(19) 11月13日
その後、私たちはいつものように楽しく遊んだ。今日はみんな、1日予定を開けているので気兼ねなく遊び倒せるから最高だ。勿論、今日の主役はロゼだから、ロゼがやりたいこと優先で遊ぶ。そうはいっても、彼は相変わらず「次は何する?」と聞いてきてくれる。
かくれんぼして、鬼ごっこして、この辺りを探検して、色んなお話をして。魔法で遊んでみたりもして。
やりたいことをとにかく沢山やった。朝から遊んでいたのに、気づいたらもう夕方前になってしまった。
誕生日会は、ここからだ。
「ハル、レイ! そろそろケーキ作り始めよっ!」
「らじゃー!」
準備してあったケーキの材料を確認する。2人ともちゃんと持ってきてくれたようだ、全部揃っている。
「本当に俺は待ってるだけでいいの? なんだかそわそわしちゃうなぁ……」
「だいじょーぶ、私たちに任せて! レシピブックも持ってきたしね!」
時々みんなで料理をする時はロゼがメインでやるか、手伝ってくれるか……なのだが、今回は彼が主役なので手伝わせるわけにはいかないのだ。
そういうわけで、早速製作に取り掛かる。
今回作るのはチョコレートケーキ。ロゼは甘党で色々なケーキを好むらしいが、中でもチョコケーキがかなり好きらしい。半年以上も一緒にいるからみんなわかっている。
ちゃんと美味しいケーキが作れるかどうかはわからないけれど、精一杯頑張るつもりだ。ゆっくり沢山、料理を覚えて、彼に美味しいものを食べさせてあげたい。それに、料理は真心を込めることが一番大事。
さあ、頑張るぞ。
みんなで作業を分担し、手伝い、ケーキを作っていく。
「や、やばっ、卵の殻入っちゃった……」
相変わらず卵を割るのが下手な私。
「これ早くかき混ぜればいいんだよな!? うおおおお」
「ちょ、ハル俺に生地飛んでるし!」
「えっまじ!? ごめ~ん」
作業がどうしても粗くなるハル。
「うん、こりゃでかく切りすぎたな」
雑にやってるつもりはないのに雑になるレイ。
「まあ小さいよりはマシよ……。」
やっぱり慣れていないのでみんなミスはする。それでもお菓子作りを始めたての頃よりはいくらか成長してるし、グループの連携もとれているからいい方だ。ちなみに卵の殻はちゃんと取った。
「みんな大丈夫? 困ったことがあったら言ってね。」
「ろ、ロゼ~……っ!」
つい彼を頼りそうになるが、すぐに我に返る。
「はっ、でも今日はロゼの手を借りずに作るんだから……! 待っててねっ!」
「そっか。楽しみにしてるよ、頑張って!」
「うん……っ!!」
(ロゼの誕生日ケーキ、とびきり美味しくなあれ……)
1時間半後。ついに、ケーキが完成した。
私はケーキをテーブルへ運び、2人はお皿やナイフ、蝋燭を運ぶ。
「じゃーん! ロゼの好きなチョコケーキだよ!」
テーブルの上に飾られたのは、どこからどう見ても立派な手作りチョコケーキ。濃いチョコレート生地の上には、甘いバナナと細かく砕いた香ばしい板チョコが散りばめられている。メッセージプレートはホワイトチョコ。チョコペンで書いた文字は少しガタついてしまってはいるが、「おたんじょうびおめでとう ロゼ」という文字はちゃんと読み取れた。
「わぁ……! 凄い、美味しそうだね!」
ロゼが子供らしく目を輝かせて歓声を上げた。いつも大人びてる彼が見せた素直で無邪気な表情。私はそれを、心のカメラで逃さずしっかりと焼き付けた。
「さっ、みんな座って! ロウソクつけよーぜ!」
ロゼを誕生日席に、みんなが囲むようにして座る。雰囲気を出すために、先に部屋の明かりを消しておく。
私はマッチを取り出し、慎重かつ素早く火を灯していく。しゅぼっ、というマッチの音がこの狭い空間に静かに響き、全員が息を呑む。
すべての蝋燭に小さな火が灯り、お祝いの準備は完璧だ。 闇に包まれた部屋の中で、揺らめく蝋燭の温かな光だけが、主役であるロゼを柔らかく照らし出す。あとはお決まりのあれだ。ずっとやりたかったんだ、彼に。
「ハッピーバースデ~トゥーユ~」
一番乗りはハル。
「はっぴーばーすでーとぅーゆ~」
少し照れくさそうにしながらも、ノリノリでハルに続いて歌うレイ。
「ハッピ〜バースデ〜ディ〜ア ロゼ~っ」
そして、私。
「ハッピーバースデートゥーユ~~!!!」
3人で声を揃える。次いで、それぞれがクラッカーを鳴らしていく。
「ロゼ、おめでとう…っ!」
「おめでとー、ロゼ!!」
「おめでとう!」
皆でロゼにたくさんの拍手を送った。
「みんな……。ありがとう……!」
いっぱいの笑顔。いっぱいのおめでとう。いっぱいの祝福。
「ロゼ、お願い事をして! 願いを込めて、蝋燭の火を消すんだよ!」
「願いごと……。わかった。」
ロゼがそっと目を閉じる。みんなの視線が彼に集まる。
(……ロゼは、何を願うんだろう。)
「……できた。それじゃあ火、消すね。」
「おうっ!」
「……。」
彼が蝋燭の火を見つめ、やさしく息を吹きかける。ふわりと消えていったその火は、少し儚くも見えた。
蝋燭の火が消えると、私たちは再び一斉に拍手をした。
「おーっ! どんなこと願ったんだ〜?」
「それ言っていいやつなのか?」
「ふふ。ひみつ」
「ちぇ〜っ。でも、叶うといいな! ロゼの願いが叶うようにみんなで祈ってるぜ!」
「ありがとう……!」
「それじゃあまずはケーキ切ろ! レイ、お願いしま~す! ロゼのを一番大きくしてね!」
「任せろ! んーーっと……こんな感じで……」
ゆっくり慎重に切っていく。4人だからかなり綺麗に分けられた。
「お皿係ハル、いきまぁ〜す」
「さんきゅ。これがロゼので、あとはみんなのな」
「(ふたりとも、すっかり仲良くなったよね。)」「(ふふ、本当だね。微笑ましいな)」と、私はロゼと顔を見合わせて小さく笑い合う。
「よし、みんなのケーキ揃ったな! それじゃ食べようぜ!」
「わ~い! いただきま~す!」
「いただきます……!」
みんなで頑張って作ったケーキ。私も大好きなチョコバナナ。どれほどの美味さになっているのか気になるが、それよりも先にロゼの反応に注目したい。真心をいっぱい込めて作ったから、喜んでくれるといいな。
ロゼがケーキをぱくりと一口食べた。どきどき、とみんなが彼に注目している。
「凄く美味しい……! 甘さもちょうどいいし、みんな上手だね!」
ロゼがにっこりと笑う。幸せそうな笑顔を見せてくれて、私もみんなも幸せだ。
「えへへ、よかったぁ! みんなで頑張って作った甲斐があったね!」
「だなっ! 最初、トッピング何にしようか迷ったけどレイカがバナナに決めてくれてよかったぜ!」
「ロゼのことだもんね。えっへん!」
満足して私もケーキを口に入れる。本当だ、美味しくできている。意外にちゃんと作れるんだな、私。勿論これは、みんなの協力あってのケーキだけど。
「う~ん、チョコバナナはやっぱ美味いな! 無限に食べれるや!」
「あはは、食べ過ぎには注意するんだよ。俺もまだまだ食べたいくらいだけど。」
ロゼに気に入ってもらえて嬉しいな。
「私も! 来年はもっと大きいサイズの作りたいなぁ~」
「でっかいケーキ作り挑戦してみたいよな! 来年と言わずクリスマスとか、みんなで作ろーぜ!」
「あっ確かに! じゃあクリスマスだね! 楽しみだなぁ」
「それは食べ切れるの……?」
「大丈夫だロゼ、冷蔵庫に入れて毎日食えばいい」
みんなとわいわいしながらケーキを食べる。食べ物を美味しそうに食べる人を見るのはなんだか気持ちが良い。こっちも幸せになれる。何よりロゼ……喜んでほしい人が喜び、幸せそうに食べてくれることが一番うれしい。
「ご馳走様、みんなありがとうね。ケーキ、凄く美味しかった……!」
「へへーん、喜んでくれてよかったぜっ!」
食事会が終わり……ついにロゼへのプレゼントを渡す時間がやって来る。実は前から、こっそりと私とハル、レイでプレゼントを考えていたのだ。ロゼは鋭いから悟られないか心配だったが、恐らくバレていないはず。私は鞄に入れていたプレゼントをロゼに見られないように取り出し、後ろ手に用意する。
「ロゼっ! 実はね、私たちからロゼにプレゼントがあるの!」
「俺に……プレゼント? いいの?」
彼はきょとんとしている。もしかして気づいていない。これはラッキーだ。
「もちろんだよ!」
後ろ手に持っていたプレゼントをじゃじゃーんと差し出す。
「……!」
「じゃーん! 私たちからのプレゼント! これまでの思い出写真が詰まったアルバムと、イリスの花を入れたガラスドームだよ!」
「俺たち3人で内緒で準備してたんだ! バレないかずっとヒヤヒヤしてたぜ!」
「まあ別にバレてもいいっちゃいいけどな。でも折角ならサプライズしたくてさ!」
渡されたアルバムと、イリスの花が入った透明なガラスドームをロゼは愛おしそうに両手で包み込んだ。
「みんな……」
アルバムは私が撮った写真を入れたくて自分用のを持っていたが、彼の手元にも置いてほしくて、もう一つアルバムを買って撮った写真もこつこつと複製していった。イリスの花はガラスのドームに包んだ。風や埃で傷まないよう、観賞と保管がしやすいように。この花はみんな大好きで、いつもロゼが大切にしているから。花畑に行けばたくさん咲いているけれど、これもまた、彼の手元に1輪の花として贈りたいと思ったのだ。
「ありがとう……。全部、大事にするよ。」
ロゼはにっこりと笑った。とても、幸せそうだった。
「うん……っ! よかった、喜んでくれて!」
私も、そしてハルとレイもまた、嬉しそうに笑った。
「これね、アルバムは私のと内容同じだけど……写真、大事だから、ロゼにも持っていてほしいんだ。それで、これからはロゼが撮った写真もたくさん入れてほしいの。」
「俺に……。」
「そーそー! ロゼは俺たちの中心というか、リーダーみたいなもんだし! ぜひ持っててくれよな!」
「リーダーなんてそんな……俺は何も、それらしいことしてないよ。」
「そう謙遜するなって。俺らからしたらロゼはじゅーぶん、リーダーなんだよ」
うんうん、とレイに相槌を打つ。
「そっか……ありがとね。信頼してくれるの、嬉しいな。」
「当ったり前だよっ! だって私たちは心友だもん!」
そう、私たちは心友。彼と出逢ってから約8か月、とても多くの時間を一緒に過ごした仲。最初に心友だねって言ったのは、もう少し前のこと。
「あっ、そうだロゼ!」
私は鞄の中からもう一つ取り出した。イリスの花冠だ。
ロゼは不思議そうに、きょとんとしている。
「……はいっ!」
私は彼の頭に花冠をつけた。
「イリスの花冠……! こんなに貰っちゃっていいの?」
「もっちろんだよ! 受け取って!」
「折角だから花冠もつけたいよなって思って、みんなで作ったんだ! 特別感出るし、記念にピッタリだな!」
「なっ! これみんなでつけて、記念撮影しようぜ!」
「——うんっ!!」
彼がまた、嬉しそうに笑ってくれた。




