第4章【ビビリなのに何故かチート級の力が身に付いてしまって申し訳ありません】3
第3話【検証②】
翌朝、早くからミッツ家を訪れたのは、昨夜カーズの家へ行っていた四男アーク。
「いいから早く帰れバカ兄貴」
アークはミッツの家に来るなり、突然長男カーズに食ってかかるように、早く家に帰るよう促す。
半ばアークに追い出される様に…いや、無理矢理追い出されたカーズは、朝食をとる間も無く、来た時の馬車で家へと向かった。
カーズの馬車に便乗して帰る予定だったマーサーも、仕方なく朝食を諦めて、カーズの後を追うようにミッツ家を出て行く。
「どうしたアーク?お前らしくもない。何をそんなに慌てているんだ?」
普段は無口で無愛想なイメージのアークが、珍しく感情を伴って長兄に絡んでいたのを、ミッツが心配そうに尋ねた。
「アリル義姉さんから、まだみんなには言うなって言われてるから」
そう言って、来たばかりだというのにまた外へ出て行こうとする。
「アリル義姉さんが?何かあったのか?」
本人の前ではまだ少し恥ずかしくて「義姉さん」と呼べないが、いないところならスムーズに言えるミッツが、急に兄嫁の名前が出て余計に混乱し、外へ出ようとするアークを呼び止めるように言う。
「そのうちわかる」
が、アークはもう自分の言うことは無いとばかりに、玄関を開け出て行こうとする。
どうやら本当に、カーズを妻アリルの元へ追い返すためだけに来たらしい。
「待てアーク、そんな言い方したら余計に気になるじゃないか!!」
開いた玄関を無理矢理抑えて、ミッツは少し語気を強くした。
「大丈夫、悪いことじゃない」
しかしアークは相変わらずの無表情で調子を変えることなく返す。
「そう言われても…」
「ミッツ!!アリル言うな言ってる。カーズすぐ帰る。わかるでしょ!?」
しつこいミッツに、声は後ろから聞こえた。
セシリアは、カーズのために用意した朝食を一旦下げ、何か別の調理をしていたのか、包丁を持ったままリビングまで出てきていた。
「は?」
セシリアの言葉の意味と態度が理解出来ず、ミッツは変な声を出して変な顔でセシリアへ振り返った。
「裏の荒地にいる。レンが起きたら寄越してくれ」
ミッツがセシリアに気を取られた隙に、アークはぶっきらぼうに言い捨て、外へ出て行ってしまった。
「おい、アーク!」
最後に呼びかけたミッツの声は、閉じた扉に遮られてアークには届かなかった。
「なんなんだ?」
何か理解した様子のセシリアに答えを求めようと振り返ったミッツだが
「ミッツ、オマエ、バカか!?」
片言でバカにされただけだった。
その後程なくして、レンと仔虎を抱きかかえたミーユが起きて来た。
2人は、セシリアが用意してくれた朝食を──半分はカーズとマーサーが食べなかった分を──言葉の意味はわからないがたぶん喧嘩しているミッツとセシリアの言い合いを眺めながら食べる。
ミーユが食べ終わるのを見計らって、2人揃って合掌すると
「食べ終わったか!」
レンとミーユが「ご馳走さま」をするのを見て、ミッツはセシリアの小言から逃れるように、2人をアークの所へ連れて行くことを理由に家を出た。
ミッツの家は、南には農園へ続く道が東へと伸びており、北と西は岩石が転がる荒地が、西へ行けば魔物の森まで広がっていた。
その荒地で1人、アークが何かやっている。
荒地は所々に大小の岩石が転がっていて、その1つ、アークの腰ぐらいの大きさの岩から、まるで芽の生えたジャガイモの様な妙な突起が何本も生えている。
「何してるんだ?アーク」
「ミッツ兄」
ミッツの呼び掛けに反応したアークは、ミッツに伴われたレンに気付くとツカツカと近づいて行き、おもむろにレンの腕を掴むと、芽の生えたジャガイモ状になった岩の前まで強引に連れてくる。
ミッツの問いに答えることなく。
アークのこういうところは昔からなので、ミッツは気にせずにミーユと並んでアークとレンの様子を見守ることにした。
アークは、レンにそこにいるようにジェスチャーで伝えると、レンから離れるように歩き出す。
少し離れたところの、アークが背伸びしても手が届かないぐらいの大きな岩の前へ来ると、その岩をバンバンと叩いて、レンの方へ振り向く。
そして、棒で何かを叩くような、手を横に振るジェスチャーをする。
レンは、アークが何を言いたいのか暫く考えて、アークがバンバンと叩いた大きな岩に縦縞の模様が入っていることに気づいた。
おそらく、アークが土魔法で削ったのだろうか、よく見ると虎の模様のようにも見える。
大きな虎模様の岩…なるほど、つまり巨虎を倒した時の技をやれというのか?
そう気付いたレンは、少し考えた後ジャガイモの芽のような岩の突起を左手で持った。
位置が少し違う。
そう感じたレンは、左手で持った突起に魔力を流しながら、ゆっくりと動かした。
突起はまるで柳の枝の様に、簡単にレンの操作に従って動く。
それを、アークは特に表情を変えることなく見ている。
そのぐらい自分にも出来る、とでも思っているのだろう。
レンは、突起の端を思う位置に持ってくると、そこに右手を添え、姿勢を整え膝を落とす。
空気が変わった。
遠目に見ているアークにも、後ろから見ているミッツにも、それを感じ取ることが出来るほど、レンは集中力を高める。
『一法流居合抜刀術【繊月】』
繊月とは、三日月の別称であり、抜刀した剣の軌道が三日月型の弧を描くことから名付けられた、藤田一法流居合術の技名である。
ジャッ、というレンの足が地面を擦ると同時に、レンの腕が横一線に……ゆっくり動いた。
レンは、岩から生えた突起を引き抜くように右手を動かすが、どうも思うようにいかないようで、3秒ほどかけてやっと突起が抜ける。
引き抜いた反動で、レンの右手はビュッと風切り音を立てて右真横に伸ばしきられた。
その手には長さ1m程の細い石の棒が握られている。
岩から生えたジャガイモの芽のような突起は、刃物のような形の棒──レンの元いた世界で言うところの木刀の形状──になっていた。
レンは一旦そこで右手を止める。
アークのところまで届かせる巨大な剣をイメージしていたのだが、思うように形成できず、手こずっている間に手に馴染んだ木刀が出来上がってしまったようだ。
さしずめ、石刀と言ったところか。
気を取り直し、幼少期から何度も練習を重ねた通りに、石の棒──石刀を跳ね上げるように真上へ持ってくると、同時に左手も添えて両手で持つ。
次の瞬間、気合い一閃と言わんばかりに、両手に持った石刀は真下に振り下ろされる。
石刀が風を切る音と、レンが更に一歩前へ踏み込む音とが響き、小さく砂埃が舞い上がった。
アークは、レンの一連の動作が終わるのを見て取ると、レンの元へと歩み寄り、レンの手ごと石刀を掴む。
手を掴まれたレンは、構えを解き姿勢を普通に戻した。
レンの手を掴んだままのアークは、レンの目を見て首を横に振り、石刀を指差して、次に虎模様の大岩を指す。
そして、石刀から手を離すと、ジェスチャーで「もっと長く」と示して見せる。
レンは、コクコクと頭を縦に振り、「わかってる、わかってるよ」と言いたげに手振りで返す。
レンは、アークのリクエストに応えるべく、昨日のことを思い出そうと頑張る。なにせ、昨日は咄嗟のことで必死だったので、レン自身実はよくわからないのだ。
今もそうだったが、居合の速度で岩から刀を作りながら引き抜こうとしたつもりだった。
しかし、出来たのは数秒かけて出来損ないの木刀のような形状の物で、長さも普通の木刀と変わらない、柄も含めて1m弱程の物だった。
巨虎の首を刎ねた長い刀。
イメージしようと思っても、生家が剣術道場だったせいか、普通の太刀しか思い浮かばない。
とりあえず、今作った石刀をその辺に放り投げ、ジャガイモ岩から生えている別の突起──アークが試そうとして失敗した痕跡──を掴むと居合の構えの位置へ引いて伸ばす。
姿勢と呼吸を整え、改めて虎模様の大岩に向かって、超ロング太刀を繰り出すべく、大きく息を吸って、吐いて、呼吸を整え集中力を高める。
腰を落とし、掴んだ岩の突起に魔力を流す。
今度こそ、気合い一閃…とはいかなかった。
さっきよりは少し早いペースになったが、それでもまだ石刀はゆっくりと岩から形成されていき、さっきの石刀の長さを越えると、レンが右腕を振る軌道に合わせて曲線となり、弧を描くように伸び始める。
そして、レンが腕を振り切り動きを止めても尚、石刀はまだ岩と繋がったまま伸び続けていた。
岩とレンの手で両端が固定されているので、弧の形状がだんだん楕円になっていき、先の方はどんどん遠くなって行く。
つまり
『お…重…』
となる。
そしてそれは必然的に起こった。
伸びていく、つまり大きくなっていく石刀の重みに耐えきれず、弧の先端が地面に落ちた。
それでもまだ石刀──既に刀と呼べるかは微妙だが──は地を這うように伸びていき、レンと虎模様の大岩との真ん中に来た辺りで、岩と繋がっていた部分がプツリと切れた。
そして石刀(?)は、弧を伸ばしながらまるで生き物のようにズルズルと地面を這っていき、弧が伸びきったところで大岩に辿り着いて動きを止めた。
離れているはずのアークの深い溜息が聞こえ、レンは苦笑いした。
ジャガイモ岩は2周りほど小さくなっていた。
それからしばらく、レンとアークは岩から石刀を作り出してはそれをブンブン振ったり投げたり伸ばしたりしていた。
言葉はほとんど交わさないが妙にコミュニケーションが取れている様子に、何となく2人は気が合うのかもと思うミッツ。
「何してるの?」
2人の様子を見ているのにミーユが飽きて来たので、水魔法で小さな川を作って遊んでやっているミッツに、いつの間にやって来たのかミルクが声を掛ける。
「なんだ、ミルクか。どうした?」
「カーズ兄が帰って来たから、入れ替わりで来たんだよ」
「ん?そうか」
入れ替わり、というのがミッツに引っかかった。
どうせ来るならアークと一緒に来れば良かったのに、なぜカーズの帰宅を待って来たのだ?
そこで、さっきのアークの言っていたことを思い出し、ハッとするミッツ。
「やっぱり、アリル義姉さんに何かあったのか!?」
思わず立ち上がって言うミッツ。だがミルクは特に慌てた様子も焦った様子もない。
「やっぱりって何よ。んまぁ、何かあったっちゃあったけど…」
「何があったんだ!?病気か!?」
「どうしたのミッツ兄?まぁ、私からは言えないから、また今夜にでもカーズ兄の家に集まって、その時アリル義姉さんから直接聞いてよ」
ミルクの平然とした態度とは裏腹に、その言い回しはやたら意味深で、ミッツは何一つ理解できないまま混乱する。
「それより、あの2人は何してるの?」
動揺し、混乱し、すっかり落ち着きをなくしてしまったミッツを他所にレンとアークを指差すミルク。
つられるように、ミッツも2人の方へ視線を移すが
「ん?ああ、アイツら…何してるんだ?」
レンとアークは、それぞれひと抱えある岩に抱きついて、そこから真上へ石の棒をひたすら伸ばしていた。
レンとアークの身長は殆ど変わらない。石棒はその2人の身長の10倍程に伸びていて、今尚伸び続けている。
アークの方の石棒が、やや斜めになっているように見えるが、それが徐々に顕著になったかと思うと、ゆっくりと倒れ始めた。
アークは魔力をコントロールして必死に立て直そうとするが、あっちに戻せばこっちへ、こっちへ戻せばあっちへ傾き、最後は力ずくで支えようとしたのか、抱えた岩ごと倒れてしまう。
『ちょっ!?アーク!!』
その倒れた方向がレンのいる方で、レンは岩から離れ、慌ててその場から飛び退く。
アークの石棒が、レンの石棒に当たりボキンと折れたが、レンの石棒は折れずに立っていた。
しかし、その勢いでアークの石棒に巻き込まれながら、地響きと砂埃を立てて地面に倒れた。
アークの石棒は、落ちた衝撃で更に何ヶ所か折れてしまったが、レンの石棒は全く折れていない。
「ははっ、アークの負けだな」
「何か勝負でもしてたの?」
それを見て笑うミッツに、2人が何をしているのかわからず、再びミッツに問いかけるミルク。
「ん?さあ、あれはどうか知らんが。アークが、昨日のレンが虎の魔物を仕留めた魔法を見たがったみたいだ。アークは魔力欠乏で意識を失って倒れてたからな」
そう、昨日アークはミーユを守る為に魔力を使い果たし、魔力欠乏で意識を失っていた。
その直後に、土魔法と思われる魔法でレンが巨虎の魔物を倒したと、昨日の夜にカーズらから聞いて、アークはレンにそれを再現させようとしていたのだが…
「あれは奇跡だったのか、それともレンは土壇場で力を発揮するタイプのなのか、結局昨日巨虎を倒した魔法は再現出来ていない」
「ふーん」
アークとレンは、再び石棒を伸ばし始めた。
負けて悔しがるアークが再戦を挑んだのだろう。
「負けず嫌いは知っていたが、ここまでとはな。俺たち兄貴連中に頼られるほどの土魔法の使い手になったのに、突然現れた世渡り人にアッサリ追い越されて相当悔しいんだろう、アイツは」
いつしかミッツは、アリルの事で混乱していた状態から落ち着きを取り戻していた。どれほど意味深な事を言っていても、やけにミルクが落ち着いているので、大事ではないと理解したのだろう。
「そういえば、お前は何しにきたんだ?」
ここで初めて、ミルクがなぜここにいるのか疑問に思ったミッツ。
大事でないとはいえ、アリルに何か起きているのなら側についていると、普段なら言い出しそうなのだが。
「んー、レンの治療がさ、私の魔力が尽きちゃってちゃんとやれなかったから今日も来たんだけど…」
そう言ってレンをじっと見つめるミルク。
「けど?なんだ?」
「元気そうだね、レン」
「そう言えば…」
昨夜はベッドの上で体を起こすのにも痛そうにしていたのに、今はアークと元気よく動き回っている。
「レンも光魔法が使えたから、自分で治療したんじゃないのか?」
「は!?そんなことあるわけないじゃない!!」
何気ない調子でミッツが言うと、ミルクは途端に表情を変えてミッツを睨みつけた。
「光魔法が治癒の効果があるっていっても、簡単にできるものじゃないんだよ!!だいたいまだ私、レンに光魔法で治療できるって教えてないし!!」
どうやら、ここにももう1人負けず嫌いがいたようだ。
ミルクの場合、希少属性ということもあって、自分が特別な存在だという思いもあったのだろう。
「昨日、アークや兄貴を治療してる所を見てたみたいだから、それで覚」
「見ただけでできるもんじゃないし」
ミッツがフォローのつもりで言った言葉も、被せられた上に否定された。
「よっぽど規格外ってことだろう」
「納得できない!!」
まぁ、兄弟それぞれに父親譲りの頑固な部分があるのは昔からよく知っているので、ミッツはそれ以上フォローするのをやめた。
『ミッツおじさん、みてみてー!!あ、ミルクおねーちゃん!!ねぇ、みて!!こおりのおしろつくったよ!!』
はしゃぐミーユの声に反応して振り返ると、そこには見上げるほど高く聳える氷の塔──ミーユ曰く氷のお城らしいが──の天辺から手を振るミーユがいた。
はしゃぐミーユの横で凍えるように身を震わせている仔虎の姿もある。
デザイン性はともかく、水魔法と凍魔法を活用して作ったらしいその氷の塔に、2人は目を丸くした。
レンの所業に隠れてしまいはするが、ここにももう1人規格外がいた。
年齢的に見れば、それ以上かもしれない逸材が。
ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。




