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第5章【モブ気質なのに何故かハーレム系主人公のような展開で申し訳ありません】4


第4話【ジョゼフさんのお話】




カーズ家のリビングに、女たちの笑い声が響く。


テーブルの上には、4人分のカップがあり、それぞれにいくらか口を付けた痕が見られ、1つは空になっていた。


徐々に傾く西日は、葦に似た植物を編み込んだ日除けにより遮られ、部屋の中は薄暗さを感じるほど暗くなっていたが、女たちは会話に花を咲かせ気にする様子がない。


「ええー!?そんなことがあったの?」


「そうなの。でね、真相話したら4人ともポカーンてしちゃって…」


この家の夫人のアリルは、突然やってきた2人のゲストにとりあえずお茶を出し、家主で夫のカーズが帰るまでの場繋ぎ程度のつもりで世間話を始めたのだが……


自分の知らない夫の過去に、ついのめり込んでしまっていた。


それが、夫の初恋の女性から語られるので尚更である。


その話題はカーズが帰って来てからも止まることはなく


「ちょ…ユキさんその話は…」


「いいじゃないカーズ、昔のことなんだし!!で、ユキさんそれからどうなったの?」


気まずいカーズを置き去りに、女達は楽しく談笑していた。




ユキの話し口調から、アリルはユキとカーズの間には何もなく、カーズの一方的な片想いだったのだと確信でき、少し安心していた。


正直、カーズの話だけでは2人の関係はよくわからず、もしかしたら顔を合わせた拍子に過去のことがいろいろと思い返され、カーズを奪われてしまうのではと、少々心配していたのだ。


その心配がなくなったこともあり、ユキに関するいろんな噂は聞いたことがあるが、アリルはユキを歓迎すべき好ましい人物だと受け入れた。




「ただいまー」


「どうも、お邪魔します」


ミルクがジョゼフを伴って帰宅した。


見たこともない真っ白な服装に身を包んだジョゼフを見て、アリルが誰かしらと顔を傾げる。


「アリル、カーズ、紹介するわね。ここまで送ってくださったジョゼフさん。コセ・シティの商人さんよ」


「初めまして、ジョゼフです。カーズさんは、先程お会いしましたね」


「ああ」


「あら、そうなの?」


ユキの紹介で簡単に自己紹介するジョゼフ。


「初めまして、ジョゼフさん。どうぞ上がって」


アリルが立ち上がって促すが


「いえ、私はユキさん達を送ってきただけですので、このままで結構ですよ」


「そんな、お茶ぐらいお出ししますので…」


「いえいえ、ほんとお構いなく。それよりユキさん、あの話は大丈夫そうですか?」


アリルが持て成そうとするが、それをなぜか固辞するジョゼフ。


そして、話を振られたユキは、ハッと思い出すように開いた両手を口に当てた。


「ヤダ、忘れてたわ」


「なんのことだい?」


急に話の展開が変わり、気まずさから解放されてホッとしたカーズが尋ねる。


「あの、突然で差し出がましいんだけど、私達をまたここに住まわせてもらっていいかしら?」


本当に突然のことをユキがさらりと言い放った。


「どうして?」


と、アリル。


旦那の初恋の相手が、突然一緒に住むと言い出したことに何か思ったわけではない。


先程の雑談の中で、ユキは結婚してこの土地を離れたと聞いていた。ヤナクの町で旦那さんと暮らしているはずだけど、何かあったのだろうか?と思ったのだ。


ジョゼフは商人としてしか紹介されておらず、ユキの旦那さんではないようだし。


そんなことを思いながらアリルが理由を問う。


「カーズの手紙にも書いてあったから、もうみんな知ってると思うけど、例の魔法使い狩りで主人が大変で…」


曰く、仕事も行かずに四六時中家に閉じこもり、ユキとサラを守ろうとするのだとかで、毎日仕事に送り出すのが大変なのだと言う。


だが、その話も次のユキの言葉で更に重みが増した。


「3人、亡くなったの」


「え?」


「それって、魔法使いが?」


アリルとカーズ、そして話の間にテーブルまで移動して来て椅子に座ろうとしていたミルクが驚愕の表情になり、同席していたサラは下唇を噛み締めて俯いてしまった。


以前村人から聞いていたのは、魔法使いが狙われているようだというだけで、具体的な被害は聞いていなかった分、ショックの大きな話だった。


「その話は、私からお話ししましょうか」


さっきからずっと玄関に立ったままのジョゼフが解説の名乗りを上げた。


「今から1ヶ月半ほど前のことですが、魔法使いが3人殺されたと報せを受けて、私もヤナクの町へ向かいました。詳しく調査したところ、他にも数人魔法使いの方が、同時期に何者かに襲われたと証言してくださいました。彼らの証言から得た犯人像は、異常に身体能力が高かったと言います。例えば、軽く跳躍しただけで家屋の屋根に飛び乗ってしまったとか、走る馬に追いついたとか。このことから、犯人は魔物の森の奥に住むと云われる “魔人” ではないかとも、言われているようです」


「魔人…だと!?」


ジョゼフが言った “魔人” の一言に、カーズが思わず血相を変えて立ち上がった。


「…ではないか、と言われているだけで、まだ確信はないんですけどね。ただ、殺害された魔法使いの中にはヤナクの町で1番と云われる、世渡り人の魔法使いもいたそうで、只者でないのは確かです」


落ち着いた口調のまま説明するジョゼフ。その単調な雰囲気にカーズも落ち着き、ゆっくりと腰を下ろす。


多少慌てることはあっても普段冷静なカーズの今の様子に、アリルとミルクにも緊張が走った。


それぞれ何かしら思ってはいるのだろうが、言葉が出てこない様子なので、ジョゼフは説明を再開した。


「事件を受けて、ヤナクの町では魔法使いの組合のようなものが発足しまして、私も寄ったついでに会合に出席させていただきました。そこでブックスさん…ああ、ユキさんのご主人に、ユキさんとお嬢さんをここまで送ってやってほしいと言われましてね。

ブックスさんとは元々仕事の付き合いもありましたし、話題の魔法使い兄弟妹の村も見てみたいと思いましたので、申し出を快諾した次第でございます」


ジョゼフの話しを聞いていたカーズは、腕組みをしてしばし考え込むような素振りを見せた後、肘をテーブルに着き、指を組んだ手に顎を乗せた姿勢をとる。


カーズが冷静な思考を取る時に見せるポーズだ。


「いくつか聞きたいんだが、魔人に関して町の連中はどの程度知っているんだ?魔人の仕業かもしれないって言われてるってことは、魔人についてある程度知ってるってことだよな」


「そうですね、私も人から聞いたことなので詳しくはわかりませんが、ヤナクの町の人はあまり知らないでしょうね。コセ・シティでは言い伝え程度ですが、知っている人もいます。おそらく、コセ・シティで魔人の話を聞いたヤナクの方が、そう言ったのではないでしょうか」


「そうか。あと、何故アンタは魔法使いが殺されたと報せを受けて、ヤナクの町へ行ったんだ?アンタ、魔法使いだろ?普通なら警戒して近寄らないだろう。アンタ何者だ?」


「ああなるほど。確かにカーズさんのおっしゃる通り、普通はそうですね。

というか、よく私が魔法使いだとわかりましたね」


「さっき畑で会った時、風属性の魔法を使って話してたろ。あの距離ではもっと声を張らないと普通は聞こえない」


「ほう!!さすが噂の魔法使い兄弟妹の御長男ですね。お見それいたしました。実は私、こう見えてけっこう魔法強いんです。魔法使い狩りの噂が立つようになってから、護衛を依頼されることもあるんですよ。なので、今回の件で町の警護の相談なんかも請け負っています」


「そうか」


わざとらしく得意げに話すジョゼフに、カーズはあえて相手のペースに乗るまいと姿勢を崩さずに、低い声で相槌を打つ。


「カーズ、うちの主人が私たちの護衛を頼んだ程の人よ。安心して」


「そう、だな」


不意に、横からユキに言われて、ほんの僅かにカーズの緊張が解けると、ジョゼフも元の落ち着いた感じに戻っていた。


「もう、よろしいですか?」


「ああ、最後に1つ、話題の魔法使い兄弟妹ってのは、俺たちのことか?」


「ええ、もちろん。魔物の森の近くに住む魔法に長けた五人兄弟妹は、私の街コセ・シティでも有名ですよ」


「そうか…ユキさん、ここも安全ではないかもしれないぞ」


ジョゼフの「コセ・シティでも有名」という言葉に、ミルクは少しにやけた顔をしていたが、カーズはより難しそうな表情になり、ユキに考えを告げた。


それを聞いたジョゼフも、ハッと何かに気付く。


「確かに、魔法使い狩りをしている者の目的はわかりませんが、もしここのことが知れたら…」


「もう知れているだろう。俺たちは1ヶ月ほど前に魔物の襲撃を受けた」


「魔物の……襲(・)撃(・)、ですか?」


ジョゼフはカーズの言い回しが気になったようだ。


「襲われた」ではなく「襲撃を受けた」という言い回しが、何か意味を含むように感じたのだ。


「ああ、いつも狩りに行く森で、遭遇したこともない強い魔物とかち合った。俺たちは日帰りで行ける範囲でしか狩りをしていなかったが、あれは俺たちも入ったことがないような、森を何日も進まないと居ないような強力な魔物だった。なんとか逃げ切ったが、魔法使い狩りの噂と関係ないとは言い切れないと思っている」


「ふむ、そういうことでしたら、おそらく心配無いと思います」


「どういうことだ?」


「カーズさん、何故森の奥に棲む強力な魔物は、森の浅いところに現れないかご存知ですか?」


「魔素が薄いから…か?」


「そうです。流石ですね、よくご存知です。魔物は生きているだけで、我々が呼吸をするのと同じように魔力を吸って生きています。強力な魔物ほど濃い魔力を必要としますので、魔力の濃い森の奥の方に棲むのです。

では、森の奥に棲む強力な魔物が、魔力の薄いところに来るとどうなるでしょう?答えは簡単。魔力欠乏となり、最終的には死んでしまいます」


全員が、ジョゼフの説明を息を飲んで聞いていた。


カーズ達兄弟妹の魔物の知識はほとんどが父ジョージによるものだ。


森の浅い所でしか狩りをしない彼らが、森の奥へ行くほど強い魔物がいると知っているのは、実際にジョージが体験したことを聞いていたからだが、では何故森の奥の強い魔物が浅い所へ出てこないのかというのは知らなかった。


「それと、魔物の襲撃が心配無いとは、どう繋がるんだ?」


「簡単です。おそらくあなた方が遭遇したという強力な魔物は、森から出たら数秒で死んでしまうからです」


「そうなのか?」


「はい。今のところ人里を襲ったのが確認されているのは、ゴブリンなどの最弱級の魔物だけです。

強力な魔物ほど、魔力の無い所では早く死んでしまいます。ゴブリンでも、活動できる時間は数時間程度でしょうね」


「そうなのか。ん?」


ジョゼフの説明を聞いて、ふんふんと納得していたカーズが、ふと何か思い当たる。


「俺の弟が、魔物の馬を飼っているんだが、あれは何故大丈夫なんだ?たぶん、ゴブリンよりは数段上の魔物だが」


「おそらくですが、弟さんと共存しているからだと思います。

魔物は魔力が無いと死んでしまいますが、人間の魔法使いは死なないでしょう?不思議に思ったことはありませんか?」


「…言われてみれば。俺たちは親父が魔法使いだったから、疑問に思ったことはないな」


「そうなんですね。人間の魔法使いは、その生命維持に魔力を然程必要としていません。

この辺りは、魔物の発生条件に起因するのですが……魔物は動物が魔力に触れて魔物化する、というのはご存知ですか?」


うんうんと頷く一同。


アリルの持て成しを断りすぐに出ると言っていたのに、ジョゼフは時が経つのも気にせずに語り続けた。


「動物はほぼ本能で動いています。なので、濃い魔力を浴びた際に本能によって体そのものを強化してしまうのです。身体を大きくしたり、武器になるような部位を発達させたりします。

人間と接していた経験のある動物は、二足歩行を獲得したりしていますね。この辺りも、彼らなりの“強化”や“進化”なのでしょうね」


「言われてみれば、二足歩行する魔物は人間が飼っているような動物ばかりだな」


「でしょう?それに対して人間は、“体以外の武力” によって強化する術を元々知っています。なので、身体を魔物化することなく、魔法を扱うという手段を得たと云われています。それによって、魔力の無い環境でも大丈夫なんですね」


「じゃあ、なんで魔力欠乏で意識を失うんだ?」


「当然の疑問ですね。それに関してはコセ・シティの研究者たちの間でも諸説言われていますが、最近の有力な説としては、魔法をコントロールする器官が生命維持と直結しているのではないかと言われています。わかりやすく例えると、魂の力によって魔法を扱っていると考えられますね。私もこの説が有力では無いかと思っています」


ここまで来て女性陣、特に魔法を扱えないアリルはあまり理解していない様子で「ふーん」と相槌を打つ。


カーズは、コセ・シティに魔法使いの研究者がいる事に驚いた。


生まれながらに魔法に接して来た自分たちは、それを研究しようという考え自体持ったことがない。


魔法を覚えて10数年、レンが来た事により始めて新しい魔法の知識を得たぐらいだ。


「話が逸れましたが、弟さんの飼っていらっしゃる魔物の馬は、弟さんの魔力が近くに居るから安定して居るのではないかと思いますよ。なので、もし弟さんがその馬と半日以上離れる事があるようでしたら、誰か代わりに見ていてあげるか、魔物の森の近くに置いておくかしたほうがいいですね」


ジョゼフの説明を聞いて、カーズは一瞬疑問に浮かんだことの答えを得た。


ミッツはごく稀にだが町まで行くことがあるが、その際あの巨馬は置いていっている。


曰く、「町に連れて行くと調子が悪くなる」のだそうだ。その事も今のジョゼフの説明を聞いていくらか納得できた。


ミッツが町へ行く時、巨馬はセシリアとミルクが面倒見ているが、2人の魔法使いが共にいるのだから大丈夫なのだとわかった。


「ジョゼフさん、アンタ物知りだな」


「いえいえ、私なんかみんな人から聞いた話を喋っているだけですよ」


「それでも、俺たちからしたら、なあ」


「うん、初めて聞く話ばっかりだった」


「そうですか。もしよろしければ、いつかコセ・シティへお越しください。その時は、魔法研究会の方々も紹介させていただきますよ」


「ああ、そうだな。いろいろ落ち着いたら行ってみるよ」


「お待ちしています。では、皆さん御機嫌よう」


長々と話したと思ったら、アッサリとジョゼフは出て行ってしまった。


唐突に齎させられた膨大な情報に、一同は大きく息を吐き、意味もなく互いに顔を見合すのだった。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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