表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
20/44

推理

「ところで、時計屋の状態はどうだ?」イザヤが聞いた。


「あぁ、もうほとんど完治だ。でもあと二ヶ月は俺が診ている必要がある。」


「そりゃよかった。…実はな時計屋を襲った犯人を割り出すことに成功したんだ。」「……!」


「今、時計屋は死んだことになっているだろう?」


敵はケイを刺した後、すぐに南の部下が駆けつけてしまったことで逃げるしか出来なかった。犯人にはきっとケイの生死は分からないだろう。

それを知っているのは南と西の頭首とそれぞれの側近。そしてケイの医者である自分だけなのだから。

南はケイの命を守るためにあえて『死んだ』と発表した。

彼の先ほどの言葉から考えるに…


「生きているケイを囮に犯人を釣るってことか。」「そゆこと。」


「……分かった。」ケイには悪いがそれで彼のような被害者がでないのならば仕方ない。


南との交渉は円滑に進み、全ての手はずは整った。

西が信頼できる少人数の部下を連れて南を潜入し、警備する。そしてケイには北の城という地下一安全な場所で身を隠してもらう。

それが南本人からのこの作戦を行う上での条件だった。ヒョウはもちろんケイについて行くことにした。


北に無事ついたのはいいものの、北の頭首に会うことはなかった。今日の挨拶も四重もの仲介を得てやっとその代理人に会えたものだ。 

そう簡単に会える人物ではないのだろう。


部屋は客人用のもので簡素なのにも関わらずどれも高級品だ。さすが天下の北といったところか。

イザヤ達の作戦が成功するまでの暇つぶしにヒョウはずっと本を読んでいた。しかし本を選ぶことすら許されず、それを選ぶのは40代くらいのやる気のなさそうな「ジン」という男だった。

服はキチンとしているのに、猫背といい無精ヒゲとからはなんというか…コイツ本当に北の側近か?と思わずにはいられなかった。


暇すぎるヒョウは毎日のように膨大な量の本を読むようになると彼はそれすら面倒くさがり一週間も経つと「オメェもう自分で選べ。」と投げやりな態度になってしまった。


ここの本はどれも面白く飽きが来ない。

ましてやそれが自分で選べるのが堪らなく嬉しかった。ケイの部屋をしっかりと施錠させ、北の側近であるジンに護衛を頼むと「オー。」とまたしてもやる気のない返事が返ってきた。


(まぁ、敵がきても置物よりは働いてくれるだろう。)


スキップしながら宝物が眠っている部屋に入るがそこには先客がいた。彼もヒョウに気づいたようで本から顔を上げてこちらを見た。


「金髪の男……お前がヒョウか。」簡素な和服を着た老人の白く長い髪とひげは真っ直ぐ伸びていた。立っているだけで感じる威厳、そしてそのオーラがあのヒョウでも肌でヒリヒリと感じた。


これが北の頭首…。

   

ぺこりと一礼し、部屋をあとにしようとしたが「待て待て、本を探しに来たんだろ?気をつかわんでいい。」と言われてしまって戻れなくなった。

ヒョウはもう一度恭しく一礼すると医療の本の所に直進した。

ふぁぁ~~と気分が高揚し、ホクホクとした気持ちになる。


数分後、ヒョウは面白そうな本を手に取りパラパラと読み始める。そして何気なく北の頭首の方に目をやった。 


立ち姿すらも老人とは思えないほどしっかりしていて美しい。どこかあの人の周りにだけ凛とした風が吹いているようだった。

地下の人々は日に当たらないので肌が青白い。彼もまた例外ではなかった。


……………………いや、青白いなんてもんではなくただただ青かった。

そう、イザヤのお手製の不味いキノコを食べたカズのようだ。そんなくだらない事を考えていると、彼はフラフラと左右に揺れだし、口を手で押さえて「うっ…」と小さく唸った。


クラリと倒れかけた所をヒョウが支え「大丈夫ですか?」と聞いた。

呼びかけても返事がない。まさか毒物を気づかぬ間に飲まされてしまったのだろうか。原因を確かめるために北の顔に近づくと「は、離れ……ろ」と小さく言った。「え……?」



「うぐ………うぇ~~~~~~」「…ぁ。」

老人はその場で嘔吐した。


*       *

吐いて楽になった北にうがいをさせた間、ヒョウは嘔吐の跡を除菌していた。そして戻ってきた北はヒョウの汚れてしまった服を見て、自室の風呂に入れさせた。シャワーだけではない湯浴みは地上以来なので、嬉しかった。


「いやぁ……ハハ、すまなかったなぁ。二日酔いなんてこの歳でするもんじゃないなっ。ハッハハ!」


先ほどの凄まじいオーラが嘘みたいにガサツに笑う姿はなんだかイザヤに似ている気がした。


「一応、胃腸薬も飲んどいて下さい。」ヒョウは自作の胃腸薬の薬を北に差し出した。


服は汚れでしまったのでセンスの良い黒っぽい服を貸してもらった。驚いたことにサイズがピッタリだ。そして格好いい………。


「気に入ったようなら、それやるぞ?」


「いえ、…悪いですよ。」


「いやいや、ワシの失態を見せてしまったんじゃからそれくらい安いもんだ。もらっとくれ。」


「……ありがとうございます。」


「そういえばお前さん、本が好きなんだよな?」


「ええ…まぁ。」本当は医療系のページにでてくる傷や縫合した跡の写真集なんかが好きなのだが……言えるはずがない。


「なら、これもやる。かなり面白い話じゃった。…これでさっきのは水に流そう。」

 

「そんな…言いませんよ。誰にだって嘔吐する時くら」「ああぁぁぁぁ!!!」


突然大声を出したかと思うと、彼は顔を赤らめ手で覆い隠しながら「恥ずかしい…恥ずかしい……」と小さな声でぼそぼそと連呼した。


………なんかイメージと全く違う人だ。


「ワシはクールなイケオジ路線で皆の心を奪う紳士キャラなんじゃ!…あんな失態を犯すなんて……恥ずかしぃ。」


(キャラめっちゃ意識してた!?)


「じゃあ、頂きます…。」そう言うしかヒョウには選択肢がなかった。


「そうしてくれるとワシも助かる。」



そうして開いた本は……

ワァ~オな内容だった。


「………。」ヒョウはニコニコしている北の前ではこの大きな間違いを指摘する勇気がなかった。


*           *


それから北とヒョウはお菓子をつまみながらダラダラと色々な事を話していた。北がついに酒を持ち出した時は部屋に護衛していた側近が慌てて止めた。

…この人は生活管理能力がかなり欠けているのだ。周りの人達はまるで小さな子供を育てるお世話係のようだった。 


「小さい頃の西はなぁ、そりゃあとんでもないガキだったわ。人を蹴るは殴るは嘘つくはいきなり行方をくらますは…もう手のかかる子でのぉ。でも今は大分落ち着いてきたな。ハハッ、よかった良かった。」


……今も変わってないのだが。

イザヤはそれをあえて北に見せないでいるのかもしれない。


「イザヤって……なんか風来坊ですよね。」


「イザヤ…………?」


「あぁ、すいません。西の頭首のことです。」

「いやぁ、それは知っとるが…その名前を聞くのは久方ぶりじゃの。」


どこか懐かしげに笑う北。そういえば頭首になったものは名を捨てるのがルールだとカズが言っていた気がする。


「アイツが自分のことを旧名で呼ばすなんて珍しいな。」


ヒョウはただ単に西の頭首だなんて呼ぶのが嫌なだけだ。カズやアラタに何度も注意を受けているがこれだけは一向に直そうとしない。


「そうですか?前にイザヤがナンパしていた女の人にも教えていましたよ?」


「そりゃ表向きの顔じゃろ?アイツは女好きじゃからなぁ。誰に似たんだか。」


「……そうですね。(あなたでは?)」


「ありゃ一生直らんな。性癖も含めて。」


「…いつからですか?イザヤの癖って。」  


「さぁてな。ワシが会ったときにはもう曲がっとった。確か……今のお前さんより一回り小さい時くらいだろう。」


「そうなんですか。」


では、もう手の施しようが無いのだろうか。その思うと少し胸がいたんだ。


「……お前さんはマズローの欲求というのを知っとるか?」 北は脈絡もなくそんなことを聞いた。


マズローの欲求。ここにあった本で見たことがある気がする。

△の中にカースト制度のように、人間に必要な欲求が下から順に積み上がっているのだ。


一番下は『生理的な欲求』、

その上が『安全の欲求』、

『所属の欲求と愛の欲求』、

『承認の欲求』と続き、

最後に『自己実現の欲求』がくる。…しかしそれがなんだと言うのだろうか。


(詳しくはウィキペディアで調べてみてね)


「アイツはなぁ…承認の欲求から上が満たされてないんだ。

人間は誰しも、ワシでも持っているものなんだ。……でもアイツは、それがない。いやあるんじゃが、それがきっと足りていない。」

欲求が満たされていない者は、何らかの事情や、幼少期の経験からくるとのもあると聞いたことがある。


「お前さんは……外に出たいか?」 

ポンポンと話が変わり、困惑しながらもヒョウは考えた。


どうだろう、それはずっと悩んでいることだった。こんな自分が外に行っていいとは今も思えない。それは変わらない。

ただ………ただ、《アンタは外に出るべきだ》と力強く言ってくれた彼を思い出す。 


ヒョウは迷った後に北を見つめて「出たいです。」とハッキリ答えた。


北は嬉しそうな反面、どこか寂しそうに言った。

「そうか…お前さんみたいな人がイザヤのそばに居てくれれば、ワシも安心だったんじゃが。


出たいと言うなら、一つ。地上に出たら年寄りの願いを聞いてくれぬか?」


ヒョウが頷くのを見ると、北はフワリと嬉しそうに微笑んだ。


「美しいであろう地上の景色をワシの代わりに目に焼き付けてくれ。」


*      *


ヒョウはケイの寝ている部屋に戻り脈を測った。

うん。安定している。あのとき売ったはずの聴診器は何故がイザヤが持っていた。

そしてそのままヒョウに戻ってきたのだ。


「ケイ、ケイ?…起きてるか?」ムニャムニャと言うだけで反応しないのはいつものことだ。

回復するために体力を全部持って行かれているせいか意識はあり、食欲はあるもののほとんどはこうやって寝ているのだ。犯人の顔はおぼろげで覚えていないと言っていた。部屋の窓から外を見る。


今この時、この瞬間でイザヤは犯人と格闘しているのだろうか。それとももう犯人捕まったのだろうか。

もちろん遠く離れた場所にいるヒョウには分かるはずもなく、ただ待つしか出来ない。


なぜ犯人はこんなことをするのだろうか。不意にそんなことを考えた。なぜ死体の首を掻き切るのだろうか。なぜ死体の顔をめちゃくちゃに殴るのだろうか。

何か犯人にとってメリットでもあるのか?

ベットで横になって静かに寝ているケイを被害者に見立てて、ヒョウは脳内で犯人の気持ちになっている。


(……うーむ。分からん。)


それにしても彼の寝相といい、眼鏡をかけていない姿といい、まるで自分をみているかのようで少し笑えた。  


(ん?自分……?)


「……ぁ。」その刹那、ヒョウは雷に撃たれたかのような衝撃が体中に襲った。


「おーい。そろそろ出ろ。……ぉわっ。」ジンがドアを開けた瞬間、部屋の外に出たヒョウは険しい表情で歩き続けた。


もし…この予想が当たっているのなら、犯人は。まだ顔は知らない。見たこともない。でも確かに会ったことがある奴だ。


《彼》はまるでイザヤのように裏と表の顔を使い慣らしていた。そしてこの事件を終わらせないためにいち早く西の行動を見抜き、かつそれを(イザヤ)にバレない自信がある人物。そして彼の信頼関係も築いているに違いない。(イザヤが頭首であることも知っているだろう。)

 

きっと、彼の部下……………彼の側近が犯人だ。

そしたら今も犯人は彼の近くにいるだろう。



「……イザヤが危ないかもしれない。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ