(18) ふたりだけのペンダント
「さてと……そろそろ俺たちも帰ろうか。」
「そうだね!」
「また会おうね、レイカ。」
「うん! またね、ロゼ!」
互いに手を振り、それぞれの扉へ向かっていく。
「……レイカ」
自分の扉に向かって歩き出した背中に、静かな声が届く。私はロゼの方に振り返った。
「うん?」
「鈴……大切にするね。」
「私もっ! だって、みんなとの友情の証だもんね!」
大切な宝物だから。そう心を込めて、いっぱいの笑顔で伝える。
ロゼは一瞬、何かを言いかけるように瞳を揺らしたけれど、すぐにいつもの優しい微笑みに変わった。
「……そうだね!」
リン。清らかで涼しい音が鳴る。
ロゼはにっこりと笑った。……嬉しそうに。
その日の夜、相変わらずメッセージでロゼたちとお話しした私であった。
今日も日記を書こう。何年後でもずっと、忘れないために。
一時はどうなるかと思った遺跡の探索だが、全員無事に、楽しい冒険を送ることができた。みんなとの友情を表す、おそろいの鈴も手に入れられた。
……今日もまた、最高の思い出が作れたね。
それから、普段の遊びに加えて探検や冒険をすることが増えた。といっても、だいたいは「行ったことがない場所」の開拓で、魔物が出るという噂がある遺跡とかにはあまり行かないけれど。
私がロゼに武器と魔法を少し教えてもらうことをハルとレイに伝えると、2人は「俺もやりたい!」と興味津々にして言った。なので、みんなでロゼに色々なことを教えてもらうことになった。特に魔法はロゼ以外勉強したこともない初心者で、詠唱も覚えるのに時間はかかったし、簡単な魔法を出せるようになるので精一杯だが。それでも練習を重ねるたび上手くなっている気がする。
魔法は、生まれた時にある程度の適性が決まると言われている。といっても、適性検査自体は義務でなく、一般人には魔法も戦いも縁のない話なので、受けている人は多くない。一応、世界の人の多くがそもそも魔法が使えないか、もしくはとても小さな炎が出せる程度の弱い能力を持っているとされるらしい。この弱い能力の場合でも、脳の発達スピードが速く吸収がいい幼い頃から必死に勉強すれば、ある程度能力が伸びるという。だから財力のある家は、英才教育として幼子に魔法教師を付け、国のエリートを目指させる人がそこそこ多い。
そういえば、どうしてロゼは剣も魔法も上手なんだろう?やっぱりどこかの貴族とかなのかな?
・・・
夜。といっても、もう深夜。私の一日が終わる。今日も日記を書いて、みんなのことを考えながらぐっすり寝るんだ。
またみんなと逢える。それだけで幸せだ。寝る時もみんなと一緒だったらいいのにな。……ああ、早く夜なんて終わって明日にならないかな。
『……ヵ…!早く……さい…!』
だから……ただ、邪魔だ。
4.「ロゼのペンダント」
ロゼたちと出逢ってから、何か月もの時が過ぎた。みんなと過ごす日々はあっという間だった。なんでもない日も、冒険も、お祭りや地域の花火大会、誰かの誕生日といったイベントも。
たくさんの時間を一緒に過ごした。春の日も、夏の日も、秋の日も……そして、もう冬が来る。
少し寒さが目立ってきた季節。どこかの地域──例えばロゼが住んでいるところ──では、すでに初雪を迎えてたりしているらしい。
今日は11月13日……
ロゼの、誕生日だ。
朝、目覚めるのがいつもに増して楽しみだった。いつからか、私は苦手だった朝もすんなり起きられるようになっていた。のびをして、早くも高鳴りつつある鼓動を抑えながらいそいそと支度をする。
もちろん会場はいつもの場所。更に細かくいうと、花畑の近くにある小さな木の家。誰かの家だと家族がいるとかいないとか、色々気にすることがあると思うし、何よりみんなも、いつも会って遊んでいる、あの場所が大好きだから。
装飾道具などは昨日から準備しているので安心だ。ケーキの材料はさすがに放置するわけにはいかないから、私とハル、レイがそれぞれ材料を持っていって、みんな揃ったら製作開始……という予定になっている。
まだ朝の8時。少し早めに起きてしまったようだ。伸びをしてまずすることは、アレイドを開く。なんだか体に悪そうな気もするが、まあ少しくらいはいいだろう。ハルとレイに「ケーキの材料忘れないでね!」とメッセージを送っておいた。
家の人はまだまだ寝ている。さあ、いつもみたいに忍のごとく動いてごらん。
私は支度を終わらせ、足早に家を出た。
冬は日が昇る時間が遅くて、日差しが強くて眩しい。私は朝の爽やかな空気とともに、木の家へと歩いていった。
(流石にまだ誰も来ていないみたい。先に材料置いて、花畑でのんびりしようかな)
花畑に着くと、樹から少し離れたところにロゼが花に囲まれて立っていた。後ろ姿なので何をしているのかはわからないが、少し空を見上げているようだった。
「ロゼ~っ!」
駆け足で彼の元に行く。私に気づいたロゼがこちらを振り返って、微笑んだ。
「おはよう、レイカ。早いね」
「そりゃもちろんっ! 今日はロゼの誕生日だから、楽しみすぎて早く起きちゃったんだ~」
えっへん、とした。ロゼはそれを見て嬉しそうに笑った。
「楽しみにしてくれてるなんて……嬉しいな、ありがとうね。……みんなが来るまで、少し話していようか。」
「うんっ!」
それから少しの間、ロゼと2人で他愛のない会話をした。今日のケーキ楽しみにしててねとか、昨日材料の買い出しに行った時、ハルが危うく卵を落としそうになったこととか……。
「……そうだ、レイカ」
「うん?」
「君に渡したいものがあるんだけど、いいかな。」
「わ、私に……?! もちろんいいよっ?!」
突然そんなことを言われて、私はひどく驚いた。別に私の誕生日とかでもなんでもないのに。
「ありがとう。それじゃあ目、瞑ってて。」
「うんっ……。」
ロゼが私に渡したいものって、なんだろう……?
私はロゼの言う通りに目を瞑った。彼が何を渡したいのか、全く想像ができなくてドキドキする。
「……。」
すっと影が差し込み、ロゼが私のすぐ目の前まで近づいてくる。そっと添えられた彼の手指が、私の首元の髪をやさしく、さらりと横へ流した。そして、なにやらごそごそとし始めた。
(わ……め、目の前にいる……心臓の音、聞かれてないといいんだけど……)
彼の爽やかで優しい、いい香りがする……。
距離が近い。もし今目を開けてしまったら、どうにかなってしまいそう。
「……はい、いいよ。」
横に流されていた髪がそっと元に戻され、胸元にふっと心地よい重みが落ちた。ほんの数秒のことなのに、永遠のように長く感じられた時間だった。
目を開ける。首から下に何か少し重みを感じて、視線を下にずらす。
「……! 青い……ペンダント……?」
私の首には、銀のリングのようなものに青い宝石が埋め込まれた……ペンダントがかけられていた。宝石は泉のように澄んでいて、とにかく綺麗で美しいとしか言いようがない。まるで、彼の瞳のように……。
「うん。……このペンダント、2つあるんだ。だから——」
彼はもうひとつのペンダントを取り出し、自分の首にかけた。
初冬の澄み渡る空の下、柔らかな風が吹き抜け、イリスの花びらが宙を舞う。
「——おそろいに、したくて。」
いつも以上に優しさに満ち溢れた瞳で、彼は静かにそう言った。
4人のお揃いじゃない。ロゼが私にくれた、ふたりだけの宝物。
「ロゼと、おそろい……」
熱いものが胸の奥から溢れ出し、心が踊るように跳ね上がる。
「すっごく嬉しい……ありがとう……っ!! 私、ずっと大切にする!」
輝く朝日に負けないくらい眩しくはじける、幸せな笑顔を彼へのお礼に贈った。
2人だけのおそろいのペンダント。私は片手で、優しくそっと包んだ。
豪華で高そうなものだからこんなに嬉しいんじゃない。ロゼが"私とおそろいにしてくれた"ことが、その気持ちが、たまらなく愛おしくて嬉しいんだ──。
おそろいのペンダントをつけて、みんなが来るまでまた沢山お話をした。幸せに笑い合う2人の空間は、とてもとても、あたたかかった。
「ロゼ、レイカ~! おはよー……って、おおっ?! きれー! そのペンダントなに~?!」
暫く話していたら、向こうからハルが駆け足でやってきた。そういえばもう集合時間だ。ロゼと話すとあっという間に時間が過ぎる。
「おはよ~ハル! これはね、えへへ……さっきロゼがくれたの! すっごく綺麗なんだぁ~」
どれどれ、と興味深そうにハルが覗き込む。
「すげ~っ!! きらきらだぁ……」
ハルの目が輝く。ペンダントが褒められると、なんだか私も嬉しくなってしまう。
「おーい、3人とも~! 何話してるんだ~?」
レイもやってきた。彼にもペンダントを見せてあげよう。
「レイ、おはよ! あのね、これ……ロゼに貰ったんだ!」
ペンダントをレイにも見せた。
「ほぇ~すげえな! めちゃくちゃ綺麗だ」
レイもハルと同じような反応を示した。やっぱり綺麗だよね、これ。えへへ。
「俺とおそろいなんだ、これ。」
「マジかよ?! なんだかカレカノみたいだな! ろまんちっく」
「か、カレカノ……っ?!」
その単語が耳に入った瞬間、頭の中が真っ白になって顔が一気に熱くなった。だって、恥ずかしくて、なんて返せばいいのかわからなくて。今の私の顔は絶対、耳まで赤くなっているに違いない。
肝心のロゼは……どういう顔をしているのだろう。でも照れくさくて、とてもじゃないけど彼の顔を直視することなんてできなかった。
「おおーっ、確かにな! あっでもレイ、あんまりからかっちゃダメだぞ~。レイカがあわあわしてる」
ナイスだけどナイスじゃないフォローだ、ハル。結局楽しんでいる。
「うお、ごめんごめん。」
許すけど許せないからね。
「あはは……レイカ、大丈夫?」
ロゼが心配そうに聞いてくる。照れが隠し切れずパニクっている私とは対照的に、ロゼはいつも通り冷静だった。
「えっ、あっ?! う、うんっ!!」
突然彼に話しかけられて、心臓が飛び出るかと思った。リアクション、表情などはなるべく抑えていたつもりだが……どうなのだろうか。全開よりはマシだと思いたい。
(……本当は、ロゼのこと……)
(いや、待て。好きってなんだろう?友達の好きと恋愛の好きは違う。これはどっちなんだろう……?そもそも、たった10歳の子供が恋とかするの?)
(……でも、私がロゼに感じているものは、レイやハルに感じているものとは違う)




