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第5章【モブ気質なのに何故かハーレム系主人公のような展開になって申し訳ありません】1

第1話【1ヶ月後〜ミッツ家〜】




森の外れの一軒家。


広大な農園の片隅、石垣と木柵に囲まれた小さな家に、今日も朝早くから雷鳴が轟く。


「ミッツ!!いつまで寝てるの!!レンとミーユ来たよ!!起きて!!」


スラリとした細身で背の高い、長いプラチナブロンドの髪を一つ縛りにした気の強そうな若い女が、目の前のベッドの掛け布団を剥がすと、髭面で熊のような大男が身を縮こまらせて寝ている。


彼女の婚約者で、5人兄弟妹の次男ミッツ。




今からおよそ3年前のある日、彼女は生まれ育った町を歩いていたら、いつの間にか見知らぬ深い森の中に迷い込んでいた。


途方にくれていると、人の声と物音が聞こえたので、それを頼りに森の中を歩いて行ったら


そこには、野盗らしき男達が焚き火を囲んでいた。


野盗らしき男達は、当時12歳だった幼い彼女に気付くと、下卑た笑いを浮かべながら少女を襲おうとしたが、偶々居合わせたミッツに助けられたのだ。


少女は、帰る家もないとのことでそのままミッツの家に居候することとなった。


後からわかったことだが、少女は別の世界から意図せず来てしまったらしい。言葉も習慣もまったく違う中で苦労をしながらも、ミッツとその兄弟妹に支えられて逞しく育っていった。


そして今から1ヶ月前、3年共に暮らしてきたミッツと婚約を果たした。




布団を剥がしても起きないミッツに、彼女が右掌を向け意識を集中すると、そこから空中放電のごとく紫電が放たれ、雷鳴が轟く。


雷撃でようやく目を覚ましたミッツは、黒焦げになったボサボサの頭を掻きながら、2m近い巨体をのっそりと起こした。


「ああ、おはようセシリア。もうそんな時間か?ふぁ〜、今日もあまり眠れなかったな…」


見た目は黒焦げだが、何事もないように起き上がるミッツ。ダメージはないようだ。




この1ヶ月、ミッツは寝不足だった。


今まで同じ部屋でも、セシリア──3年前に野盗から助けたミッツの婚約者──とはベッドは別々で寝ていた。


だが、婚約したのだからと同衾を求めてくるセシリアにミッツは、まだ結婚していないし、セシリアが15歳の未成年だからと最初は拒絶した。


しかし、セシリアはしつこく食い下がり、一緒に寝ないのなら床で寝ると、布団もかけずに寝ようとしたので、仕方なくミッツはセシリアと同じベッドで寝ることになった。


だがここで別の問題が発覚。


大柄なミッツはただでさえ普通のベッドでは小さいのに、細身とはいえ隣にセシリアが寝ると隅に縮こまって眠ることになるのだ。


寝にくいったらありゃしない。


寝不足の理由はそれだけではない。


12歳の少女の頃から知っているセシリアは、ミッツにとっては子供のイメージのまま止まっている。


3年経って成長したとはいえまだ15歳。成人として扱われる16歳まであと1年もないが、やはり未成年は未成年。


だが、実際に同じベッドに入って体が触れ合うと、どうしても3年分の成長を──“女” を感じてしまう。


ミッツは毎晩寝床の狭さと男の本能を相手に、独り戦っているのだ。


そんなわけで、ここのところ毎日寝不足なミッツは、こうして毎朝セシリアの “落雷” で叩き起こされている。


ベッドに座ってボーッとしているミッツに、セシリアは握った拳に紫電を走らせ威嚇する。


「はやくして!!」


急かされたミッツは、のそのそと動き出す。




「ミ、ミッツ、お、おはよう、ござます」


「ミッツ!!おはよーござーます!!」


「ミィー」


リビングに出てきたミッツに挨拶するのは、まだ少年と呼ぶ歳頃の冴えない感じの若い男と、5〜6歳程の元気な幼女、そして猫のような虎の子供。


『コジロウも、「おはよー」って言ったみたい』


ミッツ達が話す言葉とは違う言葉 “ニホンゴ” で、幼女が嬉しそうに少年に話しかけると、少年も“ニホンゴ”で『そうだね』と微笑み返す。


以前、森で拾って帰って来て、幼女がコジロウと名付けた仔虎は、僅か1ヶ月で成猫並みに大きくなり、容姿もかなり虎っぽくなってきたが、幼女は未だに子猫と信じて育てているようだ。




2人は、1ヶ月前に森で魔物に襲われそうになっていたところをミッツが保護した。


セシリア同様、2人もこの世界とは別の世界から迷い込んだ “世渡り人” と呼ばれる異世界人で、今はミッツの兄、カーズの家に居候している。


2人は朝早くからミッツ家を訪ね、セシリアに出してもらったお茶を飲んでいる。


「おはよう、レン、ミーユ。早いな」


「い、今来た、ダイジョウブ、気に、気にしない、いいよミッツ」


ミッツに返答をしたのは冴えない少年、レン。


2人とも、ミッツに保護されたばかりの頃は全く言葉がわからなかったが、この1ヶ月でいくらか言葉を覚え、挨拶もずいぶん流暢になってきた。


ところどころ吃るのは、言葉が拙いだけではなく、元々コミュニケーションが苦手なレンの性格もあるが。


最初、5人兄弟妹たちはこの2人を兄妹だと思っていたが、言葉を覚えたレンから、2人は血縁ではあるが兄妹ではないと聞いて驚いた。





今から約1ヶ月前


レンとミーユが森でミッツに保護されて、4日目のこと。


長男カーズの家に集まり、カーズの妻アリルの妊娠が弟妹たちに報告された。


なぜか話の流れでミッツとセシリアが婚約してしまったのだが、レンとミーユの事も含めて今後の生活をどうするかという話になった。


妊婦となったアリルと、突然現れた世渡り人の兄妹(実際には兄妹ではないのだが、この時はまだ兄妹だと思っていた)のケアが必要でもあるのだが、長男カーズが最も気に掛けていたのは、最近町で噂になっている事件… “魔法使い狩り” のことだった。


この世界では「世渡り人とその子孫は魔法が使える」と云われている。


つまり、純粋な世渡り人であるセシリアとレン、ミーユは魔法が使える。


そして、カーズら兄弟妹の父、浮気して妻に逃げられたジョージも“世渡り人” で、その血を引くカーズら全員、魔法使いなのだ。


つまり、カーズの妻アリル以外、この農園に住む者全員が魔法使いという、ちょっとしたチート集落であった。


だからこそ、町で噂になっている“魔法使い狩り”には敏感になっていたのだが……


この日の…長男カーズ家に集まった日の前日、集落の魔法使い達は魔物が棲む森へと狩りに出かけていた。


初心者のレンとまだ6歳のミーユが同行するため、弱い魔物しかいない森のごく浅い所で狩りをする予定だったのだが…


そこに、強大な魔物が現れる事件が起きた。


本来、森のもっとずっと深いところにいるはずのその魔物に、ベテランの狩人である兄弟たちも歯が立たず、間一髪のところでレンが倒して命拾いをしたのだ。


カーズは、その強大な魔物も魔法使い狩りと関係があるのではないか、と考えた。


妻の妊娠が発覚し、まだ言葉もわからない迷い子を保護した当時の現状に、自衛の必要性が急激に高まった。


そこで、カーズは森から1番離れた、農園の東の端にあるカーズ宅で全員で暮らそうと提案したのだが、ミッツは前線の見張りと防衛は必須と主張し、森に1番近い、農園の西の端にあるミッツ家に、防衛に長けた戦力を常駐させる事を提案した。


カーズがミッツの案を受け入れ、カーズ家にはカーズ夫妻はもちろん、身重となるアリルの手伝いで、兄弟妹の末っ子長女ミルクと、高い魔力を持ちながらも実戦となるとまだ不安の多いレンとミーユが、カーズの家で暮らすことになった。


だが、レンは歳も成人しているし魔力も高いということで、実戦の感覚を養う目的で日中はミッツたちと共に狩りに出かけることに。


ミーユはまだ6歳と幼いが、ミルクやアリルと一緒に過ごして家の仕事を覚えるのがいいだろうと言うことで、日中はカーズの家で生活する方向で話がまとまる。


狩猟や農業が中心の生活では、ある程度男女で役割分担がなされるのは自然なことだった。


そのことを末っ子長女ミルクが、木板に木炭の欠片で絵を描いてレンに説明する。


なぜかミルクは、当時まだ言葉の通じなかったレンとミーユと1番上手くコミュニケーションを取ることができた。


レンが彼らの世界の言葉 “ニホンゴ” でミーユにそれを伝える。


『僕とミーユはこの家に暮らすんだけど、ミーユは家の仕事を覚えるからミルクやアリルさんの手伝いをして、僕はミッツたちと狩りをすることになるみたい』


レンの説明を受けたミーユの返答は


『みゆもまものやっつけにいきたい』


だった。


『あー、そうかぁ。レベル上げたいもんな』


何故か2人は『魔物を倒して強くなりたい』という願望があった。


この世界には、魔法はあってもレベルという概念も定義もないが、魔物を倒せば強くなるというのは、カーズらの父が遺した言葉で、曰く「倒した魔物の魔力が俺に宿る!!」のだそうだ。


そんなミーユの希望を、この世界に来て4日目のレンは、ミルクに言葉だけで伝えた。


「ミルク、あー…ミ、ミーユ、狩り、い、行く」


覚えたての単語をなんとか繋げてみただけの文章だが、まったくのゼロから4日目で言葉のコミュニケーションを取って見せたレンに、一同は驚きと賞賛の拍手を送った。


そんなわけで、7日に1度ミーユも狩に行くということになった。


その案を聞いて、この世界にも7日区切りの1週間みたいな考え方があるのかな?とレンは思う。


だが、当然幼いミーユがそれを守れることはなく、ほぼ毎日こうしてレンと一緒にミッツ家を訪れるのであった。






2人の挨拶に答え、タオルを持って寝間着のままミッツが外へ出て行くと、弟のマーサーとアークが既に作業をしていた。


「また寝坊か、ミッツ兄」


お調子者のマーサーが茶化すように言う。


「フン、いずれお前らも思い知る」


「いやー、俺はミッツ兄と違って10も離れた嫁さんもらう気はねーから、はははっ!!」


「フン…」


弟に茶化されるのをスルーして、ミッツは水を掬う様に両手を合わせた。


その掌に水が湧き出て、その水でミッツは顔を洗う。


この世界の魔法は “属性魔法” または “自然属性魔法” と呼ばれ、自然エネルギーに相当する8種の属性に分類される。(7種+1とする考え方もあるがここでは詳細を省く)


ミッツが今使って見せたのが水属性の魔法で、ミッツは水の属性持ちと言える。


先程、セシリアがミッツを叩き起こしたのは、雷属性の魔法だが、セシリアは雷属性の他にも樹属性の魔法も使える。


属性が2つ以上使えるのは、純粋な世渡り人の特性だと言われており、レンは3属性、ミーユは5属性が使える。


水魔法で顔を洗ったミッツは、少し伸びをして家の中に戻り、レンたちと同じテーブルでセシリアの用意した朝食を食べる。


「レン、今日もよく眠れたか?」


自分が寝不足なのを棚に上げたことを尋ねるミッツ。


「う、うん、寝れた、た、たくさん」


「ミーユも、ねれた!たくさん!」


簡単なコミュニケーションぐらいなら割とスムーズにできるようになって来たレンとミーユ。


1ヶ月という期間を考えると覚えがいいと言える。






「今日はセシリアも一緒か」


馬車に揺られながら、マーサーが言う。


以前荒地だった森までの道程は、レンとアークの土魔法により整備されているので、馬車に揺られながらでもずいぶん会話がしやすくなった。


荒地の石に跳ねあげられながら進む悪路走行は、慣れた者でも喋っていると舌を噛む。


「私、ミッツより強い!!大丈夫!!」


両手の拳を握り、頼もしささえ感じるキリッとした表情で、セシリアが答えた。


当初、ミッツ、マーサー、アークが狩りに行くので、家事全般をセシリアが請け負うことになる予定だった。


だが、狩りにレンとミーユが同行するため2人が来るのを待つことになるのと、一応このグループのリーダー的存在のミッツがほぼ毎日寝坊するので、マーサーやアークの手伝いもあって出掛けるまでにある程度家事が済んでしまうのだ。


そのためセシリアは、狩りに同行するようになった。


ここ5日ほど、体調を理由に参加していなかったが、この日は体調も回復したようで、久し振りの参加となったセシリアはかなり気合いが入っているようだ。




巨馬の引く荷車で森までやって来た6人と、ミーユの膝に抱えられた1匹は、石の扉を開けてそのまま馬車で森へと入って行く。


森の中には、以前はなかった整備された道があり、一行は馬車ごと森の中を走る。


石の扉も整備された道も、レンとアークの土魔法を中心に、地道な作業によって作られた。


彼らが魔物狩りに来る最大の目的はレベルアップだ。


魔物を倒すことでその魔力を得ることが出来るというのは、彼らの父親が遺した知識だが、当然強い魔物ほど大きな魔力が手に入る。


そして強い魔物は森の奥深くに棲息しているため、強い魔力を手に入れようと思ったら、当然森の奥へ進む必要があるのだ。


しかし、歩いていける範囲は限られていて、危険な魔物が出る森での野営は命懸けになる。自ずと狩りができる範囲が決まってしまっていて、森の浅い範囲での狩りでは物足りなくなるのも早かった。


そんな中で、森に道を作ろうと言い出したのはレンだった。


レンの育った世界では──少なくともレンが育った国では──山に登るにしても森の中を抜けるにしても、それなりの道が敷かれていることが多かったので、レンは1人で不便を感じていた。


ある狩りから帰った日、四男のアークに相談してみた。


「森、道ない。歩く難しい、遅い、無駄」


アークはレンの意図を汲み取りミッツに相談。


翌日から、レンとアークの土魔法によって土を隆起させ、歩きやすい道を作って行ったのだが、どうせなら馬車ごと通れるようにしてしまおうと、道幅を広げ馬車も通れるようにしてしまった。


レンの桁外れの魔力の為せる技ではあるが、ミッツの飼っている巨馬自体が魔物で、森の高濃度の魔力に耐えられるからこその荒技でもある。


それによって、目的の深部までスムーズに行ける様になり、また獲った獲物を持ち帰るにも便利になった。


しかし、当然道の部分は森が拓けてしまうので、魔物から発見されやすくなり、攻撃を受ける頻度が増した。


「でも、みんな強くなる。問題ない」


初めて狩に参加した日、母虎を殺してしまったことに強い罪悪感を覚え、仔虎を抱いて泣いていた少年は、僅か1ヶ月のサバイバルで逞しくなっていた。


食うか食われるかの世界で、甘いことは言っていられない。


道中に襲われるのは修行の一環として、森の入り口だけは魔物が不用意に出てこないよう塞いでおこうと、土魔法によって開閉できる石の扉を作った。


魔物の森の狩猟環境は、1人の異世界人によって大きく変わったのだ。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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