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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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恨みと幸せ

残された二人はまたいつものようにくだらないことで盛り上がった。

生きた生魚に触るとひんやりひんやりするよねーから始まり食べ物から政治へ、政治から宗教へ、宗教から、医療へとどんどんどんどん話はそれていく。

二人でいると話に終わりがない。ヒョウの口は止まらいし、ケイの話も聞きたいとも感じる。それくらい二人の相性は良かった。(意見はほとんど噛み合わないが)



しかしケイもさすがに肝心のあの事件については触れてこなかった。

まるでヒョウが話し始めるのを待っているかのように。だから……


「人狩りの時にさ、」と、ヒョウは話した。

こいつにだったら別に聞かれてもいいかな?なんて思えたのだ。


ベルが突然鳴り出してからの出来事。

少年との出会いと早すぎる死。

弱肉強食の世界。殺すか殺されるかの世界。

敵を追い詰めた時の快感。銃を握りしめた時の怒りと撃たなかったことへの後悔と安堵。

そして残ったのは………


「怖かった。」


……恐怖だ。


「本当に怖かった。ここに来てから死と隣り合わせだったし何度も死にかけたけど、今までで一番怖かった。」「………うん。」


「それはきっと、俺以外が死ぬかもしれないって思ったからかもしれない。いや俺も死ぬのは嫌だけどさ、仲良くなった人や友達が一瞬で無くなるなくなるのは……やっぱ……辛いじゃん?」「………そうだな。」


「あぁ言うのはダメだ。……絶対間違ってる。撃たれる方も撃つ方も痛いだけだ。そこから何も生まれない。絶対、絶対に間違ってる。」人狩りを体験ヒョウだから言える言葉だった。

 

「昨日、地下宗教の人たちが来たんだ。代表の女神を気取っているような女の人が『人を恨んだり、怒ったりしてはいけません。起こってしまったことはもう元には戻せません。恨みや憎しみを抱えては幸せの道を閉ざされてしまいます。ここで変われるかどうか………これも神が私達に課した試練なのです。』みたいなことを抜かしてて…………殴りたくなった。

ふざけんな、何が試練だ?何が幸せだ?君たちはそこにいなかっただろう?だからそんなバカみたいなことが言えるんだよってね。

……恨むよ、憎むよ。当たり前じゃん。

            許せねぇよ。」


 「……………。」

ケイからの反応は返ってこなかった。そこでヒョウはハッとした。こんな湿気った話をされても楽しくはないことに。


「つまり何かが言いたいって?結局俺たちはあの宗教の奴らの言うとおり『受け入れる』しかないんだよ。どう文句を言ったって人狩りはまた来ちまうんだから。うん、それだけの話。」急いでそう締めくくり、この話を終わりにしようとした。


「そういえばケイの作った時計があったろ?あれさ、最初はうるさいって住民たち嫌がってたんだけど最近は「受け入れなくていいよ。」今までで黙っていたケイがやっと口を開いた。


「許さなくてもいいよ。」


「………。」


「恨んだままでもいい。俺は、憎んだまま幸せになってもいいと思う。」


「…………。」


「撃たなかったのは正解だよ。一回撃ったら、きっと『撃つ』って選択肢がお前の周りを付きまとう。でもお前は撃たなかった。撃たなくて大正解だ。


あと、撤退される為に脅したっていうのもいい策だ。おかげでみんないなくなったんだろ?すげぇじゃん。」


「…………ぁ。」バカみたいにヒョウを称賛するケイにヒョウは居心地が悪そうに身をすくめる。


「敵を誰一人殺さずに敵を逃したんだろ?こういうのなんていうんだっけ?優勝?大勝?圧勝?制勝?………あ、ノーベル平和賞だ!」


「なんでそんなに他のは出てくるのに、ノーベルは出てこないんだよ。」二人はプッと吹き出しケタケタと笑った。


「宗教女の話なんて気にすんなって。誰もお前を責めてねぇじゃん。全部テロリストのせいなんだから気にすんなって。」


そうかな?そうだろうか?

でもきっと先程までずっと重かった心がスッキリしたのが答えなのかもしれない。顔が熱くなり、胸がいっぱいになり……


「…………あぁ」ヒョウは素直に頷いた。


✱         ✱


そろそろ日が暮れそうなのでケイを帰らせなければならないのたが、南の姿が見当たらない。

困ったものだと頭を掻いていた時、建物内から罵り合う声がした。どうやらイザヤと南の頭首のようだ。


「あ?もういっぺん言ってみろ?この変態白衣メガネ。」


「言うさ!!言いますとも!《君の指揮管理力も随分落ちたものだね?まるでゴキブリ以下だ!》はい、これで満足かい?マゾくん?」


「さっきと言ってることがちげぇじゃねぇか!?なんだよゴキブリって………あ、そうかぁぁ、お年を召されると言ってることも忘れちまいますもんねぇ〜?スイマセンネ、ご老体にムチ打たせてまでこんな所に来てもらって(笑)。」


「フフッ、そうだろう?せっかくこの僕がここまで来てやったんだから、もてなしの一つくらいしてくれてもいいんじゃないのかな?下手なサル芸も、見てあげなくもないよ?」


「そうですね。さる芸は出来ませんが、ささやかなもてなしなら………ドブ池で取ったドブ沼の泥と泥水あえなんていかがでしょうか?随分と紅茶の味覚も変わっていらっしゃるので、南様もきっとおいしく感じますよ。」 


「フフッ、君にはあまりキツイことを言いたくないからオブラートに包んで言うね?嫌いだよ。」


「アハハッ!俺は南様のこと好きですよ?ゴキブリの次くらいに。」「フフフフッやめてくれよ。好きだなんて、吐き気がでる。」


「アハハハッ。」「フフフフッ。」


ヒョウとケイはサァーッと血の気が引いた。大の大人二人がなにが悲しくてこんな低レベルの会話をしているのだろう。

「アホやってないで早く帰るぞ。イザヤ。」周囲の西と南の部下もピリピリしてきた空気を感じたヒョウは機転を利かせてイザヤの首根っこを引っ張った。南の頭首の方もケイが同じように引っ張っていた。


(全く、仲がいいんだか悪いんだか。)




ーーー早く、平穏が戻ることを祈る。





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