運び屋事件3
(なかなか上手い具合に言った。)
いやむしろ行き過ぎて不安なのだが…。
ヒョウは名前はバレないように変えて、イザヤのような話し方や仕草を演じて、男達と接触した。それが1番ナンパ師として自然だ。
ヒョウは少女が言っていた『裏路地で何かしていた』奴らが裏の世界の住人である可能性が高いことに気がついた。
とりあえず必要なのは少女の荷物を探すことだ。
マヒョウ(今はこう呼ばせて貰う。)は先ほど、少女と男達が鉢合わせてしまったであろう場所に行ってみたのだが荷物らしき物はどこにもなかった。
つまるところ荷物の場所の詳細はこの男達が知っている事を意味する。
ぜびお近づきになって在処を見つけ出さなければならない。
「君たち、西のギャングって言ってたじゃん?何する人なの?」
ヒョウはさりげなく探りを入れてみる。
「……お前は西じゃないのか?」
「え、あぁ。南の派遣されてきた下っ端ですけど……何か?」
男はこの青年を殺さなくて良かったと少し安堵した。この地下ルールではギャングは銃をもってもいいという暗黙の権限があるがそれを使うのはどうしても必要な場合と仲間内に限る。
別の国のギャングは何があっても殺しては駄目なのだ。理由は長同士が後処理を面倒くさがったからだ。
「別に文句はねぇよ。それよかお前が探している女とやらの情報はどこまで調べたんだ?」
「まず聞き込んだ結果ね、運び屋の娘らしかったからそいつの家に行ってきたんだ。そしたら帰ってきてねぇと言われちまって次にこっちの方で聞き込んでも収穫なしで、現に至るって訳。」
「駄目じゃねぇか。なんでそこまで探す必要があるんだ?」
「君、それ聞くか?やられたからやり返すのがギャングってもんだろう?こっちは被害者なのに謝罪もスマンもなしなんだ。……キチンと泣いて謝罪して貰わないと困るだろう?」
下品な笑みを作るマヒョウを見て男は心でため息をついた。
ゲスな奴はどこにでもいる、金がないけど性欲だけはやたらある奴はその辺にいる女で済ませてしまう。今回のように自分が被害者となれば相手は逆らえないので絶好の餌であろう。
「それもそうだな。」
ボブはマヒョウの本当の泣かせるの意味を分かっていないのかウンウンと首を縦に振った。
「西のギャングって事はあの噂が止まない長様の元で働いてるって事だろ?」
「あぁ、姿を見たことあるぜ?教えられないけどな。」
「え!?見たことあんの?」
「何回かな、それはもうここを治めるのにふさわしい狂暴性秘めた方だった。ここの奴らはなんだかんだと言ってるけど、俺はあの人は好きだぜ。」そう言って笑みを作る男にマヒョウは
(可愛そうな奴だ。)
と心から思っていた。
「あぁそうだ。目的がまた果たされてねぇのにこんな所で三人固まっていたって無駄だろう?手分けして探そうぜ。」
(……?)
あろうことかその言葉を相手側がいった。警戒して遠くに追いやろうとしているのか、信頼した上で効率よく探すために提案しているのか分からない。
ただ今ここで断る訳にもいかない。
「おっけい、時間はいつまで?」マヒョウは問う。
「夕暮れの鐘がなるまでなんかはどうだ?」
「場所は?」
「……俺の家の前でいいか。別に見られて困るもんじゃねーし。」男は地べたに座り込み枝で砂のつちの上で自宅の場所を説明した。
「…了~解。」
敬礼するかのように手を頭につけるとマヒョウは勢いよく走り出した。
男もボムと二手に別れて、また少女の行方を追った。
* *
ボムにマヒョウを張らせた。
薬売人の男はまだにわかに近づいてきたヒョウを信じれていなかった。頭が悪そうで使い勝手がよさそうだが、それすら演技である可能性があるのでその信用は全て奴のこれからの行動でどうするかを決めるつもりだった。
さっき教えた家は適当に決めた場所でよく逃走用に使っている裏路地にある古いボロい家だ。
もし女を連れずにマヒョウだけが中に入ったらつけているボブに後ろから撃って貰う算段だ。
(あいつは銃の腕と尾行以外は本当に駄目な愚弟
だからな。)
相棒がそうしている間、薬売人の男はその辺にいる商売人の男に片っ端から声をかけて女はもちろんそしてさりげなくあの金髪の男について探った。
そんな時、小物売りの商人が
“ここら辺で金髪男がナンパした後、熟女が運び屋をどこかへ連れて行っているのを見た”
と言っていた。そこにマヒョウもついていったかどうかは分からないそうだ。
「誰だ?その連れていった女は。」
「さぁ~、そういうのを知りたいなら情報屋にきいてみたらどうですかねぇ?オラより詳しいと思いまっせ。」
商人は薬売人の男が買い物ではなく情報収集のためにここにいるのを分かり、だんだん自分への対応が雑になってきていた。
「そうしてみるよ。ありがとよ。」
むろんそんな信憑性が分からない所に行くつもりは更々ないが。
その後も立て続けに情報を聞き出したがこれといっためぼしい物は何一つなかった。
(はぁ、今日はもう駄目だな…。)
西の天井の穴から出る光は夕暮れのほのかな赤い色で覆い尽くす黄昏だ。
そろそろ約束の時間した場所に行かなければならない。
偽りの家の前にはマヒョウとそしてボブが話していた。
(ボロだしてねぇといいけど。)
忠誠は固いが頭も固く、言われたことしか出来ないボブは正直ターゲットと一緒にいさせる事は不安でしかなかった。
「あ、来た。」マヒョウは相変わらず軽い口調で言った。
「良い報告をしたいのは山々なんだが、お前が女をナンパした後は誰一人としてしらねぇってんだ。」
「……ねぇ、君はなぜあの子はこんだけ探してもいないと思う?」
「ああ?俺に聞かれても分かんねぇよ。」それは男達の取引を女に見られたからとは言う訳がない。
「俺はずっと思ってたんだ。
ナンパくらいで普通、人を斬りつけるか?…そこまでするのに何か理由があったんじゃないかって思ってたんだよ。」
「いやいや、ただの男性恐怖症とかだったんじゃねぇの?」男はあくまでも客観的な位置で物事を言う。
「……確かにその線もあるな。だけどあの時に彼女は運び屋に絶対必要な『荷台』と『荷物』を持ってなかったんだ。その二つは仕事をする上でなくちゃならないものだろう?それにな、さっき商人に聞いた話なんだけど女の足には銃創があって、足を引きずりながらある裏路地から歩いてたらしい。俺ナンパに夢中で全然気づけなかったけど。」
「……ほぉ。」
男はこの金髪の青年の勘の良さに嫌気がさしていた。
ボムがチラリとこちらをみる、殺すべきかどうかの指示を待っているのだろう。けれど男は少女の情報を持っているかもしれないこの奇妙なナンパ師を始末するわけにはいかなかったので彼に見れないように小さく首を振った。
「なぁ君達。明日も空いてる?暇なら今日見たく手伝ってくれない?」
「もう十分だろ?そこまでして慰謝料が欲しいのか?」
逆に聞き返す男。たかが斬りつけられたくらいでそんなにも女を気にする理由はない。
マヒョウは表情をなくしてそしてぽつりと言った。
「女はもしかしたら何かしらに事件に巻き込まれているかも知れない。」
空気が歪んだ。男の中の全細胞がコイツを殺さなければならないと叫んでいる。そんな時、ボムがマヒョウにたずねた。
「だとしてもなんでそれをお前が追う必要があるか?もし巻き込まれているとしても放っておいたって勝手に死ぬんだろ?ならいいじゃないか。」
愚弟の割にはなかなかいい事を聞いたと思ったら血の気が少し治まった。
そうだ、その通りなのだ。そこまでする理由はないはずなのだ。
……さて、どう答えるか。
「何かが、足りないんだよ。」とヒョウは顔を伏せて言った。
「……あ?」
「ここに来てから…何かが足りないんだ。まだ食べものを探して死に物狂いになってた時の方が満たされていた。だから女がなんかに巻き込まれているかもって思った時、俺の中の血が騒いだんだよ。……すげぇ楽しくなりそうだな…って。」
つまり奴が言いたいのは刺激がほしいと言うことだろう。
その気持ちは分からないでもなかった。かくいう男も職業上いつも危険と隣り合わせだ。いつ誰かにバレて殺られるか分からないのだからそりゃあもうヒヤヒヤする。けれど一度成功すればガッポリ儲けられ、一年間は余裕で遊んで暮らせる額が手に入る。
けれど何よりバレるかもしれないという恐怖とスリルが病みつきになり、止められないのだ。
「……。」
「ま、取りあえず事件の有無は荷台と荷物の有無で変わってくるってことだぁね。」
薬売人の男は首を傾げる。
「なんでそこに荷物が関わってくるんだ?」
「俺は運び屋の家に行ったって言っただろう?女の家族に彼氏と偽って聞いたところ、女は今日も荷物を運ぶ予定があったんだ。それでその受取人に聞いてみたらまだ来てないと言う。でもナンパ時には手ぶらだった。つまり単に荷物を置き忘れただけなのかその荷物は犯人の手によって無くされたのか……荷物によってわかるだろ?
………っつても俺の考えた推理なんだけど、どう?」
「いいんじゃね?合ってるかは知らねぇけど。」
「今日はもう遅いから寝て明日の朝全ての路地裏のどっかに荷物と荷台があるか探しに行こうぜ?」
「…そんな暇あるんならゴミ拾いでもして小遣い稼いた方が有意義だと思うが?」
「あいにく、彼女が稼いでくれるんで。」
またそんなイザヤみたいな解答を口にすると目の前に茶髪のウェーブヘアの女が通った。マヒョウは彼女に気づくと早足で彼女に近づきおもむろに肩を組んだ。そして大声で「じゃあな~!また明日、バイバイキーン!」と元気よく男達にさよならをした。
仲よさげな男女をみてボムは舌打ちし、男は顎の髭を触った。
(荷物を元の場所に置いて置くべきか。)
変に死体を増やしたくはない、バレると厄介だからだ。でもこれ以上少女の事を突き止めあの妙に勘のいいマヒョウが自分達の正体を見破る方がもっと厄介だ。
(でもまてよ、荷物を置いた所で女の銃創が消えることはない。俺達が女を撃ったという事実は変わらない。マヒョウはその時諦めるかも知れないが噂でまた探し出すかもしれない。)
逆に考えて見よう。
もし奴が自分達の正体に気づいていたとして、なぜわざわざ殺されるリスクを背負ってで事件に興味のあるフリをしたのだろうか。
まさかだとは思うが…。
(あの男…女でもなく復讐でもなく荷台や箱が目的なのか?)
男は核心をついた。
* *
マヒョウは次の日、スキップをしながら例の場所に向かった。箱や荷台が自分の手の中に向こうから来てくれるのだ。
マヒョウが事件に深く興味を持てば男達は暴かれる嫌がるだろう。けれど仮に少女が事件に巻き込まれているかどうかの有無を荷台や荷物に押しつけてしまえば事件をなかった事にしたい彼等は荷物を元の場所に戻しているハズだ。我ながら良い戦略に感心してしまう。
そして少女がいたであろう裏路地に入ると…
「………。」
…そこには荷台も荷物もなかった。
呆然とした表情で、トボトボとした足取りで約束の場所……男の家の前に行く。
「なんだ、マヒョウ。そのシケた顔は。」
自分達がまだ持っているくせに何を抜かしているんだと言ってやりたくなる。
「………荷物がなかった。」
「はぁ?あるんじゃねーのか?」
「知らねーよ、全ての裏路地を隈無く探したけどやっぱりなかったんだ。」
「また振り出しに戻るのかよ。…じゃあもう手っ取り早く情報屋でも使え…」
「それは駄目だ!」気づいたらヒョウは素の声で叫んでいた。男達も驚いた顔をしていた。
「……ま、前に頼んだ時に全然役に立たなかったんだ。あそこは行くべきじゃない。」
そうか、と男達は呟き納得してくれたようだ。
(危なねぇ…。)
あそこは情報網が広い、もし行かれてしまったら少女の居場所がバレてしまうかも知れない。それにもう一日経っているのだ。噂も情報も今頃きっと新しくなっているだろう。
「俺達は手を引く。」
「……え。」ヒョウは目を見広げた。それは困る、荷台と荷物はまだ見つかってない。これからまた策を考えて聞き出す所だったというのに。
「風の噂だがな。黒髪の女が娼婦の店で失血死してポックリ逝ったらしい。だからテメェも『俺達』も追う必要がなくなったわけだ。」
「……っ。」
それはショウにお願いした『機能するかダメ元で流した噂』だった。まさか一日で効果を発揮するとは……。
「俺達にも仕事があるんだ。あいにくこれからが東に向かわなきゃなれねぇ。そして前に仕事でポカしちまったのがバレたからもう二度と戻れそうにねぇんだ。悪いがここで手を打たせてくれ。」
仕事のポカとは少女の事だろうか。
「………。」
「すまねぇな、じゃあな。」
男達はヒョウをすり抜け去って行った。
(奴らはもう戻れそうにないと言っていた。…じゃあ危機は去ったって事か?安心してもいいのか?)
頭の中で色んな可能性がグルグルと渦巻いた。ヒョウはこの先どうすればよいか分からず、突っ立っていた。
五分思考をしていた時
「あの…。」
という声がして振り向くと、そこには薄汚いマントを被った女がいた。運び屋だ。
「お届け物です、もう代金は頂いているので。では。」ぶっきらぼうに短く言う女。
「え……。」
ヒョウには友達や家族がいた覚えがない、貰う覚えのない物を受け取りヒョウはますます困惑した。
それはヒョウが探していた荷台と荷物だったのだ。
男は手ぶらになり身軽になった体で去って行こうとするのをヒョウは阻止した。
「待って、君は誰に頼まれてこれを運んだ?」
「貴方がこれを探していると噂で知った方に頼まれました。それ以上は、……言えません。」
ヒョウは運び屋に礼を言うと走りだした。
取りあえず現状を少女とショウに報告しなればならないからだ。
「……何かが、上手く行きすぎている。」
そう呟きながら。
歓楽街に、入りドンドン道を進んでいく。娼婦を店への勧誘を断り、裏路地で何やら楽しそうな事をしている連中とは目を合わせないようにしてヒョウは目的の場所、少女がいる娼婦店に辿り着いた。
中にいる扇情的な服装をした女に目で合図を送ると扉を開けてくれる。これも少女の身を守るためだ。
長い通路の左右にドアが続いているがヒョウはそれの1番奥の部屋まで歩く。
ドアノブに手をかけて入るその部屋は少女のいる部屋だ。窓の近くにある簡素なベットと小さな足が一本ついているテーブルだけしかない部屋を見渡すとベットの奥に黒髪の少女がいた。
ヒョウはホッと安堵し優しく笑いかけながら少女に言った。
「もう大丈夫、作戦は成功だ。これで元の生活に戻れるよ。」
少女はまだ恐怖があるのかヒョウに背を向けベットでうずくまりながらガタガタと震えている。
「本当だって、もう何にも……。」
「何にも、ないわけないだろう?」
カチャリと音がして、振り返ると銃口をこちらに向けたボブと男がいた。
鍵のないこの部屋はいとも簡単に開けることが出来るので男達は音一つ立てずにヒョウ達がいる部屋に入って来られた。
「…どうやって入ってきた?」
入り口は合図した女によって木の板で施錠したハズだ。
「銃突きつければ静かになる、ほら今もそうだろ?」
裏の世界の男は笑った。
「お前が『マヒョウ』じゃなて『ヒョウ』っつう変な名前なのは分かっているんだぞ!?」ボブも犯人を追及するような口調で言った。
(……!)
「なんでここまで来れたか、種明かしを聞きてぇか?」男はニヤニヤとした笑みを浮かべた。




