナメんな」


それ以上言うとお前から殺すぞ?とでも言いたげな、殺気丸出しのアークの視線を受けて、レンは石刀を背中に構える。


「無理しないでね」


言って石刀を太鼓橋状に伸ばして飛んで行くレン。


「うるせぇ…」


最後に心配して言葉をかけるレンに、独り言のように言い返すアーク。


実際、レンの心配は正しいと言ってよかった。


アークがレンを先に行かせたのは、もう飛んで行くほどの魔力があるかどうか怪しかったからだった。


レンに抱えて飛んでもらうという方法もあるが、それをプライドの高いアークが選択するはずもない。


今しがた倒した2頭も、魔法を使って戦えばもっと早く片が付いたが、あえて剣術だけで戦ったのは魔力が残り少なかったからだ。


魔物の魔力を吸収しながら戦っているとはいえ、その魔力がすぐに自分の力になるわけではない。


ジョージ曰く、「魔物から魔力が流れると、丹田の辺りにぼんやり暖かくなる感じがして、半日〜1日経つと基礎魔力が上がっている」のだそうだ。


今日狩りまくった魔狼の魔力は、明日にならないと身に付かないということだ。


食った肉が直ぐさま筋肉になるわけではないのと同じことなのだろう。


体力もそろそろ限界に近いが、相手の魔狼も手負いだ。


アークは石刀を左腰に携え、居合の構えを取った。




「なんて数だ…」


既に十分視認できる距離に迫った蝙蝠の群れを見て、カーズが呟く。


先程の魔狼の群れが、小手調べだったのではないかと思うほどだ。


正確な数など把握出来ないが、魔狼の数倍はいるだろう。


個々の戦闘力はわからないが、空を飛ぶ以上倒すのは厄介だ。レンとアークが戻って来たら、石壁の中に逃げてやり過ごそうと考え、マーサーもミーユも中に逃がし、1人壁の上でレンを待っていた。


壁の外で魔狼が吠えた。


見ると、少し離れたところにレンが着地しているが、様子がおかしい。


所々で燃えている炎に照らされたレンの足元に、魔狼とは別の何かがいる。


細長く蠢くそれを、カーズは繊毛のような物が生えた蛇だと思った。


魔狼と蛇のような魔物がレンに襲いかかろうとしているが、レンは素早く足元の地面を迫り上げ、壁の上へと逃れて来た。


「レン、大丈夫か?アークはどうした?」


「狼があと3匹だから、残って戦ってる」


「何だって!?」


全員で石壁の中に避難するつもりだったカーズだが、アークが此処へ戻ってないとなると、1人だけこの危険な状況に放置することになる。


「新手が出たんだね」


どうしたものかとカーズが考えていると、レンが聞いてきた。


そうだ、とりあえずレンに状況の説明だけでもしないと。


カーズは、魔蝙蝠の大群が現れ、石壁に蓋をして避難しなければならないことをレンに伝える。


「蝙蝠?うわっ!!」


カーズに指し示され、その脅威を目の当たりにし、思わず声に出して驚くレン。


「蝙蝠に百足か、他にも何か来たら厄介だね」


「ムカデ?」


「うん」と言って今度はレンが指差す。


その方向、壁の外を改めてカーズが見ると、なるほど、蛇だと思ったのは百足だった。


ただ、その大きさは1.5m程あり、色も赤ではなく黒っぽいように見える。そのせいで蛇っぽく感じ、蠢く無数の脚が繊毛に見えたようだ。




アークの所から、石柱を魔法で収縮させて飛んで来たレンだが、あとひとっ飛びで石壁というところで刺さった石柱を抜くと、そこに体長1.5m程の大百足が絡みついていた。


焦ったはレンは咄嗟に石柱を石刀に変え大百足をぶっ叩いたが、そのせいで魔狼と大百足が彷徨くど真ん中に落下してしまった。


八方から魔狼と大百足に襲われそうになり、土属性魔法で難を逃れたということだった。


しかし、魔狼に続いて魔蝙蝠に大百足まで現れたのなら、まだ他にも何かいるかもしれない。


レンは警戒心を強め、残して来たアークを早く助けに行かなくてはと、すぐそこまで迫った魔蝙蝠の大群を睨んだ。


ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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