閑話4【少女探偵団②】
現代日本、蓮次郎のクラスメイト南子視点の話です。閑話1【少女探偵団①】の続きになります。
昼休みの廊下は賑やかだ。
走り回る男子達、固まってお喋りする女子達、人目も憚らず逢瀬するカップル…あれ?女の子の方泣きそう?別れ話カナ?
しかもあの子、マナちゃんじゃないか!?
1年の時同じクラスで、お互いの恋愛相談とかしたことあるぐらい仲良かった子だけど……今は私も急いでるからスルーでゴメン!!
そんな賑やかな昼休みの廊下を、私と小豆は普段だったら立ち寄らない、三階の1番奥に向かって歩いている。
ズンズンズンと。
1番奥の教室に辿り着くと、私たちに「何しに来た?」と言わんばかりの視線を向けてくる特進クラスの生徒達。
そう、ここは3年A組特進クラス。私たち文系では想像もしない程の高偏差値の大学を目指す、天才秀才の巣窟なのだ。
駄菓子菓子!!そんな視線や空気を気にする私ではない!!
「なぜなら、今の私は名探偵・淀川 南子!!」
「えっ!?急にどうしたの南子ちゃん!?」
「おっと、気合いが入りすぎて妄想が言葉に出ていたようだ。失敬失敬」
片手をゴメンの形にして小豆に謝る。
「またお前らか」
「お、円!ナイスタイミング!」
私の声を聞きつけたのか、タイミングよくドアを開けて出て来たのは、同じ中学出身の秀才、三籤 円。
「無駄にキラキラした笑顔とサムズアップをやめろ。何回来ても私はもうお子様の遊びに付き合うつもりはないぞ」
そんな上から目線のセリフが妙に似合ってしまう、スラリとした長身の美人顔に、腰まで伸ばした黒髪のロングヘアがこれでもかと絵になる女の子だ。
さらにバランスが悪くない程度に程よく育ったお胸も兼ね備える、つまり私にないものばかり持っているチクショウな女だ。
も1つオマケに言うと、お人好しで誰からも好かれる性格と、特進クラスにいるぐらいの頭の良い、ほんとズルイぐらいの完璧女なのだが……
そのお人好しも今回ばかりは弱点になるのだ!!お人好しである以上お願いされたら断れない、はず!!
「そんなこと言わないでよぅ。また円の推理力を貸して欲しいんだよぅ」
てことで甘えてみる。
「変な声だすな!擦り寄るな!て、どこ触ってんの!?」
「時々思うけど、やっぱり南子ちゃんてそっちの気ある?」
おっと、ついつい立派なブツに手が出ちまったよ。そんな私に冷静にツッコミを入れる小豆のささやかなお胸も可愛いが、重量感を感じる円のオタカラも悪くないよね。
おっと、本題はそこじゃない。
お人好しの円にお願い作戦が通じないはずがない。これはきっと私のお願いの仕方がまだ足りないのだ。
「こんなに下手に出てお願いしてるのに!!」
「アンタのは下手に出るんじゃなくてシモネタに手が出てんだろ」
頑張って下手に出た私にすかさず切り返す円。
「うまい!!さすがだよ円。さあ、早速その高速回転の頭脳を活かして3年ぶりに少女探偵団に…」
「戻らないって何回言えばわかる?」
ぬ、人のセリフに被せてくるとは。人の話は最後まで聞けってお母さんから教えてもらわなかったのか!?
「アンタ達も今年受験なんだから、いい加減そんな子供の遊びみたいなマネやめてちゃんと勉強をしなさいよ」
「何をお母さんみたいなこと言って。昔はあんなにノリノリでやってたくせに」
私も負けじと円にツッコミ返すが、円のクールビューティな表情は、眉間に刻む皺がグッと深くなり、より険しくなる。
その表情…円が本気で怒る前触れの眉間のシワを見て、私は一瞬気持ちで引いてしまった。そして…
「そのおかげで第1志望落ちて、ここにいるんだから。今度こそ失敗できないの。解ったら帰れ」
留めの一言を告げると、ピシャッとドアを閉めてしまった円。
私は、円のその行動に抗えなかった。
“あの一言” 言われちゃうとキツイんだよなぁ。
「南子ちゃん…」
「はは、大丈夫だよ。とりあえず教室戻ろ」
小豆も知ってる、“あの一言” の意味。だから、私に気遣うような言葉を掛けようとしてくれてるのが分かる。
高校受験の時、私と小豆は地元の中堅どころの公立高校が精一杯だと思って、今の学校を何の迷いもなく第1志望にした。
仲の良かった円も、当然一緒にここに来るものだと思ってたんだけど、円は地元から少し離れた私立に行きたいって言い出した。
何でも、凄く有名な先生がいるからとかで、その頃からずっと仲良しだった3人組か、円が塾に行き通しになってしまったことで、私と小豆の2人組になってしまった。
寂しかったけど、その寂しさを埋めるように2人で遊んだ。
中3の夏に、アメリカでセレブの男の子が行方不明になった事件があった。日本でも少し報道されたけど、詳しいニュースを探そうとしても、英語のネット記事しか出てこなくて、円に相談した。
必死に翻訳してくれたけど、私が知りたい情報はなかった。
それでも、久し振りに3人で“少女探偵団” がやれて楽しかった。
ただ、円はそのせいで塾の夏期講習をちゃんと受けられず、志望校を落ちちゃって…。
「そもそも倍率7倍なんて超難関なんだから、落ちて当然受かればラッキーって思ってたし、気にしないで」
そう言ってくれたけど、やっぱりさっきの円見てたら、ずっと気にしてたんだって思った。
「オイッ」
「ん?」
誰かに声を掛けられた気がして振り返ったら、そこにはちょっとヤンチャそうな長身の男子。
ピアスとか空けてるわけじゃないけど、眉毛も釣り上がり気味に整えていて、第3ボタンまで開けたカッターの襟に、ダラっとゆるめたネクタイという、程よく制服を着崩していらっしゃるその姿は、真面目な特進クラスのイメージとは随分違う…けど
私達の後ろから来たってことは、特進なのか?
「私?」
一応、彼の視線の先に該当者がいないのを確認してから聞いてみる。
「ああ、お前さっき三籤と話してただろ?」
三籤なんて珍しい苗字も円の他に聞いたことがないから、やっぱりそうだな。
「うん」
私が答えると、長身のその男子は、ヤンチャそうな切れ長の目にぐっと力を入れるような真剣な眼差しで、私に聞いて来た。
「お前、蓮次郎の事件のこと、何か知ってんのか?」
「え?」
この2週間、ネットで調べたり事件現場に足を運んだりと色々私達なりに調査をしてきたけど、あの日校長室で聞いた以上の情報も、何か繋がりそうなきっかけも出てこなかったけど…
きっかけはどこから来るかわからないもんだ。
ピーンポーン
「はーい」
チャイムを鳴らすと、耳障りの良い優しそうなオバさんの声がして、横引きの玄関がガラガラっと開く。
「あら、歩くん!?ずいぶん逞しく育っちゃって!!何?蓮次郎の事で来てくれたの?」
どうやらこのオバさんが、藤田君のお母さんらしい。
その日の放課後、私と小豆はお昼休みに声をかけて来た特進クラスの男子、山田君と一緒に、学校からそう遠くないとある一軒家を訪れていた。
山田君は、藤田君と同中で三年間クラスメイトだったらしくて、家も近いそうだ。
藤田君が行方不明になってすぐ、藤田君の家へ行こうとしたけど、今一番大変な時だからと親に止められ、タイミングを待っていたのだとか。
そんな折に、円を訪ねて特進クラスに顔を出した私達が、藤田君の話をしていたから、何か知ってるかと思って声を掛けたんだとさ。
「そんなに知ってることはないよ?」
と、廊下で声をかけられた時に返したけど、なんでもいいから手掛かりが欲しいと、肩を掴まれて真剣な目で訴えられ──何故かそれを見てた小豆は「はわわぁ」とか言いながらオロオロしてたけど──その勢いに押されるように、放課後に藤田君の家に一緒に行くことを約束してしまったのだ。
で、校門で待ち合わせて3人で藤田君の家へ。
向かう途中、藤田君が行方不明になったっていう公園の横を通った時、何度もここへ足を運んだと言った山田君。
「私達も3回ぐらい来たけど、1回も山田君とは会ってないから、すれ違ったんだねー」
と、私が言うと
「いや、俺はお前ら見たことあるぞ。俺が来た時、ちょうど隣のドラッグストアに入って行くところだった」
と、山田君。
この辺りは学校には近いけど、駅とは反対方向になるから、この辺りを歩いているウチの高校の生徒は山田君達の中学出身の子しかいないのに、変だなって思ったそうな。
そんなこんなで藤田君の家へやってきた私達は、藤田君のおばさんに家へ上がるよう招き入れてもらい、居間のテーブルで椅子に腰掛けていた。
「暖かいお茶でよかったかしらね。まだ夕方からは外も寒いしねぇ」
そう言って湯呑みでお茶を出してくれるおばさん。
今回のことで一番ツライ思いをしてるはずなのに、初対面の私達に優しくしてくれるのが、なんだかジーンときてしまった。
肩までのゆるいパーマがかった髪も、根本が所々白くなってるのを見ると、白髪を染める余裕もないのかなって、ちょっと思ってしまった。
「歩君は、学校はどう?お勉強頑張ってる?」
自分の息子が行方不明になってるのに、息子の友達の事を気遣うなんて、なんていい人なんだろう。
「俺はまぁ、それなりにやってますけど、それより、今日は蓮次郎のことで来たんです。警察の捜査とかで何かわかったことはないんですか!?」
うわぁ、山田君ミステリードラマみたいやわー。
普通、そんなこと被害者の身内にズバッと言えないよ。山田君てかなりストレートな人なのね。
山田君に問い迫られ、おばさんは少し俯いて静かに顔を横に振る。
だよね。私も教頭先生から、何か進展があれば話すって言ってもらったけど、この2週間何も聞いてないもん。
「あ、それより、こちらのお2人は?どっちが歩君の彼女なの?」
健気にも空気を変えるように話題を振るおばさん。ていうか、自己紹介が先ですよね、常識的に考えて。ごめんなさい。
「わ…」
「コイツらは、蓮次郎のクラスメイトで、蓮次郎の事件を独自に調べてる探偵なんだ」
「え!?探偵!?」
うをおおおい!!何を盛大に盛ってやがる!?
彼女と言われたのを否定して自己紹介しようとした私に被せるように、私達のことを紹介する山田君だけど、盛り過ぎィ!!
「探偵じゃないです!!ただの女子高生です!!」
全力で否定するさ!!
「え?だってお前ら、三籤と3人で少女探団て…」
「わー!わー!わー!違うから!!それ盛大に違うから!!」
やめてお願いバカ!!
仲良し3人で言ってるうちはなんとも思わなかったけど、初対面の人の前で何の前触れもなく暴露されるってのはこんなに恥ずかしいのか!?
これが黒歴史ってヤツなのか!?
「えと、私は藤田君と同じクラスの、淀川 南子です。で、」
気を取り直して自己紹介して、視線で小豆に促す。
「あ、えと、わ、私も、ふ、藤田君と同じクラスの、げ、玄田 小豆、です」
初対面の大人の前で緊張しちゃってる気の小さい小豆は、ちょっと痞えながら自己紹介した。
「あら、そうなのね。こんな可愛らしいお嬢さんが2人も心配して来てくれるなんて…」
「えと、藤田君とは、今年初めて同じクラスになったから、実際初日に挨拶交わしただけであんまり面識ないんですけど…」
どうやらおばさん、私達と藤田君が仲良しこよしだと勘違いしそうだったから、とりあえず改めさせてもらってから、私達の目的を話す。
「私のおに…兄も昔、行方不明になったんです」
その一言におばさんの表情が固まる。
「その時、目撃者がいて、大きな紫の蝶々を見たって言うんです。それ以外は何も情報が無くて。で、学校で藤田君が行方不明になったって聞いて、教頭先生に聞いたら、藤田君が行方不明になった公園に、紫の粉が落ちてて、それがもしかしたら蝶の鱗粉とかだったら、何か繋がるかと思って…」
「そう、それは大変なことだったわねぇ」
何が大変なのかわからないけど、こちらの思いに共感してくれるおばさん。
“紫の蝶々” って言ってもあんまり驚いた様子がないから、これはハズレだったか?と、思った矢先
「ちょっとまっててね」
立ち上がって居間の隅の棚の上をゴソゴソとあさると、手に数枚の紙を持って戻ってくるおばさん。
「たぶん、これのことかしら?」
そのうちの一枚を、私達に見やすい向きに置いてくれて、指を指す。
それは、校長室で見せてもらったのと同じクローバーの上にキラキラしたラメみたいなのが写ってる写真。
「はい、これです。これが何か、知ってるんですか?」
校長室で見た時みたいに興奮した気持ちにはならなかったけど、やっぱり少しドキドキする。
「私達も、現場の写真って言って見せられただけで、これが何かはまだわからないのよ。最近の若い子が使うお化粧道具か何かかと思ったんだけど、あの場には蓮次郎と美遊ちゃんしか居なかったでしょう?だから余計にわからなくてね。美遊ちゃんも入学式だったから、そんなおもちゃみたいなの持っていかないと思うし、巴奈ちゃん…あ、美遊ちゃんのママのお化粧道具を、たまたま美遊ちゃんが持ってたのかなぁって考えたんだけど…」
美遊ちゃんていうのは、藤田君と一緒に行方不明になった親戚の女の子だ。
しばらくおばさんの話に耳を傾けていると、話は事件からだんだん思い出話に変わっていく。
「あの子、ぼんやりしているようにみえてもね、小学生の頃は居合いの先生だったお爺ちゃんに少し習っていたの。だから、悪い人に襲われても、そう簡単にはやられたりしないと思うのよ」
「居合いって、あの、剣術とかのですか?」
小豆が両手で剣を振るような仕草を交えながら、おばさんの話に質問を入れる。
おばさんは「ええ」とだけ答えた。
意外だ。クラスの藤田君知ってる子達の話からも、ザ・陰キャって印象しかない藤田君だけど、そんな特技があったんだ。
しばらくおばさんの話を聞いた私達は、今度はおばさんから私のお兄ちゃんのことを聞かれて、少しだけ話た。
「そんな小学生の頃にお兄さんが行方不明になっちゃったら、今もまだ寂しいでしょう?」
おばさんは、私の話に目尻に涙を浮かべながら聴いてくれた。その共感してくれてる様子と最後の一言に、私は堪えきれずに両手で顔を覆って泣いてしまった。
頑張って声は出さなかったけど、小豆が背中をさすってくれて、おばさんが手を握ってくれたら、もう完全に抑えられなくなって、初対面の人の前で号泣した。
おばさんも一緒に、鼻をすすりながら泣いてくれた。
ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
2022.3.6.誤字の修正をしました。




