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第4章【ビビリなのに何故かチート級の力が身に付いてしまって申し訳ありません】5

第5話【ミーユのレベルアップ】




考えた挙句、レンは石の階段を作ることを思い立った……のだが


巨虎を一時的に食い止めた石壁の要領だと思って、縦に長い広範囲の地面を隆起させているのだが、あの時一瞬で出来たものが、何故かちょっとずつしか上がってこない。


確かに、あの時は無我夢中というか、ほとんど無意識だった。気が付いたら石壁ができていて、その天辺にいたのだ。


直前にアークが石壁を作って巨虎を食い止めようとしていたので、防御イコール石壁というイメージが出来ていたのかもしれない。


兎にも角にも、どれだけ魔力を注ぎ込もうとも、階段の迫り上がってくるペースは変わらず、数十秒かかってやっと半分の高さまで出来てきた。


『ミーユぅー、大丈夫ー?』


『あゔゔゔゔゔぅ』


何か答えようとしたのか、窓から顔を出したミーユの唸り声は聞こえるが、震えながら喋ろうとしている上に歯がガチガチ鳴るのも混ざって、何を言っているのかさっぱりわからない。


とにかく大丈夫じゃなさそうなのはわかるので、レンはもどかしさと戦いながらも頑張って石の階段を迫り上げる。




そして、石の階段を作り始めてからおよそ1分半


『ミーユ、届く?』


まだ階段の天辺とミーユの氷の塔の窓とが、レンの身長分ぐらい離れているが、レンは階段の最上段から手を伸ばして、ミーユを呼ぶ。


頭の先が見え隠れしていたミーユが、青紫色の唇を震わせ、何とも言えない無表情というか泣きそうな顔を覗かせ


『れ゛ん゛に゛ーぢゃーん゛!!』


もう届くところまでレンが来ているのを見たミーユは、レンの名を叫ぶと窓から飛び出した。


『うわぁっ!!』


情けない声を挙げてかろうじてミーユを受け止めたはいいが、そのままバランスを崩して階段から落ちそうになる。


階段の一段一段は、臆病なレンらしくやや広めに作ってあるが、小柄とはいえ満6歳のミーユは17〜18kgほどの体重がある。


それが手を伸ばしたよりも高いところから飛び降りて来れば、レンで無くともバランスを崩すだろう。


ミッツあたりならわからないが。


バランスを崩し、倒れそうになるのをこらえて踏ん張るレン。


このままでは3階建ての高さから階段を転げ落ちてしまう。


いや、それならまだいい。


階段から外れたら、そのまま地面まで真っ逆さまだ。


どっちにしても命に関わる危険度だ。


そう思った途端、レンは魔力を高めた。


そして


ドサッという音を立て、石の地面の上に倒れた。


そこは、レン1人が何とか寝転がれるほどの広さのスペースの石の地面。


周りを見渡すと、まだ階段の最上段の高さと変わらない所にいるのがわかる。


と言うか、階段の最上段にいる。


『…できた』


レンは、四つん這いになって恐る恐るそこから下を覗くと、またすぐ体を引っ込めた。


階段の最上段が畳ほどのサイズに広がっていて、レンはミーユを抱えたままそこに転がったのだ。


階段を作るときも、アークと魔法の練習をしている時も、思うように魔力を出せずにゆっくりしか動かせなかった岩石が、この土壇場でまた瞬時に作り出すことができた。


内心ホッとするレンだが、どういう基準でちゃんとできたりできなかったりするのかがイマイチ解らず、無事に助かったというのにモヤっとした気持ちが残った。


「ミィー」


いつの間にか、おそらくミーユに続いて飛び降りてきたらしい仔虎もなんとか同じ足場に着地していた。




ミーユが仔虎を抱っこし、そのミーユをレンが抱きかかえて、元々の最上段の位置に立つ


レンは何度も足元の位置を確かめると、足から魔力を出して広がった分の床を砕いた。


そこそこ大きな破砕音と、落ちて行く岩石を見て、改めてその高さを認識したため足がすくんでしまうが、ミーユを抱きかかえているのでなんとか踏ん張る。


震える脚をなけなしの気合いで動かし、2段ほど降りてミーユを最上段に降ろすと、仔虎がスルリとミーユの手から抜けた。


仔虎は、その勢いでピョンピョンと階段を一段ずつ降りて行き、5段目で止まって振り返り「ミィー」と鳴く。


『付いておいでって言ってるのかな』


仔虎が鳴くのをそう捉えたレンは、ミーユの手を繋いで階段を一段ずつ降りて行った。




『れんにいちゃんも、まほうつよくなった?』


真ん中ぐらいまで来ると慣れてきたのか、ミーユがレンに話しかけた。


『うーん、よくわからないな。昨日出来たことが、今日はうまく出来なかったから、そんなに強くなってないと思う。』


『ふーん』


そう言うとミーユはレンの手を離し、仔虎の真似をしてピョン、ピョンと階段を一段ずつ跳ねるように飛び降りた。


まだ高さは1階の屋根よりはあるが、幼女はへっちゃらで手摺もないむき出しの階段を飛び跳ねて行く。


『みゆね、まほうつよくなったよ』


『そうなの!?』


『うん!!きのうのもう1っこまえのときやったこおりよりも、ものすごーくおおきいのできたもん』


レンは振り返って氷の塔を見た。


昨日のもう1個前…つまり一昨日、カーズ家の庭で魔法を試していた時のことだろう。


凍系の魔法は最後の方に試したので、魔力残量も少なかったかもしれないが、確かあの時はミーユの肩ぐらいの高さの氷塊を作っていた。


それと比べるとこの氷の塔は大きすぎる。


全体のシルエットは某世界的有名アニメ映画会社が手掛けた、氷雪系の魔法を使う女王さまが、作中歌いながら作った氷の城を彷彿とさせる。


レンは見ていないが、ミーユは塔(ミーユ曰く氷のお城)の最上階で窓から身を乗り出しながら、世界的大ヒットとなったその主題歌を歌っていた。


現状、魔力欠乏などで体力を奪われている様子もない。自分で作った氷のお城の中で、寒さに震えてはいたが。


これだけ大規模な魔法を行使したにも関わらず、元気にピョンピョン飛び跳ねているのだ。


これをもう一棟作れと言われれば、即座に作ってしまいそうな気さえする。


『まものを〜♪たおして〜♪つ〜よくなるんだよ〜♪』


雪の女王が歌っていたメロディーに乗せて、即興で替え歌まで歌うぐらいには機嫌がいいミーユ。


その歌を聞いてレンも『倒した魔物の魔力が俺に宿る!!』と、ジョージの言葉を思い出す。


そういえば


あれだけ大きくて、強力な魔法を使う虎の魔物を倒したのだから、自分にも大きな魔力が身についていてもおかしくない。


なのにさっきは、ズルズルとしか石刀も階段も出せなかった。


昨日は一瞬で出来たのに。


何故かわからなかった。


ただ、いつも一瞬で出来るときは、命懸けのピンチの時というのはわかって来た。


もしかしたら、そういう時になると真の力が目覚める、少年漫画の主人公タイプなのかな…と、調子に乗ったことを考えてしまう。


レンはまた振り返り、氷の塔を見た。


よく考えたら、ミーユのこの急激なレベルアップはちょっと腑に落ちない。


と言うのも、昨日ミーユがミッツと一緒に倒していたのは、どちらかというと雑魚の魔物だったように思えるのだ。


そんな雑魚な魔物を何匹か倒したぐらいでこれだけ強くなれるのなら、日常的に狩をしているミッツやカーズがもっと強いはずなのだ。


レンは考えた。


あの魔物の群れは、大半は雑魚と言っていい低レベルな魔物だったが、本職の狩人のミッツが一撃で仕留めきれないぐらいの魔物も中にはいた。


この世界の魔物や魔法使いがランク分けされているかどうかはわからないけど、ミーユが倒していたのは、もしかしたら10段階中のレベル4とか5ぐらいの魔物だったのかもしれない。


ミーユが無意識に、そういったレベルの高い魔物を狙って狩っていたのなら、この急激なレベルアップも頷ける…かな?


それでも、あの巨虎と比べてしまうとそんな中級クラスの魔物でも雑魚感が否めない。


もう一度考える



──倒した魔物の魔力が、俺に宿る!!──



ジョージの遺した言葉を何度も頭の中で反芻する内に、1つの仮説が浮かんだ。


魔物の魔力が、倒した者ではなく、1番近くにいる者に宿るとしたら?


秘かに、あの巨虎を倒した自分の魔力は、どれほど強くなっているのか…と考えてはいた。


だが今日、試してみた結果はこうだった。


その代わりというか、ミーユが強くなっている。もし全部ミーユに持っていかれたのだとしたら、ちょっと寂しい。


氷の塔を見ながらそんなことを考えていたら、自然に口から言葉が漏れていた。


『ねぇミーユ、あの氷の塔ってあのままにしとく?』


ちょうど地上までの残り2段を、ひとっ飛びに飛び降りたミーユが振り返る。


『ううん、さむいからもういい』


『じゃあ、壊してもいいかな?』


『いいよー!!みゆもやるー!!』


ミーユが両手を広げて元気よく叫ぶと、真似するように仔虎も「ミィー」と吠えた。




ということで、氷のお城は取り壊しが決定し、魔法の強化具合の検証と練習に使うことにした。


レンとミーユ、そして何かしようとしている雰囲気を察したのか、2人の近くにアークも、氷の塔を見据えて立っていた。


『よし、いくよ!!ファイアー!!』


レンが、全力の火力で氷の塔に向かって炎を吹き付ける。


その勢いは、一昨日カーズ家の庭で試した時の倍ほどか。アークたちにしてみれば十分強力な魔法なのだが、そこに聳える氷の塔や3階建ての高さまで続く石の階段に比べると、普通の威力といった感じは否めない。


5秒ほど火炎放射をして──この5秒というのも、火力を鑑みれば凄いことなのだが──魔法を解除。


氷の塔は、レンの火炎放射が当たっていた、直径1m弱の部分が少し溶けているぐらいだ。


溶けた部分の真ん中に掌を当てると、レンの腕で肘までの真ん中辺り、15cmほど凹んだ程度か。


これだけ大きな氷の塔だ。そのぐらい強固にしてあるのだろう。


『よーし!!つぎはみゆのばんだよ!!』


そういって一歩前へ出るミーユ。


ミーユは、水と氷だけでなく、光、雷、風と5属性持ちのチート級魔法使いだ。


右手に拳を作り、頭の後ろへ引く。


見た目的には可愛い幼児パンチの構えから、どんな凶暴な破壊力が生まれるのか…


レンとアークが固唾を飲んで見守る中、ミーユの右拳にパリッと電撃が走る。


雷系魔法。


あの巨虎も使った、攻撃力抜群の魔法である。


もしミーユが巨虎の魔力を受け継いでいるのなら、氷の城は粉々に砕けるだろう。


が、レンは巨虎の雷撃を食らった瞬間に意識を失っているので、巨虎が雷撃を使うのを知らないし、アークは、ミーユが巨虎の魔力を受け継いでいると思っていないので、2人ともその様子を思い描くことはなかった。


『かみなりミサイルー!!』


落雷と同じ轟音が響いた。


絶対に割れることのない強固なものを、非常識な力で無理矢理破壊したような破砕音が、氷の塔に走る亀裂と同じ速度で広がる。


塔が崩れることはなかったが、その亀裂はレンが火炎魔法で作った窪みの倍ほどにまで広がっている。


『ミーユすご…ミーユ大丈夫!?』


魔法を放った直後、硬直した様な姿勢からミーユは尻餅をついたように座り込んでしまった。


『び……びっくりしてころんじゃった』


どうやら、自分で起こした魔法による轟音で、ビックリして腰を抜かしてしまったようだ。


レンがミーユに寄り添うようにしゃがみ込み、『びっくりしたねー』なんて呑気に話していると、アークが罅割れた氷の塔へと歩み寄る。その手には少し長めの石刀が握られている。


「アーク?」


手にした石刀を前へ突き出し、氷の塔に触れさせる。小さな氷の欠片がパラパラっと落ちた。


アークは石刀を両手で握り、右足を前に出して構える。


さっきレンが教えた正眼の構えなのだが、握り手はデタラメで、構えも適当な自己流になってしまっている。


まぁ、それでも多少様にはなっているが。


レンは何も言わずにアークの様子を伺った。


「オオオオッ!!」


雄叫びとともに上段に振り上げた石刀をブンっと振り降ろし、その切っ先が踏み込んだ分深く氷の塔に叩き付けられる。


ガリッという音と氷の欠片を撒き散らし、石刀は地面に叩きつけられるまで振り抜かれた。


レンの火魔法で溶かされ、ミーユの雷魔法で砕けていたとはいえ、これだけ大きな塔の強度に対し止まらず振り抜けたというのは、剣の基礎ができていないアークにしてはたいしたものだ。


だが、やはり生家が剣術道場だったレンにとっては、まったく基礎のなっていない素振りが気になったようで、近くに転がっている手頃な石を掴むと、瞬時に石刀に変えてアークの隣に立った。


それからしばらく、レンとアーク、そしてミーユも混ざって氷の塔をガンガン石刀で砕いたり、石の階段が瓦礫の山に変わるまで魔法を打ち込みまくったりしていた。





「さっきからとんでもない爆音が聞こえるけど、大丈夫か?」


なんとかミルクを落ち着かせたので、セシリアの手伝いに行かせ、ミッツがアークたちの様子を見に来たのだが…


「雨でも降ったか?」


一部が池のように水浸しになっており、見覚えのある地形が瓦礫の山に変わっている。


その、瓦礫の比較的平らな部分に、3人の姿があった。


「お前ら、こんな所で昼寝なんかして…」


魔力欠乏で疲れた3人と仔虎が、寄り添い合うように寝ていた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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