(20) ずっとこの時間が続けばいいのに
「はい、準備できたよ!」
「よっしゃ、急げ急げ〜!」
カメラのタイマーをセットし、慌ててみんなの輪の中へ飛び込む。
「はいっ、チーズ!」
カシャリ、と眩しい光が弾ける。賑やかに飾り付けられた部屋の中で、花冠を乗せたロゼを中心に最初の一枚が撮れた。
「ね、折角だからいつもの花畑でも撮らない?」
「いいね! 行こう……!」
「お~っ!」
数時間ぶりに外に出た。冬はじめの夜の、ひんやりとした空気がふわっと広がる。爽やかで涼しい風が頬をすり抜けて気持ちがいい。
「ふわ~、涼しいな!」
「あっ、見て! 雲ひとつない星空だ!」
ハルが空を指さす。
「ほんとだ……! よかったぁ、ロゼの誕生日ずっと晴れてくれて!」
「だな。なんとなくロゼって、月とか星とか似合うよなあ。ほら、今日も満月が綺麗だぜ。」
何度も見てきているはずなのに、毎度のようにこの空に、この花畑に、見える景色すべてに感動してしまうのは何故だろう。
私は夜の花畑も好きだ。沢山の青い花が、月の夜も星の夜でも、なんとなくだがほんのりと光って見える気がして。多分、空も花の色も明るいからなのかな。
「よし、みんな撮るよ~! ポーズとって!」
「はい~っ、ち~ず!」
ぱしゃり。
どれどれ、とみんなで撮れた写真を覗き込む。
よく撮れていた。美しい景色とみんなの笑顔が最高だ。ピースサインも決まってる。ロゼも今日は、なんだかいつもより心から笑っているような気がして私も嬉しい。
「どれどれ……おっ、よく撮れたな! やっぱここは写真撮るのにサイコーだよな!」
「えへへ、これもロゼのアルバムにも追加しようね!」
「うん……!」
そのあとも、私たちは時間ぎりぎりまでたくさんお話した。今日一日で日記を5ページ埋めるくらいに。みんな、彼が大好きなんだ。大事で大切なんだ。だから、喜んでくれて私たちもたまらなく嬉しいんだ——。
楽しい誕生日会もあっという間。もう帰らないといけない時間だ。
「……なんだか、帰るの寂しいね。」
月を見上げながら、彼は言う。
「私も……。」
「だいじょーぶだよ! 明日もみんなで会おうぜ!!」
「おう。それに帰ってからもアレイドで話せるしな。」
そうだ、私たちにはこれがある。いつでもお話ができるじゃないか。いっそ朝までお話したい。
「確かに! じゃあ寝るまでずっとお話しちゃお!」
「あはは、夜更かしはほどほどに……いや、たまにはいいか。」
私の半ば滅茶苦茶ともいえる提案に、ロゼが乗ってくれた。
「おおっ、ロゼがそう言うなんて珍しいな! じゃあ今日はみんなで夜更かしだーーっ!」
レイがガッツポーズをして、無邪気に笑った。ノリノリだ。
「ひゃっほーい! 踊れるぜ!」
「楽しみ~! ……あっ、そうだ! 帰る前にみんなでグループハグしようよ!」
「おっいいな! やろうぜやろーぜ!」
「グ、グループハグ……?! ちょっと恥ずかしいなぁ」
ロゼが恥ずかしがるなんて珍しくて、かわいいかも。でも私もわかる。言い出しておいてなんだが、実は経験がないうえに恥ずかしがり屋なもので、とても緊張している。
「大丈夫だって! ほらみんな、肩組んで! 円になるぞ~」
「うっ、うんっ!」
照れくささを抱えながら、4人で肩を寄せ合い、お互いの背中にそっと手を回す。みんなの心地よい体温がじんわりと伝わってきた。
「えへへ、あったかいね。」
「……うん……。」
囁くようなロゼの声にふと目をやると、月明かりに照らされた彼の瞳が、一瞬だけ潤んで光ったように見えた。
「……あれ、ロゼ、泣いてる?」
「……ううん、泣いてないよ。」
彼はすっと目を閉じて微笑み、静かに首を振った。その笑顔はどこか切なく、でも溢れんばかりの愛しさに満ちていた。
「なっロゼ、こういうのも悪くないだろ?」
「うん。悪くないね……。」
月は私たちをただ見守るように、この星が煌めく夜空に浮かんでいた。
幸せな一日が終わっても、また幸せはやってくるものだ。
雪が積もればみんなで遊ぶ。寒い日にはみんなでシチューを作ったり、美味しいお店
のご飯を食べに行ったりしてあたたまる。
なんでもない日のおしゃべりも、みんなでどこかへ出かける日も。全部ぜんぶ、私の、私たちの宝物。
ああ、ずっとこの日々が続いたらいいのにな。
夢は、いつも突然やってきて──いつも突然、消えていく。
5.「夢のつづき」
みんなと出逢ってから初めて、年が明けた。
年が明けたら、何か今年一年の目標を立てたり、お祈りをするらしい。だから私は、「これからもずっと、みんなと一緒にいられますように」って願ったんだ。
それからさらに2か月もの時が流れた。凍える冬もあと1か月ほどで終わって、ようやく春が来る。春が来たら……ついに私たちが出逢って1周年記念だ。今から楽しみだな。
でも、その前に今月中旬にいいイベントがある。バレンタインだ。その日は女の子や男の子が、自分の好きな人、大切な人に愛を伝え、贈り物をしたり、友達同士でお菓子を渡して友情を深めたりする。よくあるのはチョコレートや花を贈ることだ。もちろんそれ以外のプレゼントでもいいらしい。
この時期になると、学校では誰にチョコを渡すとか、あの人から貰えたりしないかなあとかそういう話題で持ち切りだ。もっとも、学校の中では私に関係のないことだが。
(私は、ロゼに渡したいな……。)
……友情を深める日でもあるんだから、ハルやレイにもあげたいな。
でも、なぜだろう?2人にあげるのと、ロゼにあげるのでは、何かが違うような気がする。
……なんだか、考えてもわからないな。とりあえず、何を作るか、それともモノを贈るのかとか早めに決めておかないと。
そんなこんなで、あっという間に前日を迎えてしまった。
2011年2月13日 夜
アルド地方西部。今日はそこの古代遺跡を探検していた。2月も中旬に入り、そろそろ冬も後半に突入するところだ。
「今日も冒険楽しかったな~! お宝もゲットできたし!」
お宝——といっても、古ぼけた謎のコインだとか、よくわからない石が入った袋をハルは嬉しそうに鞄の中にしまった。
「そうだね。途中でレイカがトラップに引っかかりそうなときはヒヤッとしたな」
ロゼが思い出すように苦笑した。
「うう……まさか上から網が降ってくるとは思わなかったよ~。ロゼが教えてくれなきゃぐるぐるになってるところだったや……」
「それにしても、この時期もまだまだ日が落ちるのが早いなあ……もう辺りが真っ暗だぜ」
「ほんとだ。そろそろ帰らないとね。」
もうすっかり夜になってしまった。今日はこの遺跡を探索する前に、道中で寄り道したり、遊んだりすることがあったので、探索開始が遅れてしまったのだ。
「俺ちょっと寄り道してから帰るから、みんなまたな!」
「おう。あ、そういや俺買い物頼まれてたんだった、やべ。みんな先帰っててくれ。また遊ぼーぜ」
「ううん、大丈夫だよ! 2人ともまた明日!」
「またね。」
互いに手を振り合い、それぞれの帰り道へと歩いて行った。
「送ってくよ。1人じゃ危ないから」
「あっ、ありがとう……っ」
ロゼと2人きりで帰るのは久しぶりだから、なんだかドキドキする。
(そういえば、明日チョコ渡したいってこと言おうかな……。でも、どうせ明日もみんなと会うし、自然の流れで渡そうかな……。「今日はみんなにチョコ持ってきたから、食べよ!」みたいな……?)
(自然だけど、ムードはないなぁ……)
いけない、つい無言になってしまっていた。何か話題を出さないと……。いや、いっそここで。
「……そ、そうだ! あのねロゼ!」
「うん?」
いけ、自然にやるんだ私。ごく自然に。
「あ、明日、バレンタインじゃない? その……私、チョコ作ろうと思ってて……ロゼに渡してもいい……?」
落ち着いて言うつもりが、声が上ずってしまった。変に意識しているのが伝わってしまったんじゃないかと、一気に顔が熱くなる。
「俺に……チョコ?」
「うんっ! みんなで食べる友チョコも作るんだけど……その、ロゼには別で渡したくて」
この言葉を出すだけで精一杯だった。
「なんだか……凄く嬉しいな。ありがとう、楽しみにしてるね。」
「やったぁ……! うん……っ!」
ふわっと和らぐ彼の表情を見て、溢れそうなほどの安堵が広がった。勇気を出して、彼に伝えることができてよかった。あとは明日の本番だ……。ああ、やっぱり先に言ってしまってよかったのだろうか。今更恥ずかしくなってきた。期待させておいて、下手なチョコレートを渡してしまってがっかりさせたくない。
……悩んでいても仕方ないか。今はロゼとお喋りすることだけを考えよう。家に帰ったらどう作るか考えて、明日朝イチで作れば問題ない。大丈夫、去年ロゼの誕生日ケーキを作ってから時々お菓子作りの練習してたから。それに、料理は心を込めることが一番だって本に書いてあった。
ふと夜空を見上げると、息を呑むほど美しい月が浮かんでいた。
「あっ、ロゼ見て!」
「満月か……綺麗だね。今日は雲一つない夜空だから、よかった。天体観測にはもってこいだね。」
今日は満月だ。いつもよりやや大きい。その輝きは、周囲の星々を飲み込んでしまうほど強い。それでも負けまいと無数の星たちが集まって光り輝く。
冬は空気が澄んでいていい。より空が綺麗に見えるから。
「だよね! そういえば、この近くによさげな場所があるんだけど、ちょっと行ってみない? 街灯もないし、開けてるから天体観測にはピッタリだよ!」
少しだけ歩いたところに、その場所はある。彼と2人で夜空を見るなんて絶対に楽しい。それになんだかロマンチックだし。
「それはいいね! 行ってみようか。」
「やったぁ!」




