人狩り2
ゼークルの組織論というものがある。
ゼークルは人間には4種類に大別できると言った。
やる気のない無能と有能。
やる気のある無能と有能。
それらを戦場で例えて話をしよう。
『やる気のない無能』は第一線で働かせよう。面倒くさい命令も深く考えるのを面倒臭がって渋々聞いてくれるだろう。
『やる気のある有能』はやる気のない無能たちの指揮官にしよう。持ち前のやる気できっとみんなをうまく導いてくれるに違いない。
『やる気のない有能』は前線からうんとはなれた安全なところで策を立てよう。彼らは面倒臭がりだから無駄な争いは起こさず勝ちを得るだろう。
『やる気のある無能』?さっさと殺せ。
そのやる気が空回りしたら被害が凄まじい。静かにバレずに移動しなくてはならない時に大声をだしたり、話を聞いていなかったりとポカをやらかすことがあるのでそうなる前にさっさと○してしまおうという訳だ。
イザヤのいないヒョウ達が勝つためには真正面から敵をチマチマ一人ずつ倒していくのは良くない。こちらは2人しかいないのだから。
………もし、勝機があるのだとすればやる気のない無能も、ある有能も捨て置いて策士といわれる《やる気のない有能》をたたく他ないのだ。
場所の検討はついている。
策士が策を立てるには比較的安全な所だ。しかしその土地の地形が分かっていないと策も何も立てられない。
つまり見晴らしも良く、尚かつ身を隠すのに適している最高の場所といったらあの場所しかない。
西の中心よりは離れているが、西の中で一番背の高い建物とその下にそびえる無数のガレージ。ここからの眺めなら広場もイザヤ達の城も一望できる。
昔、東の端くれと西のギャングが戦った場所だった。
アラタは西が戦をする時によくそこを使っていたという。この高さの場所ならスパイナーとしての機能も発揮できる。
現在、アラタと二人でマンホールの中を有効に使い、テロ集団に会わずに目的の建物へと進んだ。
アラタは建物内の1人のギャングを手榴弾で爆発させ、足音を忍ばせて建物の最上階にいた策士であろう男と決闘する。
階段を駆け上がり、ゼェゼェと遅れて屋上についたヒョウがみた時にはすでに決着がついていた。
アラタは策士であろう男羽交い絞めして、逃げないように足を撃っていた。
テロリストの男の握られた手から黒く四角い形をした何かがポロリと落ちた。
その物体から『ツーーー……ツーーー……応答せよ、応答せよ、№32』と人の声がする。
アラタは驚いてその黒い物体を壊そうとした。ヒョウはそれを慌てて止めると小声で「これは通信機です。」と言った。
自分の知らないものを言われて癪だったのか少し苛立った声で「あ?」と唸った。
ヒョウは通信機をみながら、あることを閃いた。
(それは…………使えるかも。)
顔に被っていた袋を取られ羽交い絞めされている男に近づき通信機を渡した。
中年の白髪まじりの男の姿を見て、ヒョウの中からすっかりと恐怖が取り除けてしまった。
ヒョウはもう片方の手の中にある拳銃を男に突きつけた。
「お前の仲間たちを、撤退させろ。」
自分でも驚くほど低く、鋭い声が出た。
怯えるこの男の醜い顔に穴があいても別にいいとこのときは本気で思った。
ヒョウは怒っていた。怒っているのだ。腸が煮えくり返るほど猛烈に、熱烈に怒っていた。
人々の泣き声、叫び声、銃声。人が肉の塊になる恐怖。目の前で失うものの悲しみ。
全部、全部全部全部全部全部全部全部、その原因がコイツらだ。
そもそもここは地下だ。罪人が落とされる場所なんだ。
罪人は罪人らしく罪人のように振る舞っても何も問われない、何も言われない。だからこの場にいないイザヤに止められることも……ギャングになるために人一人殺めた彼に、何も言えまい。
「撤退させろ。そうしなきゃ殺す。」
拳銃を持つ手が不思議と震えていない。ヒョウの本気が相手に伝わったのか男はブルリと震えた。
「分かった!!分かったから!!…撤退させるから!!」男は息をゼェゼェさせながら、通信機をうばいとり「総員!!直ちに撤退しろ、目的は果たされた!!」と大声で宣言した。
通信機からブーイングが聞こえてきたが、男は電源ボタンを切ってしまった。そして恐る恐るヒョウの顔をうかがう。
ヒョウは優しく微笑んでいた。
「おつとめご苦労さま。じゃあね。」と簡単に引き金を弾こうとする。
「おいよせ!!やめろ!」後ろでアラタの声がした気がしたが今は気にしない。
「やめろ。」
上から聞き親しんだ声がした同時にヒョウを抱きしめながら、ヒョウの持つ銃口に手被せられた。
「イザヤ………話してくれないか。」
「やだね。」
「このままじゃ、君の手を撃ちかねない。……どいてくれ。」
「やだってば。」
「…………。」
「腹立つ気持ちは痛いほど分かるが、ちゃんと拷問しねぇと分からないだろ?」
彼は後はやっておくからと言うようにヒョウを扉の向こうに追い出した。
✱ ✱
テーブルの上に毛布やら食料やらと必要物資が置かれる。大きな災害を乗り越えた人々は助け合い、物資を分け合った。
テロリスト達はひとり残らず撤退した。
気づいたら西の軍が到着していて、物資が運ばれていた。
人々が物資を物色している波の中でヒョウは運び屋の少女の姿をみつけた。けれど、話しかけなかった。彼女は自分の家族の元に駆けていったからだ。
(よかった……無事で。)
心の底から安堵のため息がでた。
「話にいきゃーいいのに。へっぴり腰なの?オニーサン。」振り返るといつの間にか隣にイザヤがいた。彼は隣に腰掛ける。
「……悪かったな。巻き込んじまって。」
「本当だ、きっちり謝ってくれ。」
「ごーめーんーなーさぁぁぁい。これあげるから、許してくれって。」
幼児のような謝罪にイラッとしながらヒョウはマグカップに入ったコーヒーを受け取った。
……渋い味といい匂いが口いっぱいに広がる。
疲れた能と体をほんのりと温めてくれる優しい味だった。
そうだ………やっと、やっと終わったのだ。
「イザヤさん。ちょっとこっちに来てくれますか?」遠くからアラタの呼ぶ声がした。
外では頭首とよぶわけにはいかないからだろう。しかし彼からその名前を聞くと………違和感しかない。
「はいよ。」イザヤは颯爽と立ち上がりヒョウの頭を軽くポンッと叩いた。
「よくやった。サンクー。」
よくやった?………よくやったのだろうか。
彼の後ろ姿を見ながらそう思った。
これがいい結果なのだろうか?
あの子供は死んでしまった。
少女に一生拭いきれないかもしれない精神的な傷を与えてしまったかもしれない。
大勢の人の命が散ってしまった。
あの男を……生かしてしまった。
まだ熱が残ってる。頭に血が上りあの男の死以外考えられなくて……。
怖かった。うん、怖かった。冷静になり振り返ると自分はとんでもなく恐ろしいことをしようと思えた。
「…………よし。」ヒョウは医療セットを手に持ち、立ち上がった。
過去のことをいくら考えても仕方ない。何も考えないようにするためには動くしかないのだ。
ヒョウは助けを必要とする人達の元へ歩きだした。
✱ ✱
「あ、いたいた!おーいヒョウ!!」
元気いっぱいの声がして振り返ると遠くから手を振りながら時計屋のケイと南の頭首(+その護衛達)がやってきた。
ヒョウはキリが良いところでけが人の手当を終わらせる。あの事件からもう5日も経っていた。
「お前も災難だったな。」
ケイは同情気味に手土産の茶をヒョウを注いだ。
「全くだ。ここに来てからこんな事件ばっかり起こる。」
「無事で何よりだよ。よく生き残ってくれた。」
南は本当に嬉しそうに微笑む。彼の温かい言葉にヒョウもうっすら微笑んだ。
それにしてもその白衣1枚(白衣の中から素肌が見える)で寒くないのだろうか。冬が終わったとはいえまだまだ寒いのに……。
「もしお前が死んでても雑草くらいは供えてやるよ。」
「せめて食べ物にしてくれ。」
「やだよ勿体ない。」
「供えても食べるのは君だろう?」
「お前が食べたやつを後から食べるってことだろ?絶対に嫌だね。」
「こらケイ!!不謹慎な言葉はよせ。西に人狩りがきたって伝えた時一番狼狽えて取り乱してた君はどこいった?」
「なっ……!?」
「へぇ?……それ、もっと詳しくきいても?」ヒョウは好奇心で聞いてみる。
「ケイの口がね、ポカンと開いたまま塞がらないの。僕が何度も揺すったんだけど一向に動かなくて、急に動いたかと思ったらコート持って西まで走っていこうとし「ダァァァァァァ〜〜〜〜!!やめてくださいよ!頭首!!」
全力で話を遮ったケイの耳は真っ赤でヒョウは思わず頬が緩まる。
あの貧弱で面倒臭がり屋で滅多なことがないと外に出ないケイがそこまでして自分のことを心配してくれたのかと思うと、純粋に嬉しかった。
「あぁそうだ、お前医療品きっともうないだろ?頭首からの厚意で補充する分持ってきてやったから感謝しろよ?」ケイが話を変えるかのように早口で言う。
「それは……凄く助かる、ありがとう。」
それは正直助かる。医療品は彼の言うとおりそろそろ底をつく所だった。若干はぐらかされた感はあるけど、助かった。持つべきものは友だ。
「じゃ、僕は野暮用を済ませてくる。すぐに 戻るよ。」南は話が一区切りついた所でそっと立ち上がった。




