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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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人狩り


突然の音に辺りは騒然とした。

西の時計台の下に設置されたベルは普段一時間ごとに時刻を伝える役割を持っている。けれど今は一時間経っていないし、こんなに強く鳴るものではない。


いったいどうしたというのだろうか。


「兄さん!!」運び屋の少女の声がして振り向いた刹那、足元の近くに何かがドカリと倒れてきた。………人だ。顔や体中には銃が練り込んでいた。

「………ひっ。」おもわず顔が引きつる。 

この男、猫肉を売っていた店主に似ていた。


男だけじゃない、周りにいた人々もどんどんどんどん肉の塊になり果てる。娼婦の女も、魚売りの子供も、カバン屋の親父も。顔は知れど、名も知らぬ人々が次々と無様に息絶えていく。


皆が撃たれた方向に目をやるとそこには複数人の袋を被った「奴ら」がいた。

全員紺色の動きやすそうな服を着て、パット見は誰か誰だか分からない。


…………人狩りだ!!!!


頭の警戒注意報がファンファンとなる。アイツらは危険だ。全身でそう感じたヒョウは固まって動けない少女の腕を掴み、走り出す。

続いて人々も次々と逃げ出す。

走る足の近くに銃声が聞こえた。それでも走った。


角を曲がり入り込んだ狭い裏路地に入ったヒョウは身を隠すために近くの店に入った。ヒョウは呆然としている少女の肩に手をかけ、少し揺すった。


「ここで身を隠そう。」


少女は答えない。ただ、ただ浅い呼吸を繰り返している。唇が青ざめ顔色が悪い。やはり人が死にゆくのを目の前で見てしまったショックが大きいのだろう。


「……親父……リナ……」やっと少女の口から聞いた言葉はやはり家族に対するものだった。

「みんな……心配してる。……帰らなきゃ「バカ!駄目に決まってんだろ。」

ヒョウは慌てて少女を止めた。


「今行ったら十中八九死ぬ……やめとけ。」


「ここにいたって、その可能性はあるっ!!」


「ここは荒れてて一回襲われた場所だから、きっと平気だ。」「…………。」感情に対してヒョウは理性で話すと彼女は受け入れてくれた。


少女を連れてカウンターの裏にまわる。そこには護身用の銃があった。


「椅子と机でバリケードを固めよう。それが終わったらここで静かに待つんだ。」


「……。」少女は小さく頷いた。


✱ ✱


何時間経った頃だっただろうか。

ウわーん……ウわーん。

幼い子供の鳴き声のようなものがどんどん近づいてきた。外に出てみようと思ったが、敵の罠かもしれない。少女も困惑そうな目でこちらをジッとみた。

しかしこのまま放置して、人狩り共が来ても困る。ヒョウはう~んと唸った。




少女が「行く」と言ったのを無理矢理止めたヒョウは慎重に辺りを見渡しながら、子供の声のする方へと向かう。


この店からかなり離れたところに子供がいた。

子供は地面にうずくまりながらすすり泣いている。


「こっちおいで、危ないから。」ヒョウは少年の腕を引く。すると少年は涙でグショグショの顔をさらにくしゃりとして全力で抵抗した。


「うわーーーーーん!!!助けて!!助けてぇ!!誰か!!」 


「ちょっ………大丈夫だからっ。」

じたばたと暴れて必死に抵抗する。ヒョウを人狩りか何かと勘違いしているのだろうか。


「うわーーーーーん!!!パパーーー!!ママーー!!」


「お…お父さんとお母さんの場所は知ってるからっ、ちょっとお兄さんに付いてきて。」


「………え……」


まるっきり嘘なのだか、少年は泣くのをピタリと止めた。


(よし、店に戻ろう。)子供の手を引いた次の瞬間だった。


ドンッッ


音をふる方へふりむくと、否振り向かなくても誰だかわかった。人狩りだ。

ヒョウは後先考えず子供担いで走り出した。

角を勢いよく曲がる。相手は一人のようだ。


右に曲がれば少女がいる店。左に曲がれば標的になりやすい広場がある。

右をチラリと見ると先程まで隠れていた家の窓から黒髪の少女もこちらを見ていた。


目が合う。


(バカだなぁ。狙われるかもしれないのに窓見ちゃ駄目だろ?)

最初に思ったのが小言だった。


初めて彼女に会った時、その明るさや健気さ、素直さをヒョウは妹のスズに重ねて見ていた。

でも今日一緒に過ごしてみて、違うところもたくさんあった。

髪の色(当たり前だが)、食べ方、笑い方、怒り方。全部、全部違っていた。


これからも、もっともっと探していきたい。


スズの代わりとしてではなく、彼女を運び屋の少女として話していきたい。

彼女の所に行けばテロリストと銃で攻防戦だ。2(プラス子供)対1なら勝てるかもしれない。

彼女もきっとヒョウの選択を受けいれてくれるだろう。

彼女はヒョウよりもずっと、色んなものを飲み込んで、受け入れているのだ。大人なのだ。



ヒョウは左を選んだ。

自己犠牲するつもりはない。けれど、彼女を危険な目に合わせるつもりはもっとない。




ヒョウはスピードをますます上げた。脇にいる子供がグラグラ揺れる。怖がっているのか泣くことはなかった。

動いているものに弾を当てるのは至難の業だ。よほどの集中力を相手が持っていないことを願いながら、ヒョウは広場に到達する。

人の姿が全く見えない。


広場の中心にある噴水を抜けながら普段なら床にシートを敷いて商売で賑わっているはずの場所を一瞥する……静かだ。


ふと視線を上げると、屋根の上に別の人狩りの面子が一人いた。大きなスパイナー・ライフルをこちらに向けてきていた。


「……………っ!」 


ヒョウは更に全力を出して走る。脇の子供がますますユラユラと揺れる。

視界にはあと5m程の先に建物と建物の隙間があった。ここを通れば広場を容易に抜けらる場所だった。

ヒョウは歯を食いしばり、懸命に手を伸ばし、倒れそうなほも身体を傾けて地面を蹴った。

ラグビー選手がトライするかのごとく、建物と建物の間をめがけて。


ドンッ!!

 

まるで合わせたかのようなタイミングで屋根から銃弾が飛んできた。

ヒョウの頭を狙って。 










「ハァ……ハァ……ハァハァ。」


………生きてる。


息が整えられない。足がつりそうだ。体が酷くだるい。

銃弾はヒョウの頭スレスレを通り過ぎた。

腕のいいスナイパーだ。ヒョウが体勢をかなり低くしていなけば、頭を貫通していただろう。

ジャリッと砂を踏みつける音がした。


「つくづく運のいいやつだな。いっそ死んでくれても良かったのに。」

上からドスの利いた声がした。ガタイの良い体にこげ茶のサッパリとすいた髪、黒いテーシャツに紺色のジャケットと革のジーンズいうきっちりした格好はイザヤがチョイスしたものらしい。そのキツイ目からはヒョウへの敵意が滲みでている。


この大型犬を連想させる男……アラタはつまらなそうにフンと鼻息を鳴らした。


「そのお荷物は置いていけ、すぐ奴らが来る。」


「……え?」ヒョウはお荷物が何かわからず、何気なく子供の方を見る。

子供は相変わらずヒョウの片腕の中にいて、その顔は蒼白で、目は開いたまま、息をしていなかった。


「……あ…………。」ヒョウはまごつく。 



頭の中に一文字がはっきりとうかんできた。

少年の涙の跡がまだ乾き切っていなかった。


いつ?いつだ?いつからこの子は、こんなに冷たくなっていた。後ろをふりむくと、血の跡が点々とヒョウに続いてる。少なくともヒョウがこの建物にトライをする前から撃たれていたことになる。


そうしたら必然的に撃たれたのはこの子と最初に会った時に放たれた銃弾だ。

それを気づかぬ間に自分は彼を引きづりまわしていた。 


「…………あ………あ。」ヒョウはなんとも言い難い気持ちに襲われた。 


両親の所に連れていくと言ったのに……会ったことないけど。

どうしよう……どうすれば…。


「そいつの親どもはとっくに死んでる。最初の奇襲のときにな。」


「…………!」少年もきっとそれを知っていただろう。それでもヒョウについて来ようとしたのは認めたくなかったからかもしれない。

両親の死を。

だから両親を知っていると偽った自分なんかに付いてきてくれたのか。


(最低だ………。)ヒョウは震えた。


アラタはヒョウの手から少年をどかし、道の端にソッと置くと、「ついてこい」というように顎をクイと動かした。ヒョウは後ろ髪を引かれる思いのままアラタについていった。


二人の入った建物はなんの変哲もないただの空き家だった。周りに十分警戒しながらアラタはその家の中にあるソファを動かす。


すると地面にマンホールのようなドアが現れた。

どうやらこの中に西の住民が避難しているようだ。どうりで人が見えないわけだ。


ヒョウは中に入ろうとしたが、アラタは背を向け突っ立ったまま中に入ろうとしなかった。


「……入らないんですか?」


「頭首が、帰ってきていないんだ。」


「…あぁ、アイツなら北でお茶会しているので、帰ってきませんよ。」


「頭首は必ず帰ってくる……だがその間に人狩りどもを食い止めおく指揮官が誰もいない。」


彼の話曰く、一昔前に東に来た人狩りは南にまで侵入してきたらしい。

そこでかつて東の頭首だった男は食い止めなかった裏切り者として処刑されたのだ。

そしてその処刑された男はイザヤと同様当日に遠くに出かけていたらしい。止めようにも止められない状況なのにも関わらず殺されてしまったのだ。


(今のイザヤと全く同じ状況じゃないか。)


「頭首が戻って来るまで、俺がテロリスト共を食い止める。」

彼の背中から揺るぎない正義感、忠誠心がひしひしと伝わってきた。


「そこまでして……守りたいものですかね?」

自分の命はかわいい。家族ならまだしも頭首の為に自分を犠牲にできるほど、ヒョウはお人好しではなかった。


「頭首が大切なものは、俺の大切なものだ。」


「……本当に好きなんですね。イザヤのこと。」


「頭首の役に立って死ねるなら本望だ。まぁガキのお前には分からんだろうがな。」 

彼はわずかだが微笑んで見えた。


その時の彼は、ヒョウの目には無性に輝いて見えた。

そしておもむろに首にかけ、服の中に入れ込んだ懐中時計取り出し、時間を確認した。


「北からここまで急いで馬を走らせたら一時間半……人狩りが始まったのが4時半頃だから……多く見積もってもあと約13分。」 

13分くらいなら、ヒョウは外に行こうと言う気持ちになれた。


「何の話だ?」アラタは意味がわからず、眉間にシワを寄せる。


イザヤ(応援部隊)がここに来るまでの時間です。……食い止めるんでしょ?早く行きましょうよ。」

ヒョウはバックから紺色のバンダナをとりだすと、頭に巻きつけた。金色の髪は良くも悪くもよく目立つ。


「お前は足手まといだ。ここで大人しくまってろ。」


「……医者がいれば応急処置をして、死ぬかもしれない人を助けられます。」


「屁理屈言うなっ!!だいたいお前は」「人狩りの人数は俺が見た限りでは5人です。スパイナーが1人とアサルトライフルが2人、あとの2人は多分、地上で作られた銃を使っていますが、一弾一弾発射するやつです。」

アタラは驚いたかのように凝視した。


「父が警備員だったので、見せてもらったことがあったんです。」ヒョウ自身、ここに来るまでは銃の模型をしたプラモデルやおもちゃなどが好きだった。男の憧れだからだ。

いつかおもちゃじゃなくて本物の銃でドカドカと敵を倒すだなんて空想して遊んでいたこともあったが、今ではバカバカしく感じる。


本物はもっと怖い。銃の振動も、火薬の匂いも、ただの一発で人を傷つける。  

だから少年も………いやいや。考えない考えない。


「万が一の時はちゃんと俺も撃ちます。それならいいでしょう?」自分だけ綺麗でいようなんてつもりは毛頭ない。

ヒョウはただ、先程自分がきっかけで死んでしまったかもしれない子供のことを考えたくないだけなのだ。あのシェルターにいたら絶対に考えてしまう。後悔してしまう。自分を自分で許せなくなってしまう。

父を失ったあの頃のように………



「…………。」アラタはしばらく黙っていたが、やがて顎をクイと動かした。



アッラタくぅ〜〜〜ん!

出番でっすよぉぉぉぉ!!!!!

 

アラタ「うるさい話しかけるな雑魚。」




………くぅん……。

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