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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
24/44

運び屋事件1

ギャング連続殺人事件から2ヶ月経った頃、ヒョウは特にすることがなかったので医療室の棚の整理に勤しんでいた。


イザヤ………こと西の頭首はヒョウが寝起きしている医務室のベットに寝そべり、優雅に本を読んでいた。


頭首のくせに仕事しなくて良いのか?と聞くと

「雑用は部下にさせているから。」とのこと。


「……間接的なイジメ。」


「本当に仕事が出来る奴はいかにして人にやらせるかなんだよ。自分は動いちゃいけないんだよ。」なんて事業で成功したお偉いさんがいいそうな台詞を彼はギザに言った。

可愛そうに、グータラ上司を持ってしまったばっかりに部下達はブラック企業並に働いているに違いない。


「じゃあ暇だろ?ここの整理を手伝ってくれ。」


「ヤダ。」


……本当、可愛そうに。

ここ一週間彼はヒョウの医療室に特に用もなく入り浸る。妙に懐かれてしまったものだ。


「おっ、そろそろ昼飯の時間か。外食しようと思ってんだけど、前も行くか?」


「……!」


どうやら自分も連れて行ってくれるようだ。仕事以外で外に出るのは久しぶりなので嬉しかった。


イザヤは初めて会った時に身につけていたあの黒いボロボロの服を身に纏う。どうやら身分を隠すための様だ。


「顔を知られていいことなんざ一つもねぇからな。あ、別に言いたきゃバラしてもいいぜ?どうせ俺だって誰も信じないから。」


挑発的な笑みを浮かべる彼に対して、ひねくれた考えをするもんだとヒョウはつくづく思った。

ただでさえイザヤと言う立場の存在に捕まり面倒くさいのにこれ以上騒ぎを起こしてどうする?


「言うわけないだろ、面倒くさい。」


「そゆとこ、好きだぜ♡」


「…やめろ。」


イザヤはすぐ心にも思っていない上っ面なことを誰にでもすぐスラスラと言う。ヒョウにとっては仮面をつけた何かと話しているかのようでひどく不快な気持ちにさせる。


彼のそゆとこ……苦手だ。

顔をギュッとしかめて見せると、イザヤはなぜが嬉しそうに笑い出した。


(変な奴…。)


*    *


歩いて外を歩くと、やはりいつも通り荒々しい人々は荒々しく商売をしている。

イザヤしばらく歩いた所にある焼き鳥屋で何本か焼き鳥を注文した。ヒョウも懐に余裕があったときに一度頼んだ事がある。

竹串に刺さった太い肉、噛んだときに出る肉汁、そして忘れならないあの優しい味!

久しぶりにそれを食べれると思ったらよだれが出てきそうになった。


しかしここの店に来るまでに他にも沢山の鶏肉屋があったのに何故寄らないかがヒョウには分からなかった。


その理由はイザヤの一言で分かる。

「他の店は猫の肉を使っているから」だそうだ。

イザヤが指さす方向を見るとゴミ溜の所に獣の皮がいくつも乗っかっていた。何も知らずに猫肉を鶏肉と勘違いして食べている親子を見つけた時はもう、鳥肌が止まらなかった。

 

焼き鳥(本物)を受け取り、椅子に座りながらホフホフと頬張り、味を噛みしめながら旨そうに食べているヒョウを見て、イザヤはクッと笑った。


食事を済ませたのち、歩き出そうとしたがこの時間帯は人混みではぐれやすくイザヤとは逆の流れに呑み込まれそうになった。

その時、彼はサッとヒョウの服を掴みそのまま引っ張られた。

どこにいくのか目的地が分からないままひたすら引っ張られ歩くこと五分…。

慣れない人混みを抜けて疲れたヒョウが目にしたものは…。


「………ッ。」


……そこはかつてヒョウとイザヤが出会った始まりの場所だった。


「懐かしいだろ?」


あの時から1ミリも変わっていない地上の光を久しぶりに見たヒョウは、そのまぶしさに目を細めた。

なぜここに連れてきたのだろうかと思いながらイザヤの方を見ると、彼はいつの間にかヒョウから10歩離れた、光の一歩手前の場所にいつの間にかいた。

その筋を見ながら彼はゆっくりゆっくりと口を開いた。


「知ってるか?ここで生まれた奴は一度も地上の光に当たった事がねぇんだ。」


何処か悲痛に物悲しげにいうイザヤの言葉をヒョウは静かに聞いていた。


「だからな、ソイツらがこの光に当たると体中が日焼けし出しすんだってさ。体から湯気が出て体が日焼けで変色する。長くいれば最悪、燃え死ぬ。地上の奴らは平気なのに。俺たち地下民族は駄目なんだ。


この光は俺達という汚れを取る浄化光だ、そんでもってここから出さない為に俺たちを蝕む毒だ。 


……俺たちは。ただ、ここに生まれてきただけなのにな。」

 

「……。」


なんと言えばいいのか、ヒョウには分からなかった。


ここに落ちてきた人間と

 

ここで生まれ落ちた人間。


前者であるヒョウに何が言える?

彼にはきっとどの言葉も薄っぺく聞こえてしまうことだろう。


イザヤは唐突に上着と靴を脱ぎ捨てた。柔らかい砂の中にズボリと彼の素足が埋まった。そしてこちらを振り返らないままこう言った。


「あの時は、ほんの少しの時間だったから平気だった。…でも今ならどうだろう。

俺は美味そうに焼けるのかな、あの猫肉みたいに。」


独り言のようにつぶやく彼にヒョウはなぜか不安になっていた。

イザヤはギュッと拳を握り締めると光の筋に一歩一歩踏み込み、近づいていく。


その行動でヒョウは彼が何をしたいか察した。

イザヤは生まれてこのかた外に出たことがない、でも出たかった。

けれど出られない、それならいっそ…きっと…きっと……。


体から血が引く気がした。ヒョウは無我夢中でイザヤの所に走り出した。


「おい待てよ!早まるな!!」

イザヤはこちらには振り向かない。


(くそっ……まて…待てっ……間に合え!!)


けれど、柔らかくそして深い砂はヒョウの足に絡まりついた。ヒョウは体勢を見事に崩しそのまま砂に埋もれた。

必死にもがき顔を上げようとするが焦りが余計ヒョウを転ばす。ようやく立ち上がりとイザヤを見たときには…

その時にはもう彼はすっぽりと光の中に入り込んでしまった後だった。


「…イザヤ!!!」


彼…














……からは特に何も起こらなかった。

彼の体から湯気が出たり体が変色したりすることもなかった。

ヒョウは恐る恐る彼に近づいた。

もしかしたらもう干からびてしまっているかも知れない。死んでいるかもしれない。そう思うと怖くなったのだ。


そんなヒョウの心配もよそにイザヤはこちらにふりかえる。

そして状況がよく分かっていないヒョウに向かって嘲け笑うようにププッと笑った。

その顔は完全に『してやったり』である。


「ニャッハハハ!騙されてやーんの!この俺が?フハッ…ハハハっ……死ぬわけねーだろ!?」


イザヤはその場にどれだけいても変わる事はなかった。

ヒョウはここで初め今までのくだりが全部彼の嘘、冗談なのだと分かった。

彼はヒョウの驚いた顔を見てまだゲラゲラ腹を抱えて笑い続けている。



「…………。」 


ヒョウはツカツカと彼に近づいていき、息を吸うと同時に彼の胸ぐらをガシッと掴みこちらに引き寄せた。


「こんな質の悪い冗談、二度とするな!」


自分の腹の底からでた今までで1番低い声だった。ヒョウの心は、黒いドロドロした物が詰っているような気持ちがした。

腸が煮えくりかえるこの心を今はイザヤにぶつかざる得なかった。


彼は突然の出来事に驚いているようだった。

それもそうだ、普段何事も雑なヒョウがこんなに怒りを見せるなんて。


けれどイザヤはすぐに表情を戻し今度はニヤニヤとした笑みを浮かべ、こう言った。


「あ、怒った?」


ヒョウの反応が楽しくてたまらない、そんな表情を作る。その態度に更に怒りがこみあがってきた。イザヤは挑発なのか余裕なのか分からない口調で喋りだした。


「殴ってもイイヨ?あ~でもヒョウちゃんには無理かぁ、お医者だもんネー。アハハッ。」


…本当に殴ってやろうかと思った。

もう8割、手が反応しかけていたがすぐに残りの2割で抑えた。

『そんな事してもイザヤには無駄』だと分かっていたからだ。

心を鎮めてヒョウは胸ぐらから手をパッと話した。


「怒ってない、ただ…」言葉が詰まる。


「ただ?」


「……ゴメン。頭…冷やしてくる。」ヒョウはポソリとイザヤにいい、去った。


「………。」 


ヒョウはイザヤを見ずに走りだした。





取り残されたイザヤの顔はまだニヤけが止まらなかった。

あの表情に、怒りに、体がゾクリときてしまったのだ。


「くっ…フフフ…ハハハ。」


ヒョウを怒らせた。

イザヤにとってそれはどこか気持ちよく、ぎこちなく、興奮させるものだった。    

怒りや憤怒を知りつくしているハズのイザヤでも、『あれは』なかなか良かった。


もしヒョウが本気で怒ったらどうなるのだろう。どんな風に自分を殴るんだろう、どうやって縛ってくれるのだろうか。

考えただけでも下半身が反応した。

笑いは治まらずイザヤはひたすら笑っていた。


*     * 

川で顔を洗い終えた後、ヒョウはその場で立ち竦んだ。

最近、少しおかしい。彼と共に長くいすぎたせいか怒ったり、泣いたり、腹が立ったり……感情が忙しい。


平常心、平常心だ。


ヒョウはフゥと息を吐き出すと上を向いた。




戻るとイザヤは腕を枕にして寝そべった状態で光の筋に当たっていた。その姿は絵に描いたいたように美しく、とても様になっていた。


「お。頭冷えた?」

ヒョウに気付くと上半身をひょいと起こす。


「あぁ、…でも俺は悪くないから謝らないぞ。」


「アハハッ!いいよイイヨ。俺が悪かったし。」彼らしい態度にヒョウは呆れた。


「…でもさ、でもさっき言った事、あれは本当に事実だよ。俺じゃなかったらまじでみんな火傷してるぜ?」


「嘘だ。」


「いやいや、まじまじ。俺三日に一度のペースでここにいるんだ。日光浴が趣味なんだよ。」


「絶対嘘だ。」ヒョウはなかなか信じられなかった。


すったもんだのあげく、なんやかんやで元通りの二人はそこでゆっくりとしていた。イザヤはサプライズのつもりでここに連れてきてくれたのかもしれないが、実は何度もここに足を運んでいたのだ。脱出するためにロープの先に石をつないで投げてみたり医師の壁をよじ登ってみたり……。

先にここに来ることを教えてくれれば、またロープを持ってきたのだが………



彼が報連相が出来ないのは周知の事実だ。

仕方ない。


イザヤは趣味の日光浴を(嘘くさい)楽しみ、ヒョウもそんなイザヤを眺めていた。 

その髪の美しさを見ていたらショウを思い出した。彼女も黒髪だった。

あの時からもう長い月日が流れていた。 


「花街に案内してくれ。」

ヒョウは唐突に言った。

イザヤは夜目の猫のように目を見開き、「へぇ、お目当ての女でもいんの?」と面白そうに言った。花街とは娼婦の町である。


「まぁ、そんな所。」

本当はショウさんに会いたいのだが、いちいち説明するのが面倒になったヒョウは雑に答えた。


「アンタにもソーユーの、あったんだな。」


「……嗜み程度には。」目をそらしながらヒョウは言う。


「嗜みッ!嗜む!!フハハッ!いいねぇその言葉!でも良かったな、キノコもキノコとしての機能を発揮できる。」


「…………。(キノコ?)」


「………あー、でもごめんな?」


「…?」


「俺、花街の場所知らないんだ。」


意外な発言にヒョウは肩からガクリと崩れ落ちそうになった。


(お前はここの頭首だろう!?)と言いたくなった。

だが、ある意味西の目が届かない所でしか

そうゆう営業は出来ないのだろう。


「そうか、ならいい。じゃあ探しに行ってくる。」


「え?マジで言ってんの?マジで嗜んできちゃうんスカ?…おーい!」


後ろで聞こえるイザヤの声を無視してスタスタ歩いて行いて行った。


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