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第5章【モブ気質なのに何故かハーレム系主人公のような展開で申し訳ありません】5

第5話【夜道】




ジョゼフが出て行くと、部屋の中はシーンと静まり返った。


夕陽はその姿を西の地平へと沈め、空は僅かに茜を残すのみとなり、部屋の中はすっかり暗くなっていた。


「いつの間にか真っ暗ね。カーズ、灯りをお願い」


「ああ、そうだな」


アリルに言われて立ち上がり、部屋の各隅に設置されたランプに魔法で火を灯していくカーズ。


「ごめんなさい。なんか、大事に巻き込んでしまったみたいね」


徐々に明るくなっていく部屋で、ユキが申し訳なさそうに呟いた。


「いいのよ、ユキさんのせいじゃないし」


そう言いながら立ち上がるアリル。


「さ、ミルク、夕飯作ろっか」


灯りをともすカーズの後ろ姿を眺めながら、ぼーっとしているミルクに声を掛けて、キッチンへと移動する。


「うん」


アリルの声でスイッチが入ったようにゆっくり立ち上がるミルクは、一旦キッチンへと行こうとして足を止め、さっきから気になっていた事をカーズに聞いてみた。


「ねぇカーズ兄、魔人て何?」


──魔人──


ジョゼフが言っていた “魔法使い狩り” の犯人と言われているもの。


カーズは知っていたようだが、ミルクとアリルは初めて聞く存在だった。


アリルも気になるようで、キッチンで作業の準備をしながらもこっちを見ていた。


「森の最奥に棲むと言われている、ヒト型の魔物だ」


カーズは、一瞬手を止めたが、簡潔に答えるとまたランプに灯を付けて回る。


森の最奥に棲む……それだけで想像もつかないほどの凶暴な魔物を連想してしまうが、そんな存在が想像つかなかったのか、アリルもミルクも特にリアクションがない。


「人間は魔物化したらゴブリンになるんじゃないの?」


それよりもミルクは違うことが気になって聞いた。


「そうだな。魔人はヒト型ってだけで、元々人間だったのかどうかはわからない」


「そっか」


ミルクが言うように、ゴブリンは魔物化した人間だと言われている。


実際に人間がゴブリンになったところを目撃した例もいくつかあり、事実だと認識されていた。


“魔物の森でゴブリンと遭遇したら何もしないで隠れてやり過ごすのが礼儀” というこの世界の暗黙のルールのようなものがあるが、その理由はゴブリンが “元人間” だからだ。


もちろん、向こうから襲ってきた場合には迎撃する。


人間が魔力を浴びると、必ずしもゴブリンになるわけではない。どういう基準で魔物化するのか、理由はわかっていないが、少なくとも世渡り人やその子孫だとわかっている者が魔物化した例はないと言われている。


“世渡り人は魔法が使える” というのは、“魔物化することがない” という意味も含んでいるようだ。




「昔、親父が “チーレム” というのを目指して、魔物の森の最奥を目指していた時に魔人に遭遇したらしい。当時親父は最強の魔法使いを自称してたらしいが、対面した瞬間手も足も出ない圧倒的に格上の存在だと感じたそうだ」


「へえー、すごいね魔人て」


そう言いながらミルクはアリルを手伝うためにキッチンへと入っていく。


「そんなすごいのが魔法使い狩りしてるんなら、サラもユキさんもここにいた方がいいよ」


と、言いながら。


そんなミルクの言葉に、ずっと黙っていたサラが


「ミルク…ありがとう」


と、ようやく言葉を話した。


「へへっ」


そのサラに、ミルクは笑顔で応えた。


「そうだな。町よりは安全かもしれないな」


カーズはさっきまで迷っていたが、今し方自分が話していた内容から、ある1つの考えが浮かび、そう結論を出す。


「よく考えたら、森の最奥にいるっていう魔人が森の外に出て来れるわけもない。強い魔物ほど魔力のないところではすぐ死んでしまうと、さっきのジョゼフも言っていたし」


「なるほど、それもそうね」


アリルがカーズの考察に同意する。


「じゃあ…」


「ああ、2人を歓迎しよう」


こうして、ユキとサラの引越しが決定した。


美人母娘が手を取り合い歓んでいると、唐突に玄関が開き、さっき出て行ったばかりのジョゼフが慌てた様子で顔をだす。


「すいません、大事な事を忘れていました!!」


「どうしたんだ?」


対応するカーズをチラリと見て、すぐに視線を手を取り合っている美人母娘に向け、再びカーズを見るジョゼフ。


「ユキさんとサラさんの引っ越しの件は…」


「たった今、2人にここに住んでもらうことが決まったところだ」


「それは良かった。では、私はこれで」


「待て、本当にこの時間から行くのか?」


「ええ、ご心配ありがとうございます。私は大丈夫ですよ。では」


カーズが呼び止めるも、ジョゼフは一礼して出て行く。その扉が閉まった拍子に、何かに気がついたようにユキが慌てて立ち上がった。


「待ってジョゼフさん、馬車に荷物が!」


「あ!!」


玄関を出て行ってしまったジョゼフを追うようにユキも外へ走り、その後ろからサラが付いて行く。


「手伝って来るよ」


そう言って立ち上がるカーズ。


「明日、ミッツ達を呼ばなきゃな」


言いながら外へと出て行った。






慌てるユキに「これはすいません、忘れるところでした」と荷物を渡し、ジョゼフはカーズ家を後にし、夜の農道を幌付きの馬車で走る。


ジョゼフの馬車は、カーズやミッツの荷馬車のような荷台に、木製の柱と梁を組んで厚い布を被せただけの簡単なものだった。


このままだと雨が降れば染みてしまうが、風属性の自称けっこう強い魔法使いであるジョゼフであれば、風の幕を張ったまま馬車を走らせることなど容易であった。


「随分綺麗に均された道ですね。これならば、もう少し早く走っても大丈夫そうだ」


そう言って馬車のスピードを上げるジョゼフ。


この農道も、レンが来てから更に綺麗に均されていた。


日本で育ったレンは、日常の中では舗装された道路しか知らない。


ミッツの家から魔物の森へ向かう道を均した時にみんなにすごく喜ばれたので、調子に乗ってこのメインの農道も土魔法で綺麗に整えてしまったのだ。




一頭引きの馬車で、普通の馬の全速力に近いスピードまで加速するジョゼフ。


彼の馬もサイズ感は普通の馬だが、どうやらミッツの馬と同じく魔物のようだ。


馬車の幌の上には大きめのランタンが吊るしてあるが、夜道を走るには心許ない。だがジョゼフも馬も、気にする様子もなく高速で夜の農道を駆けていく。




ふと、その行く手に明かりが見えた。


揺らめくことのないその明かりは、炎の明かりでない事を示すが、炎以外の光源をほとんど知らないこの世界の者にとって、それは不思議な光に見えるはずだった。


「おや?珍しい。光属性の魔法使いがいるのかな」


しかし、ジョゼフはその明かりの正体に簡単に気付いた。


光属性の魔法使いなど、ここの兄弟妹たちでさえ身内以外に知らないのだが。




レンとミーユは、カーズに借りた馬に跨り夜道を走っていた。


走るといっても、勢いよく走るわけではなく、速歩で進んでいるだけだが。


レンは、昭和に生まれた侍のような祖父に育てられた。


居合剣術の師範であった祖父には、剣はもちろん馬術も仕込まれたことがある。


と言っても小学生の頃の話で、実際に手ほどきをしてくれたのは牧場を経営する祖父の友人だったが。


流石にいくら厳しい祖父の友人といえど、預かった他人の孫を祖父と同じようにスパルタで鍛えることはなかったが。


そんなわけで、何度か馬に乗った経験があったレンは、カーズに頼んで練習させてもらい、今ではレンとミーユの2人だけで馬に乗ることを容認されている。


もちろん、ミーユの懐には仔虎──ミーユは仔猫と信じているが──のコジロウが抱かれている。


『レンにいちゃん、なんか来るよ』


『ほんとだね。カーズかな?』


レン達にも、ジョゼフの馬車のランタンの明かりが見えて、2人はカーズがこっちへ向かっているのではないかと思った。


『ちょっと遅くなっちゃったから、迎えに着てくれたのかな?』


レンもミーユもこの世界の言葉を少しずつ覚えてはきたが、まだまだカタコトでしか話せないので、2人の時は元の世界の言葉 “ニホンゴ” で会話をする。


今日の狩りは、馬車で日帰りできる限度まで道を完成させてきたので、森を出る頃には夕陽が地平線に隠れる寸前だった。


今後は、そのポイントに小屋を建て、泊まれるようにする計画だ。


レンの土魔法があれば、低レベルの魔物では決して入って来れない強固な土壁を作ることもできる。


これまでは、魔物が出る森での野営が出来なかったために日帰りで行ける範囲でしか狩が出来なかったが、いよいよその奥へ挑戦するんだと、皆息を巻いていた。




「おーい、カーズ」


相手の馬車の走る音が聞こえる辺りまで来て、レンはこちらに向かって来ているであろう人物の名を呼ぶ。


この世界の言葉にも「さん」や「様」などの敬称は存在するが、教えてもらっていないためレンはカーズ達を呼び捨てで呼ぶ。


どちらかというとその辺りは西洋文化に近いようで、誰も気にすることはない。


レンは呼んですぐに違和感に気付いた。


『なんか、カーズの馬車っぽくないな』


カーズの馬車であれば、御者席に座るカーズが松明を持っているが、前方からやって来る馬車は高い所に灯りがついているように見える。


案の定、声は届いているはずなのに、向こうからの返事がない。


相手の馬車が速度を緩め始め、レンも馬を止める体制に入った。


『お屋根がついてるね』


『うん、誰の馬車だろ?』


幌の上に吊るされたランタンに照らされるのは、見たこともない白い服を着た人物。


幌付きの馬車自体、この世界に来て初めて見るレンとミーユだった。


白い服の人物、ジョゼフは馬車を止めると、座ったそのままでレンの方を向いて一礼する。


レンとミーユも、ペコリと頭を下げて応えた。


「こんばんは。カーズさんのご兄弟の方ですか?」


『あ…えと…』


レンはちょっと困った。


カーズ達は、レンがまだカタコトでしか言葉がわからないのを理解しているので、ゆっくりと簡単な言葉で話しかけてくれる。


そのやり取りに慣れてしまっているレンは、さほど難しくない文章とはいえ、普通に話しかけられたことにより戸惑ってしまった。


更に、元来のコミュ症もあってなかなか言葉が出てこない。


「ミーユ、カーズ、知ってる!!」


戸惑うレンの代わりに答えたのは、レンに抱かれる様に馬にまたがる幼いミーユ。


ミーユもジョゼフの言った言葉を正しく理解したわけではないが、聞き取れたカーズの名に反応して答えた。


「おや、可愛らしいお嬢さん」


ここで初めてジョゼフはミーユの存在に気付く。


幼い少女と、まだ成人したばかりの年頃の少年。


その組み合わせにジョゼフは合点がいった様だ。


「なるほどなるほど。ユキさんが言っていた世渡り人の兄妹かな。

えー『コンニチワ、ワタシワ、ジョゼフ、デス』どうかな?」


ジョゼフが突然 “ニホンゴ” を話すので、レンは更にびっくりしてしまった。


何のことはない、町からここへ来るまでの道中で、ユキに簡単なニホンゴを習っていただけなのだが。


ニホンゴに安心したのか、レンは少し落ち着く。


『あ、えと、レンです。こっちは、ミーユ』


「ふむふむ、よかった、通じたみたいですね」


習ったニホンゴが通じたことで、ジョゼフは顔を綻ばせ、言葉を続けた。


『ワタシワ、コセノマチノ、ショウニン、デス。ユキ、サラ、トモダチ』


『あ、なるほど』


ニホンゴを話す不思議な人物に、レンはこのジョゼフって人のお父さんもニホンジンなのかと思っていたところだったが、カーズから聞かされていた “世渡り人” のユキの名前が出たことで理解した。


相手がニホンゴで話してくれはしたが、挨拶程度の言葉しかわからないだろうと思ったレンは、今度はこの世界の言葉で話す。


「ぼ、僕たち、狩り、い、行った。終わった、帰る、カ、カーズの家」


「おや、随分言葉かわかるんですね」


カタコトで所々痞えながらではあるが、この世界の言葉で話すレンに感心するジョゼフ。


「えー、それなら……私は、さっき、ユキさんとサラさんを、カーズさんの家に、送り届けた。わかるかな?」


「う、うん、わ、わかる。ユ、ユキとサラ、カーズの家、い、いる?」


「おー素晴らしい!!2人、あなたたち、待ってる」


レンに合わせてほぼ単語の羅列で話すジョゼフ。レンはこれを理解し、返してみせた。


レンは決して英語の成績が良かったわけではない。なんなら国語も5段階評価の2程度だった。


語学に長けた才能がなくとも、その語圏に住めば多少なり話せるようになるのだ。


「わかった、ありがとう!!」


そう言うと、レンはジョゼフにペコリとお辞儀をして、馬を進めた。


その走り去っていく姿を見て、ジョゼフは呟く。


「慣れない言葉での会話の最中でも、全く揺らぐことのない魔法の光……彼はもしかしたら……いや、決めつけるのはまだまだ時期尚早ですかね。とりあえず、第1候補としておきますか」


白い服の “自称商人” ジョゼフは、宵闇の中へと馬車を走らせて行った。


魔物の棲む森の方へと向かって。





ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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