地下裁判
俺が配属された東の頭首はそれはもう最悪だった。
蹴るは殴るは当たり前。反抗する奴は容赦なく殺す。そのくせ女を揃え、逆らうものは容赦なく犯す変態野郎だった。
何か成果を挙げたかと言われたらそうではなく、毎日大量の金貨をドブに捨てているような男だった。
それでも最初の一年は待った。きっと少しはいいところはあるだろうと。
二年待った。女をマタに挟むのを目の当たりにしながらも俺は必死に心にセーブをかけていた。
石の上にも三年というが、俺は五年待った……。
ピキリッ。
『俺はこれから東の頭首にクーデターを起こす。』アズマ宛に手紙を記したのだが……………グシャグシャと丸めてゴミ箱に捨てた。
これをアイツに渡すのは巻き込んでしまう危険があったからだ。責任を負うのは俺一人で十分だ。
仲間を揃え、武器をかき集め、いよいよ戦いの時だというときに俺は怖気づいた。
もしこの計画が失敗に終われば俺だけでなくほかの仲間たちも殺されることだろう。そもそも、俺なんかに出来るのだろうか。
そして何より、ギャングの端くれが大罪である頭首殺しをして、他国の長たちが黙っているとは思えない。
部下達は俺の「行け」の二文字を待っていた。俺は情けないことにもずっと頭を抱えて椅子にジッと座っていた。
そろそろ夜が明け始め、部下たちの苛立ちが募ってきた頃に俺はある一通の手紙を目にする。
生涯忘れることのない我が親友からの手紙だ。
『西の頭首に就任した。お前も早く来いよ。』
奇跡のようなタイミングで届けられた手紙に心が震えた。ここでへばるなと肩を押されたようで、泣きそうになった。
(あぁ、そうだ。そうだよな。)
アイツはやり遂げた。アイツに出来て、俺が出来ないでどうする。
二人で国を治め、二人で酒を飲み交わすと約束した日からもう、五年も経ったのだ。
目を見開き、空を仰ぐ。
西の空の一箇所から出る光は自分を照らしてくれえいるような気がした。
✱ ✱
東のクソ頭首を倒した後、俺は腹を決めていた。
他の頭首が俺を殺すと言ったら大人しくそれに従う。それが反逆者のリーダーで俺への責任だ。
数日後、いよいよ地下会議にお呼ばれされた。
頭首が亡き今、代わりに席に座るのは俺だ。付いてくると言った仲間達を全て置いていき、「どうしても連れて行ってほしい」と強く言われて根負けした腹心の部下二人だけ連れて行くことにした。
扉を開けると、南と北の頭首は先に来ていた。
南は貴族のようなキッチリとした格好いかにも坊っちゃんであろう男だった。
(※あの白衣変態メガネではない。)
もの凄い形相で俺という不純物を見下ろす。
きっとコイツの親から代々頭首の座を渡されているのだろうと簡単に予想がついた。
「ではさっそく、地下会議を行う。」
北は簡素な濁った緑色の着物を着ていた。
茶色の髪はサッパリとしていて老いを感じさせない自信と威厳がピリピリと伝わる。
長年北の頭首の座に座り続けている帝王はどこまでもムダを省きそうなその風貌だった。東は怯えそうになる己の心を鼓舞し、真っ直ぐと背筋を伸ばした。
「話はもちろん、東の頭首に対する反逆罪だ。」
俺は小さく震える膝をグッと抑えた。裁判官の前にいる罪人のような気持ちだった。
(大丈夫。覚悟は出来ている。)
「何か意見があるものは「この男は処分すべきだ!」
北の話に被せて南のボンボン頭首は声を荒げた。
「……なぜそう思う?」北はあくまでも俺を守るためではなく、理由をたずねただけに過ぎなかった。
「この男は国の長である頭首を殺した!それは大罪だ!きっとこの男が頭首になれば東だけでは飽き足らず、他の国まで滅ぼすに違いない!!戦争の芽となる男はさっさと摘むべきだ!」
ちがう。それはあの男がどうしようもないクズだったからだ。俺は無闇に銃を撃ったりしない!!
その言葉を喉の奥でグッと堪える。南のボンの側近たちも頭首の言葉にウンウンと頷く。それが彼らにとって上に上がるための唯一の術なのだろう。
「お前はどう思う。罪人よ。」静かに南の言葉を聞いていた北が突然俺にそういった。
「俺は……」
緊張で体が強張っている。俺の言葉一つによって自分の生死を左右するかのようだった。
「俺は、頭首を討ったことを悔いていません。あの方が東に立つのが相応しくない故に反逆しました。それだけです。」
「ほら見ろっっっ!!この男は自分が気に入らなければ殺す!!北の頭首。この男は生かしておくべきではありません!」南のボンは声を上げる。俺はできるだけ感情が含まないように淡々と反論した。
「……南の頭首様の言うとおり俺はあの方が気に入らなかった。そのとおりです。強情で凶暴で暴君のあの方と五年の年月を共に過ごしましが、あの方が国を治めていては東の未来はないと思いました。」
覚悟を決めた。鋭く北をジッと見る。
「だが、俺は大罪を犯した。だから死んでも構わない。」
「だそうだ!……ハハッ、罪人もこう言っているのだ。北の頭首、もう処分は決まったと言っても過言ではありません。次期東の頭首の権利は故人(あの方)の側近に与えましょう。」
あぁ、クズ部下か。ヘラヘラ笑ってばっかりで陰であのオッサンの愚痴ばっかり言ってるヘタレだ。
「さぁ!これで会議は終わりです。いやぁよかったよかった。罪人はこれでようやく「黙れ南。お前一人の決断でその場を終わらせるな。」
低く、鋭い声がその場を制した。北だ。
「……西から伝言を預かっている。」
今まで黙っていた北は一通の白い手紙を俺たちに見せつけると、ペーパーナイフで手紙の口を丁寧に開いた。
中から手紙を取り出し、読み上げる。
『我が西の国は、この罪人を《東の頭首》にする意向である。』
「なっ……何を言っているのだ!!」
「ワシもその意見には、賛成だ。」
「なぜ……なぜだ!!理由が分からない!こんな罪人を引き受けるだなんて……こんな……こんなっ………穢れた血を……。」
最後のは俺にしか聞き取れないほどの小声だった。
俺はその意向……アズマの根回しがとても嬉しかった。
「考えても見ろ。東の頭首亡き今、誰かの東の頭首になる?それ相応の信用と評価がないものでないと無理であろう。その点は大多数の反逆者を率いたこの男なら安心じゃ。そしてこの罪人の言うとおり、東は性格に難がある。女好き、酒好き、ギャンブル好きで、ここ十年間成果を挙げたのはほんの些細なことだらけだ。忠誠を誓ったはずの部下に殺されてしまうのだ。そうとう恨みを買ったに違いない。」
「いや……しかし……それで奴が暴走したらどうするのですか!!責任は誰が取るのですか?」
「ワシが取る。
この男が暴れるようものならワシが総戦力使ってでも止める。責任は全てワシに預けろ。」
「……っ。」そこまで言われてしまっては南のボンも何も言えない。渋々と言った様子で「……わかりました。」と承諾した。
俺は驚いていた。俺なんかと為に何故そこまで、と。
「……しかしそれは、西の頭首が本当にそう言ったのであれば。」南のボンは一つ条件を提示した。
「……手紙にそう記しただろう?」
「偽物かもしれません!!」子供の最後の嫌がらせのようにどこまでも俺を頭首にするのを避ける南のボンをみて、北は呆れたようにため息をつく。
「彼は今日、前頭首の危篤により来られないそうだ。」
勝ち誇ったようにいう「だったら!この件は保留ですなっっ!!真実が確かめられるまで認められない!!」という南。
「東の頭首は彼です。何度言わせるんですか?」
開いたドアから声がした。
紫色の気品を感じさせる格好でその場に現れたのはアズマ……………
ではなくイザヤだった。
フィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!




