(16) 閃光のような双剣の軌跡
最後にもう一度、入っていない部屋がないかを確認してから、私たちは町に帰ることにした。遺跡ってわりと広いし迷わないのか?というと、ロゼがちゃんと覚えていてくれて、一応マッピングもしてくれていたので迷うことなく道を進むことができた。
「いやぁ、ロゼがいなかったら俺たち迷子になってたかもな! ほんと助かるよ~」
「それはよかった。」
「魔物がいるから長居は危険だしね。私も一人で行くときはパンくずでも落としていこうかなぁ」
「帰るころには食べられてるんじゃね?」
「あっ……ありそう」
くすくす、というあたたかい笑いが通路に響き渡った。
少し歩いて、広間に出た。ここを抜ければ外に繋がる扉があるところに出られる。
「もうすぐ外かぁ。探索、楽しかったね!」
「だね。またみんなで冒険したいね」
ロゼも楽しそうな顔をしている。よかった。
「今度はお宝も見つけたいな~!」
「だな~」
その時。
突然、広間中央の床から大きな魔法陣のようなものが光り出した。
「わっ……?!」
「今度は何だ?!」
「みんな下がって!」
「う、うん!」
ロゼの呼びかけで私たちは咄嗟に離れた。一体何が起ころうとしているのか──
「えっ……」
腰を抜かした。魔法陣から出てきたものは、大型の、初めて見る魔物だった。今までのと全く雰囲気が違う。恐ろしい顔、雰囲気。こんなに大きい魔物に遭遇したことはない。私たちの身長をはるかに越しているのだ。
「わわっ、なんだこれえ!」
「お、おいーっ! こんな魔物聞いてないぞ!」
流石のレイも動揺を隠せない様子だ。
「俺たちよりデカいよ! どうしよう! こんなの倒せるのか……?!」
「みんな落ち着いて。あの魔物が道を塞いでるから、どかさない限り俺たちはここから出られない。」
この状況でもロゼは冷静さを保っているようだった。
「そ、そんな……逃げ道なくなっちゃったの!」
「どーすりゃ……」
ロゼは少し考えて、こう言った。
「……俺が敵の注意を引き付ける。その隙に、みんなは逃げて」
静かだが毅然としたロゼの言葉に、一同がざわめく。
「えっ……そんなこと、できないよ!」
「レイカ、これはさっきまでの魔物と違う。危険だ。どんな攻撃をしてくるかわからないし、4人でも太刀打ちできるかどうかわからない。みんなを巻き込むわけにはいかないんだ」
ロゼの目は真剣だった。
「それ言ったらロゼだって危ないでしょ……! それに私たちだって戦えるもん……! ロゼを置いていくなんて絶対にできないよ!!」
私は必死に伝えた。確かに私はロゼよりもうんと弱い。——でも。
たった一日でも、私はみんなと一緒に危険を乗り越えてきた仲間なんだから。 大事な仲間を置いていくことなんてできない。
「そうだよロゼ! ロゼを置いていくなんて俺はできないぞ!」
私に続いてハルとレイも訴えかける。
「さっきも一緒に戦ってたじゃねえか! 俺らで力合わせればきっと倒せるだろ!」
「……。」
ロゼは少し考えた後、口を開いた。
「……わかった。でも、絶対に無理はしないでよ。危なくなったらすぐに下がる。いいね?」
「うんっ!」
一同が頷く。
「それじゃ行くよ! 距離を保ちつつ、攻撃できる隙ができたら叩いて、すぐに離れて! まずは俺が時間を作るから!」
「了解!」
ロゼが勢いよく駆け出す。あっという間に魔物の側に入り込み、フェイントで方向を変え、高くジャンプし切りつける。その一連の動きは子供とは思えないスピードと軽やかさだ。
私たちも、ロゼが攻撃したあとすぐに駆け出した。
魔物の注意がロゼに向いている間、ハルが敵の背後をとり攻撃する。
「……そこだぁっ!!」
不意をつかれた魔物だが、体が硬くそう簡単にひるまない。ハルはすぐに距離をとり、攻撃してきた魔物の腕を避ける。それとほぼ同時にレイが別方向から追撃をし、攻撃を途切れなく続ける。
私はいつでも援護できるよう、集中して辺りを観察し、敵の隙が生まれる瞬間を狙う。
怖いけれど。やらなくちゃいけない。できる気がする。だから頑張らないと。
……ここだ!
「え、えい……っ!」
攻撃したあと、すぐに後ろに下がり、また機会を窺って攻撃する。
男の子と違って、私の力ではあまりダメージを与えることはできない。だからより速く、たくさん攻撃する。
「効いてる……この調子だよ!」
疾風の如くロゼの剣が魔物の体を切り裂いていく。……凄い。私たちよりずっと動きが俊敏だ。魔物もかなり強く、あの体の攻撃を受けたらかなりまずいというか、いやひとたまりもないくらいだが、ロゼは最前線で戦って一番危ないというのに、それを全部避け完全に自分の領域に戦闘を持ってきている。圧巻だ。
暫くの間続く、緊迫した戦い。こちらの体力もかなり消耗してきている。しかし私たちの奮闘により、魔物のほうも着実に削れてきている。いつトドメを刺せるか。
「みんな、あともう少しだよ! 最後まで油断しないで!」
「う、うんっ!」
魔物が最後の足掻きをするかのように激しい攻撃を繰り出していく。まさに、どちらが先に力尽きるかというところ。
「うわあっ、こいつまだ動けるのか……!」
魔物が更に何かを溜め始めた。魔力だろうか。
「う、うわぁ〜!」
直後、魔物から炎が放たれた。ちっぽけな炎ではない。子供の胴体の横幅ほどある大きな炎の玉。
予想外の攻撃に逃げ周り、慌てふためく。
「ちょっ! こいつ炎も打てるのかよ!?」
レイがすんでのところで炎を避けた。
「みんな、散らばって! 当たらないように遠くに逃げるんだ!」
ロゼだけは落ち着いていた。彼の言う通りになるべく遠く、避けやすい位置にみんな逃げていく。
「(ど、どうしよう、こんな大きな炎なんて当たったら……!)」
下手したら大怪我では済まない。逃げないと当たる。走れ。走るんだ。
手足が震える。それでも必死に走り、炎の軌道から逃げ回る。恐怖で今にも足がすくみそうだ。
飛んで炎を間一髪で避けた時。汗で滑ったのか、握りしめていた剣が手元からすり抜け、ガシャン、ガシャンと甲高い音を立てて遠くの石床へ転がっていった。
「しまっ──」
血の気が引く。まずい。武器がなければ戦えない。私は慌てて踵を返し、転がった剣へと手を伸ばそうとした。
──その時。
「あっ……!」
転んだ。
「!」
ロゼに続いて、みんなが私に注目する。
立たないと。そう思うのに足がすくんでうまく立ち上がれない。そうこうしているうちにすぐ、魔物がこちらにやって来る。
──ああ、終わった。
凶悪な爪が振りかぶられ、黒い影が私を覆う──その絶望の瞬間。
「レイカ……っ!!」
ロゼの叫び声が聞こえた。
澄んだ金属音が鳴り響くと同時に、幾筋もの青白い光が魔物の巨体を貫く。直後、閃光のような双剣の軌跡が空を切り裂いた。
「…ぇ……」
誰にも聞こえないような声しか出なかった。
光の粒子となって、溶けるように消滅していく魔物。その残像の中から、静かにロゼが姿を現す。
あれ……?なに……?一体何が起きたのかわからない。理解が追いつかなくて、頭が真っ白になる。
「間に合ってよかった……。レイカ、怪我はない?」
心配そうな顔でロゼは言う。
「う、うんっ! 大丈夫だよ! 助けてくれてありがとう、ロゼ……。」
安心できた私は、ようやく立ち上がることができた。
「いいんだよ。本当に……無事でよかった」
安堵の表情で、優しく微笑むロゼ。その顔を見た瞬間、心臓がどきりと大きく跳ね上がった。かっこいい、強い、私を助けてくれた、優しい──たくさんの感情と言葉が頭の中で弾けて、うまくまとまらない。初めて彼に出会った時以上に、ドキドキしていた。
ぽーっとしていたら、向こうからハルとレイが息を切らして走ってきた。
「レイカぁ、ロゼぇ〜! 無事みたいだな!」
「ハル! うん、ロゼが助けてくれたから……!」
「お前が魔物に攻撃されそうになった時、よく見えなかったけどロゼが一瞬で消えてったぞ。すげえな!」
レイが珍しく人をストレートに褒めた。
「そういえばロゼ、いつの間に私が落とした剣を……?」
ロゼは片手剣を使っていたはずなのに、いつの間にか双剣になっていたのだ。あの一瞬で私の剣を拾ったというのか。
「ああ、うん。咄嗟にね。……なんだか、こっちのほうがやれるというか……持たなきゃって気がしたから。」
「へええ……なんだか不思議。かっこいいなぁ。」
「はは、ありがとう。……さて、これで安心して出られるし、今度こそ町に戻ろうか。」
「だね!」
……。ロゼがいなかったら、私は……。
こうして無事に遺跡を出て、今日の冒険の話に花を咲かせながらゆっくり町へと歩いて行った。
大きな魔物のこと、遺跡で発見したもののこと、そういえば結局オバケなんて出なかったこと。遺跡を探索していたのはたった数時間なのに、話題が溢れかえる。
そうだ、もう一つ気になることもあった。さっき彼が助けてくれた時のこと。
「そういえばロゼ、さっき助けてくれた時のあの動きってどうやったらできるの?」
「え……、」
ロゼが少し困ったような顔をした。
「さっきの、早くてなんか必殺技みたいで凄くかっこよかったから……あと、ロゼが出してた光る線みたいなの! あれは魔法なの? かっこいいなぁ」
「あっ確かに! 俺もあんなの出せるかなぁ~」
ハルに続き、レイもうんうんと頷いている。カッコいいものに子供は興味津々。
「……あれは……たまたまだよ。勝手に体が動いて、なんかできただけ。」
「ええ~ったまたま……?!」
3人揃って驚く。ロゼのことだからきっと、自分たちにはできないような難しい何かを繰り出したのかと思っていた。
「うん、そうなんだ。教えられなくてごめんね」
申し訳なさそうに彼は言う。
「大丈夫だよ! それにしても、気づいたらできてたって凄いよね! ロゼってもしかしてすっごい力持ってたりするのかなぁ。」
ロゼは黙っていた。どういう顔をしていたのか、よく見えなかった。
「ロゼ?」
「あ……ううん。何でもないよ」
「? そっかぁ」
なんだか少しモヤっとした。ロゼ、どうしたんだろう。今日は何回かこういう、心配になることがあったから。
……何か隠しているのかな。なんとなく、焦り、不安などといった感じが彼からしているような。気のせいだといいんだけれど。何か気に障るようなことを言ってしまってなかったか不安だな……。でも、あまり気にしていてもしょうがないか……。
「大丈夫か〜ロゼ? 今日は珍しくぼーっとしてることが多い気がするぞ。」
「大丈夫だよ。気にしないで。」
「んー、そうかぁ……? ならいいんだけど。とりあえず早く休もうぜ!」
「それがいいね!」
「……。」
ロゼはずっと、曇った表情をしていた。




