第5章【モブ気質なのに何故かハーレム系主人公のような展開で申し訳ありません】6
第6話【住民が増えた】
「なるほど。ユキさんとサラがまたここに住むのは問題ないと思う。だがこの家はダメだぞ」
熊男ミッツが腕組みをしたままカーズを睨むように──だが口元は笑って──言う。
お調子者のマーサーも無口のアークも、ミッツの言葉に同意するようにうんうんと首を縦に振る。
「あ、ああ。それは、俺もわかっている」
無駄に抑揚のある話し方と、一瞬泳ぐ目線。わかってはいるが、あわよくばと多少は思っていたような、ちょっと残念そうなカーズ。
嫁が妊娠中なのだ、ちゃんと謹んでいただきたい。
「あら、私は2人と一緒でもかまわないわ。むしろ賑やかになっていいじゃない」
そんなカーズの心境に気付かないはずのないアリルが、いたずらっぽく微笑む。
「いやいやいやいや」
カーズ、ミッツだけでなく、マーサー、アークと男兄弟全員が、利き手を顔の前でブンブンと振り、綺麗に声をハモらせた。
ユキとサラがカーズ家を訪れ、明けた翌日。カーズ家に兄弟妹5人とミッツの婚約者セシリア、そしてレンとミーユが集まっていた。
ミーユの足元ではコジロウが寝ている。
昨夜、レンが帰ってくるなり留守を任せ、カーズはミッツの家まで馬を走らせた。
ユキとサラが帰って来たと告げると、男どもは途端に目を輝かせるが、セシリアの手から放電の音が聞こえた途端に大人しくなった。
カーズに留守を任されたレンは、自己紹介もそこそこに、ユキと故郷日本の話題で盛り上がった。
もちろん、日本語で。
ユキは、日本での生まれ年はミーユの母親と同い年だったというが、現在は10歳以上の開きがある。
さらに言えば、14歳で転移したユキは、当時35歳のジョージと出会ったが、日本ではユキの方が2つ年上だったという。
「ジョージさんが言うには、あっちからこっちの世界へ来るときに時間を跨ぐ、みたいなことを言っていたわ。わたしには難しくてよくわからなかったけど」
ジョージとユキも、ニホンでの生まれた年とこの世界での歳の差に違いがあることから、向こうと此方とで時間の流れが違うのではないかと話していた。
しかし、ジョージが知り得た “世渡り人” の情報を整理すると、どうも時間の流れの差に法則性が見出せないとのことで、世界間を渡る際に時間もランダムで超えているのかもしれないと、ジョージは考えたらしい。
そうだとすると、元の世界に還ったときに同じ時代に戻れない可能性もあるかもしれない、とレンは思った。
だが、今はミーユにそれを伝えるべきではないと考える。まだ理解できないだろうし、母親に会いたがっているミーユにわざわざ会えなくなる可能性の話をすることはない。
そんな話も含め、人気グループが解散したとか、日本一大きな建物がどこそこにできたとか、ユキとしては約四半世紀振りに聞くニホンの話に、レンとしても久し振りのニホンゴでの会話に夢中になり、カーズが戻ってからも話は止まず、結局夜遅くまで話していた2人は寝不足であった。
そのため、レンとミーユは今日の狩りには参加しなかった。
午後になり、兄弟たちが集まって来て家族会議が始まり、カーズが状況をざっくり説明しての、ミッツの意見だった。
「じゃあ、私ん家で暮らそうよ!!」
ミルクが大きなミルクタンクを揺さぶるように身を乗り出し、目をキラキラさせて言った。
「ミルクの家!?住みたい、一緒に!!」
すかさずサラが反応し、立ち上がりながら歓呼の叫びをあげる。
向かい合って座っていた2人は、テーブル越しに手と手をガシッと取り合い見つめ合った。
「おいおい、そうしたらミルク、アリル義姉さんの手伝いはどうするんだ?」
「あ、そっか」
舞い上がる若い妹たちにミッツが慌てて突っ込むと、ミルクはハッとして、バツが悪そうにアリルの方へと目を向ける。
「ごめん、アリル姉…」
「いいのよミルク。昼間だけ手伝いに来てくれたら今のところは間に合うから」
そんなミルクに、アリルは優しく微笑む。
「大丈夫?アリル姉」
「夜はカーズもいてくれるし、大丈夫よ」
再度心配するように問うミルクだが、アリルはむしろ今の状況の方が過剰に保護されているので、逆にみんなもっと気にせず自分の時間を使って欲しいと訴えた。
そんなアリルの意見もあり、1ヶ月前にカーズ家とミッツ家に編成した居住み分けを、カーズ家、ミッツ家、そしてミルク家とに再編し直した。
カーズ家には、カーズとアリルの夫婦。
前衛となるミッツ家には、ミッツとセシリアにマーサーとアーク。
そしてミルク家には、ミルク、ユキとサラの母娘、そしてレンとミーユとコジロウになった。
元々レンとミーユのためにユキには来てもらっているので、ユキとサラの母娘がミルクと住むのなら、必然的にレンとミーユも住まいはミルクの家ということになった。
ただ、ミルクの家はミッツの家の隣にあるため魔物の森も近く、また、何かあった時にミルクがすぐにアリルの元へ行けないからと、ミルクたちはカーズ家の隣にあるマーサーの家を借りて住むことになった。
ミルクからわかりやすく解説してもらい、これから同居する面々を見渡すレン。
童顔巨乳のミルク、モデル系美少女のサラにその母親で美魔女のユキ、そしていつも傍にいる幼女ミーユ。
あらゆるジャンルを網羅したハーレム状態になるわけだが、そのことをレンはまだこの時、全く意識していなかった。
同じ頃
魔物の森の奥深く、レンが敷いた荷馬車の通れる道から、更に馬車で乗り込んだとしても3日はかかるほどの所に、昨夜カーズ家を出たジョゼフの姿があった。
「あったあった、これ程大きければいい具合に “コロニー” が作れるでしょう」
ジョゼフの手が触れているのは、大きな黒い岩壁。
少しきつめの傾斜の山肌から飛び出すように埋もれているその大岩の高さは、ジョゼフの身長の3倍ほど。その高さと同じぐらいの横幅があり、山に埋もれた奥行きはどれほどあるのかわからない。
仮に横幅と同じ奥行きだとすると、岩の重さは80tを超える。
レンより背が高い筋肉質なジョゼフの体重が80kgだとすると、軽く1000倍はある。
「さあ、出ていらっしゃい」
岩に触れた手から魔力を流すと、一瞬ズズンッ…と大きく地響きがした。
周囲が微弱な地震のように揺れ、小石や土が振動で落ちていく。振動は木々の枝葉まで伝わり、ざわざわと揺れて葉が舞い落ちる。
大岩に触れた手をジョゼフがゆっくり引くと、大岩は山肌に埋まったその姿を徐々に表し始めた。
剥き出しになっていた部分と埋まっていた部分の色の違いが、確実に山から引きずり出されていることを物語る。
やがて、埋もれていた部分が剥き出しになっていた乾いた色の部分よりも大きくなると、大岩は自重で傾き始める。
ジョゼフは昆虫が跳ぶかのごとく、自身の身長を大きく超えて跳躍し、大岩の落下軌道から逃げた。
ズンッ…と地鳴りを立てて大岩は山の斜面に落下すると、その勢いのまま山肌を転がり落ちていく。
落下の衝撃の1つ1つが森を山を揺らし、木立ちも物ともせずにへし折って突き進んでいく。
その様子を見ていたジョゼフはポツリと呟く。
「思ったより大きかったですね。持っていけるかな?」
大岩の抜けた部分を見ると、完全に山の形が変わっていた。
むき出しになっていた部分はほんの一部で、実際には高さも幅もジョゼフの身長の10倍以上あり、奥行きはその幅の3倍ほどある。
重量は推定で10,000tを超える。
完全に見積もりを間違えたが、まぁいいかと転がり落ちていく大岩を追って、ジョゼフは跳ねる様に山を下って行った。
大岩は、山の谷間を木々をなぎ倒しながら進んでいき、やがて山肌にぶつかり止まっていた。
もう少し転がってくれたら滝を落ちていたが、大岩の形状のためか、大岩が止まった地点から滝までが若干登り坂になっているためかはわからないが、大岩は滝からあと50mというところで止まっていた。
ジョゼフは大岩を押す様に手をかけ…ふと周囲を見渡した。
獣の様な鳴き声がさっきから遠くに聞こえているのは知っていたが、それとは別の生き物が、こちらに静かな殺気を向けている。
ジョゼフは、左の口角を笑みの形に持ち上げると、殺気のする方へと無造作に腕を振った。
瞬間、ジョゼフから30mほど離れたところの地面が爆発する。
巻き上げられた土砂は噴煙となり、しばらく視界を妨げたが、そこから巨大な影が躍り出た。
以前、レンが森で倒した巨虎よりも2回りほど大きな熊の魔物が、ジョゼフ目掛けて突進する。
魔物の体を覆う剛毛は、一本一本が武器として使えそうなほどの強度を持ち、生半可な刃物では皮膚に到達することすらないだろう。
その巨大で鋭い爪と前脚の力は、岩石を易々と打ち砕き、凄まじい突進力でほんの瞬きの間にジョゼフの眼前へと迫る。
「まったく…」
掌を巨大熊に向けてジョゼフは面倒臭そうに呟く。
刹那
熊は不可視の衝撃波に吹き飛ばされ、樹々を何本と薙ぎ倒しながら地面に転がって行った。
最初の位置より随分遠くまで転がって行った熊は、小刻みに震えるだけで起き上がることはなかった。
まるで羽虫でも追い払ったかのような鬱陶し気な顔から、気を取り直したジョゼフが再び大岩に魔力を流すと、大岩が浮き上がった。
「はい、じゃあ前進しまーす」
ジョゼフが声を掛けると、大岩は地響きを立てながら動き出した。
浮き上がったように見えたのは、大岩の下に足が生えていて、なんと大岩自ら歩いているのだ。
大岩は、まるで生き物のように器用に滝を越えると、滝壺から流れ出る川に沿って歩いて行く。
森の中を、地響きと樹木の薙ぎ倒される音が響いた。
翌日、農園の兄弟妹たちは引っ越し作業に追われていた。
と言っても、ミッツの家に住む4人は変わらずそのままなので、カーズ家から引っ越していくミルク、レン、ミーユと、新たにこの農園の住民となるユキとサラの引っ越しが主だ。
ミッツの巨馬が引く大きな荷馬車と、二頭引きのカーズの荷馬車に荷物を積んで、隣のマーサーの家へと運び込む。
隣と言っても広い農園の中のことで、馬車で行っても数分かかるが。
幼女のミーユも含めて5人分の引っ越しとなるが、レンが育ったニホンのように大きな家電がいくつもあるわけでもないので、引っ越しの荷物自体はそんなに数はない。
午前中には粗方運び終わってしまったので、運び込んだ荷物の片付けは午後からということにして、カーズ家でみんなで昼食を取っていた。
「そういえば、レンはジョゼフに会ったか?」
昨日の出来事をふと思い出したカーズが、あの時ジョゼフと入れ違いで帰ってきたレンに尋ねた。
あのタイミングなら、森へ行くと言っていたジョゼフと道の途中で会っているはずだが、どうにも曲者感の強いジョゼフだ、言葉と行動が伴っているのか、カーズは確認したいようだ。
「ジョゼフ?ジョゼフ…ジョゼフ…」
不意に思い出したように尋ねたカーズが気を使ってゆっくり話さなかったこともあり、聞き取ることに集中したレンはジョゼフの名に、聞き覚えはあるけどすぐに心当たりが出てこない。
「昨日の夜…」
そうカーズが補足を言いかけると
「あ!!えっとぉ…」
思い出し「幌馬車の人」と言おうとしたが、「幌馬車」という言葉がこっちの言葉でわからないレン。
「馬車」はもちろんわかるが、今の生活環境にないものの単語はわからないのだ。
「や、“屋根ある馬車”、の人」
考えた挙句、そう答えたレン。
「ああ、そうだな、屋根のある馬車か。あれは“幌馬車” って言うんだぞ」
「ほ、幌馬車。屋根のある馬車、ほ、幌馬車」
「そうそう。そうか、レンはジョゼフとすれ違ったか。じゃあやっぱり」
「兄貴、ジョゼフってなんだ」
レンとカーズが話していると、ミッツが割り込む。
この田舎の更に奥地で聞き覚えのない名前に気になるのは当然だった。マーサーとアークも興味ありげに見ている。
「私たちをここまで送ってくれた人よ」
そんなミッツに、カーズの代わりに答えたのはユキ。
「コセ・シティの商人で、結構強い魔法使いって自分で言ってたな」
そして更にカーズが補足する。
「そいつが、どうかしたのか?」
ユキを送ってくれた大都市コセ・シティの商人で、自称強力な魔法使いと言うのなら何も問題はないが、ジョゼフの話題を出した時の兄カーズの雰囲気から、どことなくよからぬ気配を感じたミッツ。
「ああ、もう日も暮れて遅いから引き止めたんだがな。出て行ってしまったんだ」
「おいおい、そんな時間から帰って……ちょっと待て、レンとすれ違ったって?」
この農園から何処へ行くにも山や森を越える。
東の村へ行くとしても、陽が沈んでからの山越えとなり、小さな山とはいえ危険だ。
しかも、自分の家からカーズの家へ向かっているレンとすれ違ったということは、村とは逆、すなわち…
「ああ、魔物の森へ向かうと言っていた」
「バカな、夜の魔物の森なんて自殺行為だぞ!!何故止めなかった!?」
「いや、止めたって」
「けど…なんでまたそんな時間から森へ行ったんだ、そいつは」
「俺が知るかよ。まぁ、只者じゃない感じだったし、何か考えがあってのことだろ。俺たちだって近々魔の森で泊まり込みの計画をしてるし、不可能ってわけじゃない」
ミッツはチラッとレンを見る
「それは、レンがいるから」
そう、レンの強力な土魔法があればこそ、魔物から身を守る即席の石小屋を作れる。それがあっての泊まり込みの計画なのだ。
「ジョゼフがレン以上なら、可能ってことだろ?」
「そうか」
謎の人物の斜め上の行動に、理解がなかなか追いつかないミッツ。
そこへ、アークが身を乗り出してギラギラした目でカーズを見る。レン以上と聞いて、途端に気になったようだ。
「詳しく聞かせてくれよ、カーズ兄」
カーズは、昨晩知り得た謎の男ジョゼフに関して、時折ユキの補足を受けながら兄弟たちに話した。
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