(17) 銀の鈴
町に戻った私たちは、とりあえず適当なベンチに座り、休憩をとった。
「ふぅ……ちょっと足が疲れたかも。今日はいっぱい遊んだし探検もしたし、楽しかったなぁ~」
ぐいーん、と伸びをする。休憩を何回か挟んだとはいえ、やはり何時間も歩き回ると足が疲れる。でも、嫌ではない。満足感のある、いい疲れ方だ。
「俺も疲れた~、ちゃんとした戦いって結構疲れるんだなぁ。」
「冒険者とか毎日のようにやってそうだよな。そう考えるとすげぇ……」
辺りを見渡す。夕陽の黄金色がキラキラと建物を、緑を、街ゆく人を照らしている。家に帰っていく子供が何人か見られる。
「もう夕方かぁ……あっという間だな。俺たちもそろそろ帰らないと。」
「そうだね……。」
ロゼは少し寂しそうにしていた。私も寂しい。やっぱり遊びは帰る時が一番寂しくなる。もちろん、また遊べるからそれが楽しみにはなるし、メッセージでみんなと話すこともできるけど。でも、会って話して、遊んで、一緒に探検できる方が一番楽しい。
今日はとても楽しかったから、余計に帰りたくない。でも帰らないといけない。帰る前に何か、今日の何か……記念になるものを考えたいな……。
記念…。形に残るものがいいかも。みんなとの友情の証みたいな。お守りとか……?
(……そうだ!)
たしか、この村の特産品に鈴がある。お店を見て回っていた時、鈴を使った小物などが売っているところがいくつかあった気がする。鈴は音が綺麗だし、小物なら持ち歩きもしやすい。
みんなに言ってみよう。ドキドキしながらタイミングをうかがう。
「……ねっ、ねえみんな! よかったらさ……みんなでおそろいの鈴でも買わない?記念になるかなって……」
「おおっ、いいな! 買おうぜ買おうぜ~っ!」
ハルはいつも楽しそうに乗ってくれる。
「いいんじゃね? 鈴とかおしゃれでよさそう」
なんやかんや楽しそうにしてくれるレイ。
「俺も賛成。お守りにもなりそうだし、何よりおそろいっていいよね。」
どんな話も寄り添って、真剣に聞いてくれるロゼ。
……ああ、私はこのメンバーのこと大好きだ。まだみんなと仲良くなってから1年も経っていないのに、すっかり親友のような感覚でいる。でもそれでいい。今、とても大切だと思っているから。
「やったぁ! みんなありがとう……! 早速お店行ってみよ!」
「おー!」
私たちは休憩を終わらせて、ふと目についた小さな雑貨店に入ることにした。
チャーム、鈴単体、小さめの置物、鈴がついている財布やポーチ……種類豊富で迷ってしまう。鈴の色もたくさんあって、柄がついていたりもして、目移りしそうだ。この中からひとつ、みんなでおそろいにするものを探す。遊ぶ時に「あ、持ってくれてる」とわかるようなものがいいかも。鞄につけられるものとか、身に着けられるものとか。それぞれの好みとかも聞いておけばよかったかな。
「うーん、迷うなぁ……。どういうのがいいかなぁ?」
「鞄とか何かにつけられるものや、身に着けられるものだと手軽でいいかもね。」
さっすが~ロゼ、わかってる……ッ!
「となると……」
棚を順番に見て回って、小物を漁る。キーホルダー、チャーム、ストラップ……これよりかはこっちの方がいいかも。これなんか鈴以外に綺麗な装飾がついてるからいいな。こっちはよくわからないけどキラキラしてていい。
(ん……?)
ふと、目に留まるものがあった。
「ロゼ、みんな! これなんてどう…?」
呼びかけに応じて、みんなは私が指さす物に注目した。
それは決して豪華すぎる装飾ではなく、派手に加工されたものでもない——シンプルに美しく磨かれた銀の鈴に、ふわりとした可憐な羽根があしらわれたものだった。ストラップの紐がついていて、鞄やリュックにつけることもできるし、巾着やポーチに入れて持ち歩いてもいいだろう。
「銀の鈴に……綺麗な羽根もついてる。綺麗だね。」
「だなー! これ、めちゃくちゃ良くね!?」
「俺もさんせーい。早速カウンターに持ってこうぜ!」
そうして4つの鈴をカウンターに持っていくと、店主の若めな女性が店の奥から出てきた。
「あら、小さなお客さんいらっしゃい! この鈴、お揃いにするの?」
「あっはい、そうなんです!」
私がそう答えると、店主は短くうーんと考える仕草をとった。
「そしたら、せっかくならそれぞれの色の羽で分けてみない? 個性も出るし、より特別感が増すと思うわよ!」
それぞれの色。共通のアイテムに、強すぎないが確かな個性を出すことができる。紛失してしまった時にも役立ちそうだ。これが自分の色、というのがあれば区別もしやすいし。他に代わりのない、特別感があっていい。
「1人ひとりの色で、か。俺はいいと思うよ。みんなは?」
「さんせーい!」
3人同時に元気よく手を上げる。
「それじゃあ、好きな色の羽根を選んでね! いっぱいあるわよ~」
たくさんの色の種類の羽根が入った箱がどさりと目の前に置かれる。私たちはわぁっ、と覗き込むようにして鮮やかな羽たちを見つめる。
白、赤、黄、青、緑……水色、ピンク、黄緑に……他にも様々な色がある。中間色も豊富でどれも美しい。目移りしそうだ。
「……じゃあ、俺はこの色にしようかな。」
ロゼは彼の髪色に似た白い羽根を選んだ。
次いで、ハルは黄緑のを、レイは少し柔らかい青紫色の羽根を選んだ。
私は何色にしようかな……。いくつかある好きな色から、一つだけ選ぶのはなかなか難しい。
(ロゼは白を選んだ。私の大好きな色のうちの一つ。なら、私は……)
「私、この色にする!」
そう言って、水色の羽根がついた鈴を取った。
「みんな決まったみたいね! それじゃあ、お会計は240(リラ)よ。」
「はぁ~い!」
一人ずつちゃんとお金を出して買った。
「ありがとう! 素敵な思い出になるといいわね!」
初めてのおそろい。羽根の色はみんなグラデーションがかかっていて、とても綺麗だ。店主の人、おすすめしてくれてありがとう。
「よ~し、おそろの物も買ったし、そろそろ帰ろっか!」
「だな!」
黄金色の夕日に照らされながら、おそろいの鈴をリン、リンと鳴らし4人で街道を歩いていく。静かで心地よい音だ。
あの小屋に入り、扉を抜けたらみんなとお別れ。一日中遊べるわけじゃないことはわかっているけど、やっぱり帰り際は寂しい。
(私の家……いや、誰の家でもいいけど、みんなだけでどこかに暮らせたらいいのになぁ……。せめて、お泊まりとかできたらいいのに)
心の片隅でそう思った。
例の扉をくぐり、4人が光に包まれる。いつもの花畑に着いた。
「ふわ~っ、ついに帰ってきたな!」
「そうだな……ってハル、ここは家じゃないぞ」
微笑ましいやりとりだ。イリスの花畑にはかなり頻繁に来ているし、過ごす時間も長いから、家みたいに思えるのはわかる。……実際、私はここと、みんなと一緒にいれる場所が一番居心地がいい。
「ふふっ……。私もここを自分の家みたいに思ってるかなぁ。というか、もう第2の家みたいな感じだね!」
「確かに、言われてみりゃ俺もそんな感じかもな。ほぼ毎日来てるし。」
「第2の家……。なんだか、嬉しいな。ここでみんなに逢えてよかった」
またロゼは儚げに笑う。
「私たちもだよ! ……ねっ、みんな。これからもまた冒険しようよ!」
「うんっ!」
みんな揃って頷く。いつかやろう、じゃなくて、また絶対やるんだ。もちろん、今度は危険な場所に気をつけて。
別れが惜しい。でも、そろそろそれぞれの家に帰らなければ。
「それじゃあみんな、またねっ!!」
「またなー! 気を付けて帰れよ~、お前ら!」
遠ざかるハルとレイの背中に手を振り、その姿が光の中に消えていくのを見送った。
「ふたりとも、帰っちゃったね。」
「そうだね。」
急に静まり返った花畑で、会話がふっと途切れてしまう。ついさっきまであんなにおしゃべりできていたのに、いざロゼと二人きりになると、次の言葉を紡ぐ勇気が湧いてこない。早く何か言わなきゃ、ロゼを困らせてしまうのに——。
「……あ、あのね、ロゼ。」
「うん?」
「……私に、戦いを教えてほしいの……!」
今日の遺跡探索でわかった。……私は弱い。ロゼの何十倍も。でもそれは当たり前のことくらいわかってる。まだ子供で、おまけに私は女の子。戦闘経験がほとんどないし、運動神経や体力に自信があるわけでもない。
これからみんなとは冒険をすることが増えるだろうし、私も沢山したい。いくら遊びとはいっても、戦いがあれば少なからず危険が生じる。今日のあの魔物は想定外で規格外すぎたが、そういうことが今後全く起こらない、というわけではない。無論強すぎる魔物は基本的に逃げることになるが、判断力や足の速さなどを上げていかなければならない。
今日、ロゼが助けてくれなかったら私の命はなかったのかもしれない。結果的には魔物も倒せて、みんな無事で帰れはしたが、次はないかもしれないのだ。
……何よりも、私のせいでロゼが大怪我でも負ってしまったら嫌だ。
「え……、戦い……?」
彼は驚いてきょとんとした。
「そうっ! 私、まだまだ弱いし……ロゼは剣も魔法もすっごく上手いから、色々教えてほしくて……。」
「こ、これからも冒険とかすると思うし! 今日みたいにあんまり足引っ張りたくなくて……。ロゼ、強くて頭も良くてかっこいいし、私もロゼみたいになりたいなぁ、とか……」
支離滅裂になりながらも、必死で想いを伝える。視線があちこちに泳いでしまう私を、ロゼは嫌な顔ひとつせず、まっすぐ真剣に見つめてくれていた。
「なるほどね。……俺でよければ、簡単なことから教えてあげられるよ。ただ、魔法は適性の問題もあるし、習得の難易度はちょっと高いけれど。焦らず少しずつやっていこうね。」
「やったぁ、ありがとう! 教えてもらうの楽しみだなぁ……。私も炎とか氷とか、出せるかなぁっ」
「ふふ、早速明日やってみようね。」
「うんっ!!」
彼のように強くなれる日はまだまだとても遠いだろうけど、彼と一緒にできることを増やしていけたらいいな。安心してみんなと冒険ができるように。頑張ろう。
ハルとレイもきっと、剣や魔法に興味あるかも。帰ったら2人に話してみようかな。みんなで一緒に練習しても面白そう。
また、楽しみが増えた。




