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第4章【ビビリなのに何故かチート級の力が身に付いてしまって申し訳ありません】1

第1話【セシリア】




夜の静けさの中、すすり泣く声で目が覚めたレンは、自分の左手が小さな手に握り締められていることに気づく。


『…みゆちゃん』


寝起きでぼんやりしているせいか、この世界の人達に合わせて「ミーユ」と意識していた呼び方も忘れ、手を握ったまますすり泣いている幼女の名を呼んだ。


『れんにいちゃん!!』


名を呼ばれ、レンが目を覚ましているのを見た途端に、嬉しそうに毛布の上から飛びつくミーユ。その様子から、かなり心配をかけていたことがわかる。


そして、ミーユのその向こうから、見知らぬ女性の顔が覗いているのに気付く。


ハーフのカーズ達より更に西洋人然とした顔立ちの、プラチナブロンドの髪を1つ縛りにした若い女性は、黙って立ち上がると部屋を出て行った。


誰だろう?


レンがそう思うより早く


『れんにいちゃん、いたくない?』


ミーユが心配そうな顔で呟く。


『大丈夫だよ、痛くない』


そう言って、ミーユの頭を撫でるレンだが、実際にはけっこう身体中が酷い筋肉痛のように痛かった。今こうしてミーユの頭を撫でているだけでも、肩や背中に痛みが走る。


『み…ミーユも怪我はなかった?』


『うん、みゆだいじょうぶ』


『そっか、よかった』


戦闘の途中で2度も意識を失ったこともあり、レンは状況がいまいち掴めなかったが、まずは何よりミーユの無事が確認できただけでも安堵した。


『さっきの女の人は、誰?』


『わかんない。ミッツおじさんのおうちのひと』


『ふーん』


ミッツの奥さんにしては若い気がしたけど、ミッツは見た目よりかなり若いので、もしかしたらそうかなと思った。


外人顔なので、ニホンジンのレンから見ると年齢はよくわからないが。




「レン、気が付いたか」


そう言って部屋に入ってきたのは、カーズとミッツ、そして部屋の外から事件現場を見てしまった家政婦の様な隠れ方で覗いている、先ほどのプラチナブロンドの女性。


「セシリアも、入って来い」


ミッツに呼ばれ、恐る恐る部屋へと入ってくるプラチナブロンドの女性──セシリア。


さっきまで部屋にいたくせに何故そんなに恐る恐る入ってくるのかは謎である。


ミッツの横に隠れるように立つセシリアは、ミッツに何か言われ、ボソリと何か囁く。


「そんな声じゃ何言ってるかわからんだろ」


セシリアが呟いたのを聞いていたレンがキョトンとした顔をしているのを見て、ミッツがまたせかす。


『Guten aben(こんばんは)d』


セシリアは今度はハッキリとした口調で言ったが、レンもミーユもセシリアが何と言ったのかわからない様子で、またキョトンとしていた。


「ほら、ダカラ私言ったよ、言葉ワカラナイって!!」


「そうなのか?ちゃんとニホンゴで言ったのか?」


「私、『Deutscher(ダッチャー)』、“ニホンゴ” ワカラナイよ!!」


2人は、レン達にわからないこの世界の言葉でなにやら言い合いをしているが、まだこの世界の言葉に馴染みが少ないレンでも、セシリアと呼ばれた女性が片言のような言い方なのがなんとなくわかった。


もしかして…


「ミッツ」


何かに気付いて、レンはミッツに声を掛けて、ジェスチャーで伝える。


指先で四角をなぞり、右手で何か書く仕草をすると、すぐに察したミッツは部屋の外にいたマーサーを呼び、木板と木炭の欠片を持って来させる。


『イタタタ…』


『れんにいちゃん、だいじょうぶ?』


木板に字を書くため、それと初対面の人の前で横になっているのも失礼だと思ったので、レンはベッドの上で体を起こす。


痛そうにするレンをミーユが心配するが、レンはやせ我慢して起き上がった。


「すまんな、レン。光魔法が使えるミルクが魔力不足で、とりあえず外傷を塞ぐ程度しか治療ができなかった」


痛がるレンを見たカーズが、レンの怪我が完治していない理由を説明してくれるが、レンは言葉がわからないので、曖昧な笑みを返すだけだった。


起き上がろうと動いているときは痛いが、起き上がってしまえばなんとかなりそうだったので、レンは気を取り直して木板を持って、ゆっくりと時間をかけて何かを書く。


ミッツたちはそれを黙って見守っていた。


『できた』


最初にカーズの家で地球の絵を描いた時より、ずっと丁寧に描かれた世界地図をセシリアに見せると、セシリアは口元に手を当てハッとする。


そのリアクションを見て、片言っぽい喋り方をするセシリアが、やっぱり世渡り人…地球人だと確信した。


セシリアの方も、ミッツからレンたちが世渡り人だという事を聞いていたが、半信半疑だったようで、レンが書いて見せた世界地図でハッキリ信じたようだ。


『僕とミーユは、ここ。ジャパン、ジャパニーズだよ』


「ジャパ…ニーズ?」


セシリアは「ジャパニーズ」をリピートしながら眉を寄せる。


『あれ?』


ジャパニーズって何?的な顔をされ、欧米人ぽいから英語のジャパニーズが通じると思ったレンは首を傾げた。


伝わらなかった理由は2つある。


1つは、レンの発音がカタカナ発音の所謂 “ジャパングリッシュ” だったこと。


ジャパングリッシュとは、日本人独特の発音で日本語に浸透したカタカナ語をベースに発音するので、欧米人にあまり通じない。


そしてもう一つは


『Ich bin(私は) Deutsche(ドイツ人)』


『ジャパニーズ』は聞き取れなかったけど、レンが自分の出身地を指差したのだろうと思ったセシリアは、そう言ってヨーロッパの中央辺りを指差した。


セシリアはドイツ人だった。




「ダカラ、私何度も言った!!あの顔『Japaner(日本人)』か『Chinese(中国人)』!!言葉違う言った!!違ったデショ!?ワカラナかったデショ!?」


「ああ、ああ、そうだな」


「なのにミッツ!!「だいじょうぶ、だいじょうぶ。同じ “ニホンジン” 、話しできる」言う!! “ニホンジン” て何!?ぜんっぜんワカラナいよ!!」


「ああ、ごめん、ほんとごめん」


女性にしては背が高い方のセシリアだが、それでもミッツは見上げるほど大きい。


また、セシリアはとても華奢な所謂モデル体型をしており、細身のセシリアに迫られタジタジになっている大柄ミッツが、なんだか海外のホームコメディものの亭主みたいで面白いとレンは思った。


狩りに行く前にミッツと言い合いしていたのは、この女性だろう。


と、いうことは?


何か思い付いたレンは、余分に持って来てもらった木板に無言で絵を描き始めた。


『えっとー…「カーズ」』


思い浮かんだ疑問を本人に聞くのが1番なのだが、コミュ症のレンは話しかけるために初対面のセシリアの名を呼ぶことができない。


次に、セシリアと1番近しい人はミッツなのだが、状況的にちょっと話しかけられる様子ではない。


そこで、カーズに声を掛けた。


『セシリアは、どれが使えるの?』


レンは、8っつのマークを描いた木板をカーズに見せた。“魔法” という言葉がわからないので、とりあえず全属性の絵を描いてみたのだ。


狩りに出かける前、ミッツの家の中で雷が落ちたような爆音が鳴り、お笑いコントのような爆発頭になったミッツが出てきた。


あの時は突然のことで何が起きたかわからなかったけど、今思うと世渡り人であるセシリアがいたのなら、魔法だったのではないかと思ったのだ。


そして、世渡り人の先輩ならば、自分より強い魔法が使えるのかもと考えたが、今はまだあまり詳しいことを聞き出す手段がないため、とりあえず属性を聞いてみることにした。


「お、セシリア。レンが何か言ってるぞ」


それを見てカーズより先にミッツが反応する。この状況を脱するチャンスを逃さないとばかりに。


セシリアは「何よ」と言わんばかりの顔でミッツをひと睨みすると、レンの持つ木板をじっと見る。


「魔法?」


そう言って少し表情を穏やかにすると、木板に寄ってきて指で指す。


「雷、樹」


やはり純粋な世渡り人のようだ。彼女は2つの属性持ちだった。


「アナタは?」


と、セシリアがこの世界の言葉で問い返して来た。


自分に同じように問い返されているのだというのがなんとなくわかったレンは、炎と土と光を指差す。


「oh〜!?3つも!?スゴイじゃない!!」


レンが3つの属性持ちだと言うと、すごく驚いたセシリア。


驚いて感情が瞬間的に高まっても、この世界の言葉が咄嗟に出るほどには馴染んでいるようだ。


セシリアが指で3を表しながら驚くので、やっぱり3つの属性っていうのは驚かれるんだなぁと、レンは呑気に捉えていた。


しかし、3つの属性持ちのレンがこれほど驚かれるということは…


『みゆはねぇ、これとぉ、これとぉ』


魔法の話をしているのだと察したミーユが、レンのベッドによじ登り、嬉しそうに木板の絵を指差していく。


自分の得意なことはアピールしたい年頃なのだ。


『これとぉ、れんにいちゃん、ピカピカのまほーってどれ?』


レンが光魔法の星マークを示してやると、ミーユはまた『これとぉ、これ!!』と、自分が使える5属性を指し示した。


「え?」


それが何のことを言っているのか、セシリアはわからなかった。


彼女も、3属性持ちまでしか見聞きしたことがなく、ミッツたちからもそれ以上はまずいないと聞いていた。


5属性持ちというのが存在するなどとは考えたこともなかったのだ。


故に、ミーユが5つの属性を順に指差した行為が、自分は5属性使えるんだぞとミーユがアピールしているとは、まったく思い至らない。


「ミーユは5属性持ちなんだ」


そして、ミーユが何を言いたいのかわからない様子のセシリアを見て、カーズがフォローする。


『Das ist un(信じら)glaublich(れない)……』


案の定セシリアは目を丸くし、思わず母国語で驚いた。




その後、セシリアが本当にこんな小さい子が魔法を使えるのかと、ミーユが魔法を使うところを見たがったが、魔力欠乏で倒れた後なのと、今日はもう遅いということでまた後日という話になった。


「それより、レンに食事を出してやれよ。元気そうだ、多少なら食べられるだろう」


カーズがそういうと、ミッツが部屋から出て行き、追うようにセシリアが出て行く。


何か2人が言い合うような声が聞こえ、バリバリバリっとスタンガンのような音が聞こえてしばらくすると、セシリアがスープと一口サイズにカットして焼いた肉と、穀物と葉物野菜のサラダの様なものをトレイに乗せて持ってきた。


セシリアに少し遅れて、服が焦げた肩を抑えながらミッツがトボトボとした足取りで部屋に戻ってくる。


セシリアから食事のトレイを受け取りながら、レンはふと気付いた。


『あれ?ミルクと、えーっと、アークは?』


さっきからずっと部屋にいるカーズとミッツ、そしてセシリア。それから、部屋の入り口まで来ていたマーサーしか見ていない気がして、レンはそこに居ない2人の所在が気になった。


何となくしか覚えていないが、かなり危機的な状況にあったのだ。


カーズ達の様子から万が一のことは無かった様子だが、気になって当然だろう。


「ああ、ミルクとアークか。2人は、俺の家、ああ、アリルのところだ」


レンが、ミルクとアークの名を口に出したことで、カーズはレンの言いたいことを察する。


レンも、カーズが言ったことは、まだ名前ぐらいしかはっきり聞き取れないが、アリルの名前が出たところで彼女のところにいるのだとわかった。


同時に、ここがカーズ家でないこともわかった。


『じゃあここは、ミッツの家?』


レンがそう言うと


『そうだよ、ミッツおじさんちだよ』


と、ミーユが答えた。




「じゃあ、我々はリビングにいるから、また何かあったら呼んでくれ」


そう言うと、カーズ達は部屋を出て行く。


言葉としてはレンに伝わらなかったが、「2人でゆっくりしててくれ」とでもいってくれたのだろうと、雰囲気でなんとなく理解した。


とりあえず、レンは出された食事をゆっくりと食べ始めた。


『ミーユは、あの後大丈夫だった?』


『んー、みゆ、ねちゃったからよくおぼえてない』


レンも、巨虎を倒した後のことはまったく記憶になかった。むしろ、あの巨虎の一件自体も夢じゃないかと思うほど、記憶に自信がない。


それでも、食事を摂るレンの隣でミーユが語る狩りの話に、やはり現実だったのだと知る。


さぞ怖い思いをしただろうに、ミーユはまるでテーマパークの話題の絶叫マシーンのように話す。その様は、早くもこの世界に適応していることを感じさせる。


そういえば、ミーユは魔物の大群を前にしても臆することなく待ち構えていたし、魔物とはいえよく知る動物に似た生き物を、何の躊躇もなく狩っていた姿は、もう一端の狩人だった。


そうしてミーユが語ることで、レンはあれが現実だったのだと受け入れた。


そして、あれが現実だったということは


巨虎の首を刎ねた魔法は、本当に自分がやったのだと、レンは木製のフォークを持ったままの右手を見詰めた。


この世界の魔法使いの基準がわからないけど、魔物の森での狩に慣れている様子のあの兄弟たちでさえ、まったく歯が立たなかったあの巨虎の魔物を、自分は石壁で食い止め、居合いを応用した土魔法の一閃で倒してしまったということになる。


自己肯定感の低いレンは、どれだけ強い力が自分にあると言われても、俺TUEEEEE!!とはならないが、これは少しチートな力を手に入れてしまったんじゃないかと、怖くなった。


そして何より…


『あ!!』


そこで1つ思い出し、急に大きな声を上げてしまい、ミーユがビックリして椅子から落ちた。


『あたー!!』


『ああ、ごめん!!みゆちゃん!!』


『いたた、ビックリしてころんじゃった、はははっ』


笑いながら椅子に戻るミーユを見て、怪我がなかったことに安堵するレン。


『あの仔虎…仔猫って、どうしたの?』


そして、気になったことを聞いてみた。


『ねこちゃんいるよ!!』


そう言ってミーユはせっかく登った椅子から飛び降り、バタバタと部屋を出て行くと、しばらくして薄茶色で虎模様のモコモコを抱えて戻ってきた。


『ほら!!』


「ミィー」


仔猫…いや、仔虎の、ミーユにも負けないぐらいピュアでキラキラした目と見つめ合ったレン。


レンの目に、じわりと涙が溢れ出す。


『どうしたの!?れんにいちゃん!!』


『大丈夫だよ、ミーユ』


ミーユに心配されて涙を拭い、笑顔を作るが、涙は止まらない。


『抱っこ、してもいいかな?』


『うん、はい』


小さな手で一生懸命に仔虎を持ち上げ、レンに渡すミーユ。


レンは受け取ると、更に大粒の涙を零し、仔虎を抱きしめた。


「ミィー、ミィー」


『ごめんね、君のママ、……殺し、ちゃって』


仔虎を抱きしめたまま、レンは声を押し殺して泣いた。


仔虎にも、そしてもちろん母虎にも罪はない。


仔虎はたぶん迷子になってただけだし、母虎は迷子になった我が子を必死に探していただけなのに。


ミーユを守る為とはいえ、こんな小さな仔虎から母親を奪ってしまったことに、レンはただただ泣き続けた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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