拷欲と性癖
R15要素な暴力シーンがあります。
苦手な方は飛ばして下さい。
「ぎゃああああぁぁぁ!!!」
「わーーーーぁっはははは!!」
悲鳴と同時にイザヤの楽しそうな声が隣の部屋までに響く。
ただいま彼は放火犯と拷問真っ最中。
ヒョウはカズと一緒にモグモグ育成キノコを頬張っていた。けれど悲鳴と叫び声が聞こえる中での食事は味がしなかった。美味いのかどうかも分からない。
「連続殺人事件の犯人らしい西を倒そうとした奴らのデモだってヨ。」
『ギャハハハハハハ!!!!なぁ?今どんな気持ちぃ!?聞こえてま~~スカーー!!ギャッハハハ!』
カズはイザヤの進行形でしている事を気にもせずバターを付けてキノコをムシャムシャ食べる。きっとここではこの反応が普通なのだろう。
「どうやって放火犯を見つけたんですか?」
「俺もさっき初めて聞いたんだけど、俺達は地下会議が終わって二日目に東に行っただろう?東の頭首には『5日目に行く』ってあれほど念を押してたのに。」
「…そうですね。」
「頭首はな、あることを考えていたんだ。
一つ目は犯人だと疑われている自分に対してデモが起きるかも知れないという危惧。
二つ目はどの国かが西を犯人として仕立て上げようとしているという危惧。
まず一つ目、どうやら火事が起こるってのは情報で掴んで分かっていたらしい。でも《いつ起こる》かが分からなかった。そこで相手の気持ちになってみよう。大前提としてテロを起こすならその標的がいないと駄目なわけだろう?確実にその本人を襲えるのは実は何処か遠くに出かける前日だったりするんだ。頭首は出かける前はかなり準備が必要だからな。ボディーガード、武器、装備、…死なないために要用心ってな。」
(だからあんなに荷物を運んでいたのか。)
カズは続ける。
「そして二つ目、頭首はあの地下会議で5日後に東に行くことをあえて皆に宣言した。けれど俺たちはそれよりも二日ばかり早く行った。すると地下会議から四日目の今日の夜、西の城に火がぶち込まれた。………この意味、分かるか?」
「………イザヤは地下会議から情報が漏れていないかをデモを通して確認した。もし漏れていたら4日目の夜に襲ってくるのは確実だった…。」
つまり地下会議にいた誰かが情報を手渡した事が明らかだ。
「そんで数人の部下を自分の家に張らせ、デモのリーダーが襲ってきた所を捕まるっと。……スゲぇよな、頭首。」
「……はい。」
二つの出来事を一つにまとめて解決させてしまう。人をコロコロと動かして部下も知らぬうちに終わらせてしまう。
これはもう、彼の才能だ。
「がぁあああああああ!!!!」痛みに悶えるデモのリーダーの声が聞こえた。イザヤの楽しそうな笑い声と共に。デモ犯にとっては彼はきっと悪魔にうつっているだろう。
彼の残念な所はきっと、短所が長所を上回るほどひどい点だ。
* *
イザヤはお楽しみタイムだった。
最近増えたマイ玩具を使って盛大に楽しむ。
「あっははは!痛い?なあイタイか!?」
カッターで皮膚を裂いた。男の目隠しをされた状態で苦痛に顔を歪める表情はもうイザヤを最高に…ムラムラさせた。
「…っ……ぁっ…はぁっ…。」
「痛みって素晴らしいよな。他に何も感じないんだから。目隠しすると感度も上がってビンビンするだろ?
………もっと楽しめるよなぁ!?ギャハハハハッ!!」その恐ろしい言葉にデモ犯の男は震えながら涙を零している。
「楽になりたい?………なら、吐け。誰に命令された?」首を軽く掴みながら男に問う。
「…ック…ノヴァだ!アイツだ!」男は徐々に増していく痛みに耐えきれなくなり口を開いた。
「…へぇ、誰そいつ?」
「知らない!本当に知らないんだ。突然覆面を被って俺達の前に現れて武器まで用意してくれたんだ。でも顔は見たことがない!!」
イザヤは無言でカッターを取り出し皮を1枚切る。数ミリの所で血は出ないが痛みだけ感じるのだ。男は叫んだ。
「オイオイ、そりゃ死にたいって言っているようなもんだぜ?せめて特徴を教えてくれなきゃ。」涙で顔がボロボロになった男は失神直前のような声で絞り出して言った。
「せ、性別は男で、マントみたいな服で体を覆って体格を見せないような黒い服を着てた。西の頭首が嫌いだと言っていた。髪を一つに結んでいて俺達の前に数人で現れたんだ…た、確か、声は低かった!……こ、これで文句ないだろっ!本当に顔を見てない、知らないんだ!もう……止めてくれ。もう放火とか…しねぇからっ!!」
必死に命乞いをする男にイザヤはゾクゾクしながらニタリとした笑みを浮かべる。
「……いいなその顔、俺好みだ。そんなアンタを生かしてやりてぇけど。俺、西の頭首様の事大好きなんだよね。あの方をバカにした奴ら全員殺しちまうほど。」
「しない!!もう二度としないっ…ち、誓う…、誓うからっ!」
必死に頼み込む憐れな姿にイザヤはウットリと目を細めた。何もコイツをいたぶるのが楽しいのではない。いや楽しいのには変わりないのだが、誰よりも、何よりも痛がっているコイツに『自分を当てはめる』のに興奮する。
「ンフ……仕方ねぇな、アンタを殺さないでやるよ。その代わりちっーとばっかし仕事頼みたい。」
「……っ!」コクコクと首を縦に振る男。
「よぉしよし。いい子だ。」そう言ってイザヤは初めて男の目隠しをとってやった。男の膝に座り、首に片腕を回し、男の顎をもう片方の手で掬い上げた。
そうしてその唇に自分の舌を、ゆっくりと忍びこませた。
「……ムッ…っ!!」男は初めて見たイザヤの美貌とその行動に驚き、そして恐怖した。
イザヤはそんな様子を気にせずチュパリと甘い音をならし、執拗に男の唇を貪った。
「……あっ…ん。……あ、そうだ。…っ…聞きたい事があったんだけどさぁ?」
キスを続けたままイザヤは息継ぎをするかのタイミングで話だす。
「その…、ん…ノヴァって奴。…んぁ…どこの側近の奴だ?」
「………っ。」首をかすかにふる男にイザヤはキスを止めた。男の目を見つめたままこう言った。
「…じゃあそれ調べるのがお前の仕事だ。裏切ったらご褒美はないぜ?……わかったか?」
男が震えたまま頷くとまたイザヤはサービスのキスをまた始めた。男は座ったまま今度こそ失神しかけて、されるがままになっていた。
はて、そんなに気持ちが良かったのだろうか?
「おい、イザヤ。そろそろ………。」
ガチャリとドアが開き、ヒョウが姿を現した。イザヤは目だけでヒョウの方を向いた。いつも無表情の奴がこれでどんな反応をするのかが気になったからだ。
ヒョウは、変わらず無表情のままだった。
言葉を言い始めた時も、後も。
眉一つ動かさず、動いたのは口だけで、
「悪い。」と一言だけ言った。
「待てよ。」
イザヤはそのつまらない反応に興が冷めた。
十分楽しめたので宴もお遊びも終わりにしよう。
「コイツをヤり過ぎちまったから後ヨロシク~。あ、終わったら報告しに俺の部屋に来いよ?」
そう言い残し、部屋を去った。
ヒョウはどさくさに紛れて後処理を丸投げされてしまった事にため息をつきながら、仕方なくいつも身につけているバックからアルコールを取り出し治療を始めた。
男は体に何本も赤い線が入っていた。顔には殴られた形跡が。
…きっとイザヤがやったのだろう。
彼はうわごとで何度も「悪魔だ……アイツは……悪魔だ…。」と言っていた。
ヒョウはその言葉を無視し、淡々と治療を進める。事が終えると荷物を片付けこの部屋の番人をしていた男に話しかけた。
「終わりました。」
「なら早く部屋に戻れ。くれぐれも頭首に失礼がないように。」
この男…処す処す言っていたこの人は名を、新という名前らしい。名字もあった気がするが忘れてしまった。歳は不明だが見た目からいえばヒョウよりは一回り上だろう。医者であるヒョウに対しては優しさと嫌悪を足して優しさを引いたように接してくる男だ。
(まぁ、カズさんみたいに文句を目の前でタラタラ言われるよりはマシか。)
この男から嫌われているという自覚はあるが、別に気にならない。影口は本人に聞こえてなければ、気にしなければ悪口ではないのだ。…あくまでもヒョウの考えなのだが。
「………あ、あとは私達に任せてください。」顔を青ざめているエディも無理矢理笑みを作っている。それもそうか、尊敬していたハズのイザヤが実はマゾで、サドだなんて………。
「……大丈夫ですか?」
「えぇ、………これも、仕方がない、犠牲ですから……うpっ」
(……心中お察しします。)
さっきまでヒョウがいた部屋に入るとキノコを頬張るイザヤがいた。入るやいなや彼はキノコをこちらに投げて寄こした。
…食べかけである。
「それ、やるよ。」
「好きじゃないのか?」
「育てるのが、好きなんだ。だけどこれがなかなか上手くいかなくてさ。木を切って乾燥させてキノコの菌を植え付けるんだけど俺がやるとすぐ枯れるんだ。カズがやるとすげぇニョキニョキ生えるのに。」
「頭首はやたら水を与えすぎなんスよ。」
今渡された物はイザヤが作った物のようだ。見栄えといい味といい先ほどと食べたのと比にならないほど…不味い。
「愛はたくさんあげたほうが早く育つだろ?」
「限度があります!あと、キノコを連れて散歩に行かないで下さい。湿度は18度以下って決まっているんスよ!」
「キノコだってたまには気分転換も大事だろ?」
これは…見かけに似合わずかなりアンポンタンな思考だ。
「そういえば、アラタに今指示を出してるんだけど人手がどうも足りねぇんだよな。お前、暇そうだから手伝って来い。」とカズに命令した。
「…っ!なんでアイツばっかり使うんすか?今回の作戦だって側近の俺には何一つ伝ってなかったですし!」カズは不満を口にだす。
「ストーカーしか脳がないお前は大人しく俺についてくりゃいいんだヨ。」
「ストっ…いやまぁ、だとしてもっ…。」「カーズ、うるさい。」
耳を押さえながらカズに言い放つ。イザヤの目は心なしか冷たい。これ以上は何を言っても無駄だと悟ったカズは不服そうな顔で部屋を出て行った。
(イザヤの側近なんてよくやっているものだ。)
ヒョウはつくづく思った。
「さてさてさて、と。」
イザヤはカズが出て行ったのを見送ると、何を思ったのか突然Tシャツのボタンを全て外した。
ヒョウはギョッとしてカズに続いて部屋を出て行こうとする。
「オイッ。医者が患者を置いて出て行ってもいいのか?」
ヒョウはドアノブを捻る手を止め、チラリとイザヤの方を見た。ヒョウは彼がどんな趣味、性癖があってもどうでもいいのだ。……それに自分を巻き込んでくれなければ。
「イザヤ……俺は、茶髪のロン毛の子が」
「怪我の治療をアンタが見るって言ったんだろう?早く済ませろ。」
イザヤが口を尖らせる。
そういえば五日前、そんなことを言った気がする。ヒョウはさっきのキスを見てから彼は『その口』なのだと確信した。だから自分もパックリいかれないようにしなければならないと思い、仕事以外では出来るだけ関わらないようにしようと思ったのだ。
けれど、…自分から約束してしまったのならしょうがない。
椅子に腰掛け、東につけられた怪我の様態を確認する。
蹴られ続けた傷痕はこれまでの治療した中でも1番に生々しくて、痛々しいかった。だがそんな傷もヒョウにとっては少しドキドキされるものがあった。
ヒョウはまず、五日前に縫った傷口を確認する。綺麗に治したそこからは糸が解れ、血がドバドバ溢れていた……。
「おい。」
これは一体どういう状況だ?せっかく上手く縫えて、安静にしていればすぐ治る怪我のハズなのにどうしてこんな悲惨になってしまっているのだろうか。
「アッハ、拷問で相手蹴ったときにビリッとね。」
ヒョウは無表情でイザヤを見つめてため息をついた。
治るも治らないも本人の自由だ、医者である自分はただ黙々と治すのみなのである。
けれどひどい内出血していた所はヒョウが腕や足は三日間冷やしこみ、暖めた甲斐があって大分良くなっていた。
「腹に内出血しなくてよかったな。もし臓器を痛めていたら最悪死に至ってた。」
「そこまでしねーよ。ちゃんと適度を守ってマゾってます~……死んだら意味ねぇもん。」
ヒョウは少し怪訝そうな顔でのぞき込む。
「んだよ。なんか文句あんのか?」
「…いや、死が1番の快楽とか言うと思ってた。」
「バァカ、死んだらこの先何にも感じねぇだろ?」
(確かにそれとそうだな)
と、うっかり彼のクソ持論に納得してしまった。
それからヒョウは黙々と作業を続けていると、不思議そうな顔をしてイザヤがたずねた。
「…アンタ、本当に何にも聞かないんだな。」
「……?」
「さっきのキスの事とか性癖の事とか、……全部?皆が『そうだった』から、お前といるとなんつーか……植物といる気分だ。」頭をポリポリかきながら彼は言う。
「俺はキノコと同等か。」
「いいや、キノコ以下だね。キノコはもっと素直に生えてくる。」
「育てられないくせに。」
「育ち方が悪いんだ。」イザヤは楽しそうに笑う。
その顔をみて、ヒョウはぽつりと言った。
「……まぁ、そういう人もいるからな。」
彼はその言葉の奥底を悟ったのか、突然こう言った。
「…勘違いしてほしくないから先に言っとくぜ?俺は、『ゲイ』じゃない。求められれば、殴られたくなれば誰とでも、色々出来るだけだ。」
先ほどの距離をとった態度と物言いがそう思わせてしまっていたのだろうか。
「……そうか。」
無表情のままヒョウは頷く。申し訳なさと共に少し、安堵した。
「大体、変な理屈なんだよな。マゾヒストでアブノーマルで女より男に殴られる方が痛くて好きなら、ゲイだーって言われる。その勘違いは別にいいけどさ。やっぱ変なロジックだよ。」
「……そうだな。(ならキスは何だ?)」ヒョウはまた適当にあいずちを打った。
そんなヒョウを見つめ、今度はイザヤは無表情になり、唐突にヒョウの手を握りしめた。そして何を思ったのが自分の体に押しつけてきた。
「……ッ!」全身の鳥肌が逆立ち、止まらかった。
「アンタも、そうなんだろう?」
何の話だかとんと見当もつかずヒョウはバッと手を振り払った。思ったよりもスルリと抜け出せた。
「…は?」嫌悪感でいっぱいになり、顔を歪める。
「アンタも俺と同じで他の奴らには分からない『悪癖』があるんだろ?」
「………ッ。」
ヒョウは心当たりがあり、視線を逸らせる。そんな自分の事を見透かすようにイザヤはニヤリと笑った。その顔は酒を飲み合った時と同じ魅惑な表情だった。
そしてゆっくり、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「…傷口、好きなんだろ?」
体が強張り、喉がガラガラになる。頭が真っ白になり言葉が出てこない。
……彼には、隠しておきたかった。
医者として傷が好きなのは悪いことではない、別に誰かにどう言われても気にならない。
でもマゾヒストの彼だけには知られたくなかった。
「……好きじゃない。」
目を瞑りながらヒョウは嘘を絞り出した。イザヤの顔を見ることが出来ずにいるヒョウに対して、彼も無表情で黙っていた。
沈黙が二人の間を走った。
イザヤはフッと笑うと、もう一度ヒョウの手を取り先ほどのように彼の体にソッと自分の手を当てた。
今度はヒョウは動かない、いや何か見えない力が働いているかのように動けなかった。
「びっくりしたよ、誰にも無関心のアンタにもちゃーんと性癖があったんだもん。」
「………。」
「別に何も隠さなくても、怯えなくていい。ただちっとそんなお前に頼み事があってさ。」
ヒョウは強張った。頭の中で“やめろ”という三文字が踊っていた。
(やめてくれ…これ以上俺を困らせないでくれ、俺に関わらないでくれ。)
頭の中で必死に願った。
もちろん残虐で残酷な彼には…………
届くハズもない。
「俺の傷、触ってくんない?」




