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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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全ては彼の手の平に

「……は……。」


「どうした?お前らしくないな。固まっちまって。」


上等な絹で身を包んだアズマはその懐から酒の瓶を取り出した。


「サケヤから直接取り寄せたんだ。まぁ飲もう。」


驚きのあまり、頭が全く働かなかった俺は言われるがままにグラスを手に取る。その様子を見て部下は静かに扉を閉めて出ていった。 


「………。」「なんでここにいるのかって話だろ?」


俺が口を開く前にアズマは俺が求めていた問いを口にする。美味そうにちびちびと飲みながら彼は話しだした。


「時間は十分にある。俺も晴れて自由の身になったんだから好きなだけ答えよう。」


✱      ✱ 


それはある日の夜の事。まだお前がクーデターを起こす前の話だな。


俺、アズマは頭首として初めての仕事を黙々とこなしていた。お披露目会(西の国民に顔を見せる会)のような重要儀式も終わり、あと数週間すれば地下会議に初めて出席できるであろう時に、『彼』は現れた。


ふと机から顔を上げたとき、その五メートルほど先に彼がいた。

黒い髪の毛と、蛇を連想させるような鋭く、かつギラギラとした瞳。


「こんばんわ。今日は良い湿度ですね。」

彼よりも奥にある窓が半分ほど空いていた。気づいてもおかしくないはずなのにあのときは全く気づけなかった。


「……君は、確か“イザヤ”だったかな?西から北に配属されたという。」


「ワォ、よく知ってますね。」「君は何かとよく目立つからね。」


「西の頭首様に覚えてもらえて光栄です。」


「でも、だからといって出戻りは感心しないな。いつ首を跳ね飛ばされてもおかしくない。早く帰りなさい。」


俺は彼がこの部屋に訪れたのを目を瞑るつもりだった。もし彼が刺客だったとしても対処できる自信があったからだ。

俺の机の上に置いてあるベルを鳴らせば、部下達が駆けつけてくる。このベルは特注品で普通の物より音がよく響くのだ。


「あのぉ、頭首様?俺と一緒にチェスやりませんか?」という先程の俺の話を全く聞いていなかったであろう提案に俺は眉がピクピクするのを耐えながら「遠慮しておくよ。」と答えた。


「貴方様がお強いということを貴方様の親友から聞きました。」

あぁ、アイツか。何度かアイツにイザヤに対しての愚痴を聞いたことがあった。

自由奔放、風来坊、良くも悪くも相手を自分のペースに巻き込んでしまう奴だと。俺は流されないように最大限に注意していた。 


「俺の話を聞いていたか?今すぐ帰れと言ったんだ。」少し声を低くして、脅してみる。


「俺がなんでここに来たか気になりませんか?」


「毛ほども興味がないな。」


「北からの伝言を持ってきたんですヨ。」


「……それを先に言ってくれよ。」


彼は嬉しそうにそこら辺にあった椅子を俺のテーブルの側に置くと、そこにドカリと座りおもむろにチェスの駒を並べ始めた。

 

「…………君は………いや、もういい。」ため息交じりに俺は折れた。このときにはもう彼のペースに巻き込まれていることを俺は気づいていない。


「武器は持ってないですよ。必要なら、持ち物検査でもします?」


「……部下にさせよう。」ベルを持とうとするとイザヤはその上に手を置いて止めた。


「誰にも言えない話だからこんな夜に来たのに、それじゃあ意味ないじゃないですか。」


「…………。」


「信じていませんね、でも大丈夫ですよ。これからあなたは俺の言っていることを信じる他ありませんから。」

なんとも強気な発言を俺はあからさまに疑っていた。イザヤという人間をあまり深く知らないがゆえに疑いの色ばかりが濃くなっていく。


「……北の頭首はもう戦争をしたくないと仰っています。次、どうぞ。」白のポーンをd4に置いて、俺に続きを促す。話を聞き出すためにも俺は、駒を掴んだ。黒のポーンのd5に置いて応戦する。


「ですから東西南北、全ての頭首の入れ替えを極秘で行うつもりです。」


「………は?」


信じられずに彼の顔をまじまじと見つめる。


「北の頭首は即位した時から何年もこの地下国を見続けてきました。しかしこの十年、戦争に戦争を重ねてどの国もボロボロです。」


どの国でも毎年のように陣地争いをしていた。それで得た金によって国の生活が保たれているからだ。

俺は北のアイデアはとてもいいと思う。むしろそうするべく自分が立ち上がったと言っても過言ではなかった。



「率直に申し上げます。」彼は俺が終わった同時にナイトの駒を動かし、俺のポーンを倒す。

そして言った。


「俺に、西の頭首の座を代わってください。」


「………それは、このゲームの勝ち負けが関係しているんじゃないだろうな?」


「いえいえ、まさか。そんな小賢しいやり方するわけないじゃないですか。これはただの余興ですよ。」


俺はナイトの駒をf6に指し、彼はe4のポーンを攻撃する。少し打ってみても、彼の技量の高さを感じられる。油断は禁物だろう。


「そうやすやすと代われるはずがないことをお前が一番分かっているだろうに。」

どれだけ西の頭首のお守りが大変だったか、どんな思いでここまで上がってきたのか、彼もその実体験のうちの一人なのだ。

白はナイトはc3と指し、e4のポーンを守る。


「俺は、北の頭首のやり方に反対していない。むしろ喜ばしい知らせだ。……どうだ?これで俺を頭首から外すことはないだろう?必要ならその契約書もやる。」俺はe5を指し、白のポーンをプッシュさせないようにする。


「……そうですね。確かに貴方は戦争を好むタイプではありませんもんね。

では、『あなたがもしこのまま頭首でいたなら』の話をしましょう。


無事に東西南北の頭首の入れ替えが終わり、平和条約も結ばれました。長たちはみんな満足でしょう。しかし、その部下たちは?今まで戦果を上げることで地位が築いていたのにそうじゃなくなったら……どうですか?俺なら間違いなく反乱を起こしますね。だってそれで金を稼いでいたんだから。貴方は元部下だったギャングに裏切られ、城は火の海になります。

なんとか部下から逃げれた貴方は次は全国民の食料問題に直面します。人脈のないが優しい貴方は自分の財産を削りに削りながら国民に食べ物を与えます。しかし国民は『これじゃ足りない!』と理不尽にも一揆を起こし、貴方は何が間違っていたんだと頭を抱えながら死にます。



………どうですか?こんな未来は。」

イザヤは26手目、白のナイトg1と指し、ビショップをテイクする。


「…………はっ、とんだ茶番劇だ。お前が俺を陥れるために嘘をついているようにしか思えない。」俺のナイトが攻撃されているため、黒のポーンをd3を打つ。


「東は安全でしょう。これから頭首を戦が巻き込むクーデターが起こるから。もし新しい頭首が人望がある奴であるなら、部下達も反逆者の身として平和条約を甘んじて受け入れるでしょうね。」


俺は意味が分からず眉をひそめる。


「でも南と西の部下たちはそうはいかない。それどころか部下たちは最悪国民を人質にしてまで平和条約を卑下するでしょう。だって銃が規制されるのは嫌だから。国民は被害に巻き込まれて、難民がでる。

そんな時、俺には南や北という後ろ盾がいるが、貴方にはいますか?…………いないだろうねぇ。

だってアンタは頭首のお守りをしながらずぅっと西のことだけ考え続けていたんだから。」

彼はキングg1と指し、俺からの攻撃を避ける。 


「君ならどうするんだ?イザヤ。」俺はクイーンg2で相手のキングにチェックメイトを打つ。


「俺なら」白のキングを斜め横にスライドし避難させ、ナイトを展開する準備を始める。


「平和条約を守りながら、部下たちを制圧して、難民を出さずに、()()()()()()を守ることが出来ます。」


「…………どういう意味だ?」

アイツを守る?なぜだ?


イザヤがこちらに差し出してきたのはアイツが俺宛に贈ろうとしていた東にクーデターを仕掛けるための作戦を記した紙だった。


「貴方の親友が、東にクーデターを起こす張本人だからです。」


「これが成功すれば、あの人は頭首になれますが、同時に罪人にもなります。どうなるかは全て地下会議の結果によりますよ。あなたが俺に頭首を譲れば“絶対”に彼を救うことを約束しましょう。」


「…………。」


「北はともかく、南は穢れた血を嫌いますからね。貴方が説得するのは難しいと思いますよ?」


「………はっ。どこまでも煽ってくる小坊主だ。」49手目、白のプロモーションに対して黒はルークe2と指し、攻撃を優先する。


「チェックメイト。」


「…………ッ。」最善の手を打ったはずなのに、奴には完全に読まれていた。

他に打てるところがないか隈なく探すが、どこを見ても見つからなかった。


「十年ください。その十年の内に西を治めて見せましょう。その間に俺は貴方に北や南、それ以外にも関係を結んでおくべき人との交流を図ります。俺が北からそう教わったように、きっと貴方の役に立つはずです。」


「…………。」


「もちろん、北の庇護の元、敵には貴方に指一本触れさせないようにしますし、必要ならば地下会議に出席できる権利を差し上げます。どうですか?悪い話ではないはずですが。」


「………なんでそこまでするんだ。」俺が邪魔ならさっさと排除すればいいのに。


「あなたが有望だからです。それは西にいたときから、あなたの親友や貴方の部下から話を聞いていました。でも、貴方はまだ蛹だ。西の頭首のお守りをして上がってきただけの空っぽな蛹。それではすぐに潰れてしまう。ですが、知識や経験を身につければいつかきっと誰にも手が届かない蝶になる。

さぁ……どうしますか?」


「…………………………





          ………分かった。」


「貴方様ならそう言ってくださると思っていました。」

俺は投了した。あれほどまでに頭首に執着していたのに。けれど胸の中はどこか清々しい気持ちでいっぱいだった。この男になら、なぜか任せてもいい気がしたからだ。


チェスの強さでも、言葉の上手さでもなく、彼が誰よりも“先を見通す力”があるような気がしたからだ。





「……では、俺はこれで帰ります。あ、そうだ。」西の頭首の座を譲り渡す紙に署名を残した後、出ていこうとしていた彼はふとこちらを振り返る。


「そのベル。鳴らしちゃダメですよ。」


「……え、どうしてだ。」西の頭首の座を譲り渡したとはいえ、まだ迎えが来るまでここで暮らしていてと良いという。なので彼が帰ったら茶でも入れてもらおうと思っていたのだが……


「それ鳴らすと、西の城の前に立っている俺の部下が東に行って、東の頭首に貴方の親友のクーデターについてチクっちゃうので。」舌をペロッと出してイザヤ言った。


彼の話曰く、俺がもし彼の話を聞くことなくベルを鳴らし、彼を捕まえていたらそのベルの音を合図に彼の部下が東の頭首に『アズマが東のギャングを駒として、東の頭首にクーデターを起こそうとしている』という嘘を告げ口するらしい。


そうなれば俺は東と話し合うほかなく、イザヤは情報発信者兼、証言者として話すことだろう。

その前にきっと俺を脅すのだ。


『東といい関係を築きたいのであれば、西の頭首の座を譲れ』と。



✱       ✱


「うむ、皆が平和条約を可決してくれてよかったわ。」北は東、西、南から届いたサインを目にしながら満足そうに微笑んだ。


「お前の言うとおり、東を採用したのは正解だったな。東はワシに恩を感じてくれているようじゃ。」北は彼のソファに寝転がっているイザヤに目をやる。


「あぁ、そっすね。これからもきっと貴方の為に動いてくれるでしょうよ。」


「ところで、お前はどうして東を頭首にしようと思ったんじゃ?」


「………別に深い意味はな」「はぐらかすな。」北の鋭い視線に射抜かれてイザヤは口をつぐむ。こういう顔をしているときは下手に逆らわないほうがいい。

イザヤは彼を怒らせたくないし、そういう顔をさせたくないからだ。


「…………あの人は、カリスマ性があります。危なっかしいですが、側にいる人は誰もが助けなくなる物があります。」

それはあのアズマにはないものだ。彼は誰かを支える方が合っている。


「……では、地下会議後に東と個別に呼び出す必要ないだろう?」


「だから、飲み合う為ですよ。」


「お前はボロボロになってたじゃないか。」


「………。」


北はアズマが西の頭首だったことは知らない。いや、イザヤが知らないように仕向けたのだ。どうにかしてはぐらかさなくては。


「……あの人が先輩だった時に、熱烈な告白をされたんです。ベットの上でね。『頼むから頭首だけにはならないでくれ』と。頭首は命を狙われやすいですからね。あの人は俺が頭首になったと知って、感情に任せて殴っただけです。俺がそれが一番興奮するとも知らずにね。」

もちろんそれも全て北に信じ込ませる為の虚言だ。東はイザヤに告白などしていないし、興奮することを知っていた。


「全くお前は…………それよりも、東はお前を強引に引きずり下ろそうとしないだろうか。」


「そうならないように対処しました。あの人にちゃんと『愛の印』を上げたので、俺を引きずり下ろしたり、平和条約に亀裂を入れたりはしません。」


もちろん愛の印とは『アズマ』のことだ。

死んでいたと思っていたハズのアズマが突然東の所に行けばどうなるだろうか。

きっと困惑するだろう。そしてアズマから話を聞いてイザヤが自分を助けようとしてくれていたとしれば………きっと東はイザヤの元に来るだろう。


「さて、そろそろ俺は帰りますね。」


「おぉ、そうか気をつけて帰れよ。」


「はい。」

そして素直になれずに嫌味の一つや二つを言うか、正直に頭を下げるかのどちらかだろう。

責任感の強いあの人はきっとイザヤに借りを感じて、それをすぐ返そうとするだろう。 


(だから俺は、そこに付け込むんだ。


俺で興奮できる。俺のことが大好きなアイツに。



アンタの拳でもっと、俺を興奮させてくれ。


これからも、ずっと。



ってな。)


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