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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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そこに留まるわけ

イザヤは東に軽く手を上げサッサと来た道を歩き出した。

どうやら、もう帰るようだ。


「…。」

ヒョウは黙ってイザヤの後に続いた。

馬に乗ってきたハズなのだが全てなくなっていた。それは決して盗られたからという訳ではなく邪魔だったから部下にしまわせたそうだ。

イザヤは西でも東でも正体を知られたくない。だから昼間に馬なんて高級な物を連れて歩いていたら目立つと思ったらしい。

けれどヒョウは不思議に思った。日帰りで西に帰る予定なのに馬がなかったらどうすればいいのだろうか。


「今日は宿に泊まっていく。」


まるで初めからそうするつもりだったかのようにイザヤは言った。

…違う彼の事だ、初めからプランにいれていたのだろう。


「…なんで俺に言わない。」

じと目でイザヤを見つめる。


「あ!やっべー伝えるの忘れてた。」と彼はふざけるように笑った。


(信用していないのはどっちだ。)


心の中でブツブツと文句を言うヒョウにカズは同情するかのような笑みでこちらを見た。


東の頭首が住む家の門をくぐり抜けると目の前に六人のギャング達がたむろっていた。そしてヒョウ達を囲んだ。


「おいお~い。見ねぇ顔だなぁ、新人か?」ギャングの内の一人が前に出る。


「仕方ね~なぁ。先輩が指導してやるから荷物おけよぉ。あ、全部な?」


「ギャハハハハ!指導っつったて殴るだけだろうがぁ!!」


「ハハッ、立派な指導だろ?おい、早くしろよ!」


どうやら自分達の事を東の新しく来た下っ端とでも思っているみたいだ。

ヒョウはこう言う奴らには慣れていた。西でもギャングと言うだけで偉ぶる輩がたくさんいるからだ。もちろんその対処は嫌というほど習得済みである。


「え、マジで!荷物置いたらヤッてくれんの!?」


イザヤはバカ正直に荷物を床に置こうとするのを肩を掴み、制止した。そしてやるなら一人でやってくれ、自分を巻き込まないでくれというように強く掴んだ。


「あまり派手な事はしない方が…。」カズも小声で同意する。


「んだよつれねーな、一回ヤればハマるぜ?」


「うるさい。」ヒョウが言い放つとイザヤは嬉しそうに、残念。と笑った。

彼はギャング共に振り返るとこう言った。


「オイオイオイオイ。この俺にケンカ売ろうとはいい度胸だなぁ。カズ、ヒョウ、……分かってるよな?」

カズは首をこきりと動かし、ヒョウも手首を回した。こう言うのはあまり得意ではないのだが…。


ギャング達は売ったケンカを買い返したヒョウ達を愉快そうに笑った。

それもそうだろう。六対三じゃ勝ち目がない。…だが、相手は何と言っても、西の頭首なのだ。


ギャング二人がヒョウに近づく、ジリッとお互いを見つめた。

…やがて相手が動き出した。

ヒョウは動きに合わせて紙一重でそれをよけると、相手の股間に一発ぶち込んだ。うずくまるギャングを突き飛ばし、そのまま次の相手を………




もちろん倒せるハズがないので、ヒョウはものすごいスピードで逃げ出した。

隣にはイザヤも同じように一人に蹴りを入れてすたこらさっさと逃げ出していた。


「えっ…ちょっ、ま!……えぇ~~~!」

本気で戦うつもりだったカズだけが六人に取り囲まれた。


*     *

宿屋の部屋の一室でイザヤはケタケタ笑っていた。

目の前には傷だらけでプンスカ怒って文句を吐くカズがいる。

どうやら途中イザヤの仲間が助けに来てくれてカズは危機を逃れたらしい。


「つか、ふつーあの流れで逃げますか?」

青筋を立ててイザヤに悪態をついた。

彼の怒りはもっともである。

ヒョウもイザヤの肩を掴んだ時にポロッと聞かされたのだ。イザヤの部下であるカズも当然心得ていたのかと思ったのだ。

……だから俺はワルクナイ。


「バーカ、俺ぁ今金貨50枚の体を持ってんだよ。逃げるに決まってんだろ。」


ちょっとは頭を使えとでも言うように彼は自分の頭を人差し指でトントン叩いた。


「そりゃあ…確かにそれが最善ですけど……でも俺殺されかけましたからね?

いいんスカ!?俺死んでも!?」


イザヤは眉を八の字に曲げて顔を歪ました。

「そんなわけないだろ?俺の大切な側近なんだからすげぇ心配したわ。…でも、あの時『は』お前を残してきたのが正解だったな。」


「何でですか!?」言葉と心情が一致していない事にカズは怒りそして立ち上がる。


「だってお前、強いじゃん。もしあの時お前が殿(しんがり)になってくれなかったら俺の身ぐるみ剥がされてたかもしれないし、死んでいたかもしれない。だから…助かったよ、ありがとな。」


イザヤが首を傾けてニコリと笑顔を見せるとピタリとカズの体の動きが固まった。

そして怒っているような照れているようなそんな顔をして

「……~~~とりあえず、全員無事だからもう、イイっす。」といって部屋を出て行った。


バタリとドアが閉まるとイザヤが一言。


「チョロいな。」


(ペテン師。)ヒョウは彼を見て思った。


*     *


次の日、ヒョウはそろそろ帰ろうと何度となくイザヤに切り出してみたが彼はベットから岩のように動かない。

理由はこの旅で疲れたから休んでいきたいそうだ。……どうも嘘くさい。


まさか、ここでヒョウを置いていく算段なのだろうか。時計も奪えたしも部下の傷も治ったからもう用済みだと言っても不思議ではない。


(それは……困る。)


呑気に酒を飲みながら寝っ転がっている詐欺師はヒョウの視線に気づきニコリと笑みを返した。

ここでまた騙されてたら、また地上脱出への道が遠のく。そそれは非常にマズイ。


ヒョウは言おうか少し迷ったが、やはり聞くことにした。

「イザヤ…。」


「んー?」


「…君は俺をここに捨てるつもりか?」

「捨てねーよ。」

イザヤはヒョウの言葉を被せるようにそう言った。いつの間にか彼の表情は消えていた。


「…………そうか。」

あんまりにもハッキリ言われたのでヒョウは少し驚いてしまった。だが、それが逆に不安になってしまいイザヤを見ていると…


「しつけーな、しないって言ってるだろ?俺は確かに詐欺師ポン引き人でなしかもしれねーけど、約束はちゃんと守る。破るほど落ちぶれてねぇよ、誓ってやる。」


「………。(自覚はあるんだ。)」


「まぁないと思うけど、もしその約束を破ったらその時は俺好きなだけ殴っていいぜ。」


「それは君が喜ぶだけだろ?」


「ギャハハ、バレたか。」


いつも通り笑うイザヤを見てヒョウはホッとした。たとえ口先だけだったとしても、そう言って貰えるだけで少し救われた気持ちになった。

 

「なぁ、記憶無くすのってどんな感じ?」


脈絡のないの質問にヒョウは困惑した。これまでの生活が刺激的過ぎるせいか記憶の事をいちいち構っている暇がなかったのだ。


ヒョウは少し考える。

「…真っ白になる。あんまり何にも考えられないし何にも思わない、感じ?

あ、でもそれは記憶が無くなっているんじゃなくて……なんて言うんだろ。白い布で被さって見えなくなっているんだ。で、それが時々チラリと見える。きっとそれが多分俺の記憶。」

的確な表現を探す為に頭をひねったが、なんというか…難しいものだ。


「へぇ、じゃあ完全に忘れた訳じゃないと。」


「あぁ。」


「なるほどねぇ……俺もどっかから飛び降りたら消えるかな?」酒を上品に呑みながらいう彼に、首を傾げる。


「いや駄目だと思う。いっぺん死ななきゃその質の悪さは消せない。」


「変な引き止め方すんなって…死なねぇから。せっかく頭首やって金稼げてるのに。」


『感じ方がポジティブシンキング』と言うのはある意味、的を得ていると思った。


ふと、イザヤが寝ているベッドの方向にある窓に目が入った。東はやはり西より色んな物が発達していてどこか生き生きしている。こうしてゆっくり休んだり娯楽を楽しむ時間は少なくとも西よりあるだろう。


「…他の国に攻め入られたらすぐに終わるぞ。君の国は。」

いつか起こりうる未来を考えてヒョウは口に出す。


「いやいや、他の国より暴力性に溢れていますから、うちの国は。」


「……。」


「前に比べりゃ大分マシになったとは思うぜ。アンタの言いたい事も分かる。東や北は発達してるのになんでうちはあんなにボロボロなのかって話だろう?」


イザヤは続ける。


「革命には犠牲が必要なように、発達にもそれに劣る劣化が必要なんだ。商売がうまくいかなかった、金がない、住む場所がない。そんな奴らが最後にたどり着くのが西だ。罪人の地下の世界なのにここでも身分みてぇなのが完成しちまってる、もうこれは人間の性なんだよ。

上になりたい、下で流れていたい。人に動かしたい、何も考えたくない。そんなバカな奴が地下にはたくさん溢れすぎている。制御出来ないほどな。」


つまり、彼は国の発達をしないのではなく出来ない、難しいのだと言っているのだとヒョウは察した。


「ま、俺がくたばって新しい頭首になればちっとは変わるかもなぁ。アハハッ。」


「君は頭首になりたくてなったんだろ?」


「………んー。」

曖昧な返事をするイザヤ。

ヒョウは彼の事を何一つとして知らないことを改めて実感した。


「なんで頭首になったんだ?」


そして気がついたらそう質問していた。どうでもいいことなのに、不思議と聞きたくなった。


「今の北の頭首にスカウトされたんだよな、ヒモ生活してるとき。」 


「北でギャングしてたのか?」


「生まれは西だけどな。…あ、ヒモ生活の話聞く?あの時の俺は最高にいけてて五人くらい女を余裕で掛け持ちしてたんだよ。相手に適当な甘い言葉を言うだけでただ住みにただ飯だぜ?しかも手作り、止まらなくなっちゃうな。」


“最低だ”とは少し思ったが、ここでは賢い生き方の一つだろう。イザヤならまだしもヒョウがそれをやろうと思ってもそうはいかない。顔の良さや話の話題や甘い言葉のボキャブラリーが薄すぎるからである。きっと一日と経たぬうちに捨てられてしまう。キザでやり手な彼だからこそ出来る手法なのだ。


「でな、その時人んちの女房寝取っちまって、それを主人にバレたんだ。そしたらソイツ、すげぇ威力で殴り込んできてさ。きっとその時に……きっと禁断の扉が開いた(笑)」楽しそうに笑いながらイザヤは言った。


これがイザヤの性癖の原点なのだろうか。


「そこから頭首に成り上がったのか?」


「…まぁそんな所、んな事よりアンタさっきの話の続きだ。記憶の方はどうなった?」


さりげなく話題をずらす彼はきっも話したくないのだろう。だからヒョウもこれ以上の追求を止めて質問に答えた。


「…少しだけ。」


「話してみ。」


「断片的なんだけど…俺には母さんと父さんとあと、歳の近い妹がいた。母さんはすごく優しくて面白い、そんでもってすごく手先が不器用なんだ。料理は簡単な物ばっかだし洗濯物半乾き、でも父さんはそんながさつな母さんでも大好きで毎日飽きもせず二人仲良くイチャついてたよ。こっちが恥ずかしくなるくらい。」


「…へぇ、それで?」


「父さんは博識だ、なんの仕事かは忘れたけどすごく格好よかった気がする。でも普段はすごく残念なんだ。平気でパンツ一丁で外に出られる。」


「おぉアンタも同じ事したことあんじゃん。遺伝子ってスゲぇな。」


(それは君が脱がせたんだろうが。)


「…妹は、『スズ』って名前の生意気で強欲で意地っぱりな奴だ。そんで無茶苦茶可愛い。…アイツに頼み事されたら何でも聞いちゃう気がする。」

皆の顔もまだぼやけている。ただ、口元はいつも笑みが絶えない。


「…アンタ、よく話すな」


「そうか?」


「さてはファミコンだろ?ファミリーコンプレックス。」


「違う、そんなんじゃない。」


「いやいや、こんなよく喋るお前…本の知識をひけらかしてた時以来だぜ?」


「ひからかしてない。」


「アハハッ、ゴメンって、すねんなって。あ、ファミコンじゃねぇって事は仮面家族とか?」イザヤはどこかヒョウの家族が幸せであることを疑っているらしい。


「…さぁね。」ヒョウは肩をすくめた。


結局所詮記憶なのだ。真実なんて分かるはずがない。

なんて思った時だった。



ピーーーーー………!!!!!


笛のような音が鳴り響いた。

イザヤはすぐに起き上がり窓の外を見る。ヒョウもつられると西の国の方角からメラメラと赤く燃え上がったものが見えた。


「火事だ。」ヒョウが呟く。


「しかも俺のマイホームでな。」

とイザヤが重々しい顔で軽々しく言った。


ヒョウはわずかばかり焦った。なぜなら西の自分の部屋には少しとはいえ貴重な薬剤が置いてあるのだ。荷物は大体持ってきているがやはり…もったいない。


「………イザヤ、急いで帰ろう。部下たちも死んでるかもしれない。」

貴重な薬剤が頭にチラつくが、イザヤがいいと言うならば仕方ない。

「いいんじゃね?部下くらい。」


「………住民もいるかもしれないんだぞ?」


「いいじゃん。住民くらい。」


「………分かった。じゃあいい。」ため息をつきながら椅子に座り直す。


「えっ!?お前医者だろ?こういうときに『皆を助けに行かなきゃ!』とか言うのがお約束だろ?」


「ここから東まで1時間半はかかる。そんでもって君の家の近くに水があるから大事には至らないと思う。」


「オイオイ、それじゃあヤブ医者だ。住民が巻き込まれて大けがしてもいいのかよ?」


「それはこっちの台詞だ。西の頭首が住民を捨てるはずがない。それでも君は助けにいかないって言うならば俺も行かない。」


「……そんな大層な理由じゃねぇって。俺は自分が死にたくねぇから言ってんの。」


「……。」


少し買いかぶり過ぎるかも知れないが、ここに来て分かったのはイザヤが赤と言うならば大体赤なのであり、青と言えば大体青なのだ。つまり何が言いたいかというと彼が行かなくても良いと言うならばそれはきっと手を打ってあるという事なのだ。……あくまでも推測なのだけど。



「…君が行かないのなら、俺も行かない。」

ヒョウはすこし迷ったが言い切った。さっきの話を聞いて、なおさら、それでいい気がしたのだ。


「………ガッカリだ。本当にアンタには失望した。」


そう言ってベットに体を乱暴に預ける。片手は顔に持ってきて、呆れたような深いため息をつく。


もちろん多少の揺れはあった。けれど今はイザヤについていくと決めたのだ。


「………。」






「……んだよ、引っかかれよ。騙し甲斐がねぇんだろ、バァカ!!」

鋭くヒョウを睨み付けふて腐れたように横を向いた。


(やはりか。)

きっともう手は打ってあるのだろう。

危うくまた騙されてしまう所だった。ホッと安堵し、ヒョウは再び窓の外を見た。まだ炎は西の頭首の城で轟々と燃え上がっている。ではこれは一体何なのだろう、イザヤが自分でつけたのだろうか。そんな思考をまるで読んだかのようなタイミングでイザヤは言った。


「あと1時間まて。そしたら教えてやる。」


そして八つ当たりのように手だけ動かしてヒョウに向かって枕を投げつけた。ヒョウはそれを顔面でキャッチしながら思った。


ここに来てもう一つ分かったことを

(イザヤは意外と、短気だ。)


*     *   


1時間経つとイザヤとヒョウは西の家に向かった。といっても本部は燃やされてしまっているので第二の家と称されるキノコ育成所に向かった。 

そこでキノコを食べながら待っているとやがてドアが開き、目の前にはいつぞや見たことがある男がいた。

…あの処す処す言っていた奴だ。

その男の右下には目隠しされ、腕を拘束された別の男がいる。


「よぉ、放火犯。」


イザヤはガシリとその男の頭を掴むとニヤリとした笑みを浮かべた。

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