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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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アズマという男

俺の親友に『アズマ』という男がいた。

情に厚く、仲間思いの良いやつだ。

少し肌寒い中、サケヤに二人きりで酒を飲み交わしていた。


「変わってるな、そいつ。」


「だろう?俺には理解不能だ。」酒をグイリと飲み干す。


「まぁ、本人の自由にさせてやるのが一番だな。」アズマは酒をチビチビと飲みながら言った。


「そういうのはその……イザヤって奴の心の問題だ。下手に関与しない方がいい。」


「だけどなアイツ、俺が押し付けた雑用を全部、別のやつに押し付けていたんだ!それを奴の口から聞いたときは腹が立って腹が立って。けど殴ったら殴ったで奴は喜ぶんだ。くそっ!!

………もういっそ殺しちまいてぇ。」


「ハハハ。中々頭のキレるやつじゃないか。」と他人事のように笑うアズマ。


「俺はあいつが自分の仕事を自分でこなさねぇのが腹が立つんだ!アイツには男のプライドはねぇのか?責任はねぇのか?自分のケツくらい自分で拭けってんだよ!!」奴の場合、ケツはつっこまれるようなものだが……。


「人に仕事を押し付けて、自分をいかに楽にするのもそう簡単にできるもんじゃあない。むしろ雑用を全部受け持ってくれる有り難い部下を持ったな。」  


「………まぁ。そう言われたら、そうかもな。」


「あぁ。」


奴をしらないハズなのにさり気なくフォローをいれるのがアズマらしい。


俺を熱いマグマだとしたら、アズマは深海の冷たい水だろう。冷静沈着、物事を客観的に見極められて、いつも熱しやすい俺を冷やしてくれるが、彼を怒らせれば深水は氷とかし誰よりも恐ろしいことを俺は知っている。


正反対に見える俺達の根本的な部分は同じだ。


“西の頭首になる”

二人共この目的でずっと側近をやっていた。

初めこそ反発し合い、いつも争っていたが、今では二人のうち一人がなれればそれでいいと思っている。

俺達二人がこの国の上に付けば、怖いものなんてなにもない。そのためにあんなオッサンの命令に従っていたのだ………しかし


「これでお前と飲み合う酒は最後になるかもしれないな。」アズマはポツリと言った。

そう、俺はオッサン(西の頭首)の命令でこれからは東のギャングに派遣されるのだ。


「いやいや、いつでも戻ってこれるだろ?自国から一歩も出ちゃいけないなんて決まりはねぇし。」


「東と西の頭首は仲が悪い。そしてその部下が何度も出入りしているとなれば他のギャングは黙ってはいないだろう。お前は東で信用を得るためにもここにくるのは控えるべきだ。」

アズマはグイッと酒を飲み干した。そして店長に酒の追加を頼むと俺に注いだ。


「もう飲めねぇって。」かれこれもう何十杯も飲んでいる。


「………あと、一杯だけでいいから付き合えよ。」とかすれた小声で言った。すこし物悲しそうな、親友で良きライバルであった男を見て、俺は覚悟を決めた。


「次に会うのは、俺が東の頭首でお前が西の頭首になった時だ。」アズマはガバッと顔を上げて俺を見る。


何百人といるギャングの中から頭首一人選ばれるのは多くの信頼とその素質が必要だ。

ましては西から迎えたギャングなど東の頭首になれる筈がない。

アズマはそう言いかけたが、やめた。

(頑固だからな、こいつは。)一度決めたことは曲げず、最後まで貫き通すのがわが親友だ。

それにアズマは、自分たちが西と東の頭首として酒を飲み合い、将来について語り合う姿に少しばかりワクワクしていたのだ。

 

✱      ✱

ふらつきながらも家に帰ると、俺の寝床ベットにはたった今、己の欲望を吐き出している奴がいた。白く液体が俺のベットにベッタリとつく。


「あ、スイマセン。ちとムラムラしちゃって。」


「…………殺してぇ。」ピキリッ


奴をそこら辺に捨ててきても良かったが、まぁ部下ということを配慮して仕方がなく俺の家に連れてきた。(奴の家はない。)


怪我を負って気を失っている奴を寝床に置いたのはいいものの俺は怪我の治し方をろくに知らなかったものだから、どうすることも出来なかった。

しかし包帯のような布で傷口や打撲した腕をつるし、患部を冷やしている所をみると平気だろう。

(このとき、白い布が俺のシャツだったということを知るのはもっと後だ。)


「あんた、どっかに飛ばされるの?」下着を履き直しながら奴は問う。その耳にかけてあったストレートの黒い髪がサラリと落ちる。その動作さえ目を奪われてしまう。 

この男は下手すれば女でも男でも襲われる、そんな魔力を持っていた。この美貌も外に捨て置けなかったもう一つの理由だ。


「なんでそう思う。」


「噂でアンタが上にケンカをふっかけたと聞いたんだ。」


俺は上の方針が気に入らず、直接頭首に直談判しに行ったのだが取り合ってもらえなかった。それどころか東に追放されたのだ。


「それに酔いにくいはずのアンタがドロドロになって帰ってきたのを見ると……今日は送別会だったのか?」


「あ?」


「じゃあ明日ですか?出発は………いや今日の昼頃って言った方がですかね?」俺は虚をつかれて戸惑ってしまった。なんて鋭いんだと。


アズマが「あと一杯」とゴネるものだからすっかり夜が明けてしまったのだ。お陰で脳と体は休憩を求めている。


「そうだよ。テメェ治ったんなら早く帰れよ。」

昼までにまだ時間があるので休みたい。


「その飲みあった人って部下ですか?なら俺も誘ってくれりゃあ良かったのに。」


「どうせお前はそいつを喰うだろ。……というか、部下じゃない。旧友だ。ほら早くどけよ。」


「それってもしかして、アズマさん?」


「………。」


「大丈ですよ。顔知ってるだけで誑かしてないです。」手をヒラヒラと上げながら寝床を降りる。 


「ふんっ、アイツはそんなんで落ちるタマじゃねぇよ。」


「……随分、信用してるんですね?」


フラフラになった重い体を無理やりあげてベットに大の字になる。(汚えシーツはどけた。)

頭がズキズキとしてもう立ち上がれそうにない。


「あぁ、俺のことが嫌いなお前と違って俺はちゃんと人を選んでいるからな。」

そう言った後にすぐ後悔した。

これでは『お前は俺のことを選んでいない』と言っているような口ぶりではないと気づいた。


「別に嫌いじゃないですよ?」


その意外な言葉に心の臓がドクリとなった。

……いかんいかん、酒のせいで体がおかしくなっちまっている。落ち着け。生唾をごくりと呑み込む。話を変えよう。



「……お前、誰に殴られてそうなった。」奴はキョトンとしていたがすぐに察したようで「父親ですよ。」と何でもないように言った。


「毎日のように殴られてたら、なんつーか……耐性?みたいなのがついてきちまって、俺自身が楽しくなっちゃったんですよ。だからムラムラしたらあぁやってSっぽそうな人探してるんです。」 


何かがそんなにいいんだか……。俺がポツリと言うと、奴は痛みがいかに素晴らしいか饒舌に話しだした。その巧みな話の盛り方は娼婦の女を抱いてるときのようで少し興奮してしまっている自分が嫌だった。


「お前は病気だ。」その話も早く切り上げたかった故に言葉の選び間違えてしまった。

そう言いたかったわけじゃなかったが、これは半分俺の心の中でずっと彼に対して抱いていた本音だった。


「病気………病気かぁ。」


「あ……いや………それは。」


「そうかもですね。」

奴は、ヘラリと笑った。


(言い返してもこねぇのかよ。)


俺は仰向けのまま、手を両目の上に置いた。

「お前、ここに住んでいいぞ。」

それは先程の謝罪を含めた俺からの最後の置き土産だった。


「いや、いいッスよ。」


「駄目だここに住め。……先輩命令だ。」

面倒くさそうにポリポリ頭を掻きながらも奴は承諾した。


「それで、お前のそれは……どうすればいいと思う?」


「……?どーゆーことって、マゾを治すにはってことですか?」


「……いや……まぁそういうわけではないが」「叩けば治るっていいません?」


「真面目に答えろ!」

こちらが真剣に取り合っているときにそういう態度を取られるほど嫌なものはない。 


「治る治らないんじゃないですよ。………やめられないんです。楽しくて、ね。」


「………そうかよ。」


聞くだけ無駄だった。

結局どんなに手を差し伸べても救えるやつと救えないやつがいる。

奴の場合はきっとその手すらも、求めていないのだろう。  


「な、なんだよ……。」視線を感じて過剰に反応する。何もかも見透かすような目だった。奴のその視線の前では蛇に睨まれた蛙のように動けない。


「いや、俺のことを心配してくれてるのかなって。」


「は……んな訳ねぇだろ!!気持ち悪ィ!!」  


「へぇ〜〜、じゃあ同情してくれてるんですか?」


ギシリとベットが軋み、気がつけば寝ている俺の上に奴が乗っていた。 

その黒いナイフのようなギラギラとした瞳に見下されると、不思議と心がざわつく。

恐怖?嫉妬?不安?怒り?

 

…………分からない。


「俺はあんたのこと、結構好きだぜ?単細胞の所も、喧嘩っ早い所も、仲間の為にムキになれる所も………。」


「………ッ。放せっ。」「なぁ。」

もう眠い。疲れているし、体力も限界だ。

なのに脳だけはしっかり冴えてしまっている。告白まがいなような言葉を受けて、言い返す言葉が見つからない。 


酒であまり力が入らないせいか奴はいとも簡単に腕を俺の腕を抑えつけた。

そして鼻と鼻がぶつかり合うほどの距離まで近づく。


「俺と遊ばない?」


黒い瞳がこちらをみる。しかしその瞳は黒い闇が広がってばかりで、俺を見えいるようで見ていない。ほかの何か別の奴をみえいるかのような。


「ーーーーッ」

唇と唇が重なる。 

獣のように互いの唇を貪り合うと奴は俺のズボンに手をかけた。そして俺も………

 

西のギャングとして最後の日、俺は初めての男とのキスをした。

その唇は案外柔らかく、甘い、甘い嘘の味がした。

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