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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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選択

ショウさんはアタシ


少女は私


ヒョウは俺


「はぁぁん!?ウェストの医者だと!お前なに考えてんだゴラァ!」


少女でパーではたかられた頬にグーで殴られた時はさすがにクラリときた。


「ちょ、ちょっとショウさん落ち着いてって。どうしちゃったのよ?」少女がアワアワとする。


「これが落ち着いていられるか!アイツは3日に一回のペースで最悪な噂が流れる奴だぞ?そんな奴の下につくなんて死んだも当然………ってもう手遅れだけどな。」


大きな、大きなため息をつく。ヒリヒリと重圧が痛い。


「でも思ったより悪いやつじゃなかったですよ?」


そりゃ性癖最悪だし、ビッチだし、すぐ人を騙すが……ちゃんと西のことを考えているのが分かる。その証拠に部下がちきんと付いてきてる。

今までの受け取った金の大半はあの時の時計と住民の食料のために使ったのだとカズから聞いた。

時計ができたおかげで商人や商人の売上率がかなり上がったらしい。


きわめつけにヒョウは彼に2回救われているのだ。これ以上は何も言えまい。


「ウェストから抜けらればいいじゃない、今からでも。」

少女はあっけらかんと言う。彼女の良いところは物事を簡単に捉えられるところだろう。


「ムリだ。一度入ったからには一度死ななきゃ抜けれない。……それに、例の事件からちゃんと死体もチェックされるようになったから偽装も効かないよ。」


「……そっか。」少女は俯いた。


「俺辛いって一言も言ってないですけど…。」

ヒョウがポツリというとショウはものすごい形相でこちらをにらみつける。


(……ま、また殴られる。) 


ウェストに近づくなという約束を破ったのはヒョウだ。なんにも言えない。おとなしくミンチになろうと決意を決めたヒョウとは裏腹にショウが言った言葉は


「飯は、ちゃんと食えてるか?」だった。


「え?………はい。美味しいですよ。」


なんて言ったってアラタが作ったものなのだから。(そういえば今日もアラタにショウさんたち宛に差し入れを持ってきた。キンカンとぶどうのプチゼリーだ。……後で出そう。)


「睡眠は?」


「毎日12時間、十分過ぎます。」


「入れ墨は?」


「入れてないです。アイツが免除してくれたんです。」


ショウは驚いたように目を開けしばらく考えてんこんだ後、


「心配……だけど、お前が幸せならそれでいいよ。」と渋々言ってくれた。


「ありがとうございます。

……でもそのことについてちょっと相談が。」


ヒョウは絶対に誰にも話さないのを条件に南との会話のすべてを話した。

どうしようもなく自分一人で抱えているのは重かったからだ。

間違った選択をしたくない、後悔したくない。

だからショウの元にきた。彼女の行動は大体いつも的確で正しい。




「南に行けばいいんじゃないか?それは駄目なのか?」話を聞き終えたショウは自分の予想通りの答えを言う。当然だ。


「……そうですね。」

本当はきっと南を選ぶのが正しいだろうけど、死闘を共にしてきた西の奴らを思い出すとなんだか足がすくんでしまう。


「それを……ウェストに話したか?」


「まだです。イザ……あの人にはなんか、言いづらくて。」


「………。」


「きっとあの人は“行くなよ”って言います。

それできっと“あぁ良いんじゃね、行ったら?”って俺を軽く突き放します。多分……俺は……あの人の言った言葉に従ってしまう気がするから。」


そうならないために、せめて選んだ選択に少しでも《自分の意思》が含めれるように。もう選ばないことに後悔しないために。


「ウェストは……女か?」


「え……あ……いやえっと……。」

彼はバリバリの男なのだが正体をバラしてはいけない。少しでもリスクを上がるのを拒むのだ。

だから濁した。


「そんなにウェストに未練タラタラなら残ればいいんだ。」


「……それでも俺は、地上に戻りたいんです。」


少女は眉を八の字にしてショウは本日二度目の大きなため息をついた。


「ヒョウ兄さんって優柔不断?」


「初めて生理がきた女みていに面倒くせぇな。」


さんざんの言われようである。ショウはしょんぼりしているヒョウに問う。


「お前はどうしたい?」


「分からない、ですよ……分からないからここに来たんです。優柔不断ですけど、初生理の女の人みたいに面倒くさいですけど。これでもけっこう考えたんです。」


少女とショウはお互い顔を見合わせた。

「レディの前で生理って、いう男はなー。」


「モテないですよねー。」


「あーーもーーなんなんですか!」ヒョウが声を上げると二人は華やかな笑い声をたてた。


「あはははっ、だってヒョウ兄さんの反応面白いんだもん!」


「癖になるだろ?」

「ならなくていいです!」冷ややかにそう言うとまた二人は楽しそうに笑った。


ショウは立ち上がるとベットに座っているヒョウの隣に腰掛ける。


「まぁ、私達がなにを言ったって最終的に決めるのはお前だ。お前が選ばなくちゃならない。悩んでもいい。迷ったっていい。間違えてもいい。でも一つだけ覚えておいてほしいのは《チャンスは、すぐ落ちる》ってことだ。」


「チャンスが……落ちる?」


「そうだ。分かりやすくいうとチャンスは木みたいなものだ。いつ自分の上に降り落ちてくるのか分からない。今日か、明日か、明後日か、……今か。

私はお前の話を聞いたときにチャンスがお前のすぐ真上にあった気がした。

でも、そのチャンスも正しいかどうかは掴んでみなきゃわからない。

間違っているかどうかも掴んでみなきゃわからない。」


ヒョウは静かにその話を聞いた。

そしてたずねる。

「もし……もしもショウさんが俺の立場なら……どうしますか?」


「絶対に掴む。……あんたの目的がそうであるっていうのもあるけど、何より掴みそこねた後の最悪の結末を、私はもう痛いほど身に染みてるんだ。」どこか切なげにショウ言う。


「お前は、まだ若い。人生も、まだまだ長い。間違えたって全然取り返しがつく。お前が選びたい方を選べばいいんだ。

お前が何を選んでも……私はお前の味方だよ。」


「………。」


胸が苦しくなる。心なしか耳が火照った。なぜ、ショウの言葉はこんなにも自分の心にストンと届くのだろうか。チクチクしているけど温かい、サラサラとしたお湯のように優しかった。


✱      ✱


来たときから2時間もたっていた。

少女は来た時と同じようにキョロキョロと辺りを見渡しながらそそくさと娼婦の店の裏口を出た。


少女一人で帰らすのは不安だったのでヒョウは家まで送ることにした。たくさん話をしたのでクタクタだったが心は晴れたように気持ちがよかった。

その余韻を味わうよう、二人は無言で歩く。


「私の家ね、母親がいないの。」先に沈黙を破ったのは少女からだった。


「帰ってきているのは親父と妹だけ。だからって嘆いてるわけじゃないんだよ?ただ、男一人に娘二人だとやっぱり色々言いにくくて。でも育ててもらってるのに文句もいえないし。

……逆に文句をいえば、そんな暇あるんなら仕事してろっ!って怒られちゃう。そんなんだからずっと家に帰るのが嫌だったんだ。」


「そうか……。」ヒョウはコクリと頷く。


「でもあの変な事件に巻き込まれて……ショウさんに出会えて、すごい幸せ。あってまだ2ヶ月しかたってないけど、これからもたくさん話すつもり。あと親父のことも少しわかったよ。ちゃんと私のこと……私達娘のことを心配してくれたんだって。へへっ、変に感動しちゃった。」


「うん……。」


「前よりね、親父と話すのが怖くなくなったんだ。仕事の時は怖いけどさ……それ以外はちょっぴり優しい。

これもね……きっとヒョウ兄さんのおかげなんだよ?」

いつの間にか少女から笑みは消えていた。今日は厚化粧をしていないハズの少女の顔は何故か大人びてみえた。こちらに振り向く。




「行かないで。」



「…………。」


「ヒョウ兄さんが行ったら、寂しくなる。 

今日すごく楽しかったんだよ?母親と兄さんができたみたいだった。お湯みたいにポカポカしてて、居心地が良かった。だから……」

彼女の言葉がそこで止まる。代わりに二人の足が、また動き出した。



心が揺らぐ。決意が揺れる。

(そんなこといわれてしまったら。俺は。)


どうすればいいのだろう。

自分はどちらを選べばいいんだろう。


大切なものと大切な夢。

選んだ先で出会えるもの、失うもの。

両方選ぶことはきっと出来ない。

ならいっそ、選びたくない、考えたくない。


けれど、それでも進むしかないのだろうか


カンカンカンカンカーーーン!!!


……その時、西中にベルが鳴り響いた。


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